リベラル『あなたのお陰で今まで頑張ってこれました。私こそあなたでよかった。ありがとう静香、また会おう』
ナナホシ『約束よ、いつか必ずまた会うわ。あなたと絶対に再会する』
お待たせしました、今回から最終章です。終わり方も決めていますが、伏線回収し忘れてそうでビクビクしています。もちろん、忘れてしまって放置してる伏線も既にあるんですけどね…。
絵を書いて貰いました。大人バージョンリベラルです。
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書いて下さったのは桃瀬はるかさんです。
1話 『解放』
それは龍鳴山で過ごしていた頃の話だ。
互いの内心を知り、本当の意味で親子となれた後のことである。
戦うことを嫌うリベラルに対し、ラプラスは言った。
『リベラル、未来の話をしてもいいかい?』
『未来の話?』
『そう、未来の話だ。君の言う約束に関係する話だよ』
微笑みながら問い掛けるラプラスに対し、リベラルはキョトンとした表情を見せる。
彼女の目的については、既に話し合いが為されているのだ。あらゆる事態を想定し、リベラルの目的を果たすための道筋については既に相談し終わっている。
それなのに、今更なにを話すのだろうと思ってしまっても仕方ないだろう。
『君は、約束を果たした後はどうするんだい』
『果たした後、ですか……』
『私も学習したからね。無理にヒトガミを倒すために戦えとは言わないよ』
そう。当時のリベラルは争いが苦手だった。
痛みや苦痛を嫌い、ラプラスの特訓に対して真摯に向き合うことが出来なかった。
その結果が後の人魔大戦でのバーディガーディの敗北に繋がることになるのだが……今はその話ではない。
五龍将の使命を押し付けたことによって、ラプラスとリベラルの親子関係に大きなヒビが入ることになった。
今はロステリーナの手助けもあって関係を修復出来たが、ラプラスは同じ轍を踏むつもりはなかった。
『リベラル。私はね……出来れば君に意思を継いで欲しいと思っている』
『…………』
『けど、その思いを押し付けることがどれほど残酷なことなのか理解することが出来たんだ』
リベラルの存在は、己の保険としてのものである。
魔龍王である己が、ヒトガミの手によって行動不能に追い込まれた時の保険。二代目魔龍王としての知識と技術の習得だ。
その役目を果たしてもらうために、厳しい訓練を課し成長を促した。
その結果として、互いの願いのズレをヒトガミに利用された訳である。情けない話だろう。
願いの押し付けは、信頼関係の構築には繋がらない。
やろうと思えば洗脳だろうと出来たが……それこそヒトガミに利用されることになるだろう。
ヒトガミの手先となり、本気で龍神と敵対するようなことになれば目も当てられない。
とは言え、そんなことを言わずとも色々とやりようもあっただろう。
使命を第一に考えてるラプラスならば、多少のリスクがあろうとリベラルを保険としてしか運用しなかった。
けれど、ラプラスも心のある存在なのだ。
リベラルと接する内に、彼も変化していた。
『私には使命がある。全てを賭して果たさなければならない使命だ。その本質は同じなのだろう……リベラルがリベラルの願いを叶えたい気持ちは分かるつもりだよ』
『…………』
『だから、約束を果たしたいならそれを止めたりしない。君も使命を持って生まれたのだろう。私は決してリベラルから使命を奪ったりしない』
『使命を司る龍』は、使命を奪われる苦しみを知っている。
己の娘が、その苦しみを味わう必要はないのだ。
『だからこそ聞きたい。約束の果てにリベラルが何を望むのかを』
『…………それは』
ナナホシとの約束を果たした後。それを彼女は今まで考えたこともなかった。
考えていたのはそこまでの道のりであり、その果てのことではなかったのだ。
けれど、願いの根底にあるのはナナホシの幸せである。ナナホシが辛い思いをしなければ、それでいいのだ。
『君が何を考えているのかは分かるとも。私と同じなのだろう。私が願うのは御子<オルステッド>様の幸せだからね』
悩むリベラルへと、彼は大らかな笑みで答えた。
『私は、私の願いが叶うのなら何でもいいんだよ。だから、私からリベラルに頼むのはそれだけだ』
元々は、保険としてリベラルを扱っていくつもりだった。けれど、それでは恐らく願いへと辿り着けないのだろう。
ヒトガミと戦い続けて、何となく分かってきたのだ。
押し付けや強要は、心に隙を作る切っ掛けとなる。そしてその切っ掛けをヒトガミは逃さずに利用してくるのだ。
大切なのは開示だった。打算もない願いの共有。
それこそがこの歪な親子関係で重要なことだった。
『リベラル、君の人生は君の物語だ』
『…………』
元々は道具として作った仮初の家族だった。
己が何らかの理由で目的を果たせなかった時のための保険。
それがリベラルである。
けれど、当時の自身に親としての情もあったのだろう。
だからこそ――己の娘を自由<リベラル>と名付けた。
使命のこともある。ヒトガミとの戦いもある。
だが、娘の幸せを願うくらいいいだろう。
親の戦いに、子を巻き込むべきではないのだ。
『――私のように使命に囚われることなく
ラプラスの想いはいつしかそこに至った。
――――
庭の広場。
そこで激しい戦いが行われていた。
剣を振るうのは、パウロとエリス。そしてカールマン・ライバックだ。それを魔術で援護するルーデウス。ルーデウスに至っては魔導鎧を装着している。
そんな彼らに相対するのは、リベラルである。
四対一で数的不利な状況でありながら、リベラルの動きには余裕が見て取れた。
「ちくしょう……」
「ハァ……ハァ……!」
王級レベルが2人に、七大列強が1人。
アレクは王竜剣を装備していないとは言え、それでも七大列強に恥じない実力を持っている。
そんな彼ですら、リベラルの動きについていくことが精一杯だった。
気付けば、他の仲間と共に吹き飛ばされている。そんな有様だ。
「うおぉぉ!」
「あはっ、ルディはまだまだ剣術が未熟ですね!」
吹き飛ばされた3人と入れ替わるようにルーデウスが前へと出るが、足止めにすらならない。
振り返る途中で手を払ったかのようにしか見えなかったのに、たったそれだけでルーデウスも吹き飛ばされていた。
何度かリベラルと手合わせしたことのある彼らだったが、以前はここまで理不尽な強さではなかったのだ。
アレクは今回が初の手合わせだったが、彼女の強さにオルステッドを彷彿とさせていた。
「ガアァァァ!」
何度も立ち上がり向かっていくエリスも、何の妨害すら出来ていない。
間違いなく、リベラルは以前より強くなっていた。
やがて体力の切れたルーデウスを順に、1人1人脱落していく。
アレクは最後まで粘っていたが、一対一になった瞬間に顎に拳が突き刺さり意識を刈り取られていた。
あまりにも圧倒的な差だった。
「今回も私の勝ち、ですね?」
そして何よりも、リベラルが楽しそうだった。
戦っている最中も、彼女は笑顔を絶やすことがなかったのだ。
以前であればもっと事務的のような、どこか使命を感じさせる気迫があったのだが……それを感じることはなかった。
何がリベラルをここまで変えたのかは、言うまでもないだろう。
ナナホシの帰還を切っ掛けに、リベラルは大きく変化していた。
「随分と強くなったな」
少し遠くから、フルフェイスヘルメットを被った男が歩み寄ってくる。
呪いを軽減する道具を装着しているオルステッドだ。
彼が近付くことで呪いの影響を受けたエリスとパウロが顔を顰めるが、それだけだった。
呪いがちゃんと軽減されていることを確認しながら、彼は更に近付き称賛の声を掛ける。
「……吹っ切れたようだな」
「そりゃあ、もちろんですよ。果たしたい約束を果たせたんですから」
「ふっ、それもそうだな」
戦いで重要となるのは、心技体だ。
いずれも欠けてはならない要素である。
今までのリベラルは、技と体が飛び抜けていたのだろう。
だが、約束を果たしたことで心にゆとりが現れた。
焦り、緊張、不安……心のどこかで抱いていた恐怖が払拭され、心技体が完全に揃ったのである。
その結果が、先ほどの手合わせなのだろう。
以前ならルーデウスたちは勝てはしなくても善戦は出来た筈だった。
それが終始圧倒され続けていたのだ。
リベラルは自身の限界の壁を壊し、更に成長していたのだった。
「どうです、オルステッド社長も私と手合わせしますか?」
2人は当然ながら、今までに何度か手合わせをしたことがある。
リベラルの持つ技術を伝えるため、実戦形式で行うのも不思議ではないだろう。
もちろん、互いに全力ではない。
彼女の実力なら、オルステッドの魔力を引き出すだけの力がある。
流石に彼の魔力をそのような形で使わせる訳にいかないだろう。
そのため互いに魔力を使わずの形で行っていたのだが……完全な技量だけとなるとオルステッドの方が強い。
そして、今後リベラル以上の技量を持った敵が現れることもない。
それは何度も繰り返されてきたループの中で確立された事実なのだ。
オルステッドの知る限り、リベラルはこの世界で最も技量のある存在だった。恐らく技神にも負けないだろう。
そういう意味でも、彼女と戦うことには価値があった。
なんせ、命の危険もない状況で腕を磨けるのだ。
断る理由もないだろう。
「いいだろう」
「そうこなくちゃ、ですね」
2人の言葉に、それを見ていたルーデウスたちは固唾を飲む。
オルステッドやリベラルから教えを受けたり戦ったことはあっても、実際に2人が手合わせする姿は見たことがないのだ。
どんな内容になるのだろうと緊張するのも仕方ないだろう。
そんな雰囲気を察知したのか、気絶していたアレクもいつの間にか起きていた。
向き合う2人を前に、ルーデウスはパウロたちへと口を開く。
「どうなると思います?」
「俺はオルステッドさんのことをあまり知らんからな……リベラルが勝つんじゃないのか?」
「……どっちでもいいわ」
「間違いなくオルステッド様でしょう。リベラル様も強いですが……技の深度が違う。洗練されているのはオルステッドです」
パウロは言葉通り片方の実力しか知らず、エリスは自分より格上であることが悔しいのかそっぽ向いた感じだった。
この中でオルステッドの実力を正確に知っているのは、アレクである。彼は2人の強さを体感した上でそう断言した。
オルステッドが何度もループしていることを知っているルーデウスも、その言葉には納得である。
リベラルは彼のループにない技術を持っていたが、それはもう伝授済みなのだ。
初見の技というアドバンテージがもう彼女には存在しないため、厳しい展開になるだろうなと予想していた。
「……始まりますよ」
アレクの言葉と同時に、リベラルが動こうとした。
その動きに連動するかのようにオルステッドも反応し、僅かな動きを見せる。
そしてその動きから未来を予測したリベラルは、動きを止めていた。
そして次はオルステッドが動こうとしたのだが、リベラルが僅かな動きを見せるとピタリと静止してしまう。
一瞬動いたかと思えば、2人してピタリと止まってしまった状況。
その後も2人は同じようにピクピク動いては、ピタリと止まるという行動を繰り返していた。
「……解説のアレクさん。これは一体何が起きてるのでしょうか」
「これは、非常に高度な読み合い……だと思います」
「……というと?」
「あのお二方は今、未来を見ています。視線、呼吸、そして僅かな動きを察知し、その初動を潰し合っている。……流石にどのような世界を見ているかまでは分かりませんが」
とのことらしいが、ルーデウスには高次元すぎて試合内容の良さがさっぱりであった。
パウロへと顔を向けるが、彼もまたよく分からなさそうにしているのである。
「……ルーデウス様なら、お二方の読み合いにもついて行けてるのでは?」
「んな訳ねぇだろ」
んな訳ねぇだろ。
心に思ったことがそのまま口に出てしまうルーデウスだった。
「私はまだ習得してませんが、ルーデウス様の『明鏡止水』なら少しは見える筈です」
本当かよ、と思いつつ、ルーデウスは未だにピクリと動いてはピタッと止まる2人の戦いを集中して見る。
ずっと集中していると、僅かだが何か見えてきたような気がするのだった。
<貫手を放つリベラルに、オルステッドがカウンターを放つ>
<カウンターに対して上体を逸らしつつ、体当たりでオルステッドを弾くリベラル>
<体当たりを踏ん張り耐えるオルステッド>
一瞬だけピクリとした動きの中に、そのような攻防をルーデウスは感じ取る。
更に集中して行くと、それらはもっとより鮮明にハッキリと感じ取れるのであった。
彼もその全てを理解した訳ではない。
だが、合理の取り合いが行われていたのだろう。
両者の動きはシンプルなものだが、まるで盤上ゲームのように互いの最善手を突き詰めていることが分かった。
一手打てば一歩陣地に入り込むかのように、相手の行動を制限していく攻防が行われている。
ルーデウスの目には、それは互角に見えた。
詰みへと追いやろうとするオルステッドに、その手を読み切り反撃するリベラル。
喰い込もうとするが、それを許すことはない。
けれど、リベラルが防戦で攻勢にまで出られていないことが大きな差だったのだろうか。
何も狂ってない筈なのに、次第にオルステッドの手数が多くなり、リベラルの行動が制限されていく。
やがてピースを1つだけ掛け違えたかのよう、リベラルは一手だけ追い付かなくなった。
その瞬間に、オルステッドの一撃がリベラルの顔面を捉えるのであった。
「…………」
「…………」
互いに無言だったが、両者ともに完全に静止したまま動きを止める。
ルーデウスは辛うじてその高度な攻防を察知することが出来た。
息をつく間もない機械のような精密な未来だ。
とてもフェイントだけで行われていたものには見えない。
彼らはまだ実際に動いていないのだ。
「!! 今から始まりますよ……!」
そして、一呼吸置いた後に互いに動き出すのだった。
「はえぇ! 何も分かんねえぞ!?」
まるで互いに示し合わせたかのように、ルーデウスの見た光景をそのままに繰り広げていく。
だが、あまりにも早い。
何十、何百もの手組が、刹那の間に行われていく。
パウロは言わずもがな、アレクですらその動きを追うことがやっとだった。
合理の奪い合いが、目にも止まらぬ早さで景色を変えていく。
けれどその結末は、リベラルの一手違いによる敗北へと繋がっている。
ルーデウスは確かにその未来を見たのだ。
そして、ピースの掛け違え地点まで到達し、
「――『
ほんの僅かに速度の変わったリベラルの一手が、オルステッドの一手を追い抜いた。
目を見開くオルステッド。
最後の一手がまるで入れ替わったかのように、リベラルの一撃がオルステッドの顔面を捉えるのであった。
「……やるな」
「最初の攻防から、ほんのちょっとだけ速度を落としてました」
「ふっ、まんまと騙された訳か」
「私たちの領域なら、対面した瞬間から勝敗は決しているでしょう。けど、戦いは頭じゃなくて身体でやるものです。想像と現実を入れ替えることこそ『陽炎』の本質。最近編み出した技術です」
どれほど高度になろうとも、最初からの全てを見切ることは出来ない。
これはその意識の隅をついた単純な技であり、オルステッドのような最高峰の読みを持っていなければ使えない代物だ。
正直使いどころはほとんどないものの、オルステッドに一矢報いたことに彼女は満足するのだった。
「さあ、続けましょうか社長!」
「いいだろう。来るがいい」
そうして、2人は更なる手合わせを続けていくのだった。
結果として、オルステッドの勝ち越しになるのだが、結局観戦していたルーデウスたちにはまだまだついて行けない領域であった。
純粋に早いということもあるのだが、合理を突き詰めた2人の行動は何十手も先を見据えている。
動きを止めて解説するならともかく、高速で進んでいく展開の中でその意図を読み取ることは困難だ。
ルーデウスたちでは、まだ合理を突き詰めた戦いを理解することは出来ないのであった。
そうして、彼らは来る日に備えて研鑽を重ねていった。
Q.リベラルつよ。
A.作中説明通り、ナナホシの件が解決し精神的に大きく強くなった結果です。
Q.陽炎。
A.最近編み出した龍神流の技。視線や挙動からあらゆることを察知出来る相手に嘘情報をお届けする感じ。ほんの少しだけ想像と現実に差異をつけるだけの技術。