無職転生ールーデウス来たら本気だすー   作:つーふー

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前回のあらすじ。

パウロ「臭いし女たらしだし酒カスだし俺良いとこなんもないわ」
ルディ「(ぶん殴りながら)そんなことないですよ父様!」
パウロ「息子にボコられそうなので頑張ります」

矛盾点や見落としってプロットや執筆中って中々気付けないですよね。オセロならともかく、将棋とかチェスはくそ雑魚ナメクジで先を見通すのが不得意だから、常にアワアワと自信無さげにやっています。にゃんこ。
他の人たちはもしも作品に矛盾点やらの不備が見付かったらどうするんだろ…。わんこ。


10話 『手が足りないんです』

 

 

 

 ルーデウスの説得により、立ち直ったパウロ。そんな彼は捜索団の団長であり、やることがたくさんある。

 呑んだくれるなんて、本来ならば出来ないことだ。そんな出来ないことをしていたのだから、仕事は山積みとなっていた。

 今現在も、頑張って活動していることだろう。

 

「――て感じみたいですよ」

「そうですか。解決したようで何よりです」

 

 部屋の中でノルンとアイシャの相手をしながら、ルーデウスは今回の経緯をリベラルへと伝えていた。

 良い結果であったため、彼女も安心するかのように微笑んでいた。

 そして、特にノルンと不仲になるような出来事もなかったため、兄妹の仲も良好である。

 

「それで、そちらは渡航する目処は立ったのですか?」

「残念なことにその件については行き詰まってますよ」

 

 やれやれと不満げな仕草を見せるルーデウスに、彼女も小さく吐息を吐く。

 

「スペルド族の渡航料はぼったくりですからね。そもそもちゃんと払っても許可してくれるかも怪しいですし」

「ですよね。だから僕も何が正解か決めかねてるんです」

「どうするつもりですか?」

「…………」

 

 リベラルの言葉に、ルーデウスは沈黙する。その反応で、何も決まっていないのだと察することが出来た。

 正規の手順では進めず、裏ルートから行けるかも探してみたが、結果は未だに進めずにご覧の通りだ。

 正解が見付からず、行き詰まっている。

 

 そんな様子のルーデウスに、彼女はポツリと口を開いた。

 

「もしよろしければ、私が案内しましょうか?」

「えっ?」

「渡航しなくても海を渡る方法はあります」

 

 不思議そうな表情を浮かべる彼に、リベラルは続ける。

 

「転移魔法陣を使いましょう。それが何かは分かりますか?」

「名前だけは聞いたことがあります」

 

 転移魔法陣は安易に広めてはいけないが、ルーデウスであれば信用出来る。彼ならば口外しない筈だ。

 エリスやルイジェルドもにも知られることになるが、そこは目を瞑る。あまり広まらなければ、潰されることもないだろう。

 

「途中までですが案内しましょう」

「いいんですか?」

「構いません。私の目的地はラノアです。途中で別れることになりますので、簡易的な地図は作成しておきます」

 

  転移魔法陣を抜け目的地付近まで辿り着いたら地図は燃やすように、と付け足す。

 これならば、ルーデウスたちも無事にフィットア領へと向かうことが出来るだろう。

 彼らはシーローン王国の近くに転移し、そこから赤竜の下顎を通りアスラ王国の領土へと進むことになる。

 

 ……そう、赤竜の下顎を通る必要があるのだ。

 

 本来の歴史ならば、ルーデウスはそこでオルステッドとナナホシの二人と初めて出会うことになる。

 今回はどうだろうか。彼の行動は誰にも分からないため、どうなるのか分からなかった。時期もずれてるため、出会わない可能性が高いだろう。

 だが個人的には、同じ過程を歩んで欲しかった。

 

(……人神は倒します。ですが、約束も果たさなければなりません)

 

 ナナホシの行動さえ大きく変わらなければ、他は気にする必要もない。

 ナナホシのことが全て終われば“制約”が無くなり、自由に行動出来る。そうなれば、一気にヒトガミの喉元まで食い込むことも出来る。

 

 とはいえ、それには先ずルーデウスが必要だ。

 ゼニスはラノアで治療するので、遅かれ早かれ彼は来てくれるだろう。

 

「経路についてはエリスとルイジェルドさんとも共有したいので、二人を呼んで来ても大丈夫ですか?」

「構いませんよ」

 

 デッドエンドとして活動しているのだから、当然ながらルーデウスだけで聞くわけにもいかない。

 二人を呼びたいという提案に、リベラルは快く受け入れた。

 

 そのまま外へと出ていったルーデウスであったが、そう時間を待つことなく戻ってくる。

 どうやら、エリスとルイジェルドは近くで待っていたようだ。

 中へと入り、エリスとルーデウスは向かいに座るも、ルイジェルドは立ったまま二人の背後でこちらから目を離さずに警戒している。

 

 だが、ノルンとアイシャが近付くと何だかんだで相手はしていた。

 

「この人がルーデウスのもう一人の師匠なの?」

「そうですよエリス。僕の偉大なるお師匠様です。なので嫌なことがあってもハウスですよ」

 

 エリスは興味津々な様子でこちらを見ている。しかし、彼女の視線にはどこか困惑が混じっていた。

 どこかで見たことがある。けれど、思い出せない。喉に小骨が刺さったかのような、そんな微妙な表情だ。

 

 以前にもあったようなやり取りである。

 エリスがリベラルと顔を合わせるのはボレアス家の面接時と、ボレアス家へと手紙を届けていた時に何度かだ。

 あれからかなりの時間が経っているため、忘れているのも仕方ないだろう。

 

「僕の魔術の数々は、師匠の教えがあってこそのものですよ」

「……へぇ! ルーデウスに魔術を教えた人なのね!」

 

 などと過去と同じようなやり取りをしつつ、リベラルはルイジェルドへと視線を向ける。

 

「…………」

 

 ルイジェルドは特に表情を変えることなくリベラルから視線を外さないままだ。

 口を開く様子もないため、再びルーデウスへと顔を向けた。

 

「とりあえず、二人の為にももう一度転移魔法陣について話します」

 

 ルーデウスにした説明を再度する。

 エリスはやはりと言うべきか、いつものように腕を組み、口をへの字にして無言だった。あまり話を理解出来てないのだろう。

 ノルンとアイシャもそれを見て同じ様なポーズを取っているが、特に気にしなくてもいいだろう。

 ルイジェルドは難しい表情を浮かべながら、相変わらず無言だ。何を考えてるのかは分からないが、内容は理解してるだろう。

 

「転移魔法陣を使えばどの辺りまで移動出来るのですか?」

「フィットア領に一番近いであろう場所でしたら、赤龍の下顎を越えて少し脇道に逸れた場所です」

「遠い場所だと?」

「渡航した先にあるイーストポートの近くになりますよ」

 

 その返答に、ルーデウスは顎に手を当て考え込む仕草を見せる。

 それからすぐに、ルイジェルドとエリスに視線を向けた。

 

「僕としてはすぐにフィットア領に向かいたい気持ちはありますが、捜索団のこともあります。大変だとは思いますが、僕はイーストポートから転移事件の行方不明者もなるべく探すべきではないかと考えてます」

「どうしてよ?」

「父様たちはしっかりと捜索した訳ではないので、行方不明者の取りこぼしがあると思ってます」

 

 捜索団はあまり支援金がなかったため、一ヶ所に長く滞在出来ずミリス神聖国へとやってきたのだ。

 そのため、本来の歴史よりもずっと行方不明者が多い状況だった。

 

「それに、フィットア領の被害によるしわ寄せがエリスに及ぶ可能性も否定出来ません。少しでも心象を良くするために、行方不明者を探すべきと考えました」

「……二人に何かあれば、人間を皆殺しにしてでも二人を救い出す」

「どうどう。落ち着いて下さいルイジェルド」

 

 アスラ王国相手に、それは流石に厳しいだろう。

 ルイジェルド一人なら逃げれるかもしれないが、ルーデウスとエリスを連れて皆殺しなんて無理がある。

 

「でもまあ、本当にエリスの身が危険でしたら助けて欲しいです」

「わかった」

 

 たった一言であったが、そこに込められた気持ちは生半可ではないだろう。ルイジェルドは、やると言ったら必ずやる男だ。

 二人の関係性を知ってはいたが、それでもその信頼し合っている姿に、リベラルはラプラス戦役の時を思い出す。

 銀緑として活動していたため、同じくラプラス戦役を生き抜いたルイジェルドに警戒されているのは仕方ないだろう。

 

「では、転移魔法陣での行き先はイーストポートでいいですか?」

「それでいいわよ!」

「ああ」

 

 そして、ルーデウスはリベラルへと向き直った。

 

「と言うことで転移先はイーストポートになりましたのでお願いします」

「分かりました」

 

 あまりにもアッサリと、フィットア領までの道程を決めたルーデウス。今までの旅路でも、同じ様に話し合っていたことが窺えるやり取りだ。

 フィットア領へと早急に戻れないことは残念だが、彼の言うことも確かに想定せねばならないことだ。

 リベラルもパウロも、フィットア領がどうなったかを知っており、フィリップが生存していることも知っている。

 ルーデウスとの情報交換も既に行われていることだ。しかし、それは過去の話であり、現在のことは分からない。

 

 既に数ヶ月は経過しており、正確な情報は誰も持っていなかった。

 

 更に言えば、紛争地帯で偶然出会ったシャンドルがフィリップの元へと辿り着くには十分すぎる程の時間があっただろう。

 リベラルからの伝言である『アスラ貴族としての地位を取り戻すため、アリエル陣営に付くように』という話は伝わっている筈だ。

 その準備のために、フィットア領から離れて雲隠れしている可能性が高い。

 

 そのため、フィリップが不在であれば皺寄せがエリスに向かうかも知れないのは確かだ。

 

「リベラルさんは途中まで同行するとのことですが、どの辺りまでになりそうですか?」

「王竜山脈に転移魔法陣がありますし、サナキア王国……王竜王国を越えた次の国までですね」

「なるほど、分かりました」

 

 もしも渡航して本来の道筋で進んでいれば『イーストポート』→『王竜王国』→『サナキア王国』の順路となる。

 リベラルはゼニスの移送があるため少しばかり移動速度は落ちるが、それでも大体1~2ヶ月程度の付き合いになるだろう。

 

 行方不明者のフィットア領民がいれば、護送する必要もあった。

 馬車や人員、それを賄うだけの金銭も必要になるが、お金は捜索団から少し借りれば問題ないだろう。渡航するためにある程度の資金もあるので、それほど借りる必要もない。

 人員に関しても、戦える人は少しくらいいるだろう。いないとしても、ギルドで冒険者を雇うことはできる。

 

「では、次の議題に移りましょう」

 

 転移魔法陣のお陰で、フィットア領までの道のりで最大の障害である渡航は解決した。

 人数が増えれば増えるだけ護衛が大変になるが、魔大陸に比べれば楽だろう。魔物はそこまで強くないし、何より道が整えられている。

 だから、順路の話はおしまいだ。

 

「リベラルさん、別件で聞きたいことがあります」

「なんですか?」

「ウェンポートでの伝言についてです」

 

 その一言で、リベラルは察した。

 

「ヒトガミのことですか?」

「はい。折角なので二人にも聞かせてもいいですか?」

 

 態々二人だけの秘密にする必要はないし、ヒトガミの指示でルイジェルドと関わりを持ったこともある。

 情報の共有はするべきだろう。

 

「構いませんよ。私としても、味方を増やせる切っ掛けになりますし」

 

 エリスもルイジェルドも、いまいち話を理解した様子がない。

 ヒトガミの単語は、ウェンポートの伝言にちょっと載ってただけなのだから、二人が知らないのも当然だ。

 

「何の話よ?」

「それを今から話します」

 

 いつ、どこで、だれが、何を、何故、どのように、と5W1Hを意識しながらルーデウスは話し出す。

 最初はルイジェルドを助けるように助言し、その他でも時おり夢に出てきたことを。

 そしてウェンポートでリベラルからの伝言を読んだところを最後に、助言がなくなったことを。

 

「予想通りですが、干渉してこなくなったのですね」

「ヒトガミ本人にもどういうことなのか聞こうと思ったんですけど、それ以降音沙汰がなくなりました」

 

 逆に「リベラルは巨悪なんだ」とか助言する可能性もあったが、流石にそんなことはなかったようだ。

 昔からの知り合いであり師匠であるリベラルか、ぽっと出の胡散臭い詐欺師だと思っているヒトガミ。どちらの言を信じるかなんて言うまでもないだろう。ヒトガミの『信用させる呪い』もルーデウスには通じないのだから。

 

「そうか……ヒトガミとやらの助言だったのか」

 

 当事者でもあるルイジェルドは、当時のことを思い出すかのように黙り込む。

 しかし、すぐに気を取り直したのかルーデウスへと視線を向ける。

 

「だが、ルーデウス。それを選んだのはお前の意思なのだろう」

「はい」

「ならいい」

 

 短い言葉であったが、そこには彼なりの想いが込められていた。

 ルーデウスも瞠目してルイジェルドを見つめ返す。

 

「ヘヘッ、ルイジェルドの兄貴のためなら当然でさぁ」

「俺はお前の兄ではない」

「ルーデウス、その変な言い方止めなさいよ」

 

 照れ隠しのように茶化す彼と、マジレスするルイジェルド。そしてそれに呆れた様子を見せるエリス。とてもホッコリしたやり取りだ。

 ほぼ部外者であるリベラルは入り込み難い雰囲気であったが、話が止まってしまったので咳払いをひとつする。

 

「それで、それ以外の助言はされてないのですね?」

「はい。なので結局、ヒトガミが何をしたかったのかもよく分からないんですよ」

 

 現状、ルーデウスの得になることしか起きていない。

 リベラルの干渉により音沙汰がなくなったため、今のところは本当に助言をした奴、というイメージにしかならなかった。

 リベラルも本来の歴史では結局、ルイジェルドに関係する助言についてまで辿れなかった。

 とは言え、推測自体は出来ることであった。

 

「ルイジェルド様は、今まで魔大陸でスペルド族を探していたそうですが、痕跡すら見付かりませんでしたか?」

「……ああ」

「私も様々な場所に行きましたが、魔大陸にはルイジェルド様以外のスペルド族はいませんでしたね」

 

 リベラルの言葉に、彼は表情を暗くなる。自分一人であれば見落としていてもおかしくないが、街中に入れる彼女の言葉には己の手の届かぬ場所にもいなかったことを示す。

 本当にスペルド族は自分しかいないのか、という不安が胸中を占めた。

 

 しかし、リベラルの言い回しにルーデウスが疑問を挟む。

 

「魔大陸には、ですか?」

「ええ、別の大陸には少数ですがスペルド族はいましたよ」

 

「――――」

 

 彼女のカミングアウトに、ルイジェルドの雰囲気が大きく変わった。

 衝撃を受けて目を見開き、先程までのどこか柔らかさを感じさせる空気が霧散する。

 

「どこだ! どこにいるんだ!」

 

 我を忘れたかのようにリベラルへと詰め寄り、肩を掴む。

 彼女は取り乱すことを分かっていたのか、落ち着いた様子でルイジェルドを宥めた。

 

「落ち着いて下さい。順を追って説明しますので」

 

 リベラルの言葉に同調するように、ルーデウスとエリスも同じ様に彼を宥める。

 少しして落ち着いた様子を確認し、それから彼女は口を開いた。

 

「まず、スペルド族はラプラス戦役の影響により、別大陸へと住処を変えました」

 

 ルイジェルドがずっと魔大陸を探しているのに、噂話すら出ないことを考えると既に誰もいない可能性が高いだろう。

 

「移り住んだ土地では、スペルド族の能力である探知能力を使い、その土地特有の透明な魔物を狩っております。

 その対価に、暮らすことを許可してもらっておりました」

「そうか……」

 

 迫害を受けることもなく穏やかな暮らしをしていることを知り、彼はホッとした様子を見せる。

 魔大陸ではデッドエンドとして恐れられていることを考えると、素直に驚くべきことだろう。

 

「それで、どこに過ごしている?」

「回りくどくなって申し訳ありませんが、その前にお話しなければならないことがあります」

 

 リベラルの前置きに、ルイジェルドは怪訝な表情を浮かべる。

 

「……スペルド族の過ごしている土地に、疫病が蔓延しております」

「なに?」

「何の疫病なのか特定出来ておりませんので、現状ルイジェルド様を案内する訳にいきません」

 

 昔から長生きし、あらゆる技術を身に付けているリベラルだが、全ての知識を有している訳ではない。特に、病気関連についてはまだ未熟なことが多かった。

 何せ、病気は実際を見る機会が極端に少ないのだ。知識としてあっても、見たことはないものばかりである。

 例えば、魔石病などもリベラルは治せない。遭遇したことはないし、神級の解毒魔術を習得出来ていない。流石にミリシオンの大聖堂にコッソリ忍び込むのは難しかったからだ。

 

「僅かですが死者も出ておりましたので、緩やかにスペルド族の全滅に向かっておりました」

 

 症状が軽い者がいれば、重い者もいた。

 全滅などと大袈裟に言ったのも現状では確実とは言えないが、ヒトガミが干渉していたのなら大袈裟でなくなる。

 ギースの種族であるヌカ族は、ヒトガミの手によって絶滅したのだ。スペルド族に対して躊躇することもないだろう。

 

 内心怒り狂っているのか、ルイジェルドは肩を震わせている。

 途中で話を遮られると長くなりそうだったので、リベラルは矢継ぎ早に話しを続けた。

 

「ルディ様とルイジェルド様を引き合わせたのは、恐らく魔大陸から離れさせて別の大陸を捜索させるためだったのでしょう。

 もしもルイジェルド様がスペルド族の住む場へと辿り着けば、スペルド族は一人残さず絶滅します。

 スペルド族が絶滅するのはヒトガミにとって都合が良いでしょうし」

 

「どういうことですか?」

 

「封印されてるラプラスはいずれ復活するでしょうが、その時にスペルド族がいなければ弱点を突くことが出来ないからです」

 

 情報量の多さに、エリスはともかく流石のルーデウスも混乱した様子を見せていた。

 しかし、ルイジェルドはその話の意図に気付いたのか、殺気混じりの視線を向ける。

 

「ヒトガミとやらは、ラプラスの仲間ということか?」

「……色々と複雑な理由はありますが、結果的にそうなりますね」

 

 技神と魔神の関係性を知っている存在は少ない。

 実際には利用されてるだけだが、ラプラスの所業を考えれば言い訳は出来ないだろう。

 

「えっと……つまり、ラプラスを倒すにはスペルド族が必要だけど、それを阻止するためにヒトガミはスペルド族を滅ぼそうとしていたってことですか?」

「端的に言えばそうなります」

「…………」

 

 話のスケールが大きすぎて、ルーデウスは再び無言となってしまう。衝撃的な内容なので、無理もなかった。

 ルイジェルドとフィットア領まで冒険することが切っ掛けで、ひとつの種族が滅んでしまうなど理解のしようがないだろう。

 そんなことを想像出来る訳がなかった。

 

 因みにエリスは話に付いてこれなくなったのか、途中からノルンとアイシャの相手をし出したのはご愛嬌だ。

 

 とにかく、ルイジェルドとルーデウスは事の経緯と理由は理解できた。

 だからこそ、次に出てくる言葉は必然のものだった。

 

「銀緑……その疫病の蔓延した地にいるスペルドたちは、見殺しにするつもりか?」

 

 もっともな疑問だろう。

 もしもここでリベラルが「そうです」と答えれば、ルイジェルドが怒り狂うことは目に見えている。

 しかし、簡単に解決出来る話でないことも確かだ。そのことを把握しているルーデウスは、ハラハラとしながら成り行きを見守る。

 

「私自身が疫病に掛かる可能性を考慮して、しっかりとは調べられていない状況です。

 ペルギウス様の助力を得られれば疫病の詳細も分かるかも知れませんが……魔族嫌いなのでそれは難しいでしょう」

「つまり、見殺しにするということか?」

「いえ、放置すればルイジェルド様はどうにかしようとスペルド族を探しに行ってしまうでしょう。それを見過ごす訳にもいきません」

 

 それをどうにかしないと、種族単位で滅ぶことになるのだ。

 リベラルも流石にそれは寝覚めが悪いし、ラプラスの復活を阻止出来なかった時にも苦労が増える。

 放置する、というのは出来ない選択肢だった。

 

「……ただ、ゼニス様の治療がありますので、治すまでは合間に診ることが限界です」

 

 ゼニスのことを引き受けたのに、それを中途半端にしてしまうことは流石に出来ない。

 そのことはルイジェルドも分かっているため、文句を言う訳にはいかなかった。しかし、それでは時間が掛かりすぎることも事実だ。

 それに、リベラルが手助けする姿勢なのは非常に助かるが、己のわがままで付き合わせるのも矜持に反する。何せ、ラプラス戦役では直接何かあった訳ではないが、敵同士だったのだ。

 

「…………」

 

 己がスペルド族の元に行っても犬死にするだけ。

 スペルド族の名が恐れられ、ろくな協力者も得られない。

 

 そんなどうすることも出来ない状況にルイジェルドは歯痒い思いを抱き、無力な己を呪う。

 

「ルイジェルドさん」

 

 だが、そこにルーデウスが声をかける。

 

「ルイジェルドさんは魔大陸で、何を目的にしていましたか?」

「スペルド族の誇りを取り戻すことだ」

「なら、今まで通りそれで良いじゃないですか」

「どういうことだ」

 

 冗談を言っている訳でもなく、真面目な表情で告げたルーデウスに、彼は疑問を返す。

 

「――スペルド族の悪評を取り除く。それが出来れば、自然とスペルド族に手を貸してくれる人が出来る筈です」

 

 原点回帰だ。

 自分の力でどうにも出来ないなら、周りの力を借りる。

 至極当然の話だ。

 そのためには、どのみちスペルド族の悪評をどうにかしなければならなかった。

 

 ルーデウスは少しばかり考える仕草を見せ、意を決したかのように顔をあげる。

 

 

「ルイジェルドさん――フィットア領に辿り着いてからもデッドエンドとして一緒に行動しませんか?」

 

 

 その言葉に、彼は目を見開く。

 

「だが、お前にはやるべきことがあるだろう」

「いえ、そうでもないですよ」

 

 ルーデウス自身も、これまでフィットア領に到着してからのことをあまり考えていなかった。

 目的地に辿り着いても、まだ復興作業の途中だろうし、生まれ育ったブエナ村はなくなっている。

 ゼニスは北方大陸のラノア王国で治療をするので、最終的に家族は皆そちらに移住するだろう。

 

 当初の目的はフィットア領に帰ることだったが、そこから先は何も考えていなかったのだ。自分ではゼニスを治す手伝いが出来るとは思えない。

 だったらこれまでのように冒険者として、デッドエンドとして活動し、ルイジェルドの手助けをしてもいいのではないか。

 少なくとも、そう思えるくらいには彼に対しての好意を抱いていた。

 

「…………」

 

 珍しく、ルイジェルドは返答に詰まっていた。

 いつもの彼であれば、戦士としての矜持か何かで断っていたのかも知れない。スペルド族の問題は、ルーデウスに関係のないことなのだ。いつまでも付き合わせる訳にはいかなかった。

 

 しかし、今のルイジェルドは手詰まりである。

 

 同胞が全員亡くなる可能性がある以上、個人の感情で断る訳にもいかない。

 かといって、いつまで掛かるのかも分からない名誉の回復に、人族であるルーデウスを付き合わせる訳にもいかない。

 どうすればいいのか迷い、葛藤するのも仕方ないだろう。

 

「……まあ、いいんじゃないですかルイジェルド様」

 

 そこで、成り行きを見ていたリベラルが口を挟む。

 

「簡単に言うな」

「ルディ様も考え無しに言ってる訳でもないでしょう。それはここまで共に歩んできた貴方がよく分かっている筈です」

「……そうだな」

「ソ、ソウデスヨ、僕ちゃんと考えてる」

 

 二人のやり取りにルーデウスは動揺して片言になる。

 まさか自分の人生を全てスペルド族のために捧げるなんて、そんなことを安易に言う訳がないだろう。

 何かしら思い付いてると考えるべきだ。

 

 ルーデウスは咳払いをひとつし、気を取り直す。

 

「じゃあ期限を付けましょう。それなら気兼ねなく組めるでしょう」

 

 そして、彼は三本の指を立てる。

 

「フィットア領に帰還してから、約三年。その間に出来ることを行い、やれることを考えましょう」

 

 もっとも、今までの歴史を考えれば、三年間の活動で与えられる影響なんてたかが知れてるだろう。

 迫害や差別が簡単に無くならないことは、前世の歴史だけでなくルーデウス本人も身をもって知っている。

 けれど、ここに至るまでの旅路で、スペルド族であるルイジェルドに対して、笑顔や気さくに対応してくれた人たちはいた。

 名誉の回復までは出来なくても、協力者なら見付けられる筈だ。

 

 やがて、ルイジェルドは根負けしたのか、溜め息を溢しながらルーデウスの目を見つめる。

 

「――分かった。それでいい」

 

 こうして、フィットア領に到着後もルイジェルドとパーティーを組むこととなった。




Q.ナナホシのことが解決すれば制約がなくなる?
A.何かリベラルって行動不自然なときありますよね。
リベラル「ヒトガミ討伐RTAはっじめるよー!じゃあ先ずはラプラス戦役と戦役前に五龍将から秘宝を回収しちゃいましょうねー。ルーデウスとナナホシは(討伐に必要)ないです。社長一人いれば倒せます。肝心の社長は転移事件起きたらホイホイ出来るので待ちましょう。私の事情を話せば仲間になります。後は秘宝を渡してヒトガミ討伐に乗り込んで終了です。ヒトガミとの対決は社長だけでは厳しい場面はありますが、私が持つ切り札と奥の手を使えば問題なく勝てます。はいタイマーストップ!」
上記のが最善であり、このようにすればこの作品ではヒトガミの討伐RTAが出来ます。

Q.スペルド族の疫病。
A.原作245話『天才』にてクリフが治す病気。ドライン病であったが、途中からギースの手でやって来た冥王ビタによって治癒。その際にスペルド族にばらまいた分体によって、ビタは症状を自在に調整していた。時期的に現在ビタは憑依していない。

Q.リベラル疫病治せへんの?
A.可能か不可能かで言えば可能です。ドライン病の知識自体は持っています。作中の言葉通り、自分も病気になることを恐れて深く調査してないだけ。

Q.デッドエンド。
A.フィットア領で本来ならデッドエンドは解散しますが、スペルド族の現状を把握したことでルイジェルドの離脱は無しです(期間限定)。

Q.スペルド族の呪いのことは伝えないの?
A.ルイジェルドが髪の毛剃ったことで呪いは急速に薄れているので、この後さらっと説明したってことにしといてください。呪いだったんだなんだってーでも薄れてるから大丈夫Vやったーくらいのノリで話してます。

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