パウロ「誕生日おめでとう」
ロキシー「旅に出ます」
ルーデウス「イケメンの友達ゲットだぜ」
シルフィ「よろしく」
前書きであれ言っとかないとなぁ、なんて考えながらいざ投稿すると、何を告げようとしていたのか忘れてしまう悲しみ。
まあ、忘れるくらいなら大したことないよね?なんて思って放置すると、何故か大切なことだったり。
ありますよね。
2年の歳月が経過し、ルーデウスは七歳の少年となっていた。その間に、色々なことが起きていた。
まずは、ルーデウスがようやく、シルフィエットのことを女の子だと気付いたのだ。生憎、その場にリベラルは居合わせてなかったし、その後に特に相談も受けてなかったので、問題が解決してから聞いた話である。
次に、グレイラット家のご息女が二人誕生していた。勿論、ゼニスの娘と、パウロの不倫によって出来たリーリャの娘である。これに関しても、リベラルは解決されてから聞いたのだが、修羅場に割り込む勇気はないので、むしろ良かったと思っている。
取り合えず、娘のノルンとアイシャは抱っこしてきた。とても可愛く、思わずおっぱいを上げてしまいそうになった程だ。赤子と触れ合う機会が少なかったので、母性が刺激されたのかも知れない。
「少し不味い兆候ですね…」
2つのイベントを、いつの間にか見逃していたリベラルであったが、そのこと自体はどうでもいいのだ。口出しするような問題でもなかったし、本人たちで解決すべき出来事だったのだから。
見ることが出来なかったのは残念だが、それはただの私情に過ぎない。
危惧していたのは、自身の問題だった。
リベラルがブエナ村へと訪れてから、“もう”4年も経過していたのだ。あっという間の感覚だった。
ルーデウスに教えるペースが遅いわけではない。シルフィエットもいつの間にか、水聖級魔術師になっていた。あまりにも順調と言えよう。むしろ、やり過ぎたと反省しそうになったほどである。
だから、問題はこの4年間が、リベラルにとっては“数ヵ月程度の感覚でしかなかった“ことだ。時間の感覚が、人間から龍族のものになっていた。
「時間の軽視は現実を鈍らせます。一秒はとても貴重なものです……1日を大切に過ごさなければ…」
約五千年もの時を過ごしたリベラルは、あらゆる出来事を経験してきた。膨大な経験が、彼女の中に根付いている。故に、毎日が新鮮みのない、陳腐な1日に感じるのだ。
同じ出来事の繰り返しのように感じ、日々の思い出が記憶に残らない。長寿である不死魔族や龍族は、時間を軽視するからこそ、好機や転機を見落としがちだ。
今回見逃してしまったイベントは、たまたま重要なものではなかった。しかし、また今回のように時間の感覚を忘れてしまえば、取り返しのつかない失敗をしてしまうかも知れない。
リベラルは深呼吸を行ない、意識を切り替えていく。同じことを繰り返さぬよう、自らの心に戒めて。
「そうと決めたからには、早速行動しましょうか」
立ち上がったリベラルは、グレイラット家へと向かう。いつものような食事のお裾分けではなく、パウロに用があったのだ。
最近のルーデウスは、実力が既に平均的な冒険者以上のものとなっている。手札的には、既にパウロを越えているだろう。今まで父親らしいところを見せてなかったパウロに、そろそろ父の偉大さを示してもらわなければならない。
本来の歴史では、フィットア領の
あまりルーデウスの意思は無視したくないが、リベラルにもリベラルの事情があるのだから。
――――
ルーデウスはこの2年の間で、恐ろしいほど成長した。また、そんな彼が教えていたシルフィエットも、水系が聖級となり、土と風も上級となっていたのだ。
リベラルの教えが良かったのかは分からないが、二人にそれだけの才能があったことは確かだろう。
ルーデウス自身のレベルも、大きく成長した。正直、自分でもここまでやれるとは思っていなかった程だ。
現在のルーデウスのスキルを表すと、以下の通りである。
――――
・剣術
剣神流:中級
水神流:初級
北神流:初級
・攻撃魔術
火系:上級
水系:王級
土系:聖級
風系:聖級
・治癒魔術
治療系:上級
解毒系:中級
結界系:上級
・召喚魔術:初級
――――
やはり、剣術は闘気が纏えないことが原因か、あまり成長している気がしないが、実際にはそんこともない。そもそも上級とは、才能ある者が一つの流派に打ち込んで、10年ぐらいかかると言われている。
今のルーデウスは、まだ七歳の少年なのだ。それで既に中級であることを考えれば、明らかに異常でしかない。パウロも我が子は天才だと喜んでいた。それに、この他にも龍神流の技もあるのだから。
因みに、中級で剣士としては一人前、と言われている。
魔術に関しては、言うまでもないだろう。攻撃魔術は、火系以外は全て聖級に至っているのだ。治癒系も、リベラルが丁寧に治るまでのメカニズムを説明し、無詠唱での発動が可能になった。
とは言え、結界魔術に関しては詐欺である。理解も出来てなければ、発動の出来ないものがほとんどなのだ。だが、リベラルが取得させたかったものだけ取得させたので、何故か上級という扱いになったのである。
尚、召喚魔術に関しても、触りを教えてもらっただけなので、ほぼ扱えない。
――――
「……うーん…」
思案げな表情を浮かべ、ルーデウスは考え事をする。つい先日、パウロから学校はどうするのか聞かれたのだ。
パウロは「学校は堅っ苦しいだけで貴族にろくな奴がいない」と、実体験のように溢し、行くかどうかは任せる、と告げた。
友達を増やしたい気持ちのあったルーデウスだが、そのように言われれば、当然ながら通う気も失せる。
だが、ロキシーから最近届いた手紙には、『ラノア魔法大学』は種族的な差別もない良いところだ、と書かれていたのだ。敬愛するロキシーがそう言うのであれば、友達は沢山出来そうである。
「先生、今はどこにいるんでしょう…」
手紙の内容も、少しばかり慌ただしい様子であった。
どうやら、しばらく腰を落ち着かせることがないらしいので、こちらに手紙を送ったとのこと。去り際にもらったリベラルの助言を切っ掛けに、水王級魔術師になれたらしく、今は様々な場所を旅してるらしい。
水王級魔術師なので、立ち寄った各国では宮廷魔術師として引く手数多のようだが、今のところは全部断ってるみたいだ。魔術師として、もうワンランク上がれそうな手応えを感じてるみたいで、腰を落ち着かせたくないらしい。
ともかく、様々な場所を巡り、腕を磨いていると言うことだ。どこにいるのかも分からないので、返信も出来ない。
文通をしたかったが、そういう事情であれば仕方ないだろう。ロキシーからの一方通行しか出来ないのだから。
「学校か……」
リベラルのお陰で、特に行き詰まりもしていない。なので、魔術のレベルアップのために行く必要はないのだ。
しかし、友達は欲しい。ブエナ村にはシルフィエットがいるのだが、彼女だけしかいないのだ。苛めっ子であるソルマたちとは、残念ながら友達にはなれそうにもないので。
ルーデウスは生前、引きこもりだったのだ。少なくとも、中学までは順調に歩めていたのに、高校で変な正義感を見せてしまったせいで、虐められるようになった。それを機に引きこもりとなった訳だが……もう一度青春をやり直したい気持ちが、心の奥底にあった。
もっとも、パウロの話を聞いたので、貴族の少ない学校――ラノア魔法大学に通いたいとは思っているものの、シルフィエットのことを考えればそうもいかない。
「ルディ、学校に行くの?」
ふと呟いていた言葉に、シルフィエットが覗き込むようにルーデウスを見ていた。
不安げな表情だ。まるで、迷子になってしまった幼子のような、今にも泣き出してしまいそうな雰囲気。
「いや、行くつもりはないよ。父様は学校に行ってもイジメられるだけで、何も学べないって言ってたし。ただ……」
「ただ?」
「ずっとブエナ村で過ごすつもりはないしさ……父様には冒険者になった方がいいって言われたし、友達も欲しいから学校にも興味がない訳じゃない」
ルーデウスのその言葉を聞いたシルフィエットは、絶句した様子を見せていた。
だが、彼はそれに気付かず、言葉を続ける。
「学校に行くか、冒険者か、どっちになろうかな」
それは、軽い気持ちだった。
転生者であるルーデウスは、このファンタジーな世界に生まれ落ちたが、自分が主人公のような存在だとは思っていない。そのような妄想は、生前に何度も行ない、結局は現実に引き戻されたのだから。
しかし、世界を見て回りたいとは思っていた。生前の常識が通じぬ不思議な魔術に、実際にあった伝説の数々。未だ見たことのない種族に、植物や動物。
それらはブエナ村で暮らしている限り、決して見ることが出来ぬだろう。未知への好奇心だ。ルーデウスを繋ぎ止めるには、ブエナ村という世界はあまりにも狭すぎた。
リベラルの教えもあるので、魔物や何者かに後れを取るとも思えない。世界を巡るだけの実力を、手にした自信もある。
そんな、村の外への興味から溢れた言葉だった。
「……や」
けれど、その事実をシルフィエットは拒絶し、まるでルーデウスを引き留めるかのように抱きついた。
「し、シルフィエットさん?」
「い、や、いや……いや!」
シルフィエットは苦しくなるほどの力で、ルーデウスを抱き締める。彼も思考が追い付かず、戸惑ってしまう。
突然なことに何も言えなかったルーデウスの沈黙を、拒絶されたと感じたのか、シルフィエットは涙を溢し始めた。
「い、いか、行かないで……うぇ、う、えぇぇ~ん」
泣き出してしまったシルフィエットに、ルーデウスはどうすればいいのか分からず困惑してしまうが、取り合えず抱きつかれたまま、頭や背中をなでたりさすったりする。つい、お尻も触ってしまいそうになるが、流石にそれは自制した。
代わりに、背中をギュッと抱き締め、身体の全面でシルフィエットの感触を味わう。
「ひっく、やだよぉ、どこにも、いかないでよぉ……」
「あ、ああ……」
その必死な姿に、ルーデウスもふざけた気持ちを鎮めていき、シルフィエットのことをしっかりと見つめる。
最近、シルフィエットは午前中から、ルーデウスの家に訪れることが増えた。嬉しそうな表情を浮かべ、パウロとの剣術の稽古を見つめるのだ。
稽古が終われば、二人で魔術の練習をしたり、勉強をする。分からないことがあれば、その都度リベラルに訊ねたりしてるが、その時にだけしか彼女とは会わない。
そんな生活を送ってきた。稽古と質問の時間を除けば、ほとんど一緒に過ごしている。
苛めっ子から助けたのは、ルーデウスだ。
魔術を教えたのは、ルーデウスだ。
共に過ごすことを教えたのは、ルーデウスだ。
何もかもをルーデウスが教え、シルフィエットはそれについてきた。孤独や偏見から解放し、一日中一緒にいる相手になった。
ルーデウスの存在が、シルフィエットの中でとても大きなものになっていることに、流石の彼とて気付く。間違いなく好意を抱かれ、大切な存在だと想われてることに。
「わかったわかった。どこにも行かないよ」
そう思った瞬間、外の世界などどうでもよくなった。
魔術の上達にしても、リベラルがいるから問題はない。剣術も同様だ。パウロもいる。少なくとも、既に十分すぎるほどの実力は手にしている。無理に焦る必要もない。
どこかへ旅立つにしても、それは一人立ちする年齢からでも問題はないのだ。学校だって、その歳から入れるだろう。外の世界への興味はあったが、焦らなくとも逃げていくことはないのだ。
そう、これからも共に過ごせばいいだけである。最初は打算があってシルフィエットへと近付いてしまったが、今は彼女が愛おしいのだ。それに、共に世界を巡るのも楽しそうだった。
今更、シルフィエットをほっぽりだして、何処へ行こうと言うのか。これは、彼女へと抱いた、確かな好意――即ちシルフィエットへの恋心だ。好きな子を放って置ける訳がない。
互いに抱き締めあったまま、時間が過ぎていく。そうして、この時間が永遠に続くかと思われた時、
「――…ルーデウス様。幾らなんでも、その歳からお手付きしないで下さいよ?」
いつの間にか部屋へと侵入して来た
それと同時に、シルフィエットから離れる。
「シルフィエット様にはまだ分からない世界でしょうが……ルーデウス様はエロいですからね。見境なしですよ。私の下着もいつの間にか盗まれてますし…」
「え、えっと……ボクは大丈夫ですから…」
先程まで抱きついて泣いていたシルフィエットも、羞恥心はあったのだろう。恥ずかしそうにしながら、リベラルへと真面目に答えていた。
ルーデウスとしては、その台詞に歓喜雀躍である。あのままあーるじゅうはちに突入しても、許されていたのかもしれなかったのだから。
しかし、その言葉を聞いたリベラルは、じっとりした目でルーデウスを見つめる。
「まさかここまで調教済みとは……末恐ろしいですね。もしや、私のことも狙ってたり……?」
「失礼ですね。僕はこう見えて紳士で通ってるんですよ。なので、シルフィ一筋です」
「変態という名の紳士ですね、分かります。後、パンツ返してください」
結局、
ぶっちゃけた話、ルーデウスの中身はおっさんなので、止めてくれたのはありがたくもあった。あのままでは、本当に手を出しかねなかったので。
――――
ハッキリ言おう。
ルーデウスは調子に乗ってしまった。
生前の科学などの知識を保有していたルーデウスは、初めの内は驕ることもなかった。自分と同じ立場の者――転生者であれば、容易くこのくらいは出来るだろうと思っていたから。
他の者はゼロからスタートしているのに、自分だけはずっと前からスタートしているのだ。ならば、これくらい出来て当然だと。誰よりも数多くのハンデを貰ったのだから、誰よりも早く先に進めるのは当たり前なのだ。
しかし、この世界のことを知っていくにつれ、その謙虚な考えは薄れていった。
まず、この世界では何故か無詠唱の使い手がほとんど存在しない。それはいい。何やら間違ってるように思える知識が広がってるようなので、転生者である自分はその常識に染まらず、無詠唱が出来たのだから。
魔力量。これもいい。これも間違った知識が広がってるようなので。幼少期に魔力量の限界を伸ばせることは、シルフィエットを見ていればよく分かる。恐らく自分も、馬鹿みたいに魔術を使っていたお陰で、伸びたのだろうと考えているので。
取得した数多くの聖級魔術。これもいい。現代知識を保有するルーデウスにとって、それらを会得するのはさほど難しいものでもなかったのだから。転生者なら誰でも出来るだろう。更には、リベラルの教えまであるのだから。
中級になった剣術。これもいい。パウロによる英才教育によってここまで伸びたが、それでも中級。ぶっちゃけた話、一人前と言われようとも、下から二番目なのだ。頂が全く見えない。
ならば、何がルーデウスを増長させていたか。それは――単純な地力だった。
ひとつひとつは彼の謙虚さが幸いし、大したことではないと、切り捨てることが出来た。これらの何れかを出来る人は、数多く存在することだろう。
だが、この全てをこなせる者が、どれだけ存在するか。そんなもの、このブエナ村という狭い世界から出たことがなくとも、数が少ないことは理解出来た。
本の『ペルギウスの伝説』で出てくる登場人物にも、そんな存在はほとんどいなかった筈だ。化物染みているのも、初代水神くらいか。
過去に一度、パウロに連れられ魔物と戦うところも見たことがある。父親の戦う姿はカッコよかった。それはもう、年甲斐もなく興奮するほどだ。どんな映画のワンシーンにも敵わないと思わせるほどに、魅せられた。
しかし、ふと思ったのだ――今の自分でも可能なのではないかと。華のある戦いは出来なくとも、魔物を倒すだけなら間違いなく出来る確信があった。
それに、己の手札を駆使していけば、もしかしたらパウロにすら勝てるのではないかと。そんな考えも、頭の片隅にあった。脳内でのイメージトレーニングでは、パウロに勝つことは出来る。自分の勝つ姿を想像することが出来た。
魔術を教えてくれるリベラルにしても、稽古をしたこともないのでよく分からないままだ。実力が未知数であるが、どのみち彼女と戦う予定も何もない。
手取り足取り教えてくれる、よく分からないスレンダーなお姉さんだ。
(……もうこれくらいで十分なんじゃね? けっこー頑張ったよな俺?)
そもそも、ルーデウスがここまで頑張ってきたのは、ひとえに後悔したくなかったからである。生前のように後悔にまみれた最期を迎えたくないからこそ、本気で生きることを誓ったのだ。
だが、その誓いはあまりにもあやふやである。努力に終わりがないのだ。誓いの終わりは、己の死の瞬間にしか訪れない。死の間際に「いい人生だった」と言えればいいのだ。しかし、だからと言って、その瞬間まで本気で生きることなど出来る訳がないだろう。
だから――どこかで妥協しなくてはならない。
剣術は中級? 別に構わないだろう。中級で一人前と言われてるのだから。少なくとも、ルーデウスは今まで本気で励んだからこそ、そこまで辿り着けたのだ。
魔術は聖級? 十分すぎるだろう。敬愛するロキシーですら、最近までは聖級であった。なのに自分は、水系が王級になるだけではなく、他の系統も聖級になったのだ。
確かに、他にも学びたいことは沢山ある。しかし、そんなのはゆっくりと学んでいけばいい。今まで本気で頑張り、十分な成果を得られた。その努力は、己の中に根付いている。
それに、聖級の魔術師になれたので、就職先に困ることもない。転生前の最期のように、どうすることも出来ない“詰んだ状況”になることはなくなった。それだけでも頑張った甲斐がある。
(シルフィを育てて、一人立ちの年齢になったら一緒に学生か冒険者になる。それでいいじゃないか)
本来の歴史よりも力を付けた彼は、際限のない生き方に妥協することにした。
Q.何で誰もリベラルがそんなことを教えられるのか疑問に思わんの?
A.ルーデウスは訊ねたがはぐらかされ、パウロなどはある程度何者なのか察してはいるものの、お裾分けしてもらったり村での困り事を解決してもらってるので口にしてないだけです。
Q.え、これ…ボレアス家行かないの?
A.行きます。けっこう無理矢理繋げます。不自然な展開に感じても気にしないで!
※追記
原作でのルーデウスが、この時期にどれくらいのスキルを持っていたのかコピペ貼っときます。
・剣術
剣神流:初級
水神流:初級
・攻撃魔術
火系:上級
水系:聖級
風系:上級
土系:上級
・治癒魔術
治療系:中級
解毒系:初級
言うほど成長してない…?
そう思うかは、読み手次第なのですかね…。