ガル「強くなりたいお!」
リベラル「私を信じて下さい」
パウロ「要求押し付けてんじゃねえ!」
いやー…なんとか今年中に投稿できましたね。忙しいし執筆は全然進まないしでどうしようもない状況でした。まあ、どうでもいいであろう言い訳はさておき。
遅れて申し訳ございませんでした。次回も遅れるかも知れません……申し訳ない。
『フィットア領は、魔力災害によって消滅したんだ』
そんなこと、パウロには信じられなかった。
否、信じたくなかった。
唐突に訳も分からぬ出来事に遭遇し、剣の聖地の上空に転移した。それだけならば良かったのだが、同じ様な目に家族が遭ってるかも知れないと思うと、気が気で夜も眠れなくなった。
最初は、その言葉を受け入れることが出来ず、ヒトガミの話を一切聞くこともしなかった。
『大丈夫、僕は君の味方さ』
けれど、ヒトガミは何度も何度も夢に現れては、パウロを励ました。彼が幾ら現実を拒絶しようとも、残酷な事実を突き付けて。
訳が分からなくて、でも、どうすることも出来なくて。転移によってボロボロになったこの体では、動くことすら困難だ。
辛くて苦しくて、泣き叫びたくなって、幾度となく暴れたが、ヒトガミはずっと自分は味方だといい続けた。
『君の家族は生きている』
ある意味、ヒトガミは希望だった。
本当にフィットア領が消滅した報を聞き、死にたくなった。だが、どれほど残酷な運命を見せ付けられても、ヒトガミは希望の一筋を見せ付ける。
夢から覚めれば、世話をしてくれた剣神流の門弟たちに沢山の迷惑を掛けた。ボロボロのまま飛び出そうとして抑えられ、帰らせろと喚けば宥められて。
何も出来ず、この地で寝ているだけなんて、パウロには耐えられなかったのだ。ヒトガミが夢に現れない日には、ずっと悪夢に悩まされていた。
ゼニスとリーリャは見も知らぬ男たちに犯されて、ノルンとアイシャは助けてとワンワン泣き叫んで、ルーデウスも魔物に食い殺されて。
そんな悪夢を見続け、発狂しそうになった。皆が助けを待ってるかも知れないのに、俺はこんな場所で何をしてるのだと狂いそうになった。
気付けば――パウロはヒトガミの元で泣いていた。
『僕なら、君の家族の居場所を見付けられるよ』
だから、それに縋った。
ヒトガミはとても信頼出来る雰囲気を持っている。ヒトガミが本当に神様なのかは分からなかった。それでも、頼れるのはヒトガミだけだったのだ。
家族を見付けられるのならば、神だろうと悪魔だろうと、魂を売ってやるとさえ思えた。それほどまでに、パウロは苦しかったのだ。
『その代わり、僕のお願いを聞いて欲しいんだ』
取り引きは成立した。パウロは家族を探してもらうことを条件に、ヒトガミの言うことに従う。分かりやすい関係だ。
何故お願いするのだろうか、とか、そんな疑問は抱かなかった。ただ、家族を見付けられるかも知れないという希望が、胸の内に渦巻いた。
『僕とリベラルは敵対関係にあってね。彼女、ちょっと邪魔なんだよね』
とは言え、ヒトガミの指示に対して思考停止した訳ではない。流石にその言葉には、パウロも疑問の声を上げた。
リベラルとは何年も世話になった仲である。幾らヒトガミと取り引きするとは言え、恩人を売りたくなどない。それは、当たり前のことだった。
むしろ、ヒトガミへの猜疑心が沸き出すこととなった。目の前の存在は神聖な雰囲気を纏い、心に安らぎを与えてくれる。しかし、リベラルと敵対関係だと告白したのだ。本当に、信用していいのか不安になった。
『リベラルが転移災害の発生と関わりある、と言ってもかい?』
その言葉に、思考が停止する。ヒトガミが何を言ってるのか、分からなかったのだ。
訳の分からないことを言うなと問い詰めた。リベラルが転移災害と関わりある訳がないだろうと。そんなことをする奴じゃないと怒った。
必死に問い詰めるパウロに、ヒトガミは相も変わらず飄々とした態度で答える。
『君はリベラルが銀緑であると、何となく察してるのだろう? その通りだよ。彼女はラプラス戦役で異名だけ残ってる存在さ。そして、“あの”ラプラスの娘なんだ。
それに、転移災害が起きる前段階で、君の家族に護身用の魔道具まで渡してたじゃないか』
ウルペンの恋人。“魔神”ラプラスの娘。魔族の裏切り者。龍神の後継者。人族と魔族の二重スパイ。
そんな伝説の数々が、頭を過る。
『彼女は生まれつき、世界を滅ぼそうとしてる。僕はそれを食い止めたいんだ』
銀緑に関しては、様々な噂だけが飛び交っていた。しかし、ヒトガミと言う超常的存在の言葉によって、噂は本当なのではないかと考える。
魔神ラプラスに関しては、言うまでもなく有名だ。魔族にとっては英雄的存在であるが、人族からしてみれば正に大罪人の悪魔だろう。魔神は卑劣な輩であることも有名だ。そんな存在の娘が、あのリベラル。
確かにそう考えれば、災害を起こすだけの力があっても可笑しくない。リングス海のような、大穴を作れると言われても納得出来る。
しかし、と思い直す。
ブエナ村で過ごしていた頃のリベラルは、村人の皆から好かれていた。何度も食事のお裾分けをしては、家事の手伝いをしてくれて。ルーデウスやシルフィエットを無償で鍛えていたり、態々手紙をボレアス家まで届けたり。
少なくとも、魔神とは違って心優しい女性だったのだ。子供たちと触れ合ってる時、とても素敵な笑みを浮かべていた。
魔神の娘であろうと、リベラルが転移災害と関わりあるとは、やはり思えなかった。
そんな心中を見透かしたヒトガミは、口を開く。
『だったら、リベラルがつけてる腕輪を外してみなよ。そしたら、僕の言ってることも納得出来るからさ』
何のことか分からず、腕輪が何なのかとヒトガミに問えば「リベラルの本当の姿が分かるよ」と言われた。売り言葉に買い言葉。それに対して、パウロは「だったら外してやるよ」と言った。
それは、ヒトガミではなくリベラルへの信頼からの台詞だった。アイツが疚しいことなんてする訳がないと、そう信じてるからこそだ。
結局、パウロはリベラルの腕輪を外すまで、ヒトガミの指示に従うことにした。
――――
最初に言われた指示は、ただ待機することだった。どのみち、怪我や時期的な問題もあり帰れなかったとは言え、苦痛な時間である。
けれど、その憂鬱もすぐに吹き飛ぶこととなった。
『君の娘を見付けたよ。どうやら、リベラルと一緒のようだね』
ヒトガミが早速仕事を果たしたのだ。ノルンを発見した上、剣の聖地にまで健康体のまま誘導すると告げてくれた。
それには流石に半信半疑だったが、リベラルと共に現れた己の愛娘を前にして、少しはヒトガミの言葉を信じようかと思った。
だって、本当にノルンを見付けてくれたのだから。
ヒトガミは、己の家族たちを見付けられる力を、実際に持っている。
『多少、無茶な理由でもいいから、リベラルと剣神流に稽古をさせてくれないかい? そのために、態々剣帝に彼女のことを教えたんだから。
君の娘を見付けてあげたんだから、それくらい構わないよね?』
本来ならば、無視しようと思っていた言葉。それをパウロは思い出していた。
確かに、ヒトガミの言う通りだろう。ヒトガミは家族を見付けることを対価に、言うことを聞いて欲しいと告げたのだ。
結局、リベラルに申し訳ないと思いつつも、仕方なく実行に移した。
恩返しを代わりに頼む、なんてことを図々しくも頼んだ上、本人に話を一切通してないのだ。舌打ちされてしまったが、普通の人ならば怒って当然だろう。
リベラルの実力は、凄いの一言に尽きた。剣聖以上の門弟を相手に、素手であしらっているのだ。
本当に、彼女がラプラス戦役を生き抜いた銀緑であると、染々感じさせられる。更には、七大列強などと言う雲の上であった存在を相手に、アッサリと結界魔術で捕らえたのだ。圧倒的過ぎる。
『へぇ、そうかい。やっぱり彼女、龍聖闘気は纏えないんだね。七大列強の上位陣並の実力はあるみたいだけど、これなら何とかなるかも知れないね……』
そのことをヒトガミに話すと、ブツブツと一人考えていた。そして、それ以上何かを話すこともなく、夢は覚める。
フィットア領に戻る道中では、何度もリベラルに訊ねようと思っていた。転移災害の発生に、彼女は本当に何の関わりもないのかどうか、知りたかったのだ。ヒトガミの言うことなんて、実際はデタラメだと思いたかった。
けれど、言えなかった。ノルンを己の元にまで無事に届け、こうして共に行動して助けてくれるリベラルに対して、そんなことを問える訳がなかった。
リベラルが禁術指定されてる筈の転移魔方陣を使用した時は、やはりと言うべきか転移術や召喚術にある程度精通してるのだと認識させられた。
けれど、ちょこっとだけだ。それだけで、リベラルへと僅かに芽生え始めていた猜疑心は、芽吹かなかった。大したことではなかった筈なのだ。
事態は急転する。
『もういいよ』
夢で見たヒトガミの開口一番は、それだった。
『パウロ。君は僕の言うことに従ってくれないんだよね? だったら、もういいよ』
ヒトガミの突き放すかのような言葉に、パウロは頭が真っ白になる。
元々は、取り引きだったのだ。家族を見付ける代わりに、言うことに従って貰う。彼の嫌々な態度は、ヒトガミの機嫌を損ねた。
ヒトガミがいなければ、家族を探すのは困難だろう。いや、もしかしたらアッサリと見付かるかも知れないし、既にフィットア領の難民キャンプで保護されてるかも知れない。
けれど、それは“もしかしたら”であり、そうなる保証はないのだ。少なくとも、フィットア領に一度寄ってるリベラルは、他の生存者を確認出来ていない。
実際にヒトガミの機嫌を損ねていたのかは分からないが、パウロはそう思ってしまったのだ。
その焦りに、つけこまれた。
『僕よりも、リベラルを信用するんだろう? つまり、君は僕の敵だ』
ヒトガミとリベラルは、敵対してると言った。なのに、パウロはどっちつかずな態度を取り続けていたのだ。見放されても仕方ないだろう。
焦るパウロを傍目に、ヒトガミは淡々とした態度を取る。
『さようなら。家族を見付けることも出来ず、せいぜい後悔しなよ』
そこで、目が覚めた。
ビッショリと全身に汗を掻き、先程のことを鮮明に思い返せた。体は小さく震え、剣の聖地で見た悪夢が脳裏を過る。
何度も見た夢だ。ゼニスとリーリャは見知らぬ男に犯され、ノルンとアイシャは助けてと泣き叫んで、ルーデウスは魔物に殺される。
そんな現実は信じられない。ただの悪夢だと割り切ろうにも、ヒトガミの言葉を思い出して気が狂いそうになった。
けれど、誰かに腕を掴まれ、そちらに意識が向く。
「おとうさん……だいすき……」
そこには、静かに寝ているノルンがいた。
そう、ノルンがいるのだ。
目の前には、愛する娘がいる。
「ノルン……」
ふと、涙が零れ落ちた。
何度も見た悪夢だが、ノルンは無事なのだ。
少なくとも、ヒトガミはノルンを助けてくれてる。
「…………」
少し遠くで夜番をしてくれてるリベラルを視界に映し、心が締め付けられた。彼女はいつも、辛い夜番を引き受けてくれる。
何度も世話になりながら、恩を仇で返すような真似をする。それは最低のクズ野郎だろう。けれど、それでもパウロは家族の方が大切なのだ。
「俺は……俺は……」
ごちゃごちゃと、様々な思いが沸き出る。
見付かってない家族を助けなければならない。リベラルは恩人だ。ヒトガミは家族を見付けることが出来る。リベラルは信頼出来る。家族が助けを求めてるかも知れない。リベラルはノルンを保護してくれていた。ヒトガミは二人を届けてくれた。リベラルは転移災害の元凶かも知れない。ヒトガミは信用出来る。
ぐるぐる、ぐるぐると渦巻いた。
何を信じて、己は何をすべきなのか。
ぐちゃぐちゃで、もう何も分からなかった。
けれど、一つだけ分かることがある。
「――俺は、家族を助けなきゃならねえ」
どれほど思い悩み、何が正しいのか分からなくなろうとも、それが根底にある想いだ。それだけは、確かである。
パウロは再び目を瞑り、深い眠りについた。
相も変わらず、そこは白い空間だった。パウロはまた、ここに訪れることが出来たのだ。
そんな彼の目の前には、ヒトガミがいる。
『やあ。どうやら、腹は括ったようだね』
先程とは打って変わり、ヒトガミは友好的であった。しかし、パウロにとって、そんなことはもうどうでもいいのだ。
フィットア領に辿り着けば、リベラルに全てを尋ねるつもりだった。転移事件のことも、腕輪のことも。
ヒトガミとリベラルのどちらに着いていけばいいのか分からなくなったが、ヒトガミは言ったのだ。彼女の腕輪を外せば分かる、と。
だったら、確かめればいいだけの話だ。そして、確かめた上で、より家族を助けてくれるだろう方へとついていく。
それが、パウロの決断だった。
『随分と図々しい考えだね。まあ、好きにすればいいよ。最終的にどうするのかは、君次第なんだから』
そして、フィットア領に辿り着いた。今まではずっと話に聞いていただけであるが、やはり実際に見るのとでは大きく違うと思い知らされる。
全てを失ったことに嘆く若者や、孫を亡くしたことを悲しむ老い先短い老人。様々な悲しみで、満ち溢れていた。
そんな雰囲気に当てられ、パウロは再び家族の安否に不安を感じる。それと同時に、どうして俺たちがこんな目に遭わなきゃならないんだと、行き場のない憤りに駆られてしまう。
リベラルにその怒りをぶつけててしまったが、彼女は受け入れてくれた。
「…………」
ヒトガミの言葉が、脳裏を過る。
転移災害の発生に、リベラルは関わりがあると言われた。幾度もそんなことはあり得ないと否定し、けれど、真偽を知りたかった。
リベラルの表情が、脳裏を過る。
剣の聖地にて、彼女へと転移事件と関わりがあるのか問おうとした時の顔が。緊張してるような、泣き出してしまいそうな、そんな表情だった。
そんな折に、リベラルの口から問われる。
「パウロ様は、
心臓が、高鳴る。
ヒトガミからは、なるべく隠しておいて欲しいと言われていた。だから、下手に知られて、また不機嫌になられては困るのだ。
「パウロ様、貴方の為に言ってるのです。ヒトガミと手を切って下さい。でなければ、取り返しの付かないことになります」
その言葉を信じたかったけれど、信じられなかった。どうすればいいのか、もう判断できなかった。
ヒトガミは、家族を見付けられる力を持っている。なのに、そんな存在から手を切ってしまえば、悪夢の通りになってしまいそうで。
そうなってしまうのが、怖くて、辛くて、耐えられなくて、どうしようもなくて、拒絶してしまう。
「パウロ様、嘘を吐いてることは分かってます……もう一度言いますよ? ヒトガミと手を切って下さい」
リベラルのその問いに、パウロは慟哭と共に叫び散らしたかった。
だったら、どうすればいいのだと。ヒトガミと手を切って、その次に当てはあるのかと。お前につけば、家族を、皆を救えるのかと。
寝言を溢したノルンの姿に、その気持ちがより一層高まる。
リベラルのことは信じたい。ブエナ村での日々を思い返せば、ヒトガミと手を切って彼女に付くべきなのではと思ってしまう。
あの頃のリベラルは、間違いなく偽りのない本当の姿を晒していた。
だから、信じさせて欲しかったのだ。
ヒトガミの言葉を否定して欲しかった。
「その腕輪を、一度外してくれねえか?」
リベラルがパウロを信じてくれるのであれば、彼も信じることが出来ただろう。例え、どのようなものを抱えていたとしても、逃げずに向き合って欲しかった。それが、信頼と言うものだ。
呪子だとか、呪いだとか、そんなことはどうでも良かった。話が本当であればきっと恐れていたであろうが、それは問題じゃないのだ。
リベラルは、パウロを信じてくれなかった。
己の内を隠し、曝け出してくれなかった。
「俺は、何を信じりゃいいんだよ……」
もう、何も分からなかった。
――――
ノルンを連れて離れていくパウロを、リベラルは追い掛けなかった。少し、頭を冷やす時間が欲しかったのだ。互いに冷静さを失わせていただろう。
必要なのは、時間だ。心に余裕を持たせねばならない。
パウロがヒトガミの使徒になったのは確実で、リベラルはそれを認識している。だが、リベラルはパウロを始末することが出来ない。
だからと言って、放置する訳にもいかないだろう。しかし、ヒトガミに大きな一手を打たれてしまった。
分かっているのに手を出せない今の状況が歯痒く、どうしようもない焦燥感だけが彼女に募る。
「……一度、状況の確認をしましょうか」
パウロとは後で話し合うことにし、まずは臨時営業している冒険者ギルドへと足を運んだ。既に五ヶ月ほど経過しているので、現在の情報をより正確に知るためだった。
掲示板の前へと歩み、行方不明者などをリベラルは確認する。すると、二つの名前で目が止まった。フィリップの名前に、斜線が引かれていたのだ。
(生きてましたか。魔道具を渡したお陰か、はたまた私の介入によってかは定かでありませんが……とにかく無駄にならなくて良かったです)
そしてもう一つ。シルフィエットの名前にも斜線が引かれ、生存者の欄に記載されていたのだ。
その近くに、伝言が置かれている。
「……なるほど。そうなりましたか」
伝言は、ロキシーからのものであった。
どうやら、リベラルが剣の聖地に向かった後に訪れたらしく、丁度すれ違っていたようだ。そして、伝言を見付けた彼女は、これからの行動を残していた。
『リベラルさんへ。
連絡先が分かりませんので、こちらに伝言を残しておきます。
貴方とルディの弟子であるシルフィエットは、私が保護しました。本人から二人の知り合いであると聞きましたが、世間の狭さが染々と感じられます。
彼女を水聖級魔術師にまで育て上げていたことには驚きましたが、基礎が疎かでしたので、差し出がましいかも知れませんが私が指導することにしました。
シルフィは素直で、言うことをよく聞いてくれます。ルディ程ではありませんが、末恐ろしい成長を見せてますね。
彼女を見ていると、私もうかうかしてられないと、緊張感を持てます。
さて、本題に入りましょう。
リベラルさんはルディの家族を探してるようですので、私も捜索したいと思います。あの家族と過ごしたのは二年程ですが、私の中では今でもいい思い出ですので。
また皆さんと共に過ごせたら、どれほど素晴らしいことでしょうか。そうするためにも、協力しましょう。家族を亡くして悲しんでいたシルフィも、ルディを見付けるんだと張り切っております。
当てもなく探すのは大変だと思いますので、まず私たちは中央大陸北部を重点的に捜索したいと思います。そちらには色々と伝がありますので、それらを頼りにしてみます。
また、一度リベラルさんとも合流したいので、捜索団が結成されればそちらに寄らせてもらいます。シルフィも、貴方に会いたがってますよ。
ロキシーより』
その伝言を確認したリベラルは、どうするか思考する。捜索場所が中央大陸北部と言うことは、二人とは二度ほどすれ違ってるのだ。
とは言え、それ自体は構わない。グレイラット家の者たちも、どこに転移したのか分からないのだから。中央大陸北部もリベラル一人で、隅々まで調べられた訳じゃないので、見落としてる可能性を考慮すれば、特に問題はなかった。
だが、気になるのはシルフィエットの存在だ。
彼女がアスラ王国に転移してないのであれば、守護術師フィッツは誕生しないと言うこと。本来の歴史で彼女は、どう過ごしていたのかリベラルには分からないので、どのように変化するのか予想が難しいのだ。
しかし、剣の聖地に向かう際に調べたときは、第三王女のアリエルは特に暗殺騒ぎなどなかった。転移災害によって、魔物がアリエルの近くには転移してないということ。
転移災害が起きたということ以外に、オルステッドの知る歴史との差異を観測出来なかった。つまり、しばらく放置していても大丈夫ということだ。
「……取り合えず、パウロ様の生存報告だけでもしておきますか」
行方不明者の欄に、パウロの名前が残っていることに気付いたリベラルは、職員に声を書けて彼の名前を消してもらう。そして、この場から離れようとし、
「あら、あなた……パウロの知り合いなのかしら?」
不意に聞こえた声に、鼓動が高鳴った。
忘れるわけがない。その声は、かつて何度も聞いたことのあるものだった。
振り返った先にいたのは、二人の男女。フランスパンのような髪型をした長耳族の女と、長いヒゲを伸ばした炭鉱族の男だ。
「ほう、お前さん見たところ龍族か? 珍しいの」
「…………」
炭鉱族の男が物珍しそうにリベラルを眺めていたが、彼女はそれに反応を示さず、長耳族の女をずっと見ていた。
リベラルのその様子に、女は首を傾げる。
「ロステリーナ……」
「ロステリーナ? 誰かと勘違いしてませんこと? わたくしはエリナリーゼ・ドラゴンロードですわ」
かつて龍鳴山で、ラプラスに拾われた少女。リベラルと共に過ごした、妹のような存在。家族同然だった仲。しかし、今は昔の記憶を失い、リベラルのことを忘れている。
元Sランクパーティー『黒狼の牙』。竜道の二つ名を持つエルフの戦士、エリナリーゼ・ドラゴンロード。その隣にいるのは、厳しき大峰のタルハンド。
不意な再会。
リベラルだけにしか認識出来ないが、それでも彼女の時間はそこで止まる。
「う、あぅ、ぅぅ……」
「え? ちょ、ちょっと?」
「な、なんじゃあ?」
涙が零れ落ち、リベラルは二人の目の前で突然泣き出してしまう。そのことにエリナリーゼとタルハンドは戸惑い、困惑した表情を浮かべる。
けれど、抑えられなかった。昔の記憶が蘇り、彼女の心を締め付ける。だって、目的の為に、ロステリーナを見殺しにしてしまったのだから。
(ごめんなさいロステリーナ……私が弱かったばかりに辛い目に遭わせて……ごめんなさい……)
リベラルの嗚咽に、二人は落ち着くまで宥めることとなった。
Q.ヒトガミずいぶん直接的な手段だな。
A.原作でのルディの時に思ったんですけど、ヒトガミって利用価値の少ない人物には適当な対応するんじゃないかと。つまり、パウロのでぃすてにーぱわーは……。
Q.ロキシーとシルフィ。
A.転移事件が起きなかった場合のオルステッドの話を参考にしております。まあ、あの二人なので上手くやれるでしょう。
Q.エリナリーゼとタルハンド。
A.Web版ではフィットア領に立ち寄らないみたいですけど、コミック版だとフィットア領でロキシーとパーティー組むらしいですよ。