無職転生ールーデウス来たら本気だすー   作:つーふー

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前回のあらすじ。

リベラル「また会いましょう」
ナナホシ「あなたのことは忘れない」
ヒトガミ「その約束は果たされないよ。だって、ナナホシはボクが殺したからねぇ?」

今回の話で九章は終了です。次章で終章となります。
もう少しだけお付き合いして頂けると幸いです。


10話 『約束』

 

 

 

「――……ん……」

 

 ポツポツと、冷たい雨が降りしきる。

 アスファルトの地面は冷たく、そして酷く硬かった。

 

 気付いた時、ナナホシは雨の中地べたに倒れていた。

 酷く痛む身体を起こしながら、彼女は辺りを見回す。

 どこか見覚えのあるような、住宅街の真ん中だった。

 

「ここ、は……」

 

 そこは、知っている場所だった。

 記憶の奥底に、ちゃんと刻まれている。

 通学路だ。

 高校へと向かう、通学路の途中だった。

 

「…………夢、だったの?」

 

 思い返すは、異世界転移後の景色。

 どこまでも真っ白な空間で、ナナホシはヒトガミと遭遇した。

 身体を動かすことも出来ず、嫌がらせと称してその身を貫かれたのた。

 

 けれど、今の自分は無事だ。

 体の節々は痛いが、外傷がある訳でもない。

 転移装置の上に立っていた時の旅装束に、リュックサック。

 どれもヒトガミと遭遇する前の姿だ。

 

 もしかして、リュックの中に危機を回避出来るものがあったのではないかと、中身を拝見する。

 

「…………」

 

 中身にあったスクロールや魔道具は、どれも破壊されていた。

 怪我をしたときのためのスクロール、悪人から逃げるための道具、追い払うための武器。

 この壊れ方は、使われる前のものだ。効果を発揮することなく、壊れている。

 ヒトガミは魔道具で危機を逃れることを考慮し、先に対策を立てていたらしい。

 

 だったら、どうして私は無事なのだろうか。

 ナナホシの頭の中は、その疑問で埋め尽くされる。

 

「……もしかして、今見てるこの景色が、夢なの……?」

 

 思い返せば、こんな住宅街のど真ん中に転移してることもおかしいのだ。

 異世界転移装置の設定では、転移先は海抜10メートルから30メートル以内の陸地となっていた。

 それが安全に転送するための限界だったからだ。

 故に、今この場所にナナホシがいること事態がありえないことだった。

 

 だからこそ、住宅街の……。

 ましてや通学路の途中に転移するなんて、都合が良すぎるのだ。

 この世界が、信じられなかった。

 

「…………」

 

 無言で、雨道を歩いて行く。

 ずぶ濡れになるが、もはやそんなことなど気にもならない。

 どこも記憶にある風景と一致していた。

 もうすぐで家に辿り着く。

 けれど、帰るのが怖くなった。

 

 ここが夢だったらどうしようと。

 家の中に足を踏み入れた瞬間、またあの真っ白な空間で目を覚ましたらどうしようと。

 そんな恐怖に足を取られ、前に動かせなくなってしまう。

 

「……私の、家」

 

 それでも、何とか辿り着いた。

 やはり、そこは記憶と同じだった。

 表札も『七星』と記されている。

 間違いなく、自分の家だった。

 

「……ただ、いま」

 

 意を決して、ナナホシは扉を開く。

 けれど、夢は醒めない。

 代わりに、懐かしい匂いが鼻腔を刺激するのだった。

 壁に飾られた写真、並べられた靴。奥に見える廊下と階段。秒針のない時計。

 どれもナナホシの記憶と一致している。

 ここは、間違いなく自分の家だった。

 

「――おかえり静香。今日は早いわね?」

 

 奥の居間から、母親の声が響く。

 ひどく懐かしい声だった。

 けれど返事がないことを不審に思ったのか、奥から顔を覗かせるのだった。

 

「ちょっとどうしたのよその格好? 傘も差さず……何があったの?」

 

 心配そうにする母親。

 そしてその姿は、今まで張り詰めていたナナホシの恐怖を振り払うには、十分だった。

 安心した彼女は、知らず知らずの内に涙を溢す。

 

「お、母さん……?」

「なになに? どうしたの?」

「お母さん、お母さん……!」

 

 気付けば、ナナホシは泣きながら母親に抱き着いていた。

 ずっとずっと、帰りたかったのだ。

 会いたかったのだ。

 その声を、温もりも感じたかった。

 これは間違いなく夢じゃなかった。

 この世界は、妄想ではなく現実だった。

 

 七星静香は――無事に元の世界に帰ることが出来ていたのだ。

 

 どうしてかは、今は分からない。

 だけど、今はその事実だけで十分だった。

 

 泣きはらしていたナナホシは母親はなだめられつつ、十数年振りに家族との再会を果たすのだった。

 

 

――――

 

 

 お風呂に入って、秋刀魚のご飯を食べて、父親とも再会して、自分の部屋のベッドで眠って。

 しばらくして落ち着いたナナホシは、現状の把握に努めることにした。

 

 ここは間違いなく、夢ではない。

 魔道具やスクロールが破壊されていたことからも、ヒトガミと遭遇したことも夢ではなかった。

 

 どうして自分が生きているのか。

 どうして無事に帰れていたのか。

 それらについては何も分からない。

 だけど、分かったこともある。

 

「アキ……ルーデウス……」

 

 テレビを点けた時、ニュースが流れていたのだ。

 トラックに轢かれて死亡した男性と、神隠しのように行方不明となった好きな人。

 何とか轢かれずに済んだ黒木誠司から連絡はあったが、流石に事実をありのまま伝えるのは避け、誤魔化すことにした。

 

 そして、ナナホシは自分の戻って来た日時が、異世界転移をした日であったことを理解するのだった。

 

「…………」

 

 どこか夢のような感覚だった。

 その日に帰って来てしまったせいだろうか。

 異世界にいたというのも、自分でも信じられない気持ちになりつつある。

 実は全て妄想だったと言われた方が、信憑性もあるだろう。

 だけど、持ち帰った荷物がその思考を否定する。

 

 ふと、リュックサックの中身を整理することにした。

 

 中から出てくるのは、壊れた魔道具とスクロールだ。

 飲み物や食べ物、小さなテントや防寒具。

 今にして思えば、よくこれほどの量を運んだものだと自画自賛する。

 そして更に奥から出てくるのは、いくつかの手紙と転移に関する本だ。

 

 分厚く束になっている手紙は、ルーデウスからのものである。

 彼はナナホシが元の世界に戻ったとしても、時間が経過していたり、頼るアテがなかった時のために、前世の家族に一言添える手紙を渡していたのだ。

 それとは別に、前世の家族に渡して欲しいという手紙もあった。

 これに関しては、勝手に中身を拝見するのも悪いだろう。

 ルーデウスの前世の名前を確認したナナホシは、それを大切に仕舞うのだった。

 

 必ず、彼の家族に届けよう。

 そう決意するのだった。

 

 そしてもうひとつは、リベラルからの手紙だ。

 何枚かあり、こちらも別の世界に行ってしまってたり、頼るアテがない時のための手紙が挟まれていた。

 これらに関しては、使う必要のない手紙だろう。

 捨てるのはちょっとアレなので、こちらは机の中に仕舞うことにした。

 

「…………リベラル」

 

 残りの手紙は、全てナナホシ宛のものだった。

 転移する前に話すことは全て話したと思ったが、どうやらまだまだ伝え残したことがあるらしい。

 手紙の多さが、それを物語っていた。

 正直、量が多いので読むのが億劫というのが本音だ。

 流石にそれは可哀想なので読むが、くだらない内容だったら再会した時に文句を言ってやろう、なんて思うのだった。

 

 そうして、手紙を取り出し中身を読むことにした。

 

 

『七星静香へ。

 

 この手紙を読んでいるということは、無事に元の世界へと帰れたのでしょうか。

 もしも帰れてなかったり、知らない世界に飛ばされているのならば、私が渡した転移に関する本の196頁を開いて下さい。

 

 そこに記載されたものを作ることが出来れば、私たちが作った異世界転移装置のアーチに合図が出ます。

 合図を確認すれば、こちら側からも静香を呼び戻す準備をしましょう。

 ちゃんと備えはしてますから、安心して下さい。

 褒めてくれてもいいんですよ?

 

 でも、日本から遠く離れたどこかの海外や、危険な場所に飛ばされている可能性もあるでしょう。

 むしろ、その可能性の方が高いと思います。

 身の危険を感じた時は、リュックに入れた魔道具を活用して下さいね。

 使い方は、分かりますよね? 分からなければ、382頁に書いておいたので、そちらを見ておいて下さい。

 

 まあ、静香はオルステッド様と共に色んな地を踏破したんです。

 今更地球の動物や悪人に恐れを抱く必要もないでしょう。

 どう考えてもこっちの世界の魔物の方が恐ろしいですし。

 静香なら軽くあしらえるでしょ(笑)。

 一応伝えておきますが、魔道具はそちらの世界では未知の道具です。

 要らぬ騒ぎを起こしたくないなら、無事に帰れた際に燃えるゴミに捨てておくことをオススメします。

 

 そんな冗談はさておき。

 

 ……私が一番危惧していたのは、静香がそちらの世界に戻った際に、トラックに轢かれるんじゃないか? ということでした。

 転移場所の設定はしていましたが、それでもこちらの世界にやって来る瞬間に戻される危険性もありました。

 ルーデウスが轢かれ、貴女と篠原くんが異世界にやって来たであろう、あの瞬間です。

 

 だから、私はあらかじめ静香に指輪を渡したと思います。

 覚えてますか?

 私が、貴女に過去のことを話した際に渡した指輪のことを』

 

 

 その文章を読み、ナナホシは反射的に右手を見る。

 結婚して下さい、などという戯言を言いつつ、確かにその指輪を渡された。

 そして嵌め込んだ指輪は、まるで肌に溶け込むかのように消失したのだ。

 

 

『あの指輪は、私の最高傑作です。

 時空間を研究していたからこそ、作り出せたのだろうと自負してます。

 

 効果についてですが、以前にも言ったと思います。

 まあ、かなり前の話ですし、きっと忘れてるでしょう。

 なので、もう一度お伝えします。

 

 端的に言えば、装着してる人物の時間を巻き戻します。

 トリガーは、その人物が死んだ時です。

 つまり、一回死んでも蘇るってことですね。

 超驚きでしょう。

 今の静香はキリストになれる訳です。

 

 攻撃を防ぐとか、身代わりになるとかじゃなく、死んでから発動するので注意が必要です。

 なので、トラックに轢かれていても無事だと思います。

 でも、一度きりしか効果はないので、何度も試そうとしないで下さいね?

 普通に死にますので。

 

 なのでまあ、その指輪が使われてないのなら、幸いです。

 静香が危険な目に遭うことなく無事に帰れたということですからね。

 注意点としては、病気とか慢性的に身体が蝕まれた際には効果がないということです。

 復活しても病気が治るとかそういう訳じゃないので、病気になった際は素直に病院に行って下さい。

 

 とりあえず、渡した指輪についてはそれくらいですね』

 

 

「……何からなにまで、私、返しきれないわよ……リベラル」

 

 やはり、夢ではなかった。

 静香は右手を見つめながら、リベラルとのことを強く思い馳せる。

 渡された指輪は、確かにその役目を果たした。

 

 異世界転移装置を使ったあの時、ナナホシは無の世界に引きずり込まれた。

 そこでヒトガミと遭遇したのは、現実だったのだ。

 そして、無惨に殺されてしまった。

 ナナホシは、実際に死んだのだ。

 だからこそ、ヒトガミは気付けなかった。

 死んだけれど、復活したのである。

 

 ――リベラルが保険として渡していた指輪によって。

 

 想定していた訳ではないだろう。

 ヒトガミが現れるなんて、誰も想像しなかった筈だ。

 だからこそ、ナナホシはヒトガミの攻撃を受けてしまったのである。

 けど、それでも対策はなされていた。

 それも転移する直前にではない。

 ナナホシと再会したその日から、ずっと彼女のことを思い、危険から遠ざけるために施されていたのだ。

 リベラルは、最初からナナホシのことを考えて行動し続けていた。

 

 感謝しても、感謝しきれないだろう。

 これほどまでに思われていたことに、ナナホシはギュッと胸が熱くなる思いにとらわれた。

 

「分かっているけど、どうして私のために、そこまで出来るのよ……」

 

 そんなことを言っても意味がないことは分かっている。

 それでもそう思わずにはいられなかった。

 ナナホシは、リベラルの知るナナホシとは違うのだ。

 以前に説明もされた。

 だけど、それでも納得出来なかった。

 ただ同じ姿をしてるだけの自分のために、どうしてそこまでしてくれるのだろうと。

 リベラルのことなんて、まだそこまで知りもしないのだ。

 少なくとも、ナナホシの主観では深い関係ではなかった。

 

「ねえ、リベラル……教えてよ。私は、あなたの知る私じゃないのに……どうしてここまで尽くしてくれたのよ……」

 

 どうして、ここまで強い意思を持てるのだろうか。

 どうして、死ぬまで約束を果たそうとしてくれたのか。

 どうして、五千年近い歳月を待ち続けることが出来たのか。

 何一つ分からない。

 今すぐ会って聞きたかった。

 それが叶わぬ思いだと分かっていても。

 

「……手紙。もしかして、これに全部書いてるの? 話す機会を避けて、態々手紙を書いたんだから」

 

 だから、答えを求めてしまう。

 例え期待していた内容と違っても、目を離さず読まなくてはならないのだろう。

 それが、今のナナホシに返せる恩返しだった。

 

 視線を次の手紙へと向け、彼女は続きへと目を通した――。

 

 

――――

 

 

『さて、ここからの内容は、個人的なものです。

 帰れなかったり、分からないことがあるのならば、他の手紙を参照して下さい。

 

 ……今更ですが改めて手紙にするのは、何か気恥ずかしく感じますね。

 書いた文章を私が目を通してしまうので、そう感じてしまうのでしょう。

 そもそも何で手紙? とか、会話した時に伝えれば良かったじゃん、なんて思ってるかもしれません。

 面と向かって伝えるには、ちょっと大変というか……かなり勇気が必要な内容だったんです。

 

 だから、これから貴女が読むものは私が勝手にしたことであり、私が勝手に思ったことになります。

 決して静香は何も悪くないので、気を悪くすることがなければ幸いです』

 

 

 そんな前置きを記し、リベラルの手紙は更に続く。

 

 

『静香と出逢ったのは、私の前世の話です。

 お伝えしたように、何十年もの間一緒に暮らし、元の世界に帰すための協力をしていました。

 打算もありましたけど、それでも凄く楽しい日々でしたよ。

 

 親友。

 

 その言葉が一番適切なんでしょうね。

 だからこそ、願いを叶えてあげたかった。

 まあ……失敗してしまったんですけどね。

 

 静香の亡骸を前に、私は約束を果たせなかったことを嘆きました。

 嘆いて嘆いて……そして、それでも諦めきれなかった私は、過去転移を実行しました。

 その結果、不思議なことに五千年近く前に転生したんです。

 

 当初の私は、静香との約束を果たすために行動しようとしてました。

 けどまあ、運が良いのか悪いのか……転生したらラプラスの娘だった件について、みたいな感じになったんですよ。

 そこで、私はヒトガミを倒すって誓いを立てました。

 

 そこから何十年、何百年、何千年と過ごしました。

 でもね、ふと思うことがあったんですよ。

 

 ――何で私は静香との約束を果たそうとしてるんだろう……って。

 

 馬鹿な話ですよね? 自分で選んだことなのに。

 でも、ただの人間だった私には、ここまでの時間はあまりにも長過ぎた。

 だって五千年ですよ? 20世紀の倍以上の長さなんて想像できますか? 出来ませんよね?

 

 それでも私は、その約束を捨てることが出来なかった。

 なんせ、そのために人生を一度捨てたんですから。

 途中で諦めるなんて、それこそ出来なかったんですよ。

 私は静香との約束を果たすために、前に歩み続けるしかなかった。

 

 ヒトガミを倒すための機会もありましたけど、それを手放したりしました。

 ラプラス戦役ではそれが顕著ですね。

 貴女との約束と、ヒトガミを倒すという誓いを両立出来ないタイミングがあったんです。

 

 正直、何してるんだろうって。

 静香と約束なんてしなければよかったって。

 何で私は、こんなに苦労してまで約束を律儀に守ろうとしてるんだって。

 時間と失敗を重ねる毎に、その思いは何度も渦巻きました。

 

 後悔もしました。

 恨みもしました。

 怒りもしました。

 

 全てを投げ出してやろうって、そんなことを思ったりもしました。

 自分勝手ですよね? 私もそう思います。

 それほどまでに、苦しかったんです。

 でも、その度に頭の中を過ぎた。

 

 貴女と過ごした日々が。

 静香の笑った顔、怒った顔、悲しんでる顔、泣いてる顔。そして、絶望した顔。

 もう二度とあんな想いをさせないと、そう奮い立つことが出来ました。

 

 静香と会った時、私ってかなり情緒不安でしたよね?

 私の自分勝手な思いが原因だったんです。

 なので、それに関しては本当に申し訳ないと思ってます。

 貴女を不安や不快にさせるつもりはなかったんです。

 

 ……話が逸れましたね。

 とにかく、私は静香のことが大好きだったんです。

 貴女と過ごした日々が、私の宝物だった。

 私にとって、貴女が全てだったんです。

 

 貴女は私の知る静香とは違うって思ってるかも知れませんけど、そんなことはありません。

 今の静香も、未来の静香も一緒です。

 その顔も、仕草も、声も、性格も、考え方も。

 全部全部一緒です。

 

 今の静香は知らないでしょうけど、かつて言いました。

 あなたでよかった、と

 でもそれは、こちらの台詞です。

 だから、これだけは言わせて下さい。

 

 

 私こそ――貴女でよかった。

 

 

 後悔も、悲しみも、苦しみも、怒りも、絶望も。

 その先にいたのが静香だったからこそ、乗り越えられた。

 

 だから――満足です。

 この結末に至れたことに、私は満足しています。

 

 静香、忘れないで下さいよ?

 あの時に言った私の言葉を。

 

 未来に貴女がいるのならば、私がまた呼びましょう。

 未来で何かする必要があるのならば、共にしましょう。

 

 だから、元の世界に帰っても。

 どれほどの時間が経過しようとも。

 私は決して忘れません。

 

 また、会いましょう。

 

 

 

 

 九章 “それが貴女と交わす約束” 完

 

 

 ですからね?』

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

 異世界に転移した時、私は自分のことを不幸だと呪ってしまった。

 けれど、そんなことはなかったのだ。

 誰よりも、恵まれた環境にいた。

 

 ポタポタと、雫が流れ落ちる。

 溢れ出る感情を、塞き止めるとこが出来ない。

 私は、誰よりもずっと想われていた。

 

「……うっ……ひっく……」

 

 前世から。

 五千年前から。

 ずっとずっと、忘れることがなかった。

 

「……リベ、ラル」

 

 リベラルは、最初から最後まで一貫してやり遂げたのだ。

 途中で迷うことがあっても、歩みを止めなかった。

 

「ありが、とう……ありがとう、ございます……」

 

 思い返せば、私はリベラルに何も返せてなかった。

 素っ気ない態度はよく取ってたし、関わる時間もそこまで多くなかった。

 リベラルはそのことを気にせず、よく接してくれていた。

 

 ご飯もよく作ってくれた。

 馬鹿なことを言って雰囲気を変えようとすることもあった。

 さり気なく助け舟を出すこともあった。

 

 それなのに、私はそのことを当たり前のように受け入れていた。

 

「私、忘れないよ」

 

 噛み締めるように、口にする。

 

「待ってる。ずっと待ってるから」

 

 リベラルの知る未来の私がどうだったのかは知らない。

 分かるのは、今の私がリベラルに何も返せてないことだ。

 だから、せめて1つだけは絶対に返そう。

 

 

「また、会いましょう――!」 

 

 

 それがリベラルと交わす約束。

 再会の約束だ。

 

 

 

 

 ――こうして、1つの物語が終わりを迎えた。

 

 ナナホシとリベラル。

 前世から繋がっていた、1つの約束は果たされた。

 本来の歴史では、至ることの出来なかった結末。

 けれどこれで終わりではない。

 2人の間に、新たな約束が交わされたのだ。

 

 物語は、まだ終わらない。

 これからも、ナナホシとリベラルの物語は続いていく――。




作中で記したように、ナナホシ関連の話はこれで終了です。
当初の目的であった、ナナホシの帰還について書ききれて満足ではあります。
リベラルの前世についても、これで出し尽くした感じですね。
残すは、今世の話。
因縁の相手であるバーディガーディと闘神鎧です。
その2つに決着がついたら、この物語は幕引きとなります。

Q.何でナナホシの転移先が通学路の途中だったの?
A.ヒトガミの配慮です。かの神は優しいので、態々ご両親に発見されやすいよう、転移事件の揺らぎから近辺を割り出し届けてくれました。ありがとうヒトガミ!

Q.ナナホシの死亡回避。
A.正確には死亡してますが、そこから復活した形です。六章1話にて、その指輪を渡しております。

Q.指輪を嵌めた手。
A.右手です。リベラルと結婚する気はないので。

Q.リベラルは予見してたの?
A.作中で記載した通りです。ヒトガミが現れることまでは想定してませんが、転移後に即死する可能性を考慮してました。ナナホシと会うずっと前から、その可能性を消すことを考えていたため、五千年の間に用意してました。

Q.ナナホシのその後。
A.再び高校生活を送る。けれど、以前よりもずっと成長していたナナホシはラノベ主人公の如く逆ハーレムを築くのだった(嘘)。
ルーデウスの前世の家族と会ったり、リベラルの本を読んで転移装置を作ろうとしたりする。とりあえず、篠原くんを助けようと行動を開始しています。

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