無職転生ールーデウス来たら本気だすー   作:つーふー

24 / 109
前回のあらすじ。

ルーデウス「調子のってたら襲われた」
パウロ「俺に勝とうなど百年早い」
リベラル「一緒にボレアス家へ行くにゃん!」

今回はまだボレアス家へ行きません。シルフィエットに全然触れてませんしね。彼女ともう少し戯れます。
後、今回は改訂前から私が成長出来てるのか問われる回。核心を語らせず、如何に遠回しに語らせられるのか。突拍子さが薄く出来てるか。
皆様がどう感じるかは分かりませんが…うん、なるようになーれ!


9話 『心の距離感』

 

 

 

 ルーデウスが目を覚ました時、彼は全身を縄でグルグル巻きにされていた。いわゆる簀巻き状態である。

 状況を確認するために首を動かせば、ここが小さな箱の中――馬車に乗せられていることを理解した。それと同時に、二人の人物が視界に映る。

 

 一人はリベラル。

 己に魔術や剣術を教えてくれた師匠とも言える人物。だが、何故か彼女に猫耳と尻尾が生えていた。まあ、そのことは置いておこう。色々と突っ込みどころはあるものの、知ってる人物なのだから。

 

 もう一人の人物は、見たことがなかった。

 チョコレート色の肌、露出度の高いレザーの服、ムキムキの筋肉、全身に傷、眼帯をつけていて姉御って感じのするキリッとした顔立ち。彼女もリベラル同様、獣っぽい耳と虎っぽい尻尾が生えていた。

 

(どうなってんだ……?)

 

 最後に見た光景を思いそうにも、木剣が迫ってきたところで記憶が途切れている。何故そこからこんな状況に陥っているのか分からない。

 

 と、そこでマッチョなウーメンと目が合ったので、先制の意味も込めて挨拶から入ることにした。

 

「初めまして、ルーデウス・グレイラットと申します。こんな格好で失礼します」

「パウロの息子にしては礼儀正しいのだな」

「母様の息子でもありますから」

「そうか。ゼニスの息子だったな」

 

 どうやら両親の知り合いだったようで、ルーデウスはホッと一安心する。リベラルがいるのであまり心配はしていなかったが、やはり簀巻きにされて無防備な状態を晒してるのはあまり心地よくなかったのだ。

 取り合えず、ルーデウスは火の魔術を使って縄を焼き切る。拘束を解いたことに何か反応するのだろうか、と思ったが、二人とも特に反応は示さなかった。

 何で拘束されていたのか疑問は残るものの、とにかく状況を確認しようと考える。

 

「ギレーヌだ。明日からよろしく頼む」

「それは、どうも、よろしくお願いします」

「ああ」

 

 適当に返事をしたものの、何だかよく分からないまま話が進んでおり、ルーデウスは困惑してしまう。周囲を見渡しても、ここが馬車の中であることと、小さな窓から見える外の景色が、自分の知らぬものであることしか分からなかった。

 何でこんなことになってるのか幾ら考えても分からず、気が動転してしまうもリベラルから教わった『明鏡止水』の心持ちで落ち着かせていく。

 

「すぅ……はぁ……」

 

 心が落ち着いてきたので一息吐き、隣に座っていたリベラルへと視線を向ける。分からないのであれば、分かる人物に聞けばいいだけだ。

 

「あの、リベラルさん」

「どうしましたか、ルーデウス様」

「状況が分からないんですけど……何で僕は縄で縛られて、馬車で何処かへと運ばれてるのですか?」

「気絶する前……パウロ様が言ってたことを覚えてますか?」

 

 リベラルにそう聞かれたので、ルーデウスは何を言われたのかを思い出していく。

 

「確か……最近やる気を感じられないってことと、自分の力を過信してないかってことを言われましたね」

「そうですか。つまり、そう言うことでしょう」

「いや、全く分からないんですけど」

 

 まるではぐらかされてるかのような返答に、ルーデウスはじっとりした目付きになってしまう。結局、それでは何でこんなことになってるのか分からないままなのだ。

 

 なんて悩んでいると、対面に座るギレーヌが口を開いた。

 

「パウロは懸念していたのだ。息子の成長は早いが、慢心してきていると」

「はぁ」

「だから、一度外の世界を見せようとしている」

 

 いまいち要領は得られなかったが、ルーデウスは何となく事情を理解していく。要は、調子に乗ってたから厳しい環境に放り込もう、といったところだろう。

 何で頑張ってきた俺がこんな目に遭うんだと、ルーデウスは納得出来ずに憤慨する。

 

 確かに、パウロの言う通り自分の力を過信していたかも知れない。それは認めよう。だが、だからと言って唐突に強硬手段に出るなんて可笑しいだろう。口で言えば済む話だ。

 それに、どこへ向かってるのか知らないが、下手をすればシルフィエットに会えなくなるのかも知れないのだ。それも嫌だった。

 そもそも、外の世界を見せるなんて、余計なお世話である。

 

「これ、どこに向かってるんですか?」

 

 言ってから、ルーデウスはその質問の無意味さに気付いた。ブエナ村の周辺地のことも知らないのに、目的地を聞いても結局分からないだろう。

 だが、既に質問したことなので、返答される。

 

「フィットア領の一番大きな都市であるロア。そこの領主の館へと向かっています」

「……どういうことですか?」

「パウロ様のコネを利用し、ロアという都市に住むお嬢様の家庭教師をすることになってる、と言うことです」

「……話が見えません。どうして僕がそんなことをしなければ?」

 

 結局、肝心な理由が分からないままだった。どうして自分がそのような場所に向かい、どうして家庭教師をしなければならないのか。

 

「理由は幾つもありますが……取り合えず3つ挙げます」

 

 隣に座るリベラルは、3本の指を突きつけるかのように示す。

 

「まず、ルーデウス様が慢心しているようでしたので、その驕りを直すため」

「……そこまで自分の力を過信してるつもりはないんですけどね」

 

 とは言ったものの、ここまでされたのであれば、恐らく周りからは目に見えて慢心していたのだろう。

 少なくとも、家族であるゼニスやリーリャ、それにリベラルも今回の件を止めようとしてないみたいだ。パウロ以外のその3人から見ても、最近のルーデウスはあからさまだったのだろう。

 そのつもりはなかったものの、こうまで突き詰められてしまえば、その事実を受け入れざるを得ないだろう。

 もっとも、理解はしたが納得はしていない。

 

「そして、シルフィエット様との関係です。まるで洗脳でしたね。ルーデウス様の言うことを何でも聞く、人形のような子になってましたよ」

「えっと……周囲からはそのように見えてたのですか?」

「そうですね。彼女の父親であるロールズ様の言うことも聞かなくなってましたし、私の目から見ても洗脳と変わりない状態でしたね。……私がルーデウス様に教えるように言ったのが原因かも知れませんが」

「……いえ、僕もある程度自覚してましたので、リベラルさんは悪くないです」

 

 そこまで言われてしまえば、肯定せざるを得なかった。

 元より、ルーデウスは自身への好意を利用し、シルフィエットを自分好みな女の子へ育成しようと考えていた。光源氏計画だ。リベラルの指摘は間違えていない。

 これはそのことを突っ込まれてしまったようなものである。非を認めるしかない。

 

 それに、将来的なことを考えても、あまりいいことではなかったのかも知れない。一緒に冒険者や学生になろうと考えていたが、旅先でもずっと甘えられっぱなし、学校でもずっとルーデウスとだけしか関わらない。なんてことになっていたかも知れない。

 そう思えば、離れると言うのはお互いにとって良いことだったのかも知れない。……と、思わないとやってられない。凄く寂しかった。

 

「最後の理由ですが……先程も言ったように、外の世界を見せるためですね」

「……余計なお世話です」

「そうかも知れませんが、最近のルーデウス様は真面目に稽古へと取り組んでましたか? 欠伸をよくするとパウロ様が愚痴ってましたよ」

「僕なりに精一杯頑張ってましたよ」

 

 欠伸はしていたものの、パウロの言うことはちゃんと聞いていた。と言うより、欠伸くらいいいじゃないかという気持ちが渦巻く。

 気の緩みなんて、誰にでもあることだろう。稽古中であれど、ずっと張り詰めた気持ちで行うのは結構しんどいのだ。 

 

「……ルーデウス様。もう少しパウロ様の気持ちを考えてください。あの方は貴方の為にやっていたのですから」

「父様の気持ちですか?」

「はい。パウロ様は息子が後悔しないように、強くなって欲しいと願って何を教えるのか考えてます。感覚的で分かり辛いことも多いでしょうが、パウロ様なりに分かりやすく説明してるのですよ」

「…………」

「そこで欠伸を溢し、やる気の見えないルーデウス様を見れば……『もしかして、俺との稽古はつまらなかったかな?』とか『剣術に飽きてしまったのかな?』とか、どうしても不安に思ってしまうものですよ」

「……あ」

 

 リベラルの言葉に、ルーデウスは心を抉られた。それは、自分も経験のあることだったからだ。

 

 それは前世で小学校くらいの時だ。

 大したことではない。少なくとも、その後の人生に影響のあることではなかった。なのに、何故か鮮明に覚えていた。

 確かその日、テストの点が良くて喜んでいた。百点満点だ。小学校のテストだったので、そう珍しいことでもない。けれど、その時の彼はそのことがとても嬉しかったのだ。

 なのに、頬を緩めて両親にそのことを報告した時、両親は大した反応を示さなかった。面倒そうな表情で「へぇ、よかったね」と告げただけである。その日の両親は素っ気なかった。

 何故だったのかはすぐに知った。単純にその日は忙しかったのだ。忙しいところに現れた息子に、偶々素っ気なくなってしまっただけのこと。

 だが、その日のルーデウスは悲しくなった。「二人に嫌われたのだろうか?」とか「俺のことなんてどうでもいいのかな?」とか。冷たさを感じさせる態度に、そう思い傷付いたのだ。

 

 パウロも、きっとそうだったのだろう。

 息子のためを想って稽古をしているのに、つまらなさそうな反応を見せてしまって。酷く、悲しい思いをさせたに違いない。

 

 ストンと、どうしてパウロがこんなことをしてしまったのか腑に落ちる。

 

(ああ、そうだったな……)

 

 世界の広さを見せると言っていたが、他にも何か熱中出来るような好きなものを見付けてこいと、そんな意図もあったのだろう。剣術しか教えられない父親の、不器用な優しさだった。

 そのことに気付き、ルーデウスは思わず頭を抱えてしまう。

 

(ほんと――余計なお世話だよパウロ)

 

 こんなまだるっこしい真似をせず、口で説明して欲しい、と。これでは、ルーデウスが我儘を言ってしまったみたいではないか。

 だが、そう言うことであれば仕方ないだろう。

 

 今回の件について、ルーデウスは目を瞑り受け入れることにした。

 

 

――――

 

 

 経緯を受け入れたルーデウスは、パウロの手紙をギレーヌから受け取り、より状況を把握していく。まだまだ分からないことが多いので、自分のすべきことをしっかり確認しなくてはならない。

 

 リベラルが告げたように、ロアという都市に住むエリスお嬢様の家庭教師をすること。

 そこでお金の使い方や、貴族を相手にした世間の渡り方。つまり、処世術を学ぶこと。

 自分が何をしたいのか、何を目指してるのかを理解すること。それに、相手を見極められるようになること。

 

 それらの情報の整理が終われば、隣と向かいにいる二人へと視線を向けるのも、当然のことだろう。ずっと考え事をしていても、退屈なのだ。

 

「ギレーヌさん。改めまして、これからよろしくお願いします」

「ギレーヌでいい。さんはいらん」

「あ、じゃあ、僕のことはルーデウスでいいです」

 

 そのようなやり取りをしたルーデウスは、ふとリベラルのことを思う。

 リベラルは誰が相手でも敬語で話す。それはいいのだ。そういう口調なのだと受け入れられるのだから。

 しかし、必ず“様”と敬称をつけるのが不思議だった。この数年間で、彼女から敬称抜きで呼ばれたことはない。ルーデウスはまだ子供だと言うのにも関わらずだ。

 

 勿論、過去に敬称なんていらないと告げたことはあるのだが、

 

「ところで、ギレーヌ様」

「ギレーヌでいい。様はいらん」

「そうですかギレーヌ様。では、私のことはリベラルで構いません」

「……そうか」

 

 このように相手の意思を無視し、ずっと止めることがなかった。否が応でも、余所余所しい雰囲気を感じてしまう。

 どうしてなのか理由を訊ねたこともあるが、ありふれた言葉を並び立てるだけであったのだ。そう呼ぶことに慣れてしまっただけ、と。

 

 どうにかして普通に呼ばせたい。

 そんな気持ちが沸き上がってきたのだ。

 

「リベラルさん」

「どうしましたかルーデウス様?」

「僕のことをルディって呼んでみて下さいよ」

「……うーん」

 

 普通に頼み込んでみると、意外にも反応は悪くなかった。思案げな表情だ。どうするのか悩んでるようにも見える。

 

「……駄目、ですか?」

 

 なので、ルーデウスはだめ押しとばかりに、上目遣いで目に涙を溜めてみせる。

 本来であれば役割が男女逆なような気もするが、ショタがお姉さんにおねだりしてると考えればありだろう。

 両者の中身がカオスなのが実態だが。方や中身おっさんのショタで、方や猫のコスプレをした痛いババアだ。

 リベラル自身もそのことを自覚してるので、微妙な気分である。

 

「では、ルディ様とお呼びしますよ」

 

 長考した末、結局愛称で呼ぶのであった。

 

「……リベラルさんって、どうして頑なに敬称をつけるのですか? 本当の理由を教えて欲しいんですけど…」

 

 ルーデウスとしては、そのことがずっと不思議であった。三歳の頃からの付き合いだと言うのに、どこか隔たりのようなものをずっと感じていた。

 建前のような理由ではなく、彼女自身の本心を知りたいのだ。

 

「そんなに知りたいのですか?」

「はい」

「結構酷い理由ですけどいいのですか?」

「はい」

「もしかしたら、ルディ様が傷付くかもしれませんが……」

「構いません」

 

 ルーデウスの揺るぎない意思に、リベラルはひとつ溜め息を溢した。ここまで強く望むのであれば、無下にする訳にいかないのだ。

 彼女とて、どうしても理由を告げたく訳でもない。ただ、差別的な理由でしかないのだから。

 

「仕方ありませんね」

 

 故に、リベラルは口を開いた。

 

「私にとって特別な人にだけ、私は敬称を付けないのですよ」

「……特別、ですか?」

「ええ、私が怒った時は粗い口調になってしまい、敬称を付けないこともありますが」

 

 リベラルにとって特別な存在。

 それは四人いる。

 

 先ずは、父親であるラプラス。最終的に『お父様』と呼んでいたので、結局敬称になってしまってるが、それは父親と呼んでるだけだ。構わないだろう。

 次に、ロステリーナ。彼女には幾度もなく助けられた。父親との和解の切っ掛けを作ってくれたし、精神的に辛くなっても癒しを与えてくれた。妹だと思ってる存在だ。

 そして、サレヤクト。ラプラスの相棒であった赤竜王は、確かにリベラルを見放した。けれど、それ以前ではずっと頼りになる存在だったし、ラプラス戦役にて彼の魂は受け継いだ。サレヤクトの最期に、応えることが出来た。

 

 最後の一人は――。

 

(……もう少し、ですね。二十年以内に決着をつけますよ)

 

 リベラルの脳裏に思い浮かぶは、とある白髪の少女。

 全ての始まりの約束。

 

 彼女がいなければ、ここまでやることは出来なかっただろう。

 

 ロステリーナが眠り、ラプラスは死に、サレヤクトが離れたあの日、きっと龍鳴山で全てを諦め死んでいた。未練たらたらと生き残ろうとしなかっただろう。

 ラプラスにも告げた、この世界で成し得なければならぬ目的のひとつ。今では人神を打倒することを目的としてるが、魂に刻み付けたこの意思と約束を忘れることはない。

 

 やがて、それらの記憶を振り払い、リベラルは隣に座るルーデウスを見据えた。

 

「とにかく、私にとって敬称とは区別するためのものです。他者を特別視しないためにも、私には必要なのです」

 

 いずれ、隣にいるルーデウスや、目の前にいるギレーヌが特別な存在になるかも知れない。けれど、それは今ではないのだ。

 少なくとも、もっと先の話。リベラルの生きた年月は、たったの数年程度の関わりで揺らぐことはなかった。

 

 例え、ルーデウスが必要な存在だとしても。

 

「分かりました……でも、僕はリベラルさんのことが好きですからね」

 

 そう心に戒めたと言うのにも関わらず、ルーデウスはアッサリと心に踏み込む台詞を告げていた。

 

「え?」

「今は無理かも知れませんが、いずれ僕も特別な人になれたら嬉しいです」

 

 ルーデウスがどのような意図を持って告げたのかは、何となく察しが付いていた。今のルーデウスは、まだまだハーレムを夢見る子供(童貞)だ。理想を見ている。

 ロキシーを相手にもしていた、口説き文句である。十年後にも同じようなことを言うのだろう。しかし、残念ながらリベラルは、ルーデウスの考えを見切っていた。

 生憎、堕とされるつもりはないのだ。けれど、好意を向けられるのは素直に嬉しかった。

 

「……フフ。では、その時を楽しみにしてますよ」

 

 リベラルはニッコリと優しい笑みを浮かべ、そう告げた。

 

 

――――

 

 

 ルーデウスが初めてリベラルと出会ったのは、家庭教師の応募でやって来た時だ。

 

「リベラルです。よろしくお願いします」

 

 ロキシーと二人でやって来た彼女を見た時、ルーデウスは俗な気持ちを抱いていた。

 

(おお、ドジっ娘だ!)

 

 家庭教師としての依頼を正式に手続きをすることなく現れたリベラルは、なんとも間抜けなお姉さんに見えた。ロキシーが真面目な中学生のようなタイプだとしたら、リベラルはだらしない大学生みたいなタイプだ。そんな第一印象である。

 去って行くリベラルの後ろ姿を見て、何としても家庭教師になって欲しいなどと思ったものだ。

 

 とは言え、当初はそんな俗な気持ちを抱いただけで、それ以上の感想はなかった。

 

「食事のお裾分けに来ました」

 

 だが、間抜けだとか、だらしないだとか、そんな悪印象はすぐに払拭された。むしろ、ロキシーとリベラルの印象が入れ替わっていた。

 ロキシーは確かに真面目であるが、どこか間抜け――ドジっ娘な光景を多々見ることになった。それに比べ、リベラルは口調も丁寧でミスも少ないのである。印象が変わるのも、当然の帰結と言えよう。

 人を見た目で判断してはいけない良い例である。

 

「私の龍神流を伝授致しましょう」

 

 剣術の腕が上昇しない時に、胸を張りながら告げてくれた。あの時ほど、リベラルのことが頼もしく見えたことはない。そして、実際に強くなることが出来た。

 近所のお姉さんから、親しいお姉さんになった瞬間だ。リベラルは無理に押し掛けようとせず、ルーデウスが頼れば応えてくれる。

 押し付けがましくないのだ。困った時に手を差し伸べてくれる。そんな優しい温かさ。見守られているかのような感覚。

 

 ロキシーは生前ですら、誰もすることの出来なかったことをしてくれた。ルーデウスを家の外へ出してくれた。だから、彼はロキシーのことを尊敬し、崇拝とも言える信頼を寄せる。

 リベラルは崩れそうになった自信を、取り戻させてくれた。過信してしまうほどにまで引き上げてくれた。彼女のことも、ルーデウスはとても信頼している。

 だからこそ、リベラルと隔たりのような壁があることに、ルーデウスは悲しみを感じていた。

 

 ――もっと俺のことを信用して欲しい、と。

 

 

――――

 

 

「でも、リベラルさんも付いてきてくれて安心ですね」

「いきなりどうしたのですか?」

「いえ、僕だっていきなり村の外にほっぽり出されたのは不安でしたので。リベラルさんがいてくれて心強いです」

 

 ロアへと辿り着き、案内していたギレーヌと別れる。そのまま執事の案内によって待合室のような場所に通された二人は、そのような会話をしていた。

 

「手紙にも書いてありましたけど、ここの侍女になるんですよね?」

「ええ、給料ガッポリ手に入りますからね。やはり、お金はトレジャーするよりも、働いて手に入れる方が実感が湧きます」

「……変わってますね」

「お金はお金、宝は宝と分別してるだけです。換金するのは本当に困った時だけですね」

 

 そんなやり取りをしてると、扉がノックされて先程の執事が入ってくる。

 

「ルーデウス様。若旦那様がお戻りになられましたので、こちらへどうぞ」

「あ、はい」

 

 お嬢様の家庭教師をするルーデウスと、侍女として応募したリベラルでは、雇用条件が違う。なので、二人同時なんてこともなく、面接も別々となっていた。

 先に呼ばれたルーデウスは、どこか緊張した面立ちを見せて立ち上がる。

 

「何か、緊張しますね」

「既に話の付いてるルディ様は、不採用、なんてことはあり得ません。契約内容の確認をするだけですので、そこまで緊張する必要もありませんよ」

 

 ルーデウスが家庭教師となるのは、既に決定している話だ。むしろ、暴れん坊であるエリスを教えられるとは思われておらず、逃げ出すと思われている始末。

 取り合えず、彼が何かを意気込む必要はない。

 

「なら、リベラルさんも不採用なんてことにならないで下さいよ? 頼りにしてるんですから…」

「ははは、面白いことを言いますね! 私が不採用になる訳ないじゃないですか! この私が!」

「だといいんですけど……」

 

 そうして扉の向こうへと立ち去るルーデウスを見送り、リベラルは堂々とした態度で呼び出されるのを待つ。装着している猫耳と尻尾の手入れを行ない、準備も完了だ。

 やがて、呼び出されたリベラルは扉の向こうへと消えて行った。

 

 

――――

 

 

 それから数十分後。待合室にて、死んだ魚のような目を浮かべるリベラルの姿があった。

 別にふざけていた訳でもない。わざとこうなってしまった訳でもない。ただ、時には計算外なことも起こりうるだけだ。

 

 リベラルは侍女として採用されなかった。

 無職続行である。




Q.ルーデウスの過去……。
A.捏造です。けれど、そんな同じような経験なら沢山の人がしただろう、と言うものを挙げてみました。

Q.白髪の少女?オリキャラ?
A.違います。とはいえ、何者なのか察する人は察するでしょう。そして何者なのか察することが出来たのであれば、自然とリベラルがどんな存在かも想像がつくことでしょう。まあ、流石に言いませんけど。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。