無職転生ールーデウス来たら本気だすー   作:つーふー

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前回のあらすじ。

ソマル「シルフィを苛めっ子たちから守って寝取(ry」
シルフィ「ルディを守れるくらい強くなるよ…!」
リベラル「私役立たずだった」

前回の後書きでルーデウスを俺tueeeeで滅茶苦茶にするとか記載してましたが、自分で見返したら全く滅茶苦茶になってませんでした。むしろ、原作をなぞってるだけという。
大袈裟に書いてしまうのは悪い癖ですね……もっと冷静に見なくては。


閑話 『原作とちょっとだけ違う自作自演』

 

 

 

 ルーデウスはお嬢様の家庭教師として採用され、まずエリスと顔合わせすることになった。家庭教師になる以上、互いのことを知るのは普通のことだ。

 娘は暴れん坊で、今まで五人の先生が逃げ出したとフィリップから聞いたが、まあ何とかなるだろうとルーデウスは考えていた。

 

 が、それは如何に甘い考えだったのか、彼はすぐに思い知らされる。

 

「フン!」

 

 第一印象は「こいつはナマイキだ」だった。キッとつり上がった眦に、苛烈な雰囲気。刺々しい、という表現が最適だろう。

 生前にいた、所謂ヤンキーと同じ空気を纏ってるのだ。不良ではなくヤンキーだ。気に入らないことがあれば、すぐに暴力で訴えそうな気配。転生前なら絶対に関り合いたくない人種だ。

 丁寧に挨拶をしたと言うにも関わらず、文句ばかり言われた。

 

 それからエリスのことをよく知るため、好感度を上げるために会話をしていくのだが、ナマイキだと思われたのか唐突に頬を張られる。

 流石に叩かれるのは予想外だったため、避けることも出来なかった。

 

「じゃあ、殴り返しますね」

 

 彼女が暴力を振るうのは、他人の痛みが分からないからだろう。

 

 そう考えたルーデウスは、ひとまず暴力を振るわれる気持ちを知ってもらおうと頬を張り返したのだが、それは失敗だったとすぐに気付く。エリスという少女の人間性を垣間見るのだ。

 

 エリスは頬を叩かれたという事実に対し、理解するのではなく怒りを抱いた。

 それはプライドなのか、はたまた自分のことを天下人のように考えてるからなのかは不明だ。だが、彼女は自分のしてきたことを反省するのではなく、自分に危害を加えたことに怒っていた。

 出会ったばかりのルーデウスからすれば、何と自己中心的な性格なのだと嘆かずにいられない。

 

「何すんのよ!」

 

 仁王像のようなおっかない表情を浮かべたエリスは、叩かれてから叩き返すまでが尋常でないほど早かった。常人であれば、反応など出来なかっただろう。

 しかし、一度エリスに叩かれたことにより、すでに明鏡止水の心得となっていたルーデウスは、後ろに一歩下がってアッサリかわした。

 

「誰に手を上げたか! 後悔させてやるわ!」

 

 だが、かわされたことをエリスは気にせず、再び手を振り上げる。今回はパーではなく、グーで握り拳を作っていた。彼女がどれほど容赦ないのかよく分かる光景だ。

 それでもルーデウスは慌てることなく、冷静に軌道を読んで体を逸らす。そして、そのままパイタッチだ。なるべく余裕を見せることを意識していた。

 暴力の痛みを理解してくれないのであれば、自分の方が格上だと思い知らせることによって、暴力を止めようと考えた。ペットの躾と同じ要領だ。

 

 しかし、それも失敗だとすぐに悟る。

 

「ふざけるんじゃないわよ!」

 

 鬼の形相を浮かべ、更なる怒りを露にしたエリスは、絶対に殺してやると言わんばかりの勢いで拳を振るい続ける。ルーデウスはそれらを何とか避けるものの、このままでは反骨心剥き出しで襲われ続けることは目に見えていた。

 最早、エリスをどうすればいいのか分からなくなったルーデウスは、情けなくその場から逃げ出すことしか出来なかったのだ。

 

 結局、フィリップに提案した誘拐の件で、自作自演することにした。

 

 

――――

 

 

 小汚ない倉庫の中で目を覚ましたルーデウスが、自作自演から本物の誘拐に変化していたことに気付いたのはすぐだった。

 あまりにも容赦なくエリスへと暴力を振るう誘拐犯に違和感を感じ、彼らの話に聞き耳を立てて確信に至った。本当に命の危険が伴うことに恐怖心を抱くものの、やることに変わりはないと自らに言い聞かせ、プランを考え始める。

 

「……ん?」

 

 ふと、懐に何か硬い物が入っていることに気付き、中身を確認してみれば、そこには以前の誕生日でリベラルから貰ったナイフがあった。

 

(ざ、雑な奴らだな……)

 

 子供だからと思ったのか、ろくに持ち物も調べずにいたらしい。それに、普通に聞き耳を立てられる声量で会話してることを鑑みるに、そこまで大した賊でもなさそうだ。

 もしかして、俺でも簡単に倒せるんじゃね? という考えが過った。

 

(いやいや、それは早計だな)

 

 パウロから教わったことだ。慢心は駄目だと。命の危険がある場面で油断は禁物。こんな幼い体では、彼らの攻撃を一発でも受ければ確実に負けるだろう。

 強い弱い関係なく、リスクが高過ぎる。戦闘行為は愚の骨頂だ。それに、血生臭い戦いなんて好きじゃない。

 

 すくざま殲滅という考えを振り払い、すべきことに目を向ける。

 一先ず、ボロ雑巾のような姿になってしまったエリスを、軽く治癒魔術で治すことにした。

 

「かひゅ……ま、まだ、痛いわよ……ちゃ、ちゃんと治し……なさいよ」

「嫌ですよ。治したらまた蹴られるじゃないですか。自分で魔術使ってください」

「で、できないわよ……そんな、こと……」

「習ってれば、できましたね」

 

 自分が如何に無力なのか知らしめつつ、時間稼ぎのためにドアを土魔術で埋め立てていく。その後、鉄格子の周囲の土を水の魔術で少しづつ溶かしていき、鉄格子を丸ごと取り外す。これで脱出路の確保完了だ。

 そして、縛られているエリスを放置し、一人だけ脱出しようとして見せる。

 

「お嬢様、どうやらサウロス様によからぬ感情を抱くならず者たちに拐われたようです。今夜には仲間たちと共になぶり殺しにすると話しておりましたが、僕は死にたくないので逃げます……さようなら」

 

 そのまま窓から身を乗り出し、脱出しようとするのだが、

 

「何だ、開かねぇぞ! どうなってやがる!」

 

 異常に気付いた誘拐犯たちが、怒声を上げながらドアを叩く。その様子に、エリスは顔を真っ青にしてルーデウスとドアを交互に見た。

 やがて、ガタガタと恐怖に体を震わせながら、

 

「ぁ……お、おいていかないで……たすけ……」

 

 今にも消えそうな小さな声で、そう懇願するのであった。ルーデウスはニヤリと顔を歪ませる。

 

「では、僕の言うことを聞く、大声を出さない、それを約束出来ますか? ギレーヌは近くにいないようなので、お嬢様を助けられる人はいませんからね?」

「聞く、聞くから……は、はやく、きちゃう……あいつが、きちゃう……!」

「約束破ったら、今度こそ置いていきますから」

 

 そうして、二人で倉庫の中から脱出した。

 

 

――――

 

 

 外へと出たルーデウスは、この街が城塞都市ロアでないことを確認し、まずは何処に運ばれてしまったのかを知ろうと歩を進める。

 だが、エリスはもうならず者たちから逃げ切れたと楽観的な思考をしたのか、

 

「ふう、ここまでくれば大丈夫ね!」

 

 早々に約束を破り、大声を出すのであった。ルーデウスはそのことに呆れつつ、事態がほとんど好転していないことを教えようとする。

 この場に留まり、彼女と少し口論をすれば、すぐにならず者たちの怒声が聞こえてくるのだ。そのことにエリスは気付き、態度を改める。

 

「さ、さっきのは嘘よ。もう大声は出さないわ。家まで案内なさい」

「……僕は確かにお嬢様の家庭教師になりましたけど、家庭教師とは生徒の協力がなければ出来ません」

 

 コロコロと自分の意見を変えるエリスに、流石のルーデウスも苛立ちを感じ始めた。彼としては、別に家庭教師などどうでもいいのだ。ただ、成り行きでなってしまっただけに過ぎない。

 最悪、ここでエリスを見捨てたとしても「お嬢様をお守りすることが出来ませんでした」とフィリップたちに告げればいい。勿論、それだけで許されるとは思わないが、どのみちエリスの協力がなければ連れて帰ることなど出来ないのだ。

 どちらでも同じことだった。ある意味、運命共同体とも言えよう。

 

「先程言いましたが、僕は死にたくないのです。それは、お嬢様も同じでしょう」

 

 だから、このままではいけないのだ。エリスには少しでも成長してもらわなければならない。

 

「お嬢様はこの見知らぬ土地で、何が出来ますか? ただ闇雲に進んで帰れると思いですか? 僕だって、ここが何処なのか知らないのですよ?」

「……だ、だから、それをどうにかしなさいよ! 家庭教師なんでしょ!」

「ですから、それには生徒(エリス)の協力が必要と僕は言いました。反発されては、何もすることが出来ません」

「わ、分かったわよ……協力するから、助けなさ……助けてよ……」

 

 取り合えずルーデウスは、それで納得することにした。彼とて、態々危険な目に遭いたくないのだ。これ以上、この場にいる意味はない。

 いっそのこと、この地の町長が領主に保護してもらおうかとも考える。だが、誘拐犯に依頼したのがこの街の領主だったりすれば目も当てられないだろう。なので、これは却下する。

 

(相手が分からないと取れる行動が限られるな……)

 

 一介のならず者たちに拐われたと考えるのは浅はかだろう。自作自演で拐われる予定であったが、そこに偶々本職に襲われるなんて、どんな確率だという話だ。

 ボレアス家の誰かが、手引きしたと考えるのが自然だった。そして、その相手は貴族といったところか。自分とエリスだけが味方だと考えた方がいい。周りは全て敵。それくらいの警戒心で問題ないだろう。

 

 取り合えず、追手からは物陰に隠れることでやり過ごし、取るべき手段を考える。今のところ確認出来た賊は二人だが、もっといてもおかしくない。

 前世の知識、今世で得た経験。それらを総動員し、最適解を考えていく。

 ロキシーの教育、パウロの教え、リベラルの鍛練。それらがあれば、きっと切り抜けられる。

 

(ロアの館への到達。もしくは賊の殲滅か……)

 

 サウロスやフィリップの元にまで辿り着けば、一先ずルーデウスが殺される可能性はほぼなくなるだろう。間者がいたとしても、エリスを狙う筈だからだ。身分を考えれば、ルーデウスが狙われることはない。

 賊の殲滅に関しては、まあ無理だろうと考えている。こちらは相手の顔を一人しか知らないのだ。打って出ることは出来ない。とは言え、やりようはあるかも知れないが。

 

「とにかく、帰ることを先決にしましょう」

 

 ルーデウスはエリスの手を引きながら、ロアに戻るまでのプランを話し始めた。隠し持っていたお金はロアまでのギリギリ分しかなく、釣りを騙されたり値段を誤魔化されれば、帰れなくなること。後、文字を読めれば現在位置を知れることも、一応教えておいた。

 

 そして馬車へと乗り込み、隣町へと辿り着いたのだが、次の便が明日からしかないのでその町で宿泊する。

 エリスはならず者が怖くてよく眠れずにいたが、ルーデウスも辺りを警戒していたので、あまり眠ることが出来なかった。二人揃って寝不足だ。

 しかし、その警戒は無駄だったのか、翌日も特にトラブルなく馬車へと乗り込み、ロアへと辿り着くのであった。遠くであるが、既に領主の館も見えている。

 

(何か、呆気なかったな……)

 

 想像ではもっと苦労すると思っていたのだが、予想以上にアッサリとロアまで辿り着いた。賊たちも、倉庫の中で数回見ただけ。

 これでは、ただエリスと遠出しただけだ。隣にいるエリスも、気が抜けたのかホッとした様子を見せている。

 

「……あ」

「どうしたのよ?」

 

 ふと、声を上げたルーデウスに、エリスは不思議そうな表情を浮かべる。

 

(これ、もしかしてアイツらか……?)

 

 後ろから聞こえる、二人連れの慌ただしい気配。気付いたのはつい先程だ。確証は持てないが、追い付かれたらしい。

 視線を動かすが、都合よく衛兵が巡回していなかった。近くにいる人たちも、腕っぷしの強そうな人がいない。故に、保護してもらうという選択肢は切り捨てる。

 

「お嬢様、どうやら追手に追い付かれたようです」

「えっ?」

「辺りに頼れそうな人がいないので、次の曲がり角から走ります」

「わ、分かったわよ……」

 

 そして、曲がり角に差し掛かった時だ。ガシリと、ルーデウスの腕は掴まれていた。同様に、エリスの腕も別の者によって掴まれている。

 掴まえたのは、背後から来ていた者たちではない。曲がり角の正面にいた者たちだ。

 

 ルーデウスは読み違えていた。

 賊は二人ではなかったのだ。

 

「よし、ずらかるぞ!」

「おうよ!」

 

 一瞬の早業だった。隣にいたエリスは猿轡を噛まされ、担がれる。ルーデウスも同じように猿轡を噛まされ、担がれそうになり、

 

「ぐあっ!?」

 

 リベラルから貰ったナイフで斬り付け、拘束を解いた。そのことに動揺したのか、動きの止まったもう一人の乱暴者に風の魔術で作った真空波を放ち、腕を切り落とす。

 

「ギャアァァ!」

 

 堪らずエリスを落としたので、ルーデウスは彼女をキャッチすると、そのまま重力魔術でからだを軽くして、その場から全力で逃げ出した。他に追い掛けてくる賊たちを撒こうと試みる。

 だが、ルーデウスはこの街のことをほとんど知らない。家庭教師として訪れたばかりで、余所者と大差なかった。故に、誘導でもされたのか、領主の館に向かっていた筈なのに、気が付けば袋小路に追いやられていたのだ。

 振り返れば、倉庫で見た男の二人と、ナイフで斬り付けた男の計三人がいた。

 

「お嬢様、どうやら僕たちはここまでのようです……潔く切腹でもしましょう」

「ちょっと! 諦めないでどうにかしなさいよ!」

「しかし、貴方を差し出せば僕だけは助かるかも知れませんね」

 

 その言葉を聞いたエリスは、顔を真っ青にしてルーデウスを見る。ここで裏切られれば、彼女に為す術などないのだ。

 

「へ、変なこと言わないでよ……嘘よね?」

「まあ、嘘ですけど」

 

 そんなやり取りをしてる間に、乱暴者たちは二人へとジリジリと距離を詰め出す。

 

「ちっ、クソガキめ。余計な手間取らせやがって。魔術師だったとはよ……そのナリにすっかり騙されちまったぜ」

「大人しくその娘を差し出せ。そうすりゃテメェだけ見逃してやるぞ」

「おいおい待てよ。俺は腕を斬られちまったんだ。あのガキだけは絶対に許さねぇよ!」

 

 意見が割れたのか、ルーデウスを始末したいやら、別に始末しなくていいだろう、と言い争い始める。

 彼らとしては、態々リスクを負ってまでルーデウスと戦いたい訳ではない。エリスさえ確保出来ればそれでいいのだ。それに、彼と争ってる間に憲兵が現れれば最悪だろう。

 だが、腕を斬られた男はそれで納得出来なかった。ルーデウスを確実に殺せるであろう状況だからこそ、逃がしたくなかったのだ。

 目に見える怒気を纏い、ルーデウスへと殺気を向けていた。

 

「ど、どうすんのよ?」

「……ぃ……せよ……」

 

 何とか気丈に振る舞うエリスを無視し、ルーデウスはボソボソと小声で何かを呟きながら動かない。その様子に、彼女は段々と不安を大きくさせていく。

 

 事ここに至り、ルーデウスは逃走を諦めていた。袋小路に追い詰められたのは、自分の責任だ。自分一人であれば逃げることも容易だったが、エリスもいるとなれば話は別である。

 彼はこれから起きるであろう殺し合いに恐怖しつつも、持てる力の全てを使って目の前の敵を排除しようしていた。

 小声で魔術を組み立て、詠唱をしていたのだ。

 

 

――――

 

 

 結界魔術、と呼ばれるものがこの世界にある。

 

『いいですかルディ。ミリス神聖国にはですね、とある魔術が存在します』

 

 ロキシーは結界魔術が扱えなかったが、どのようなものがあるのかルーデウスに教えた。曰く、“防御力”を上げるもの。曰く、障壁を作り出すもの。

 

 そう、防御力だ。障壁による防御力ではなく、自身の防御力。彼女はそう説明していた。

 当時は理屈が不明だったものの、リベラルのお陰で防御力を上げるという意味が分かった。要は、闘気を一時的にブーストすることによって、防御力を上げるらしい。

 

 そしてそれは、かつて“古代魔族”と呼ばれる存在が得意としていたものだと。

 貧弱な体が力に耐えられるよう、体を変質させる方法だと。

 

 故に、ミリス神聖国は、魔族の術である『結界魔術』の制限をしている。魔術排他思考の強いミリスが、魔族の術を使っていることを知られないように。それ以外にも理由はあるが、それが理由のひとつだった。

 使い手は極少数だが、使いこなせる者は非常に強い力を手にすることとなる。同時に、身体への負担も多大なものであるからこそ、制限もされていた。

 

『ルーデウス様。人は潜在的な力を半分以上も持て余していることを知ってますか? 私が今から教えるのは、それらを引き出す魔術です』

 

 そして、古代龍族の知識を持つリベラルは、古代魔族の魔術を扱える。リベラルはその結界魔術を――ルーデウスへと伝授していた。

 『明鏡止水』と同様に、彼の近接能力を飛躍的上昇させる本命の魔術。闘気を纏えぬルーデウスが、剣士と渡り合うために伝授した術。

 

 

――――

 

 

 決着は一瞬であった。

 

 地に倒れ伏せるのは三人の男たちであり、それを見下ろすのはルーデウスだ。

 したことは至極単純だった。リベラルのナイフを持って接近戦を挑み、三人の男たちを完封した。

 

 最初に『岩砲弾』を放つも真っ二つに切り裂かれたが、既に懐へと接近していたルーデウスは一人の男の脚を切り裂いていた。

 続いて、そのことに気付いた二人目の男は剣を振るっていたが、水神流の技で受け流すのと同時に、魔術の衝撃波をぶちかまして吹き飛ばす。男は壁に激突して気絶した。

 三人目の男はその隙に剣を振り下ろしていたが、足元に発生していた『泥沼』に足を取られて手をつく。そして、その間に『電撃(エレクトリック)』による感電によって、意識を失わせていた。

 

 そして、ナイフを懐に仕舞ったタイミングで、脚を切り裂いた一人目の男が剣を投げ付けていたが、軌道を見切ったルーデウスは柄をキャッチし、普通に受け止める。

 唖然とした表情を浮かべる男の顔面には、既に『岩砲弾』が直撃しており、彼は何が起きたのか理解することなく地に倒れ伏せた。

 

「ふぅ……ふぅ……」

 

 びっしょりと額に滴る汗を拭いながら、ルーデウスは呼吸を整えていく。リベラルから教わった高速思考に類する魔術を使用した反動で、頭が割れるかのような痛みに襲われていたのだ。

 身体強化の魔術もあったが、恐らくこの子供の体では耐えきれなかっただろう。この魔術は多量の魔力が必要な上、身体への負担が大きすぎる。

 過去、リベラルに監視してもらった状態で限界まで使用したのだが、約三分ほどが限界であった。それ以上の使用は、命に関わる。

 だから、これは本当に奥の手であり、使いたくない手段だった。戦闘に陥ったのは、まだまだ心のどこかで油断していたからだろう。

 

 今回は速攻で片を付けられたが、戦闘への緊張感からか、想像以上の消耗で落ち着くまでに時間が掛かる。

 乱れた呼吸は静かになり、ルーデウスは今回の件を反省していく。

 

「やるじゃない!」

「ぐへっ」

 

 そこへ、エリスが背中を思いっ切り叩き、彼は情けない声と共に膝をついてしまう。だが、エリスはそんなことを気にした様子も見せず、キラキラと目を輝かせた。

 

「すごいわねあなた! 正直、生意気なクソガキだって思ってたけど、見直したわ!」

「は、はぁ……」

 

 お前が言うな、という言葉をグッと押し止め、ルーデウスは気のないような返事をする。

 

「お嬢様。それよりまずは、彼らをどうにかしましょう」

「エリスでいいわ!」

「え?」

 

 エリスの唐突な台詞に、彼は思わず聞き直してしまう。

 

「特別にエリスって呼ぶことを許してあげるわ!」

 

 特にデレのような恥ずかしそうな様子はなかったが、確実にエリスとの距離を一歩進めていた。

 元より、自作自演をしようと考えていたのも、エリスに自主的に学びたいと思わせるためのもの。

 

「特別なんだからね!」

「ありがとうございます! エリス様!」

「様はいらないわ! エリスでいい!」

 

 その目論見が成功したのかは微妙であった。しかし、彼女のその台詞を聞き、ルーデウスは「まあ、いっか」と思うのであった。

 暴力によって問題を解決してしまったが、今後からエリスは言うことを少しくらい聞くようになるだろう。




Q.結界魔術……え、なにこれ……?
A.無職転生第八話『鈍感』にて、ルーデウスのステータスの記述後に少し結界魔術のことに関して触れており、『結界は防御力を上げたり、障壁を作り出す術だ。』と書かれておりました。
『結界は防御力を上げたり』、の“結界”に関しては『結界魔術』のことを指してると私は考えております。障壁で防御力を上げるにしても、先に防御力が書かれているので『障壁による防御力上昇』だと文体が可笑しいでしょう。
なので、ミリスの結界魔術には、もしかしたら古代魔族の身体操作の魔術があるのでは?と私は考えました。そうすれば、『防御力を上げたり』というのも納得です。
ロマンがありますよね、潜在能力って。私も潜在能力を解放して超人になりたいです。

Q.何か無理矢理倒したな……。
A.そうですね。まだ僅かにルディは慢心していたのかも知れません。だからこそ、最終的に賊たちに拐われる失態を晒し、結局倒すことに……。

Q.てか、賊の数増えてね?
A.原作でもルーデウスは既に『水聖級魔術師』です。本作では『水王級魔術師』ですが、それはさておき。
ルーデウスがそのような魔術師であることは、流石に主犯のトーマスも知ってると思うんですよね。だから、原作でも同じくらいの人数は雇ったのでは……と。しかし、雇った相手が悪かったのか、「ガキだから余裕だろ」とろくに話も聞かず適当な仕事をしたのではないかと考えております。
まあ、魔術師であることすら知らなかったので違うとは思いますが、増えたのはリベラルが関わった影響だと思ってください。

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