原作との矛盾した設定の練り直しが完了致しましたので、投稿を再開致します。
今後はこのようなことがないよう、努力致します。申し訳ありませんでした。
※10月9日追記
批判募集したいと思います。もし、この作品を読んで下さった方で、この作品に不満点を感じられましたら、遠慮なくそのことを言ってくださると幸いです。
そういった不満点を参考にし、改善出来るようにしたいものですので。やはり、書くからには皆様も納得出来るものを書きたいものですから。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
1話 『ターニングポイント・ゼロ』
――どうして、私を助けてくれるの?
――さて、どうしてでしょうね?
白髪の少女の問い掛けに、私はからかうかのような笑みを浮かべて答えた。
はぐらされたことは明らかであろうが、少女はそのことを気にした様子も見せず、自身の腰に掛けられた毛布へと視線を落とす。
――私には…何もないの。私は…貴方に何も返せないのよ…?
――いえいえ、既に貴方からは十分なものを頂いてますよ。
――…………。
私のあっけらかんとした態度に、白髪の少女は黙り込んでしまう。
――私はですね、大きな目標を成し遂げたばっかりで、空っぽになってたんですよ。
――空っぽに…。
――そう、私も貴方と同じで空っぽなんですよ。
そんな辛辣とも言える言葉に、白髪の少女は気にした様子も見せず、隣に置かれていた新聞を手に取っていた。
――大きな目標…それはこれに載ってること?
白髪の少女が差し出してきた新聞には、『時空間の権威、現る!?』なんてことがデカデカと記載されていた。
因みに、この権威というのは私のことである。以前にとある実験を成功させ、世界的に有名となった学者だ。
――そうですよ。燃え尽き症候群って言うんですかね? 頑張って必死こいて成し遂げたんですけど、それ以来、一気にやる気なくなっちゃったんですよ。
――……そう。
だが、少女は素っ気ない態度で再びうつむく。
――……ふむ。
そんな彼女の様子に、私は思案げな声を上げる。そして、ポツリと口を開いた。
――私が貴方を拾った理由なんですけどね…単純に、私の目標になるかも知れないって思ったからなんですよ。
――…どういうこと?
――そのままの意味ですよ。貴方の存在は、私の新たな目標になりうるってことですよ。
――…………。
よく分からない。そんな表情を浮かべる少女に、私は苦笑を浮かべる。
――つまり、貴方の願いを共に叶えましょうってことですよ。
――……えっ?
私の言葉を聞いた少女は、とても、とても酷く驚いた表情を浮かべていた。
――…どうして…そんな…。
――だから、言ったではありませんか。貴方は私の新たな目標になりうるって。
――……そう、そういうことね。
――ええ、そういうことですよ。
そして、私は胸をドンッと叩く。
――任せて下さいよ。何てったって、私は天才ですからねっ!
――天才…自分でそんなこと言うのね。
――フフフ、世界的に認められてますから問題ありませんよ。泥船に乗ったつもりで安心したまえ!
――……それ、全く安心出来ないわよ…。
大して笑うことも出来ない寒い冗談を口走る私に対し、呆れからなのか少女はようやく笑顔を見せる。
――…………。
けれど、唐突にその笑みは止まり、顔をうつむけた。一筋の雫が垂れ落ち、そのまま鼻を鳴らして泣き始めてしまう。
――ありがとう、ございます。
声を殺した嗚咽を上げながら、白髪の少女はそう呟いた。
――……貴方は救われるべき人です。こんなところにいるべきではありませんよ。
――私のために、ありがとう、ございます…。
私の言葉に、少女は感謝の言葉を出しながら泣き続ける。
これは、私の根底にある思い出。決して忘れてはならぬ記憶。
過ちではない、罪ではない、贖罪でもない、ただの私情。やりたいから、やるのだ。
気付くには遅すぎた。失ってからでは、何もかも手遅れなのだ。温もりは、暖かさは、掌から零れ落ちてしまった。
だからこそ、忘れてはならぬ。次こそは失わぬよう、刻み込まなくてはならない。魂に、その意思を。
――――
その山脈は、陸地を横断するかのように存在していた。そんな山脈の中心部には、ひときわ大きな山が存在する。
名は龍鳴山。
遠い昔、龍界と呼ばれる世界に存在していた龍族の故郷にあやかり、その名が付けられた。
大陸の中央に位置するこの山は、しかし、レッドドラゴンと呼ばれる獰猛な竜の縄張りとなり、とても人が住めるような地ではない。
だが、龍鳴山の中腹に、一軒の家がポツンとあった。ドラゴンが飛び交う山に、人の住むための家があるなど異様な光景だろう。その家に近寄れば、更に驚く光景が映ることとなる。
幼女だ。
年端も行かぬ幼い子供がいるのだ。
緑と銀の混ざり合ったメッシュで、肩まで届かぬ髪を伸ばした可憐な幼子である。
そんな幼女は桶を持ちながら、家の前をえっちらおっちらと歩いているのだ。家の裏へと行っては戻り、桶の中身を裏手へと運んでいた。
幼女を追い掛けて裏手へと進めば、その先は大きな洞窟となっている。そこから更に奥へと進めば、巨大なナニかがそこにいるのだ。
巨大な体と長い首、赤い鱗、鋭い牙と爪を持つ、爬虫類が棲息していた。即ちレッドドラゴンだ。
それも通常のものよりも巨大な竜である。体格だけでも、平均的なレッドドラゴンの二倍、翼を広げれば三倍はあるだろう。
幼女は竜の近くに置かれた箱の中へ、桶の中身を流し込んでいた。レッドドラゴンは、少女を見ても、敵意を示さなかった。それどころか、欠伸をするかのような仕草を見せながら、幼女の働きぶりを眺めていた。
幼女もそのことを気にした様子も見せず、何度と何度も往復しては、桶の中身を箱の中へと流し込んだ。そして、箱がある程度満たされたところで、幼女は桶を置いて疲労したからだを伸ばし出す。
「ふぅ…ようやく終わりましたね」
幼女は幼女らしからぬ滑舌で呟き、竜へと一礼する。ドラゴンはドラゴンで「ご苦労」と言わんばかりに鼻を鳴らし、桶へと顔を突っ込み始めた。
その様子を確認した幼女は、問題なくご飯の用意が出来たと判断し、家へと戻って行った。
木造の、何の変哲もない家である。だが、見る者が見れば、その家には高度な魔術結界による防護が施されていることがわかっただろう。
「ラプラス様ー、サレヤクト様への食事の用意が終わりましたよー」
幼女が家の中へと入れば、そこには生活感あふれる光景が広がっていた。
椅子にテーブル、観葉植物、紙束に、何に使うのかわからないガラクタの数々。それらは綺麗に整頓されており、まるで展示品のように並べられていた。
幼女は特に周りへと視線を向けることなく、家の奥へと歩いていく。声を掛けた相手の元へと、向かっているのだ。
お城のように巨大な家でもないので、目的の場所にはすぐにたどり着いた。家の最奥にある部屋だ。この家の主が滞在している、もっとも広い部屋である。
「ラプラス様?」
幼女は扉を開き中へと入った。中には少女の背丈の数倍はあろうかという高さの本棚が、所狭しと並んでおり、まるで図書館のような部屋であった。
幼女は本棚の立ち並ぶ区画の、更に奥へと足を運ぶ。
図書館という建物は、この世界には数えるほどしか存在していない。
だが、この本だらけの環境は、彼女にとっては見慣れた光景であり、目をとられるようなものでもなかった。
そんな本だらけの領域の中に、一人の男がいた。入り口に背を向け、机に向かって無心に何かを書いていた。
銀色と緑色の入り混じった斑模様の髪。
幼女と似たような髪色であるが、幼女とは違い不気味な模様だろう。けれど、その幼子にとってはそれすらも見慣れたものであった。
「ラプラス様」
幼女が呼びかけると、男は弾かれたように顔を上げる。背中の翼をゆっくりと広げて後ろを振り返り、幼女の姿を認めた。
「おや、リベラル。こんなところで何をしているんだい? 君が覚えることは沢山あるんだ。まだ終わってないだろう?」
「いえ…サレヤクト様への食事は終えましたし、鍛練は既に終えましたよ…」
「おや、そうかい?」
男は立ち上がった。すると、少女は男を見上げるハメになった。なにせ、男の背丈は二メートルを越えるほどに大きかったからだ。
ラプラスと呼ばれた彼は、顎へと手を当て、悩む仕草を見せる。
「そうか、食事の用意も終わったか。ご苦労様。それにしても、そうか、鍛練が終わるほどに時間も経っていたか」
「何ですかその反応は。まさか今からまたやれとか言いませんよね…」
「勿論やれと言うとも。君には何としても、私の持ちうる全ての技術を会得してもらわないといけないからね」
男の返答に、幼女はげんなりした様子を見せる。最早この世の全てに絶望したかのような、苦い表情を浮かべた。
「もう休みたいんですが」
「駄目だよ。既に奴の攻撃を受けているからね。私は無敵じゃないから、どうしても早急な保険の確保が必要なのだよ」
「……保険…ですか」
「そう、保険だよ。何度も言っているだろう? 私も、君も、何としても生き延び、将来に誕生する御子様に伝えなければならない、と」
そこから彼は一呼吸置き、更に言葉を口にする。
「
それが、それこそが、我ら龍族の悲願だと――。
そして、その地に至るには、五龍将の秘宝が必要だ。世界の各地で見つけた五龍将の末裔。その彼らに渡した龍神の神玉の欠片から作った秘宝が。
だが、その際に――龍神の神玉は一欠片だけ余っていた。
ラプラスは欠片の扱いに悩んだ。ヒトガミを倒すために使おうと考えていたのだが、どのようにして使わせてもらうのか悩んだのだ。
魔道具に組み込み、ヒトガミの未知の力に対応する――奪われた際のリスクを考慮し、その案は却下した。
無の世界へと至ることを更に磐石とするため、五龍将の秘宝と同じ扱いをする――既に方法は確立されているので、無駄に補強する必要はない。
自身に埋め込み、龍神の神玉の力をより多く得る――既に埋め込まれている以上、更なる力は死を招きかねない。
様々な案を捻り出し、迷いながらもラプラスはひとつの答えを出した。
『己の子孫に、龍神の神玉の力を与える』
これが自身の無い頭で絞り、考え付いた最良の答えだった。慎重に吟味し、辿り着いた未来への一手。
もしもラプラスが死んだとしても、未来に生まれるオルステッドに繋げられる保険にもなる。
神玉の力によって、ラプラスが解明出来ないヒトガミの脅威に対応出来る可能性もある。
そして何よりも、オルステッドと共に戦う仲間となる。
五龍将であるラプラス自身は、無の世界へと至るための生け贄なので、共に戦うことが出来ない。彼にとって、それだけは拭いようのない無念であった。
しかし、己の子孫が御子と共に戦うのであれば、憂いのひとつがなくなるのだ。
だが、子孫に龍神の神玉の力を託すには、大きなリスクがあった。
龍神の神玉とは神の力である。欠片とは言え、それは途方もない力だ。
だからこそ、力ある五龍将にしか神玉は与えられなかったのだ。身に余る絶大な力により、魂を維持出来ないが為に。
子孫に龍神の神玉を託す最大のリスクとは、即ち子孫の死である。もしも死んでしまえば、定着させる神玉を無駄に失うことになるのだ。
けれど、ラプラスは迷うことなく実行した。
神の力をより強く馴染ませるためには、不純物のない赤子の時が最良だ。神の持つ運命は強固であるが、妊娠中であれば運命は最も弱くなる。
不完全な理論を組み立てつつも、ラプラスは目的の為に進んで行った。同胞の龍族と人族のハーフである女性に協力してもらい、彼は大きな一手の為に子孫を生み出し――
――失敗する。
神玉の力に耐えきれなかった女性は死亡し、赤子も当然ながら耐えきれずに死亡した。そして、神玉は碎け散った。結果として、龍神の遺産を無駄に失ってしまったのだ。
その後、ラプラスはとあるエルフの少女を拾い、闘神によって魂を真っ二つにされる。そして、“人”を憎悪する『魔神』と、“神”を打倒せんとする『技神』となり、オルステッドの最大の障害として立ちはだかってしまう。
それが、本来辿る正史。
けれど、この世界では違った。未来に大きな揺らぎがあったのだ。
とある
しかし、それは遠い過去であるラプラスには何も関係はなかったし、実際に彼の運命が変わることはない。
だが、彼が生み出そうとした子供には、ありうべからざる奇跡が起きた。
この世界では、ラプラスの子孫が誕生した。
その子を生んだ女性は死んでしまったが、赤子は龍神の神玉の力を馴染ませ、誕生したのだ。
ラプラスは生まれた己の子供を抱き抱え、とある名を授けた。
――リベラル。
それが、最初のターニングポイント。
生まれる筈のなかった特異点。
平行世界とは、行動によって無限に分岐する。
過去が揺らげば未来が変化するのは当然のこと。しかし、未来が揺らぐことによって、過去が変化することもあるのだ。