暁のスイーパー 〜もっこり提督と艦娘たち〜   作:さんめん軍曹

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こんばんわ、さんめん軍曹です。
前回のあとがきで発表した通り、おまけの予定があまりにも長過ぎたのでこちらに分けて投稿します。

今回は金剛さんの昔話。海坊主や美樹と彼女が出会ったきっかけのお話です。一話完結なので、いつもより長めのテイストです()

では、本編どうぞ!!





イギリス美女はご乱心?! ティータイムはキャッツアイで

 

 

 

 

「う〜、喉が渇いたデース」

 

ある夏の日、新宿の路上を歩く片言の女性がいた。

彼女の名前は金剛型高速戦艦の1番艦、金剛である。

彼女は普段、横須賀鎮守府で任務に当たっているが、今日は妹達が演習や出撃の為に唯一非番の彼女は暇を持て余していたのだ。

自分が建造された直後にすぐ戦うことになるとは思いもよらなかったが、今はだいぶ鎮守府にも馴染んできた。そこで、提督から休みと共に紅茶の即売会のイベントを紹介され、わざわざ都心へと出向いてきたのだ。

 

「確か、この辺りだったはずデスが…」

 

昼飯にどうだと提督に渡されたチラシを見ながら、キョロキョロと辺りを見回す金剛。あの時、なぜか提督はニヤけていた気がする…。

 

「あっ、アレデース!」

 

歩道に置かれた看板には、チラシと同じ喫茶キャッツアイの文字が書かれていた。

 

 

「いらっしゃいませー。カウンターへどうぞ!」

 

空腹にやつれた顔の金剛を案内したのは、泣き黒子がある美人のウェイターだった。

 

「Thanks.ダージリンのセットを1つネ」

「あら?貴女外人さんかしら?」

「そうですネー。生まれはイギリスのバロー・イン・ファーネスですが、すぐに日本に来ましタ」

「へー!本場ね!私の作る紅茶、お気に召すといいけど…」

「No,no.気にする事ないデース!」

「ありがと。少し待っててね」

 

やがて、紅茶と一緒にケーキが目の前に置かれた。

 

「私の手作りよ。貴女のような人に食べてもらいたくて」

「ほんとデスか!?嬉しいデース!」

 

そして金剛はフォークを取り、ケーキを口にしようとしたその時。

 

「いただきマー…」

「美っ樹ちゅわーーーん!!」

 

おや?聞き覚えのある声。そう思い金剛が振り返ると、いつぞやのシティーハンターの姿が見えた。

 

「あ、アナタは…!」

「ん?俺に会ったことあるのかいお嬢さん。良ければ今度夜明けのブランデーでも…」

「結構デス。それより、本当にワタシに覚えが無いデスか?」

「んー?言われてみれば…」

 

そう言って獠はまじまじと見つめる。

 

「うー…近いデース…」

「あーっ!思い出した!!篠原んとこの艦娘ちゃんか!」

「Yes,金剛デース!リョウ、やっと思い出したネー」

「篠原って、あの篠原くん?」

「?!」

 

金剛は今日1番で驚いていた。なぜなら、普通の喫茶店のウェイターが、提督の存在を知っていたからだ。

 

「なんでテートクを知ってるデスか?!」

「あら?彼から聞いてない?私も冴羽さんや篠原くんと同じ傭兵部隊にいたのよ」

「えっ?えーーーっ?!」

 

目を白黒させる金剛に対して、獠は質問を投げかけた。

 

「金剛ちゃんの持ってるそのチラシ、あいつから渡されたんじゃないの?」

 

そう言って、彼女のバッグからはみ出しているキャッツアイのチラシをちょんちょんと指差した。

 

「確かにそうですケド…」

「あいつ、ニヤけてなかった?」

「アッ…」

 

ここで全てが繋がった金剛は、妙な納得が行ったのだった。

 

「あっ、ファルコンが帰って来たわ!」

 

入り口を見ると、そこにはキャッツアイバージョンの海坊主が袋を持って立っていた。どうやら買い出しから帰って来たようだ。

 

「ん?お前は…」

「ファルコン!あの時以来ネー」

「金剛ちゃん、驚かないの?」

「?何がデスか?」

「何がって…海坊主のその格好」

 

きょとんとする金剛。彼女はもう一度海坊主を見るが、それでも驚いた様子はない。

 

「別にワタシは驚きませんヨ?ただ、ファルコンのような人がなぜここで働いてるのデスか?」

「あー、こいつらデキてるのよ」

「獠!」

「冴羽さん!」

「What?!Realy!?」

 

その後も2人の経緯を聞いた金剛は、出されたケーキを食べるのも忘れて話に華を咲かせるのだった。

 

「Oh!そんなことがあったんデスね!」

「そうよ。ファルコンたら怪我をした私を放って置けなくて、片手で抱えながらマシンガンを撃ってるのよ!」

「とっても男らしいデスネー」

「ぐ…」

「アハハハハ!!このタコ、照れやがった照れやがった!!」

 

真っ赤になる海坊主を見て獠は大爆笑するが、美樹は彼にも水を向ける。

 

「あら?冴羽さんだってカッコつけてたじゃない」

「はい?」

「そんなファルコンを見かねてか、あなたや篠原くんだって『背後は任せろ!お前は美樹ちゃんを早く安全なところへ運べ!』なーんて言ってたじゃないの」

「あれはタコ坊主より美樹ちゃんの安全が優先だったからさ!」

「ほんとにぃ?」

「こいつは蜂の巣にされたって生きてるよ」

「なんだと?!」

 

いつもの如く喧嘩を始める2人。金剛は紅茶を飲もうとするが、どうやら2人が騒がしいせいで落ち着いて飲めないようだった。

 

「ごめんね。あの2人、一度始めると引っ込みがつかなくなるのよ」

「う〜、せっかくのティータイムが〜…」

 

やがて、置いてあったメニューやテーブル、植木などを投げ始めた海坊主たち。その中の灰皿が金剛の頭にクリーンヒットしてしまった。

 

「「「あっ」」」

「アナタたち…」

 

こめかみに青筋を立て、ただならぬ殺気を纏いながら歩み寄る金剛に対し、2人は死を覚悟した。

 

「ワタシは艦娘だからこれくらいの事では怪我はしまセン。デスが、ティータイムを邪魔するようであれば、その時は…」

「「すみませんでした」」

「分かればよろしいデース。次はありませんからね?」

「「はい」」

 

やっと落ち着いてからしばらく経ち、獠は金剛に質問を投げかける。

 

「金剛ちゃんってさ」

「?」

「なぜ、ティータイムを大事にするんだい?」

「んー」

 

彼女は唇に人差し指を当て、少し考えるそぶりを見せた。そして、答えを返す。

 

「強いて言うなら、日夜働く艦娘達に休息を与えたいと思っているネ」

「ほう」

「昔のアナタ達と同じで、ワタシ達は常に死の縁に立っているネ。しかしながら、緊張をし続けていてはいずれ自分の身を滅ぼしてしまいマス。そこで、少しでも精神を休める為にワタシはティータイムを作って、空いている艦娘達を誘っているネ」

 

ちょっととぼけているように見えて、実はしっかり者なんだなと獠は思った。

 

「あとは…」

「?」

「WW2の時にワタシ達はバラバラに沈んでしまいましたが、今はこうしてまた生きて妹たちと再開したデス。なので、いつまた沈むかわからないこの時を妹の比叡たちと精一杯楽しみたいのも理由のひとつネ」

「なるほどな」

 

確かに彼女達艦娘は一度沈んだり、解体、または譲渡などそれぞれの運命を辿っている。獠達は死という概念を体験することはできないが、彼女達は知っていてそれが互いの絆を結んでいるのだろうと、獠は結論を出した。

 

「ファルコン」

「どうした」

「さっきから外が騒がしいデスが、何かあったんですカ?」

「さあな」

「あー、なんだかさっき、近くに銀行強盗が入ったらしいわ。それであんなにパトカーが走ってるのよ」

「Oh…物騒デスネー」

 

その時、扉が開かれた。

 

「獠!ここにいたのね」

「冴子!それに香まで!」

「アンタ…また依頼ほったらかして美樹さんを口説いてたのか」

「ひっ!ハンマーだけは勘弁して!」

「いいわよ。勘弁したげる」

「え」

 

いつものハンマーを勘弁するとはどういうこった?嫌な予感がするぞ…。果たして、獠の予感は見事に的中していた。

 

「よかったわ獠。これで私の依頼も受けてくれるわね」

「ま、まさか…」

「そのまさかよ。ハンマーの代わりに強盗を退治してらっしゃい。アタシはその間別の依頼をこなすわ」

 

2人の言葉を聞いて、完全にハメられたと思う獠であった。

 

 

「なんでワタシまでついて行くんデース…」

「念のためさ。海坊主は店があるからな。今悪党と渡り合えるのは金剛ちゃんしかいないってわけ」

「せっかくのティータイムが…」

 

愕然とする金剛。そうこうしているうちに、件の銀行にたどり着く。

 

「ちゃっちゃと終わらすデース。時間がないネ」

「お、おい!」

 

獠が止める間もなく、金剛はズカズカと中に入って行った。

 

「早く金を出せ!」

「じゃなきゃこいつをブッ放すぜ!!」

 

天井に向けてマカロフを撃つ強盗。周りには、人質と思われる人間が大勢いた。

 

「そこまでデース」

「なっ…ぐっはあ!!」

 

左手で1発KOを決めた金剛。彼女は、海で戦う時よりもはるかに違うオーラを出していた。

 

「誰だ!」

「アナタ達に名乗るほどの者ではありまセーン。今投降すればこれ以上は何もしないよう努力するネ」

「ひっ!」

 

艦娘が持つ一味違う殺気に対して怖気付いたのか、彼女に向けて発砲する。が、即座に艤装を展開した彼女には豆鉄砲ほどの威力もなかった。

 

「こいつ…!」

「逃げましょうアニキ!こいつ艦娘ですぜ!!」

「ぐ…仕方がねえ!ずらかるぞ!!」

 

と言うなり、裏口へ走って行った。

 

「…逃しはしないデース」

 

 

金剛が突入してしまった今、何もやることがなかった獠は外で婦警にナンパするなどして暇を潰していた。だが、その婦警の無線機ががなる。どうやら止める間もなく犯人は逃げたようだ。

彼はパイソンを抜いて構えるが、突如誰かが前に立ちはだかった。

 

「誰だ!危ないぞ!!」

「ここは私に任せるネ」

 

声の主は金剛だった。タイヤを軋ませこちらに曲がってくる車に対し、彼女は全砲門を向ける。相手はスピードを緩めない。ここで獠は全てを察した。

 

「おまっやめ」

「ワタシの貴重な休みと…午後のティータイム…2つとも邪魔したツケを払ってもらいマース!Fire!!!!」

 

派手な轟音を立てて連装砲が火を噴くと、砲弾は車に直撃。大爆発を起こしたのだった。

 

「あーあ。俺しーらないっと」

 

 

辺りはすっかり日も暮れ、22時を過ぎた辺りでようやく2人は解放された。

 

「おまー、今回はちょっとやり過ぎだったな」

「反省してマース…」

「ま、犯人達は黒焦げになっただけだし、貴重な時間を邪魔されて頭にきてたのはわかるけど、次は気をつけてな」

「ハイ…」

「おーい金剛ー」

 

声のした方向を見れば、そこには提督が立っていた。ハンヴィーで乗りつけて来たので、見張りの若い警察官が目を丸くしている。

 

「遅くなるって聞いたから迎えに来たぞー。お?」

「篠原じゃんか。久しぶりだな」

「おう。元気してるか?スイーパーになったって聞いたがよ」

「当たり前だ。今度飲みに行かねえか?」

 

提督と獠が軽く話していると、先ほどの警官が申し訳なさそうに近づいてきた。

 

「あの、失礼ですが…」

「ああ、ごめんね。乗せたらすぐどかすからさ」

「ええ、すいません。それと、あなたはもしかして横須賀鎮守府の?」

「そうだよ。これでも一応提督でさ。うちの艦娘がやらかしたんで迎えに来たんだよ」

「あー、なるほど!こないだテレビで拝見したものですから…となると、そちらの方は金剛さんで?」

「Yes!金剛デース!よろしくネ!」

 

金剛がウインクすると、照れ臭くなってしまったのか顔を赤らめて俯いてしまった。

 

「あの…」

「?」

「よかったら、サイン頂けますか?」

「えっ?別にいいデスけど、どうして?」

「テレビで金剛さんの演習を見てたら、ファンになってしまいまして…」

「Oh!それは嬉しいデース!お名前は?」

「鈴木といいます。階級は巡査です」

「OK.ちょっと待ってネ!」

 

そして彼女は、渡された警官の手帳にサラサラとサインを書いてゆく。

 

「Here you are」

「ありがとうございます!宝にします!」

 

[スズキさんへ I LOVE YOU!金剛]

と書かれた手帳を手にした警官はさも嬉しそうにしながら敬礼し、持ち場へ戻って行った。

 

「おぉ、金剛ちゃんモテモテ」

「恥ずかしいデース」

「よし、じゃあそろそろ行くぞ。またな」

 

そう言って2人はハンヴィーに乗り込み、エンジンをかける。動き出したハンヴィーから外を見ると、手をふりふりと振る獠と直立不動で敬礼をする警官の姿があった。

 

「良い人たちですネー。リョウも彼も」

「よかったな金剛」

「そうネ!あ、テートク!」

「どした?」

「ファルコンとミッキーに会いましたヨ!テートクの昔話を色々聞いたネー」

「…マジ?」

「ええ。リョウと一緒にミッキーや女兵士たちをナンパしたり、下着を盗んだり…」

「うわあああああ!!!」

 

勢い余ってハンドルを切り損ねる提督。周りからはクラクションの嵐が鳴る。

 

「頼むから誰にも言うな!特に鈴谷には!!!」

 

だが、そんな提督の願いも虚しく、のちに金剛から昔話を聞いた鈴谷はしばらく提督をイジり続けたという。

 

 

「さって、飲んで帰るか」

「そうはさせるか」

 

ギクリとする獠。

 

「ダブルブッキングしたから結果オーライだけど、依頼をほったらかしたアンタにゃたーんまりお灸を据えないとね」

「そ、そのこえは…」

 

そーっと振り向くと、そこには仁王立ちしたパートナーの姿が目に入った。慌てて逃げようとする獠。だが香の容赦ないお仕置きは、静かな夜空を震わせるには充分だった。

 

 

 

 

 

 






いかがでしたか?
金剛さんは強い(確信)
いつもシリアスばかり書いていたので、たまにはこう言ったほのぼのとしたお話を書いてみました。

それでは、またお会いしましょう!
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