落第騎士と飢えた騎士   作:てーとくん

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模擬戦

 黒鉄一輝とステラ・ヴァーミリオンによる模擬戦はあの後すぐに行われることになり、破軍学園の敷地内にある数あるドームの内の一つ、第三訓練場で行われることとなった。

 

「それではこれより模擬戦を始める。双方、固有霊装を『幻想形態』で展開しろ」

 

「来てくれ。『隕鉄』!」

 

「傅きなさい。『妃竜の罪剣』!」

 

 固有霊装とは伐刀者自身の魂を具現化した装備のことである。今回は模擬戦ということで相手に身体的ダメージではなく精神的ダメージを与えるだけの『幻想形態』での試合となっている。

 

「では‐‐‐LET'S GO AHEAD!」

 

 幻想形態での固有霊装の発現を確認すると、黒乃は試合開始の合図をした。

 

 

 

 

 

「ハァァァァァァ!」

 

 試合開始の合図とともにヴァーミリオンは炎を纏った『妃竜の罪剣』を一輝に対して思いっきり振り下ろした。

 

 力任せに振り下ろされたその一撃を一輝は『隕鉄』で受け止めようとするが。

 

「ッ!!」

 

 その一撃の脅威を感じ取ったのか、一輝は後ろに下がった。

 すると地面に振り下ろされた『妃竜の罪剣』の一撃はズドン、と地面のみならず第三訓練場を揺らした。

 

「良い見切りね。受けようとしたらその瞬間に終わりだったわよ」

 

「……すごいな、これがAランク騎士の力か」

 

 歴代のAランク騎士は一人残らず歴史に名を残すほどの大英雄であり、そしてステラ・ヴァーミリオンの前評判である『十年に一人の逸材』。そのことが決して嘘偽りでないことを確認した一輝は『隕鉄』を握り直し、改めて相対した。

 

 

 

 

「天宮、お前はどっちが勝つと思う?」

 

 試合開始の合図をした黒乃は観客としてこの試合を見守っていた湊に聞いてみた。

 

「一輝です」

 

 すると湊はほぼ即答で一輝が勝つと言い放った。

 

「ほぉ、即答か」

 

「えぇ。一輝の持つ技術や切り札のことを考えれば、Aランクであろうが勝てるはずです。実際、ここにハンデありとはいえ、その一輝に負けたAランクがいますしね」

 

 そのAランクとは黒乃のことであり、実は黒乃は元世界ランキング三位の実力者であり、二つ名である『世界時計』はあまりにも有名である。その実績を買われ、破軍学園の理事長になったというのが理由の一つでもある。

 

「まぁ確かに、黒鉄には並大抵の騎士では相手にならないだろうな」

 

「‐‐‐故に俺は期待してるんだよ。あいつであれば、黒鉄一輝であれば俺のこの飢えを必ずや満たしてくれるはずだと。それを邪魔するのが誰であろうとすべて殺してやる。無論、あんたが相手でもな」

 

 口調が先ほどとは違い、いきなり乱暴な言葉遣いになる。いや、これはそんな生やさしいものではない。なにか狂気的なものを感じる。

 

「天宮、口調。地がでてるぞ」

 

「‐‐‐失礼しました」

 

 黒乃の指摘にハッとなり、我に返った湊は急いで口調を元に戻し、一輝とステラ・ヴァーミリオンの試合へと目を向け直した。その試合は佳境を迎えようとしていた。

 

 

 

 

 

 一輝が持つ技術である敵の剣術の欠点をすべて是正し、完全上位交換の剣術を編み出す。その剣術を戦闘中に作り出す一輝だけの剣術『模倣剣技』。それにより、ステラが修めていた『皇室剣技』は盗まれ、欠点のない剣術へと昇華された一輝に押されていた。

 

(強い…………ッ!!)

 

 この模擬戦の前、聞こえてきた一輝に対する評判はひどかった。単位が足らずに進級できないことから『留年生』、ランクがFであることから付いた二つ名『落第騎士』。それらの事実を鵜呑みにし、ヴァーミリオン皇国にいた頃のようにステラ自身を天才という枠にはめて自分を正当化させようとしてきた奴らと一緒だと、思っていた。

 

 しかし、実際はどうだ? 自分が長年かけて修めた『皇室剣技』は簡単に真似されただけでなく、欠点をなくした完全な剣術へとものの数分で昇華させられ、しかもその剣術を使い、自分のことを追い詰め、こちらの剣は全く相手にかすりもしない。このままでは勝敗は目に見えているだろう。

 

(ふざけるなッ!!!)

 

(負けてたまるものか、国のためにも、国民のためにも私は勝ち続けて更に強い騎士へとならなければいけないのよッ!!!)

 

 小国であるヴァーミリオン皇国。大国から攻め入られてしまえば、すぐに征服されてしまうだろう。そうならないためにステラは強くならなければならない、強くあり続けなければならない。かつての第二次世界大戦で同じく小国であった日本を戦勝国へと導いた大英雄『サムライ・リョーマ』のように。

 

 「これで、決める!!」

 

 小手先の技では勝てないと判断したステラは自分が持つ最大火力の技、『伐刀絶技』を放つために、観客席とリングを隔てる壁際まで跳躍した。

 

「蒼天を穿て、煉獄の焰」

 

 天に掲げた『妃竜の罪剣』に宿る炎が一層光と温度を増した。それはもはや炎ではなく、光の柱へと変わり、ドームの天井をその上がりすぎた温度のせいで溶かしていた。

 

『おいおいおい、なんだよコレッ!?』

 

『滅茶苦茶だ! 本当に同じ人間かよ!?』

 

 一輝たちの試合を暇つぶしやステラの実力を興味本位で知ろうと見ていた他の観客の生徒たちは落ちてくるがれきを見て逃げようとしていた。

 

 上がりすぎた温度と光、それはすでに太陽と呼んでも差し支えないほどだった。剣技の競い合いはもう必要ない。この一撃をもってこの試合を終わらせる。そんなステラの気持ちや感情が加わっているのか、『妃竜の罪剣』は光るのを止めず、温度を上げるのも止めなかった。

 

「『天壌焼き焦がす竜王の焰』!!!!」

 

 ドームの天井を焼き切りながら振り下ろされる剣は、滅びの意味も併せ持っていた。

 

『おい、急げ! 早く逃げるぞ!』

 

『いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

『人相手に使っていい技ではないな』

 

『ですね』

 

 逃げる生徒たちをよそに、どこからか湊が持ってきたスナック菓子をバリボリと黒乃と一緒に食べながら崩れるドームを見てつぶやく二人。黒乃は「また今日も徹夜か……」とまだ見ぬ書類のことを思ってつぶやくが湊はあえて聞いてないフリをした。管理職コワい

 

 

 

 

(すごいな、ステラさんは)

 

 一方の一輝はステラから放たれる『伐刀絶技』を前に何もせず、ただ佇んでいた。

 

 黒鉄一輝。高ランク騎士を輩出する名家、黒鉄家に生まれるもその劣った才能のせいでいない者と扱われてきた。自分も剣を習いたい、魔導騎士になりたい。そんな願いは周りにいるランク至上主義な人間たちのせいで叶わなかった。幼少の頃より、ずっと黒鉄家にある外から鍵をかけられる部屋に閉じ込められていた。

 

 そんな中元旦の集まりで聞こえてきた笑い声に耐えることができず、部屋の窓から逃げ出した。しかし黒鉄家のある場所は山奥、しかも季節は冬なので雪も降っていた。帰り道もわからなくなり、ここまでかと思うがまだ何もしてないのに諦められない、と泣きじゃくる。

 

 そのとき、現れたのが『サムライ・リョーマ』こと黒鉄龍馬だった。

 

 彼は泣いていた一輝の頭に手を置き、撫でながら、

 

『そのくやしさの粒はお前が自分を諦めてねぇ証だ。それを捨てんじゃねぇぞ。諦めない気持ちさえあれば人間はなんだってできる。何しろ人間てやつは翼もないのに月まで行った生き物なんだからな』

 

 その言葉を信じてここまでやってきた。黒鉄家を出奔してまでここまで進んできた。

 

 そんな中学園が黒鉄家とグルになって僕を進級させないようにと言ってきたらしい。さすがにそのときはもう駄目かなと思ったけど途中で理事長が変わった。神宮寺黒乃さんだった。彼女は僕に『七星剣王』になれれば卒業させてやると言ってきた。チャンスだと思った。

 

 龍馬さんの言ったことを自分と同じ境遇の人に伝えられるような大人になりたかった僕は七星剣王になれば伝えられると思い、その条件を承諾し、そして七星剣王は僕の夢となった。

 

 

 

 

 

 だから‐‐‐

 

「‐‐‐僕は絶対に諦めないし、負けられないんだ!!」

 

 一輝は自分の夢のため、自分が持てる最後にして最大の切り札を切った。

 

「いくよステラさん。『僕の最弱を以て、君の最強を打ち破る』!」

 

 途端に一輝の体と、『隕鉄』が光り輝く。

 

 それこそが一輝がたどり着いた境地。才能のない自分が天才だけでなく努力してる天才に勝つことのできる唯一の方法。

 

 一分間だけだが体にかかってるリミッターを外すことにより最弱の能力を何十倍にも引き上げることができる『伐刀絶技』。

 

「そうだ、見せてやれ一輝。お前のことを馬鹿にしたザコどもの度肝を抜いてやれ」 

 

「‐‐‐ああ、もちろんだ!!!」

 

 Aランクの騎士であろうと自分より格上であろうと勝てる可能性を持った『伐刀絶技』の名は。

 

「『一刀修羅』」

 

 ステラの一撃を躱した一輝はそのまま懐まで潜り込み、最後の一撃を喰らわせる。

 

「あ‐‐‐」

 

 そしてステラは気絶してしまい地面に倒れた。この瞬間、勝敗が決定した。

 

「勝者、黒鉄一輝!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後……

 

 

「……んっ。あれ、ここは?」

 

「寮の部屋だぜ。お姫様」

 

「あ、あんた確か理事長室にいた……」

 

「そういえば挨拶がまだだったな。破軍学園所属1年1組の天宮湊だ。ちなみに一輝の友人で同じ留年生だ。よろしく」

 

「ええ、こちらこそよろしく‐‐‐ってあんたも留年生!?」

 

 湊の衝撃的な事実に驚いたステラは思いっきり立ってしまったせいで二段ベッドの一段目のベッドの天井に頭を思いっきりぶつけてしまった。

 

「~~~~~~~ッ!?」

 

「あんまり暴れんなよお姫様。上で寝てる一輝を起こしちまうぜ?」

 

「えっ?」

 

 ステラは上を確認し、一輝が本当に寝てることを確認し、安心する。

 

 そしてステラが最も確認したかったことを湊に聞いた。

 

「ねぇ、あんたイッキの友人て言ったわよね」

 

「ああ、言ったな」

 

「なら教えて。こいつは一体何なの?」

 

「それは私から言おう」

 

 ガチャッと部屋のドアをあけて入ってきたのは黒乃だった。

 

 あの試合が終わってから一輝は『一刀修羅』の副作用である衰弱のために倒れてしまい、観客も全員逃げて、残っているのが湊だけだったので理事長は部屋に戻すよう言いつけたあと、急いで理事長室に戻り、そして急ピッチで書類を書き上げて今この場にいるのである。

 

「書類、書き終わったんですね」

 

「ああ、危うく自分の能力を使うところだったよ」

 

 まあそれはそれとして、ステラの気になったことは変わりに黒乃が説明してくれることになった。そしてその説明を聞いたステラは‐‐‐

 

「‐‐‐何よそれ。それが親の、教師のすることなんですか!!」

 

「最もな反応だよ、お姫様」

 

「ああ、私もそう思う。よって着任した際、その手のクズどもは全員クビにしてやったよ」

 

 だがそんなことをしても一輝の奪われた時間が戻ってくるわけでもない。

 

 しかし一輝は腐ることなく、すべての理不尽と戦い続け、その果てに『最強の1分間』を手に入れた。

 

「……なんであいつはそこまでやるんですか」

 

「そうだな。君が日本にまで留学した理由と同じようなものだよ」

 

 ステラが日本にまで来た理由。国を守るために強くなるとは別にもう一つだけ、自分のことを色眼鏡でしか見ない者たちのなかにいると、成長することができない。だから国を出た。

 

「まあ、何はともあれ、体に異常がないのであれば私は帰らせてもらうよ。明日も朝が早いものでね」

 

「お疲れ様でーす」

 

「あ、お、お休みなさい」

 

 バタンと扉を閉めて出て行った理事長。次に湊が立ち上がり外に出て行こうとする。

 

「腹空いてるだろ? この時間だともう食堂は閉まってるからなんか作って持ってきてやるよ。その間一輝のこと頼んだ」

 

「ええ、わかったわ。そのあ、ありがとう」

 

「気にしない気にしない。将来の友人の嫁になるかもしれない人には優しくしないと」

 

 ステラは湊の言ったことがわからず頭をかしげるが、湊が持ってた録音機を聞いてすべてを思い出した。

 

『負けた方は勝った方に一生服従よ!!』

 

 聞き終えたステラは顔を真っ赤にしてあたふたしている。

 

「い、いや、その、それはなんというか…………//////」

 

「まぁこの話はあとでゆっくり一輝も交えて話そうや」

 

 そう言って湊は部屋を出て行った。


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