フィリップ「リベラル、君が欲しい」
リベラル「お断りします」
赤い珠「そろそろ本気出す」
お待たせしました。今回でこの章も終わりです。なので、リベラルの原作をなぞるだけの行動も終了ですね。まあ、次章でもなぞるところはなぞりますが……この章ほどではないと思います。
ただまあ、私の構成力などが大きく問われることになるので……不安しかないですね。
ボレアス邸の中庭にて、ルーデウスとエリスは稽古を行っていた。監督するギレーヌの掛け声と共に、二人は木剣を振るう。
静かな庭に、木剣が空気を斬る音が吸い込まれていく。そしてすぐに掛け声に掻き消され、また空気を斬る音が響く。
「では、疾風の型より始める!」
「はい!」
素振りが終われば、次は型の決まった動作にて、再び素振りを開始する。初めこそ戸惑っていたものの、二人は既に二年もの間、同じことを続けていた。
特に戸惑うことなく振り続け、しばらくすればまた違う型で素振りを行う。全ての基礎を繰り返し、全てを身体で覚えるのだ。
基礎は大切だ。ルーデウスはそのことを知っているし、エリスですら知っている。全力で振るい続けた二人の額には汗が張り付き、息も僅かに乱れていた。
「対!」
号令で、ルーデウスとエリスは向き合う。これは所謂、二人で行う稽古を指す。攻め手と受け手に別れ、互いに打ち合うものだ。
「はじめ!」
ギレーヌの合図と共に、エリスは打ち込んでいく。彼女が攻め手で、ルーデウスが受け手だ。
剣神流の剣は、基本的に剣道のような面、胴、小手、突きの動きに似ている。とは言え、それらの基礎的な動きを極めるのが剣神流。
速度と攻撃力を重視するからこそ、シンプルな攻撃が多い。故に、剣神流の剣筋は、三大流派の中で最も読み易いのだ。だが、読み易いからと言って、攻撃を捌ける訳ではない。
「ぐえっ!」
初めの内は、明鏡止水の心持ちでエリスの動きをルーデウスは読んでいた。しかし、何度か対の稽古を進めていくと、彼女の木剣を捌けずに、叩かれる場面が増えていくのだ。
ひとつは、単純に集中力の問題。明鏡止水は己の心を落ち着かせ、相手の動きをよく見ることが真髄だが、生半可な集中力では相手の一挙一動を読み切ることなど出来ない。疲労が溜まれば、見切れなくなっていくのだ。
もうひとつは、エリスの地力。ここ最近の彼女は、どうにも剣神流として何歩か成長を遂げていた。
剣速そのものが向上し、動きに鋭さが増している。また、エリスが仕掛ける際の技の組み合わせも、受けにくい形のものが増えた。同じ攻撃が少なく、目が慣れることがないのだ。
「ルーデウスもまだまだね!」
結果、ここ最近のルーデウスは、彼女との戦績が芳しくなかった。集中力のある最初はいい戦いをするのだが、時間の経過と共に負けてばかりだった。
だが、それ以上に身体が追い付いてない場面が増えているのだ。エリスは闘気を纏っているのか、動きがとても速い。けれど、ルーデウスは闘気を纏えないので、限界がある。
明鏡止水を発動させていても、エリスは稀に木剣を当てていた。彼女の動きを見切っていても、防ぐことに身体が追い付かないのだ。
闘気を纏えないルーデウスは、純粋な身体能力が足りなかった。
「これにて、稽古を終了する」
終了の合図と共に、二人はギレーヌへとお辞儀をする。それから彼女は、稽古中に指摘した反省点などを纏めていく。二人に足りない部分を再び指摘し、修正させる。
それらが終われば、本日の剣術の指南も終了だ。しかし、家庭教師であるルーデウスは、この後にエリスとギレーヌの二人に魔術を教えることになっている。
用意のためこの場から去っていったギレーヌを他所に、ルーデウスはその場で腰を下ろして一息吐いた。
「はぁ……」
今のルーデウスは、剣士としての限界を感じていた。ギレーヌの指導が悪い訳ではない。闘気を纏えないので、行き詰まっていたのだ。
この数年間で、剣神流は上級になったが、来たばかりの頃からほんのちょっとだけしか上達していない。今以上の伸び代を、ルーデウスは感じられなかった。
ブエナ村でリベラルに教わっていても、同じ問題にぶつかっただろう。彼女は剣術そのものの向上よりも、闘気の代わりとなるものを授けたが、結局なところ根本的なものは解決していない。
明鏡止水は長期的な使用ができないのだ。もっとも、それは普段からの心構えを変化させるので、不意打ちなどには対応出来るのだが、戦闘になればやはり長持ちしない。
「なによ。溜め息なんて吐いて」
何故かこの場に留まっていたエリスは、彼の溜め息に反応を示す。
ルーデウスに比べ、彼女の成長は目覚ましかった。彼に負けることが気に食わないのか、エリスは剣術の稽古に必死だった。
剣神流だけでいえば、明らかにルーデウスへと追い付いていたのだ。下手をすれば、彼より上かも知れない。
他の流派に取得差があるので、何でもありの剣術でルーデウスは“まだ”負けないだろう。しかし、それも時間の問題に感じられたのだ。
エリスには剣士としての才能がある。ルーデウスはそう思わずにいられなかった。
「いえ、最近はどうにも僕自身の限界を感じまして」
「限界? でも、ルーデウスは強いじゃない」
「ええ、確かにそうかも知れません。ですが、これ以上剣神流が上達する気がしないんです」
そう言うと、エリスは口をへの字に結んだ。
最近は勝率が上がってるとは言え、ルーデウスにそのようなことを言われては面白くないのだろう。
ルーデウスは奥の手として、リベラルから教わった結界魔術もあるが、それこそ短期決戦用の手段だ。それに、あくまで魔術なのだから、剣神流としての地力に含めるものではない。
基礎的な動きは上達してる。だが、そこから先に進めないのだ。それに対し、エリスは明らかに次のステップへと進んでいた。
この差に、僅かな焦燥を感じるのだ。
「じゃあ、もう教わるのを止めるの?」
「止めませんよ……それこそ、今までの頑張りが無駄になるじゃないですか」
「なら、大丈夫よ! ルーデウスは凄いんだから!」
その根拠はどこから出てきたのだと言いたかったが、悪意があるわけでも何でもない。むしろ、励ましてくれてるのだ。
感謝こそすれど、無下にすることなどない。
「では、もう少しだけ頑張ってみますか」
「そうしなさい!」
「ええ、ありがとうございますエリス」
限界を感じたとはいえ、それは諦める理由にならない。それに、今まで本気で取り組んできたのだ。
確かにエリスは才能があるし、本人の気質と剣神流は合っていると思う。しかし、ルーデウスは彼女よりも先に剣神流を習い始めた上、前世の記憶というアドバンテージがあるのだ。
だから、なのだろう。
エリスという女の子に負けてるという事実が、非常に悔しかった。それと同時に、努力が馬鹿馬鹿しく感じてしまう。この頑張りに意味などあるのだろうか、と。
けれど、その度に前世での記憶が蘇る。言い訳を並び立てては全てを途中で投げ出し、何もかもが中途半端になってしまったことが。やってきたことを本当に無駄にしてしまった。
だから、ここで投げ出さない。例え行き詰まっていようと、前世の過ちを繰り返さないために。
だって――ルーデウスはこの世界では本気で生きると誓ったのだから。
改めて自分の目標を認識した彼は、エリスに促されて立ち上がる。しかし、その際に、ふと空の景色がおかしくなっていることに気付いた。
「……あれ?」
茶色、黒、紫、黄色と、普段の空ではあり得ぬ、歪な上空。ルーデウスの視線に釣られ、エリスも空を見上げていた。
「なによあれ?」
「……僕にも分かりません。ただ、召喚魔術とどこか似ている気がします」
自然現象でないことは、一目見て分かった。けれど、人の手で起こせる規模でもないことを彼は察する。
問題は、なぜ唐突にあんなものが空に出現しているかだ。兆候などは一切感じられなかった。だから、理由なんてルーデウスが把握出来る訳がない。
「あれが何かはよく分かりませんが……一応、館の皆に避難するよう伝えた方がいいかも知れませんね……」
「そう。なら、早く行きましょ!」
エリスはルーデウスの手を引き、足早に館の中へと戻って行った。けれど、その直後に白く染まった空から、一条の光が地面へと伸びたことに気付かなかった。
白い光の奔流が、館を、町を、城壁を、全てを呑み込む瞬間を目撃しなかったのは、もしかしたら幸運だったのかも知れない。
――――
同時刻。
ロキシー・ミグルディアは、中央大陸にあるラノア魔法大学の近くにいた。彼女はルーデウスやリベラルと関わり、自分が如何に小さな存在なのかと思い知った。
その影響か、ロキシーは師匠と一度向き合おうと考え、この地にいたのだ。今一度、自分を見つめ直したかった。
「……おや?」
ルーデウスのことを考えた彼女は、自然とブエナ村へと顔を向けて、空の異常に気付く。
「なんでしょうかあれは……」
遠目から見ても、ハッキリと分かるほどに渦巻く魔力。恐らく、何らかの理由で暴走しているのではないかと推測していく。
「まさか、ルーデウスが……? いえ、しかし……リベラルさんもいる筈です」
彼女が教えていた当時、ルーデウスは五歳だった。だが、その時から彼の魔力は底知れない。
そんな少年を、既に五年近く見ていないのだ。もうすぐで十歳になるルーデウスは、教えていた時よりも更なる成長を遂げてるだろう。
そう考えれば、遥か彼方に見える空の異常も、ルーデウスが起こしたものではないかと思えるのだ。だが、リベラルがいる以上、魔術の制御に失敗してああなったとは思えない。
「……久しぶりに、顔を見たくなりましたね」
ルーデウスがどれほどの成長を遂げてるのか。ロキシーはそれを知らない。こちらが一方的に手紙を送っているだけだから。それに、あの空が何なのかも知りたくなった。
ブエナ村に向かうことを決めたロキシーは、旅路に踵を返す。
彼女は水王級魔術師になり、単独での迷宮攻略も果たしてしまった。やりたいことは一段落ついていた。だから、またあの家族と触れ合い、ゆっくり過ごすのも悪くないだろう。
そうしてブエナ村へと向かい始めたロキシーは、そこでとある緑髪の少女と出会うことになる。その出会いは彼女にとっての転換期であり、緑髪の少女にとっても転換期となることだろう。
転移事件後、ロキシー・ミグルディアに、新たな弟子が誕生することとなる。
――――
“九十九代目”『龍神』オルステッドは、フィットア領の隣にあるミルボッツ領から、上空を眺めていた。
「また、奴の仕業か……」
そう呟いたオルステッドの足下には、女性が胸に穴を開けて転がっている。
その娘はかつて、盗賊に拐われて慰み者にされていたところを、銀緑の髪をした女性に助けられた者だ。しかし、既に事切れ、その瞳から光を失わせていた。
オルステッドにとって、この娘は死んでいて欲しい存在だった。彼女が何かをするのではなく、彼女が生むことになる子供が邪魔になるのだ。端的に言えば、賊になる。
とは言え、大きな障害ではない。些細なものだ。将来、オルステッドが必要とする人物を、彼女の子孫が拐って殺してしまう。
しかし、オルステッドが必要とする人物は、必ずしも必要ではない。死んだとしても、代わりになる人物がいるのだ。
だが、代わりの人物を用意するのは余計な手間となり、次の一手に時間を要してしまう。その無駄を削減したいだけだ。
「『銀緑』……ペルギウスの話では、ラプラスの娘らしいが……」
もしかしたら、味方かも知れない。もし味方ならば、心強い存在になるだろう。しかし、オルステッドはその可能性を切り捨てる。
彼女は余計なことをし過ぎなのだ。今回、オルステッドが始末した者は、偶々近くに寄った時に気付いたから、始末したのだ。本来であれば、自身が手を下さぬとも盗賊の手によって勝手に死ぬ。
世界を幾度となくループしている彼は、どの人物が必要で、どの人物が不必要なのか把握している。その中には、当然ながら自滅する者たちも数多く存在する。
『銀緑』は時おり人助けをしているのか、不必要な人物まで助けていることがあった。更には、ループしてるオルステッドが知らぬ人物まで、存在する始末。
「観察しようと思っていたが――やはり危険だな」
だが、それよりも一番の問題は、オルステッドの“ループ地点より前に存在していた”ことだ。これが、見過ごせない点だった。
リベラルの存在によって、彼はこの世界では己の知る立場が変化している。本来であれば、オルステッドは九十九代目などではなく、百代目の『龍神』だ。
甲龍暦330年の冬。中央大陸北部、名も無き森の中。そこがオルステッドのループ開始地点だ。彼がヒトガミを倒すことが出来ぬまま200年が経過すると、己の生死に関わらずそこへ戻されてしまう。
……そう、問題は、『銀緑』がそれ以前から誕生している特異点ということだ。百回以上ループをしているオルステッドだが、『銀緑』やリベラルという存在は聞いたことすらない。
どういう経緯か不明だが、リベラルはオルステッドのループ開始地点より前に干渉している。それはつまり、彼の知る歴史を大きく変化させられる立場であり、オルステッドのループ地点を判明させられる者なのだ。
己の立場も、歴史も、知らぬものに変化しつつある。可能性として一番最悪なのは、『銀緑』が敵であること。もしもそうなれば、オルステッドは詰みかねない。ループ地点より前を干渉されれば、何も出来ないからだ。
次にループした時にも存在するか不明だが、ヒトガミの使徒だとすれば手の付けようがない。
『銀緑』が使徒なのか見極めるため、彼は今まで干渉せずにいたが、この空の異変を見てまで放置は無理だった。リベラルは危険過ぎる。
「……殺すか」
疑わしきは殺せ。
それが、一番確実な手段だった。
オルステッドは歩み出す。
人神を殺すため。特異点を殺すため。
全ては、己の忌まわしき使命の為に。
――――
同時刻。
リベラルはグレイラット家の自宅にて、ノルンとアイシャをあやしていた。隣にはリーリャがおり、同じく二人の世話をしている。
「リベラル様、いつもありがとうございます」
「まあ、暇ですからね。長寿な種族はよく時間を持て余してるんですよ」
「それでも、手伝ってることに変わりありません」
「律儀ですね。ですが、構いませんよ。私は二人の世話、結構好きですし」
ノルンとアイシャは生まれてから、もうすくで三年になる。間もなく三歳だ。赤子の頃よりマシになったとはいえ、それでもまだまだ粗相をする年頃。
色んなものは散らかすし、遊び相手に様々なことをさせられる。普通の人ならば、結構疲れるものだ。しかし、龍族であるリベラルは、その程度のことで疲労などしない。
「おねえさん、だっこして」
「ええ、構いませんよノルン様」
舌足らずな言葉でねだるノルンに、リベラルは笑顔で応える。覚束無い足取りで彼女の元へと歩んできたノルンを、抱き抱えた。
その様子に、妹であるアイシャはむくれた様子を見せる。ノルンと同じ舌足らずな言葉で、「ずるい、あたしも!」と文句を溢すのだ。そして、リーリャによって抱き上げられる。
リベラルは頬を弛めながら、「ほへぇー」と気の抜けた言葉を漏らす。ノルンとアイシャとのこうした触れ合いは、彼女にとって完全なる癒しと化していたのだ。
「今は魔物が活性化して、パウロ様も大変になるでしょうね」
「そうですね。その影響か、奥様も診療所では忙しいようです」
現在、パウロとゼニスの二人はいない。今し方話したように、二人とも忙しいのだ。だからこそ、リベラルが暇潰しも兼ねて、お手伝いとしてここにいるのだ。
別に、リベラルが魔物退治をしてもいいし、診療所にて患者の治療をしても構わない。だが、二人ともそれが仕事であり、正当な報酬の元で働いてるだけだ。
魔物退治はまだしも、手の回らない段階になるまでは、リベラルが仕事を奪うわけにもいかないだろう。
「……おや、眠ってしまったようですね」
そんな感じの世間話をしている間に、二人が抱き抱えていたノルンとアイシャは、小さな寝息をたてていた。リベラルとリーリャは顔を見合わし、寝かすためベットへと向かおうとして、
「――……っ」
リベラルの動きが、唐突に止まった。その様子に、リーリャは不思議そうな表情を浮かべる。
「どうかされましたか?」
子供たちが起きぬよう、小さな声で呼び掛けるリーリャを他所に、リベラルは天井を見上げる。
「……まさか」
彼女は、空の異変に気付いたのだ。
すぐさま外へと飛び出し、再度空を見上げる。その視線の先には、魔力の暴走によってか変色した空があり、リベラルは顔を顰めた。
(……ああ、そういうことですか)
すぐに、己が原因で転移事件の発生が早まったことを悟る。やはり、彼女が『赤い珠』の場所を移そうとしても、確実に間に合わなかったわけだ。そんなことをしていれば、更に早まっていたことだろう。
(パウロ様は魔物退治、ゼニス様は診療所、リーリャ様はアイシャ様を抱き抱えていて、そしてノルン様は私が抱えている。シルフィエット様は、恐らく自宅でしょう)
現在の状況を整理していき、転移事件後にそれぞれがどのような状況に陥るかを、リベラルは考えていく。
(エリス様とルディ様は……何とも言えませんね)
しかし、と彼女は首を振った。
(まあ……問題はありませんか。転移事件が早まる事態は、想定してなかった訳ではありません)
自身の存在がどれほどの影響を与えるかなんて、リベラルはまだ完全には理解出来てない。だが、理解出来てないからこそ、あらゆる事態に備えているのだ。
(こういった不足の事態に備え、ルディ様を強くしたのですから。そのルディ様に教わったエリス様も、本来より強くなってるでしょう)
どのみち、既に賽は投げられた。慌てたところで、何の意味もない。ならば、今は自分の考えが間違ってなかったと、信じるのみ。
リベラルはリベラルの望む未来のため、自分の最善を尽くしたつもりだ。その結果がどうなるかなんて、それこそ神のみぞ知る、だ。
(問題は……彼女ですか)
この転移事件によって、七星 静香が地球からこの世界に転移してくる。だが、その場にリベラルが駆け付けることは、恐らく無理だろう。自分がどこに飛ばされるか分からないからだ。
それに今のリベラルは、腕にノルンを抱えてしまっている。流石に今まで可愛がってきた、この幼子を見捨てることは出来ない。パウロに預けようにも、彼は現在魔物退治のためにいない。
(そちらも対策はしておりますが……その先の計画が穴だらけになりそうですね……)
ナナホシを自分の手で助けられない。
その事実に、リベラルは小さく歯軋りする。
あらゆる事態を想定し、それらに様々な対策を施しているリベラルだが、全ての状況に完璧な対策を取ることなど出来ない。想定が複数ある場合、確率の高いものから対策を優先するのが普通だろう。リベラルも例から漏れず、そうしていた。
故に、確率の低いものは疎かになってしまう。想定していても、必ず対策が疎かになる状況は、起こりうるのだ。
単純に、手が回りきらない。単に頭から抜けていた場合もある。リベラルがどれほど努力したとしても、ミスを無くすことはできないのだ。リベラルは、万能な存在ではないのだから。
(オルステッド様……貴方の運命の力とやらを信じてますよ……)
そして、白く染まった空から一条の光は地面へと墜ち、光の奔流が全てを呑み込んでいく。
眼前に迫り来る光の波に、リベラルは目を瞑りながら受け入れた。
二章 “廻り移ろう運命の路” 完
Q.オルステッド社長……。
A.社長の弱点……『人の話を聞かない』、『報告しない』、『連絡しない』、『相談しない』、『疑わしきは殺す』。これがボッチのコミュ力か……。
元々リベラルに関わるつもりはなかったのですが、改変し過ぎなのでいい加減オルステッドがキレた形ですね。
因みに、次回はちょっと遅くなる……かもです(保険)。