無職転生ールーデウス来たら本気だすー   作:つーふー

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前回のあらすじ。

フィリップ「リベラル、君が欲しい」
リベラル「お断りします」
赤い珠「そろそろ本気出す」

お待たせしました。今回でこの章も終わりです。なので、リベラルの原作をなぞるだけの行動も終了ですね。まあ、次章でもなぞるところはなぞりますが……この章ほどではないと思います。
ただまあ、私の構成力などが大きく問われることになるので……不安しかないですね。


14話 『ターニングポイント・イチ』

 

 

 

 ボレアス邸の中庭にて、ルーデウスとエリスは稽古を行っていた。監督するギレーヌの掛け声と共に、二人は木剣を振るう。

 静かな庭に、木剣が空気を斬る音が吸い込まれていく。そしてすぐに掛け声に掻き消され、また空気を斬る音が響く。

 

「では、疾風の型より始める!」

「はい!」

 

 素振りが終われば、次は型の決まった動作にて、再び素振りを開始する。初めこそ戸惑っていたものの、二人は既に二年もの間、同じことを続けていた。

 特に戸惑うことなく振り続け、しばらくすればまた違う型で素振りを行う。全ての基礎を繰り返し、全てを身体で覚えるのだ。

 基礎は大切だ。ルーデウスはそのことを知っているし、エリスですら知っている。全力で振るい続けた二人の額には汗が張り付き、息も僅かに乱れていた。

 

「対!」

 

 号令で、ルーデウスとエリスは向き合う。これは所謂、二人で行う稽古を指す。攻め手と受け手に別れ、互いに打ち合うものだ。

 

「はじめ!」

 

 ギレーヌの合図と共に、エリスは打ち込んでいく。彼女が攻め手で、ルーデウスが受け手だ。

 剣神流の剣は、基本的に剣道のような面、胴、小手、突きの動きに似ている。とは言え、それらの基礎的な動きを極めるのが剣神流。

 速度と攻撃力を重視するからこそ、シンプルな攻撃が多い。故に、剣神流の剣筋は、三大流派の中で最も読み易いのだ。だが、読み易いからと言って、攻撃を捌ける訳ではない。

 

「ぐえっ!」

 

 初めの内は、明鏡止水の心持ちでエリスの動きをルーデウスは読んでいた。しかし、何度か対の稽古を進めていくと、彼女の木剣を捌けずに、叩かれる場面が増えていくのだ。

 

 ひとつは、単純に集中力の問題。明鏡止水は己の心を落ち着かせ、相手の動きをよく見ることが真髄だが、生半可な集中力では相手の一挙一動を読み切ることなど出来ない。疲労が溜まれば、見切れなくなっていくのだ。

 もうひとつは、エリスの地力。ここ最近の彼女は、どうにも剣神流として何歩か成長を遂げていた。

 剣速そのものが向上し、動きに鋭さが増している。また、エリスが仕掛ける際の技の組み合わせも、受けにくい形のものが増えた。同じ攻撃が少なく、目が慣れることがないのだ。

 

「ルーデウスもまだまだね!」

 

 結果、ここ最近のルーデウスは、彼女との戦績が芳しくなかった。集中力のある最初はいい戦いをするのだが、時間の経過と共に負けてばかりだった。

 だが、それ以上に身体が追い付いてない場面が増えているのだ。エリスは闘気を纏っているのか、動きがとても速い。けれど、ルーデウスは闘気を纏えないので、限界がある。

 明鏡止水を発動させていても、エリスは稀に木剣を当てていた。彼女の動きを見切っていても、防ぐことに身体が追い付かないのだ。

 

 闘気を纏えないルーデウスは、純粋な身体能力が足りなかった。

 

「これにて、稽古を終了する」

 

 終了の合図と共に、二人はギレーヌへとお辞儀をする。それから彼女は、稽古中に指摘した反省点などを纏めていく。二人に足りない部分を再び指摘し、修正させる。

 それらが終われば、本日の剣術の指南も終了だ。しかし、家庭教師であるルーデウスは、この後にエリスとギレーヌの二人に魔術を教えることになっている。

 用意のためこの場から去っていったギレーヌを他所に、ルーデウスはその場で腰を下ろして一息吐いた。

 

「はぁ……」

 

 今のルーデウスは、剣士としての限界を感じていた。ギレーヌの指導が悪い訳ではない。闘気を纏えないので、行き詰まっていたのだ。

 この数年間で、剣神流は上級になったが、来たばかりの頃からほんのちょっとだけしか上達していない。今以上の伸び代を、ルーデウスは感じられなかった。

 

 ブエナ村でリベラルに教わっていても、同じ問題にぶつかっただろう。彼女は剣術そのものの向上よりも、闘気の代わりとなるものを授けたが、結局なところ根本的なものは解決していない。

 明鏡止水は長期的な使用ができないのだ。もっとも、それは普段からの心構えを変化させるので、不意打ちなどには対応出来るのだが、戦闘になればやはり長持ちしない。

 

「なによ。溜め息なんて吐いて」

 

 何故かこの場に留まっていたエリスは、彼の溜め息に反応を示す。

 

 ルーデウスに比べ、彼女の成長は目覚ましかった。彼に負けることが気に食わないのか、エリスは剣術の稽古に必死だった。

 剣神流だけでいえば、明らかにルーデウスへと追い付いていたのだ。下手をすれば、彼より上かも知れない。

 他の流派に取得差があるので、何でもありの剣術でルーデウスは“まだ”負けないだろう。しかし、それも時間の問題に感じられたのだ。

 

 エリスには剣士としての才能がある。ルーデウスはそう思わずにいられなかった。

 

「いえ、最近はどうにも僕自身の限界を感じまして」

「限界? でも、ルーデウスは強いじゃない」

「ええ、確かにそうかも知れません。ですが、これ以上剣神流が上達する気がしないんです」

 

 そう言うと、エリスは口をへの字に結んだ。

 最近は勝率が上がってるとは言え、ルーデウスにそのようなことを言われては面白くないのだろう。

 

 ルーデウスは奥の手として、リベラルから教わった結界魔術もあるが、それこそ短期決戦用の手段だ。それに、あくまで魔術なのだから、剣神流としての地力に含めるものではない。

 基礎的な動きは上達してる。だが、そこから先に進めないのだ。それに対し、エリスは明らかに次のステップへと進んでいた。

 この差に、僅かな焦燥を感じるのだ。

 

「じゃあ、もう教わるのを止めるの?」

「止めませんよ……それこそ、今までの頑張りが無駄になるじゃないですか」

「なら、大丈夫よ! ルーデウスは凄いんだから!」

 

 その根拠はどこから出てきたのだと言いたかったが、悪意があるわけでも何でもない。むしろ、励ましてくれてるのだ。

 感謝こそすれど、無下にすることなどない。

 

「では、もう少しだけ頑張ってみますか」

「そうしなさい!」

「ええ、ありがとうございますエリス」

 

 限界を感じたとはいえ、それは諦める理由にならない。それに、今まで本気で取り組んできたのだ。

 確かにエリスは才能があるし、本人の気質と剣神流は合っていると思う。しかし、ルーデウスは彼女よりも先に剣神流を習い始めた上、前世の記憶というアドバンテージがあるのだ。

 

 だから、なのだろう。

 

 エリスという女の子に負けてるという事実が、非常に悔しかった。それと同時に、努力が馬鹿馬鹿しく感じてしまう。この頑張りに意味などあるのだろうか、と。

 けれど、その度に前世での記憶が蘇る。言い訳を並び立てては全てを途中で投げ出し、何もかもが中途半端になってしまったことが。やってきたことを本当に無駄にしてしまった。

 だから、ここで投げ出さない。例え行き詰まっていようと、前世の過ちを繰り返さないために。

 

 

 だって――ルーデウスはこの世界では本気で生きると誓ったのだから。

 

 

 改めて自分の目標を認識した彼は、エリスに促されて立ち上がる。しかし、その際に、ふと空の景色がおかしくなっていることに気付いた。

 

「……あれ?」

 

 茶色、黒、紫、黄色と、普段の空ではあり得ぬ、歪な上空。ルーデウスの視線に釣られ、エリスも空を見上げていた。

 

「なによあれ?」

「……僕にも分かりません。ただ、召喚魔術とどこか似ている気がします」

 

 自然現象でないことは、一目見て分かった。けれど、人の手で起こせる規模でもないことを彼は察する。

 問題は、なぜ唐突にあんなものが空に出現しているかだ。兆候などは一切感じられなかった。だから、理由なんてルーデウスが把握出来る訳がない。

 

「あれが何かはよく分かりませんが……一応、館の皆に避難するよう伝えた方がいいかも知れませんね……」

「そう。なら、早く行きましょ!」

 

 エリスはルーデウスの手を引き、足早に館の中へと戻って行った。けれど、その直後に白く染まった空から、一条の光が地面へと伸びたことに気付かなかった。

 白い光の奔流が、館を、町を、城壁を、全てを呑み込む瞬間を目撃しなかったのは、もしかしたら幸運だったのかも知れない。

 

 

――――

 

 

 同時刻。

 

 ロキシー・ミグルディアは、中央大陸にあるラノア魔法大学の近くにいた。彼女はルーデウスやリベラルと関わり、自分が如何に小さな存在なのかと思い知った。

 その影響か、ロキシーは師匠と一度向き合おうと考え、この地にいたのだ。今一度、自分を見つめ直したかった。

 

「……おや?」

 

 ルーデウスのことを考えた彼女は、自然とブエナ村へと顔を向けて、空の異常に気付く。

 

「なんでしょうかあれは……」

 

 遠目から見ても、ハッキリと分かるほどに渦巻く魔力。恐らく、何らかの理由で暴走しているのではないかと推測していく。

 

「まさか、ルーデウスが……? いえ、しかし……リベラルさんもいる筈です」

 

 彼女が教えていた当時、ルーデウスは五歳だった。だが、その時から彼の魔力は底知れない。

 そんな少年を、既に五年近く見ていないのだ。もうすぐで十歳になるルーデウスは、教えていた時よりも更なる成長を遂げてるだろう。

 そう考えれば、遥か彼方に見える空の異常も、ルーデウスが起こしたものではないかと思えるのだ。だが、リベラルがいる以上、魔術の制御に失敗してああなったとは思えない。

 

「……久しぶりに、顔を見たくなりましたね」

 

 ルーデウスがどれほどの成長を遂げてるのか。ロキシーはそれを知らない。こちらが一方的に手紙を送っているだけだから。それに、あの空が何なのかも知りたくなった。

 

 ブエナ村に向かうことを決めたロキシーは、旅路に踵を返す。

 彼女は水王級魔術師になり、単独での迷宮攻略も果たしてしまった。やりたいことは一段落ついていた。だから、またあの家族と触れ合い、ゆっくり過ごすのも悪くないだろう。

 

 そうしてブエナ村へと向かい始めたロキシーは、そこでとある緑髪の少女と出会うことになる。その出会いは彼女にとっての転換期であり、緑髪の少女にとっても転換期となることだろう。

 

 転移事件後、ロキシー・ミグルディアに、新たな弟子が誕生することとなる。

 

 

――――

 

 

 “九十九代目”『龍神』オルステッドは、フィットア領の隣にあるミルボッツ領から、上空を眺めていた。

 

「また、奴の仕業か……」

 

 そう呟いたオルステッドの足下には、女性が胸に穴を開けて転がっている。

 その娘はかつて、盗賊に拐われて慰み者にされていたところを、銀緑の髪をした女性に助けられた者だ。しかし、既に事切れ、その瞳から光を失わせていた。

 

 オルステッドにとって、この娘は死んでいて欲しい存在だった。彼女が何かをするのではなく、彼女が生むことになる子供が邪魔になるのだ。端的に言えば、賊になる。

 とは言え、大きな障害ではない。些細なものだ。将来、オルステッドが必要とする人物を、彼女の子孫が拐って殺してしまう。

 しかし、オルステッドが必要とする人物は、必ずしも必要ではない。死んだとしても、代わりになる人物がいるのだ。

 だが、代わりの人物を用意するのは余計な手間となり、次の一手に時間を要してしまう。その無駄を削減したいだけだ。

 

「『銀緑』……ペルギウスの話では、ラプラスの娘らしいが……」

 

 もしかしたら、味方かも知れない。もし味方ならば、心強い存在になるだろう。しかし、オルステッドはその可能性を切り捨てる。

 

 彼女は余計なことをし過ぎなのだ。今回、オルステッドが始末した者は、偶々近くに寄った時に気付いたから、始末したのだ。本来であれば、自身が手を下さぬとも盗賊の手によって勝手に死ぬ。

 世界を幾度となくループしている彼は、どの人物が必要で、どの人物が不必要なのか把握している。その中には、当然ながら自滅する者たちも数多く存在する。

 『銀緑』は時おり人助けをしているのか、不必要な人物まで助けていることがあった。更には、ループしてるオルステッドが知らぬ人物まで、存在する始末。

 

「観察しようと思っていたが――やはり危険だな」

 

 だが、それよりも一番の問題は、オルステッドの“ループ地点より前に存在していた”ことだ。これが、見過ごせない点だった。

 リベラルの存在によって、彼はこの世界では己の知る立場が変化している。本来であれば、オルステッドは九十九代目などではなく、百代目の『龍神』だ。

 

 甲龍暦330年の冬。中央大陸北部、名も無き森の中。そこがオルステッドのループ開始地点だ。彼がヒトガミを倒すことが出来ぬまま200年が経過すると、己の生死に関わらずそこへ戻されてしまう。

 ……そう、問題は、『銀緑』がそれ以前から誕生している特異点ということだ。百回以上ループをしているオルステッドだが、『銀緑』やリベラルという存在は聞いたことすらない。

 どういう経緯か不明だが、リベラルはオルステッドのループ開始地点より前に干渉している。それはつまり、彼の知る歴史を大きく変化させられる立場であり、オルステッドのループ地点を判明させられる者なのだ。

 己の立場も、歴史も、知らぬものに変化しつつある。可能性として一番最悪なのは、『銀緑』が敵であること。もしもそうなれば、オルステッドは詰みかねない。ループ地点より前を干渉されれば、何も出来ないからだ。

 次にループした時にも存在するか不明だが、ヒトガミの使徒だとすれば手の付けようがない。

 

 『銀緑』が使徒なのか見極めるため、彼は今まで干渉せずにいたが、この空の異変を見てまで放置は無理だった。リベラルは危険過ぎる。

 

「……殺すか」

 

 疑わしきは殺せ。

 それが、一番確実な手段だった。

 

 オルステッドは歩み出す。

 人神を殺すため。特異点を殺すため。

 全ては、己の忌まわしき使命の為に。

 

 

――――

 

 

 同時刻。

 リベラルはグレイラット家の自宅にて、ノルンとアイシャをあやしていた。隣にはリーリャがおり、同じく二人の世話をしている。

 

「リベラル様、いつもありがとうございます」

「まあ、暇ですからね。長寿な種族はよく時間を持て余してるんですよ」

「それでも、手伝ってることに変わりありません」

「律儀ですね。ですが、構いませんよ。私は二人の世話、結構好きですし」

 

 ノルンとアイシャは生まれてから、もうすくで三年になる。間もなく三歳だ。赤子の頃よりマシになったとはいえ、それでもまだまだ粗相をする年頃。

 色んなものは散らかすし、遊び相手に様々なことをさせられる。普通の人ならば、結構疲れるものだ。しかし、龍族であるリベラルは、その程度のことで疲労などしない。

 

「おねえさん、だっこして」

「ええ、構いませんよノルン様」

 

 舌足らずな言葉でねだるノルンに、リベラルは笑顔で応える。覚束無い足取りで彼女の元へと歩んできたノルンを、抱き抱えた。

 その様子に、妹であるアイシャはむくれた様子を見せる。ノルンと同じ舌足らずな言葉で、「ずるい、あたしも!」と文句を溢すのだ。そして、リーリャによって抱き上げられる。

 

 リベラルは頬を弛めながら、「ほへぇー」と気の抜けた言葉を漏らす。ノルンとアイシャとのこうした触れ合いは、彼女にとって完全なる癒しと化していたのだ。

 

「今は魔物が活性化して、パウロ様も大変になるでしょうね」

「そうですね。その影響か、奥様も診療所では忙しいようです」

 

 現在、パウロとゼニスの二人はいない。今し方話したように、二人とも忙しいのだ。だからこそ、リベラルが暇潰しも兼ねて、お手伝いとしてここにいるのだ。

 別に、リベラルが魔物退治をしてもいいし、診療所にて患者の治療をしても構わない。だが、二人ともそれが仕事であり、正当な報酬の元で働いてるだけだ。

 魔物退治はまだしも、手の回らない段階になるまでは、リベラルが仕事を奪うわけにもいかないだろう。

 

「……おや、眠ってしまったようですね」

 

 そんな感じの世間話をしている間に、二人が抱き抱えていたノルンとアイシャは、小さな寝息をたてていた。リベラルとリーリャは顔を見合わし、寝かすためベットへと向かおうとして、

 

「――……っ」

 

 リベラルの動きが、唐突に止まった。その様子に、リーリャは不思議そうな表情を浮かべる。

 

「どうかされましたか?」

 

 子供たちが起きぬよう、小さな声で呼び掛けるリーリャを他所に、リベラルは天井を見上げる。

 

「……まさか」

 

 彼女は、空の異変に気付いたのだ。

 すぐさま外へと飛び出し、再度空を見上げる。その視線の先には、魔力の暴走によってか変色した空があり、リベラルは顔を顰めた。

 

(……ああ、そういうことですか)

 

 すぐに、己が原因で転移事件の発生が早まったことを悟る。やはり、彼女が『赤い珠』の場所を移そうとしても、確実に間に合わなかったわけだ。そんなことをしていれば、更に早まっていたことだろう。

 

(パウロ様は魔物退治、ゼニス様は診療所、リーリャ様はアイシャ様を抱き抱えていて、そしてノルン様は私が抱えている。シルフィエット様は、恐らく自宅でしょう)

 

 現在の状況を整理していき、転移事件後にそれぞれがどのような状況に陥るかを、リベラルは考えていく。

 

(エリス様とルディ様は……何とも言えませんね)

 

 しかし、と彼女は首を振った。

 

(まあ……問題はありませんか。転移事件が早まる事態は、想定してなかった訳ではありません)

 

 自身の存在がどれほどの影響を与えるかなんて、リベラルはまだ完全には理解出来てない。だが、理解出来てないからこそ、あらゆる事態に備えているのだ。

 

(こういった不足の事態に備え、ルディ様を強くしたのですから。そのルディ様に教わったエリス様も、本来より強くなってるでしょう)

 

 どのみち、既に賽は投げられた。慌てたところで、何の意味もない。ならば、今は自分の考えが間違ってなかったと、信じるのみ。

 リベラルはリベラルの望む未来のため、自分の最善を尽くしたつもりだ。その結果がどうなるかなんて、それこそ神のみぞ知る、だ。

 

(問題は……彼女ですか)

 

 この転移事件によって、七星 静香が地球からこの世界に転移してくる。だが、その場にリベラルが駆け付けることは、恐らく無理だろう。自分がどこに飛ばされるか分からないからだ。

 それに今のリベラルは、腕にノルンを抱えてしまっている。流石に今まで可愛がってきた、この幼子を見捨てることは出来ない。パウロに預けようにも、彼は現在魔物退治のためにいない。

 

(そちらも対策はしておりますが……その先の計画が穴だらけになりそうですね……)

 

 ナナホシを自分の手で助けられない。

 その事実に、リベラルは小さく歯軋りする。

 

 あらゆる事態を想定し、それらに様々な対策を施しているリベラルだが、全ての状況に完璧な対策を取ることなど出来ない。想定が複数ある場合、確率の高いものから対策を優先するのが普通だろう。リベラルも例から漏れず、そうしていた。

 故に、確率の低いものは疎かになってしまう。想定していても、必ず対策が疎かになる状況は、起こりうるのだ。

 単純に、手が回りきらない。単に頭から抜けていた場合もある。リベラルがどれほど努力したとしても、ミスを無くすことはできないのだ。リベラルは、万能な存在ではないのだから。

 

(オルステッド様……貴方の運命の力とやらを信じてますよ……)

 

 そして、白く染まった空から一条の光は地面へと墜ち、光の奔流が全てを呑み込んでいく。

 眼前に迫り来る光の波に、リベラルは目を瞑りながら受け入れた。

 

 

 

 

 二章 “廻り移ろう運命の路” 完




Q.オルステッド社長……。
A.社長の弱点……『人の話を聞かない』、『報告しない』、『連絡しない』、『相談しない』、『疑わしきは殺す』。これがボッチのコミュ力か……。
元々リベラルに関わるつもりはなかったのですが、改変し過ぎなのでいい加減オルステッドがキレた形ですね。

因みに、次回はちょっと遅くなる……かもです(保険)。

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