「はーい☆ 新入生の皆さんっ! 入学おめでとーーーーッ!♡ 先生のことはユリちゃん☆って呼んでね」
朝っぱらからハイテンションが過ぎてむしろウザいこの人は我らが一年一組の担任の『折木有里』先生だ。いつもはこんな人ではないのでおそらく新入生のお祝いのために無理にテンションを上げて祝ってくれているのだろう。その気持ちはありがたいけど歳を考えなくちゃ歳を。ほら、クラスのみんな(俺や一輝を除く)が引いてるし。
「今日は初日なので授業はありませんがみなさんには『七星剣武祭代表選抜戦』についての連絡があるので、みんなは生徒手帳を出してくれる?」
破軍学園の生徒には身分証明、財布、携帯電話、果てはインターネット端末としても使える手のひらサイズの液晶端末が配布されるのである。
とりあえず選抜戦についての説明が長いのでここでも簡単に略すと、
『今年の選抜戦は能略値選抜ではなく全校生徒参加の実践選抜であること』
『その選抜戦での成績上位者六名が選手となる』
『試合日程は選抜戦実行委員会からメールで送られるのでその日に行かないと不戦敗となること』
『試合は三日に一回は必ず行われ一人十試合以上かかること』
『試合に出ないからと言って成績がマイナスになることはないこと』
これらからわかるように一輝に考慮してることは言わずもがなである。
「はい! じゃあこれで先生からの連絡は終わり。それじゃあみんな、これから一年間、全力全開でがんばろーーーーーっ! はーいみんなで一緒に‐‐‐」
(ねえ、湊。折木先生って確か……)
俺の後ろの席にいた一輝が小声で話しかけてきた。
おそらく一輝の言いたいことは折木先生の持ってる『体質』のことだろう。何を隠そう我らが担任折木先生は‐‐‐
「‐‐‐えいえい・おブファーーーーーーーーーーッ!!」
‐‐‐ものスゴい病弱で一日一リットルの吐血をしてしまうのだ。
「「「「「ゆ、ユリちゃぁぁぁああああぁぁぁんッ!?」」」」
「一輝」
「わかってる」
俺と一輝は折木先生がこうなったときの対処法を知っているのでいち早く対処するために教壇まで近づき一輝が折木先生の肩を抱き起こし、そしてまずはどうすればいいか慌ててる他のクラスメイトを落ち着かせるために最初に一輝が発言する。
「あーみんな、大丈夫だから落ち着いて。とりあえず僕が折木先生を保健室まで連れて行くから湊はその血だまりの掃除を」
「オッケー」
「げほっ、ごほっ……ごめんね黒鉄君、天宮君。余計な手間かけさせちゃって」
「大丈夫ですよ。先生は僕の恩人なんですからこれくらいのことは」
これは一輝から聞いたことなのだが、なんでも折木先生は一輝が入学試験のときの試験管だったらしく、そのときも今みたいに吐血して受験書類を汚されたとか。でも彼女が一輝のことを正当に評価してくれたから、一輝は今破軍にいることができているのである。
「じゃあ湊。後のことはよろしく」
そう言って一輝は教室を出て行った。
「さてそれじゃあ、掃除しますか」
えーと、確か血をきれいに拭き取る方法は……
俺が記憶を模索してるとき、ステラが話しかけてきた。あ、ちなみに彼女のことを『お姫様』って呼んでたら、この前ステラでいいって言われたのでそう呼んでます。
「イッキもそうだけどミナトも手慣れてるわね」
「俺の場合は、去年学園の敷地内を散歩してるときに吐血してぶっ倒れてる折木先生のこと見たことあってそのときに介抱したんだよね」
懐かしいなぁ、最初は血だまりの中に倒れてて、なんかダイイングメッセージみたいなのもあったから、急いでバーロー探偵呼ばなきゃって思ったんだよなぁ。
そんな懐かしい思い出に浸りながら掃除をしていると、眼鏡をかけた髪の色が何色かわからない子が話しかけてきた。
「あなたも先輩なんですか!?」
しかも若干どころかかなり興奮気味に。
「え、あ、うん。そうだけど君は……?」
「ああ、これは失礼しました。私、日下部加々美って言います。加々美って呼んでください。先輩の名前は確か、天宮湊先輩でしたね」
ああ、こっちの名前は知ってたのね……
「実は私新聞部を作ろうと思ってて、そこで黒鉄先輩と一緒に破軍高校壁新聞の第一号を飾って欲しいんです!」
……なるほど。てっとり早く売りたいからFランクでありながらAランクのステラに勝った一輝を使うことで部数を伸ばしたいのか。そこに去年も一輝と同じクラスであった俺の話も添えれば真実味が増して、新聞部の評価も上がる、と考えたのだろうな。
「どうですか。もしわからないのであれば私が優しく手ほどきしてあげますよ♡」
ムニュっと俺の腕にその豊満な胸を押しつけてきた日下部さん。躊躇なく色仕掛けしてきたなぁこの子……
だがダメだな。その手の手合いの扱い方は心得ているんだよ。
俺はすべての女子の憧れであると聞いたことのある『アレ』を実行することにした。
えーと、確か相手のアゴをくいっと持ち上げて‐‐‐
「‐‐‐いいぜ、ならこのあとすぐにでも俺の部屋でお願いするよ。ああ、安心しな。俺の部屋は防音仕様だからどんなに大声出しても平気だから。優しく、頼むぜ? 加々美」
くぁぁあああ!! 背中がムズムズするぅぅぅッ!! 誰だこいつは!?
ま、まあでも色仕掛けなんて手を躊躇なく使うような子だから、こんな聞きかじりの素人感丸出しじゃダメだろうけどねぇ。
「え、えと、その、あの………わ、私初めてですのでこ、こちらこそ優しくお、お願いしますね/////////」
…………あれぇ?
「……うわぁ」
ああ!? ステラがものすごい勢いで引いてる!? なんか日下部さんも顔真っ赤にしてぽやぽやしてるし!?
「私、男の人にあんな大胆にこ、告白されたの初めてですぅ……」
いやぁぁあああああ!? まさかのそういう耐性の無い子だったの!? じゃあ色仕掛けなんて使わない方がいいよ、向いてないよ日下部さん!
いやそんなことよりも誰かツッコミ的なものを入れられる人はこのクラスにいないの!?
ステラは……ダメだまだ引いてる! 一輝は、ってあいつは保健室ぅ!
「どうしたんですか? 天宮先p、じゃなくて湊さん。……早く行きましょうよぅ」
俺が混乱してるとまたもや腕に胸を押しつけてきた日下部さん。しかも今度は腕を絡ませて指を恋人つなぎ+名前呼びというオプション付きで。
おぃぃいいいいい!! 頼むだれかツッコミををををを!!
「いや、何してんの湊」
瞬間、俺は帰ってきた一輝がまるで後光の差す神さまのように見え、救いを求めた。
「助けて、一輝しゃまぁああああ!!」
後に天宮湊の友人である黒鉄一輝は語る。あれほどまでに荒れた友人の顔を見たのは初めてだ、と。
「なるほど。そういうことか」
一輝は自分がいない間に何があったのかの説明を求め、俺が懇切丁寧に説明することになった。
…………まぁ、その間も日下部さんは俺の腕から離れようとしなかったけどね。
「それ湊が悪いよね」
「うぐぅ!」
「だって普通に断ればいいだけの話だし、変な風にしようとしたからこうなったんだよ?」
「はぅぅ!」
先ほどから言われっぱなしの俺。く、くそ言い返したいけど言葉が何も出てこない……!
「……湊さんは」
「ん?」
先ほどから黙ってた日下部さんが話し出した。
「湊さんは私と付き合うのイヤ、なんですか?」
涙目でそう言ってきたのである。
「もしそうなら私は全然かまわないです、よ? 元々湊さんに色仕掛けなんてした私が、悪いんですから……うぅ」
やばいやばいやばい。ステラとクラスの女子が後ろで『固有霊装』構えだした。
「でもうれしかったです。ウソでも湊さんみたいなカッコイイ人に告白されて……。私は満足です」
やばいやばいやばいやばい。ステラは天に掲げて詠唱してるし他の人たちもなんか詠唱してる!
「どう思うみんな?」
「「「「「「「「「「死刑」」」」」」」」」」
あ、今日が俺の命日か……
その日一年一組でとてつもない大きな爆発が起きた。何事かと駆けつけた他の教師たちはクラスにいた人たちから事情を聞き、俺がすべて悪いという教師陣全員の一致で『固有霊装』を使ったステラ他クラスの女子たちはお咎めなしだったそうな。めでたしめでたし。