リベラル「ヤらせろ!!」
ロステリーナ「私はビッチではないのです!」
ラプラス「駄目だこいつ…早くなんとかしないと…」
何と言うか、思ったように書けない。書きたいことがどうしてもずれてしまう…。孫の手さんみたいな心理描写にしたいんだけどなぁ…やっぱ孫の手さんは偉大ですよ。
毎日毎日、朝から晩まで鍛練と、同じことをひたすら繰り返し、はや数年が経過した。
ラプラスは相変わらず、ヒトガミの使徒と戦い、家にいる時は鍛練と魔道具製作である。特に代わり映えのない日々であったが、鍛練以外に変わったことと言えば、精々ロステリーナに関してだろう。
ロステリーナはリベラルに対し、関わりを持とうとする努力を見せ始めていたのだ。しかし、実際に接触すると、小さな悲鳴を上げて逃げ出してしまうのだが。後は、ロステリーナがラプラスから、『古龍の昔話』を少し聞いていたくらいだろう。
とにかく、そんなこんなで同じような日々が続いていたが、その日はいつもと違った。
「リベラル、今回は私と共に行こう」
いつもヒトガミの布石を、一人で潰しに向かっていたラプラスから、そのように言われたのだ。つまり、今回は彼一人ではなく、リベラルも同行しろということである。
「そろそろ、次のステップに移ってもらうよ。鍛練だけではなく、実戦経験も必要だからね」
「そうですか…分かりました」
ラプラスの言葉に、リベラルは小さく頷く。正直、彼女にとってそれは、嬉しさ半分、諦観が半分といったところであった。
リベラルは今までずっと、龍鳴山から出たことがないのだ。当然ながら、望んで出なかった訳ではない。単純に、レッドドラゴンが数多く棲息しているから、龍鳴山から出られなかったのだ。
だからこそ、この世界に転生してから、初めて龍鳴山の外を見られることを、純粋に楽しみにしていた。未知への探求心だ。子供のような冒険心を、彼女は持ち合わせていた。
諦観の気持ちは、ラプラスの目的である。ヒトガミの布石を潰すために、行動するのは問題ないのだが、殺し合いが発生することに脅えていた。
ラプラスの娘として生まれた以上、いつか必ずその日が来ることをリベラルは理解している。しかし、理解しているからといって、受け入れられる訳ではない。
だが、それは人を殺すことへの忌諱感ではない。そんなものは、命の軽いこの世界で、いつかは訪れると分かっているものだ。人を殺めるという行為に対して、彼女は生まれてからずっと覚悟を決めていた。
だから、リベラルが抱いているもの。それは――自分が殺されてしまうかも知れないという忌諱感だ。
何者であれ、死ぬときは死ぬ。だというのに、殺し合いなどすれば、更に死へと近付くだろう。
リベラルは、死にたくないのだ。
全ての生物が持つであろう当然の欲求を、彼女は強く抱いていた。
「ご主人様、行かれるのですか?」
そこへ、最初に会った頃よりも僅かに成長した姿のロステリーナが、トテトテと駆けてくる。彼女はラプラスの隣にいたリベラルに気付くと、「ひっ!」と小さな悲鳴を上げたが、逃げ出さずにその場で止まっていた。
リベラルは呪いのことを把握しているので、そんな反応を見ても大きなダメージを受けず、素直に受け入れる。それに、ロステリーナが関わろうとしてくれてることを理解してるので、リベラルは怖がらせるような行動をせず、ただ見守ることにしていた。
「ああ、ロステリーナ。君は留守番を頼むよ」
「はい! お家の中、ピッカピカのキラッキラにしておきますっ!」
元気よく返事をするロステリーナを確認し、ラプラスはサレヤクトのいる洞窟へと向かう。リベラルもそれに付いていこうとしたのだが、
「あの…お嬢様も無事に帰って来て下さいね!」
そんな言葉が、背後から聞こえたのだ。リベラルはそのことにクスリと笑みを浮かべ、
「ええ、もちろんですよ」
そう告げて、今度こそサレヤクトの元へと向かって行った。
――――
初めて乗ったサレヤクトの背中は、ゴツゴツしていて心地よいものではない。鱗は変な場所に当たるし、そもそも上空を滑走してるので寒い。
竜騎士のような格好いい存在にちょっぴり憧れていたリベラルは、そんな感想を抱き、数刻も経たぬ内に幻想を壊されていた。それに、手すりがないので、ラプラスの背中にしがみつく羽目になっていたのだ。そのことも、何となく嫌であった。
「リベラル、緊張をする必要はない。まだ君を、ヒトガミの使徒と戦わせるつもりはないからね」
「……では、私は何を?」
「今は魔大陸にある街へと向かっている訳だけど、その途中にいる盗賊の始末をしてもらうよ」
ラプラスの台詞に、リベラルはキョトンとした様子を見せる。
「何故、そのようなことを…?」
「何、そう難しい理由でもないさ。以前に盗賊の話を聞いてね。今のリベラルには手頃な相手のようだから、街への寄り道がてら戦ってもらうだけだ」
「…………」
ラプラスは、どうやらその街に用事があるらしい。そして、リベラルを盗賊と戦わせるのは寄り道がてらだと言う。
それは、本当についででしかなかった。
「……そう、ですか…死なぬよう、精一杯努力致しますよ」
命の軽いこの世界で、ずっと命のやり取りに覚悟を決めていたリベラルに対し、ラプラスは『ついで』だと、そう言ってしまったのだ。
「心配しなくていい。私から見れば、リベラルはまだまだ未熟だが、間違いなく強い。盗賊などに、遅れを取ることはないさ」
「はは…そうですか」
頼もしさすら感じられる言葉であったが、リベラルは曖昧な笑みを浮かべることしか出来なかった。
ラプラスがそう言うのであれば、恐らく、名も無き盗賊などに負けることはないだろう。だが、そういう問題ではない。これは、心の問題なのだから。
(ラプラス様…もう少し、優しさが欲しいですよ。…確かに私は前世の記憶などを持っていますが、貴方の娘として誕生した、家族なのですから…)
ラプラスは、殺し合いを望んでいる。
リベラルは、殺し合いを望んでいない。
父と娘。二人の意思は、ずっとすれ違ったままだ。
だけど、リベラルは己に求められている役割を、理解している。強くなって欲しいと願われてることを、知っている。この先、望まなくとも茨の道を歩むと、分かっている。
だからこそ、ほんのちょっとでいい。僅かでもいい――父親としての優しさを、見せて欲しかった。
「…ところで、何故ラプラス様は魔大陸にある街へと向かうのですか?」
だが、リベラルはすぐにその思いを振り切り、別の話題を口にする。
「盗賊退治がついででしたら、態々このような遠出をせず、龍鳴山の近隣でもよかったのでは?」
「…私が現在作ろうと考えてるものに必要なものが、近隣の街に無くてね。残念なことに、魔大陸にしかないのだよ」
「ああ、そう言えば、何か作られてましたね。どのようなものを作ってるのですか?」
「それは……完成してからのお楽しみという奴だな」
「じゃあ、いいです」
結局――昔からずっと、今もずっと、二人はすれ違ったままだった。
「…因みに、リベラルは何か好きな色はあるかい?」
「色ですか?」
「そうだ。一番好きな色を教えて欲しい」
ラプラスの唐突な質問に、リベラルは首を捻る。だが、特に深く考えることもせず、素直に答えた。
「……緑…ですね」
「ほう、緑か。それは何故だい?」
「なんと言うか…落ち着く色なのですよ」
「ふむ、そうか…分かった」
ラプラスは小考し、そして普段は見せぬ笑みを浮かべた。そのことに、リベラルは再度首を捻る。
「とにかく、もうすぐで出来るからね。きっと喜んでくれるだろう」
「……? そうですか。では、完成したら見せてもらいますね」
「ああ、そうするといい」
「ところで話は変わりますけど、サレヤクト様ってどうして他のレッドドラゴンと比べて、ここまで大きいのですか?」
だが、ラプラスの作成しているものに興味を失った彼女は、また別の話題を出し、魔大陸へと向かっていく。
「ふむ、理由は幾つかあるけれど、一番の事由は年齢だね。人界にいるレッドドラゴンに長く生きているのはいるだろうけど、サレヤクトよりも長く生きてる古竜はそういないだろう」
「歳と強さは比例する訳ではないでしょうが…やはり人とは構造が根本的に違うのですね」
到着する頃には、ラプラスが作成している魔道具のことを、リベラルはアッサリと忘れた。
――――
サレヤクトの背に乗り、街を目指していた二人であったが、到着する前に陸地へと着陸する。レッドドラゴンを街中へと連れて行ける訳でもないので、彼に騎乗するのは途中までだ。
「さて、リベラル。私の集めた情報によると、ここから街の反対側へと向かう道で、盗賊がよく出没するらしい」
「……はい」
「私が街へと用事を済ませてる間に、片付けておきなさい」
彼の台詞に、リベラルは怪訝な顔を見せて、
「ラプラス様は近くにおられないのですか?」
当然の疑問を口にする。彼女はてっきり、危険がないよう手出しが出来る場所に、ラプラスがいてくれると思っていたのだ。だが、そんなことはなく、彼はリベラルが盗賊と戦っている間に、一人街へと向かうと言う。
「流石にそれは過保護すぎるからね。私は常に君の近くにいられる訳ではないのだよ」
「それはそうですけど…だからって、最初からこんな…」
「安心しなさい。サレヤクトに近くを飛んでいてもらうよ」
「……でも…」
初めての実戦で、一人ホッポリ出されることに、リベラルは不満そうにする。しかし、ラプラスは目を逸らさず彼女を見つめ、
「――まだ、足りないのかい?」
冷たさを感じさせる声色で、そう告げた。
「君のために、盗賊の大体の強さは調べた。間違いなく、遅れを取ることなどあり得ないだろう。生き残ってもらうために、私はリベラルに戦う術を教えたのだから。それでも万が一に備えて、サレヤクトも近くにいてもらうことにしたのだ」
「…………」
「今でも十分に過保護だろう。私はそう思っているよ。それに、私が帰って来なければ、君はどうするのだ? 一人では何も出来ないと嘆き、龍鳴山から出ることすら諦めるのかい?」
リベラルの未来は、過酷かも知れない。しかし、それでもリベラルの現在は――恵まれている。
この世界では、何も抵抗すら出来ず、何も成すことすら出来ず、静かに朽ちていくことなど珍しくもないだろう。親に捨てられた訳でもなく、生きることが困難な環境でもない。
ここまでお膳立てをされているにも関わらず、不満を溢したリベラルに、ラプラスは我が儘を言うなと告げたのだ。
「リベラル。私たちは強くならなければならない。生き残り、未来に誕生するオルステッド様に、ヒトガミを倒す術を伝えるのだ」
魔龍王としての、五龍将としての使命をラプラスは語る。
「私の娘として、龍族の希望として、この程度の試練など軽く乗り越えて欲しい」
覚悟のないリベラルにとって、それは余りにも重く、大きく、押し潰されてしまいそうになる願いであった。
苦い表情を彼女は浮かべ、ラプラスから視線を外してしまう。
「私は行くよ。リベラル…期待している」
背を向け、立ち去って行くラプラス。そんな彼の背中を見つめ、
(何で…私がこんな…。どうして…私なんかがリベラルとして誕生してしまったのですか…ッ!!)
余りにも大きな期待に、リベラルは己の命運を呪った。最早、どうすることも出来ないだろう。望んでいようがいまいが、ヒトガミと戦うことは宿命付けられている。
(……逃げたい。今すぐ逃げ出したいです。…どうして、私にそこまでの期待を寄せるのですか…紛い物の私なんかに…)
歩き出すことが出来ず、リベラルはその場に立ち尽くす。戦う覚悟を決めていても、本番を前にアッサリと崩されて。
そんなリベラルに対し、隣で佇んでいたサレヤクトが、元気付けるかのように鼻先を寄せる。そしてそのまま、リベラルへとからだも寄せていた。
通常のレッドドラゴンよりも、倍以上の大きさのあるサレヤクトが、だ。
「ぐえっ!?」
質量差により、呆気なく押し倒されたリベラルに、サレヤクトはペロリと全身を舌で舐め上げる。
「くっさ!! ちょ、止めてくださいサレヤクト様!! 臭いですから!!」
「グオ」
「あ…そこちょっと気持ちいいかも…もっと…。ハッ…今のは違います!! 嘘です嘘! 冗談ですから止めてください!」
静止の声も聞かず、しつこく舐めてくるサレヤクトをリベラルは何とか押し返そうとするも、当然ながら出来る訳もなく、
「…………」
サレヤクトの唾液でベトベトになったリベラルは、恨みがましい視線でサレヤクトを睨み付ける。だが、当の彼はあっけらかんとした態度で、鼻を鳴らす。そして、まるでリベラルの存在に気付いていないかのように、大空へと飛翔して行った。
「うぅー…何で私がこんな目に…」
立ち上がったリベラルは、トボトボと重い足取りで、街の反対方向へと歩を進めて行く。
リベラルは気付かなかったが、これはサレヤクトの優しさであった。彼はリベラルを慰めた訳でもなく、励ました訳でもない。ただ、自身の臭いを彼女につけたのだ。
確かに臭かったりしただろうが、その臭いにより――リベラルを狙う魔物は大幅に減ることだろう。レッドドラゴンの臭いが染みついていれば、並の魔物は手出しなどしてこない。
つまり、サレヤクトは彼女に対し、マーキングを行ったのだ。少しでも危険を減らすために。いつも洞窟の中で、グータラと過ごして世話をされていた彼であったが、何だかんだでリベラルに感謝していたのであった。
サレヤクトは軽く鼻を鳴らし、上空からリベラルを見守る。
――――
トボトボと道を歩きながら、リベラルはどうするべきかを考える。
(盗賊退治…そもそも、遭遇出来るのでしょうか?)
ラプラスは特に、盗賊たちがどこにいるのかを告げていない。人数もハッキリとしていない。それに、本当に存在するのかも不明なのだ。
ラプラスが調べたことなので、確かに存在するとは思っている。しかし、こちらに移動している間に、盗賊たちが魔物やら流れの旅人などに討伐されてる可能性もあるのだ。
「魔物…そう言えば、私は一度も見たことがありませんね…」
考えていて、ふと、彼女はそう思う。レッドドラゴンなら幾らでも見たことがあるのだが、その他の魔獣や魔物は見たことがないのだ。
相手は、盗賊だけではない。そのことに気付き、リベラルはブルリとからだを小さく震わせた。
もっとも、サレヤクトのお陰で、魔物に関しての心配はあまり必要ないのだが。
それから数十分ほど歩を進めていたリベラルは、人の気配を感じ取る。否、その言い方は適切ではないだろう。道の真ん中に、三人の男たちはいたのだから。
彼らはリベラルに気付いていないのか、背を向け、何かを見下ろしていたのだ。
流石にそれだけでは、まだ盗賊かどうかの判断はつかないので、リベラルは一旦様子を見ることにする。
「ヘヘヘ、お嬢ちゃん、一緒にきたら腹いっぱい食わせてやるぜ」
「お、おお…お主たち…それは本当かっ!」
「もちろんなんだぜ。だから、俺たちと一緒に来るんだぜ」
リベラルはなんとなく既視感のようなものを感じ、頭に疑問符を浮かべる。それから、男たちの足に隠れて見え難いナニかを見た。
黒いレザー系のきわどいファッションをした幼女だった。
膝まであるブーツ、レザーのホットパンツ、レザーのチューブトップ。
青白い肌に、鎖骨、寸胴、ヘソ、ふともも。
そして極めつけは、ボリュームのあるウェーブのかかった紫色の髪と、山羊のような角。
一目見て分かった。あれは
次回、ロリBBA登場!
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