暁のスイーパー 〜もっこり提督と艦娘たち〜   作:さんめん軍曹

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おはようございます、さんめん軍曹です。
悪党どもは倒せたけど、獠と雪風が行方不明になってしまいましたね…
果たして、どうなるのでしょうか?

では、本編行きましょう!





怒れる鎮守府 死なないで提督!奇跡を起こす雪風と新たな仲間達

 

 

 

少し前。近辺の林の中にて。

 

「敵さんも中々やるクマ。割と手こずったクマよ」

「私が1番驚いたのは、大きな岩が転がって来た時に球磨姉さんがパンチ1発で粉砕したことです…」

「あれくらいなんてことないクマ。それよりもジャーマンスープレックス決める北上とか、笑顔でジャイアントスイングかまして次々と敵をなぎ倒すお前のがよっぽどクマ」

「は?あたし?」

「姉貴達、キレると恐ろしく強いんだな…」

「「「それ、ブーメラン(だクマ)」」」

 

彼女らの話を聞いていると、ここの球磨型巡洋艦の強さは度を超えていることがわかる。

呑気な会話をしているが、目は真剣そのものだった。

 

多摩は絶対に取り戻す。

 

その想いがあったからか、微妙な振動とそこそこ近い何かが崩れる音もすぐに聴きとれたのである。

 

「…急ぐよ。なんか嫌な予感がする」

「あっ、待つクマ北上!危ないクマ!!」

 

北上が先に行ったのを見て、後の3人も急ぐのであった。

 

 

「なに、どうなってんの…」

 

現場に辿り着いた彼女らが目にしたものは、跡形もなくなった建物と地面、そして多摩を抱えた海坊主と、呆然と立ち尽くす艦娘達であった。

今にも嘔吐しそうな北上。だが彼女はそれをぐっとこらえた。何が起きたかはなんとなくわかっており、1番認めたくない事でもあった。しかし、それでもなんとか言葉を絞り出す。

 

「ねえ、鈴っち。一体、なにが起きたのさ…?」

「獠ちんとゆっきーが…あそこに…」

 

鈴谷が震える手で指を差した先は、なにもない場所だった。

それを聞いた瞬間、確信が事実に変わってしまった北上は全身の力が抜けて、意識が遠のいていくのを感じた。

 

 

 

ここ数日間、ずっと雨は降りっぱなしだった。

そのジメジメとした空気は、まさに今の横須賀鎮守府そのものを表している。

艦娘達の顔からは生気が消え、提督や冴子、海坊主達もありとあらゆる手を使って探し出したが、依然行方不明のままだ。

中でも1番ダメージが大きかったのが、鈴谷と北上である。

鈴谷は食事を取る時や寝る時以外はほぼ全て浜辺におり、雨に打たれても気にせず彼らが戻ってくるのを待っていた。

一方、北上はというと、帰ってきてからほとんど部屋を出ていない。

常に布団に丸まっており、心配した大井が呼びかけても眠いとしか返事がこないのだ。

そして獠のパートナーである香は、皆の前では強く振舞っていながらも1人の時は暗く沈んでいた。

 

「北上さん…」

「北上はいつも考えてることが謎めいていると思ってたが、まさかここまで分かり易かったとはな」

「提督、今更ですか?」

「いや、まあ何と無くはわかってたさ。それよりも、次の任務では北上とお前が必要なんだがな…」

「はい…」

「それに、彼を必要としている人間はまだたくさんいるわ」

「ああ、そうだな野上刑事…。傭兵をやっていた時から変わらんが、共に戦った仲間を失うのはいい気分じゃないな…」

 

 

「いててて…ここはどこだ?」

「あら、お目覚め?」

「ん…?お、お前は!」

 

日付は遡り、建物が崩れてからしばらくしてある場所で気がついた獠。彼に声をかけた主は、なんとあのブラッディマリーだったのだ。

 

 

「マリー!なんでここにいる?!」

「なんでって、そりゃああなたが提督やってるって噂を聞きつけたからよ。船でのんびり行こうと思ったら、あなたのかわいいお連れさんが流されてきたのが見えてね」

「そうか…」

「さ、冴羽さん…?」

 

2人が振り返ると、口を半開きにして立ち尽くした雪風の姿があった。

そしてひと呼吸置いた後、目に涙をいっぱい溜めた雪風が獠にひしと抱きついてきた。

 

「冴羽さん…よかった、よかったぁ…」

「あなた達、なにがあったのかは知らないけど、この子が必死になって探してくれなかったら獠は今頃魚の餌ね」

「間違い無い。ありがとな、雪風」

 

そういうと彼は、雪風を優しく包み込み頭をぽんぽんと叩いた。そこで気が緩んでしまったのか、とうとう泣き出してしまう雪風。

 

「うわああああああん!」

「よっぽど心配かけちまったようだな。ごめんな。…マリー、このまま横須賀に向かってくれないか」

「わかったわ。それから、紹介したい子がいるの」

「?」

「どうぞー!」

 

入ってきたのは、ショートカットで白い和装の艦娘だった。

 

「この子があなたを保護してたのよ。それをユキカゼちゃんが見つけたってわけ」

「あなたが提督?ふうん、いいけど。伊勢型戦艦2番艦、日向よ。一応覚えておいて」

「ああ、俺は冴羽獠。一応、横須賀鎮守府の提督をやっている。礼を言うぜ。ところで日向ちゃんは中々いい武器をお持ちで…」

 

そう言いながら鼻の下を伸ばす獠。自分のどこをみられているのかがわかった彼女は、顔を赤らめ、胸を隠した。

 

「なっ?!き、君はどこを見ている!!」

 

日向が最初に攻撃したのは、後に自身の提督となる人物だった。

 

 

 

そして現在に戻る。

 

「提督!」

 

執務室に飛び込んできた大淀はかなり慌てていたが、その様子とは逆に顔には笑みが溢れていた。

 

「ん?嬉しい事でもあったか?」

「もちろんです!鎮守府海域沖に不審なクルーザーを発見したので呼びかけてみたら、なんと待ち人来たるですよ!」

「なに?!」

「それは本当かしら?」

「はい!双眼鏡で見て下さい!」

 

 

今日もまた浜辺でぼーっと待っていた鈴谷。そこへ熊野がやってくる。

 

「鈴谷。いつまでそこでボサッとしてるつもりですの?」

「獠ちんが帰ってくるまで」

 

この子、通信機をオフにしてるのかしら…?

 

「なら、今すぐ無線のスイッチを入れてみましてよ?きっと嬉しいお知らせがありますわ」

 

なんだろうと思いながら言われた通りにしてみると、大音量で艦娘達の声が飛び込んだ。

 

「ぎょえっ?!」

「そんなに慌てなくてもよろしいのに…」

 

なにが起きてるんだと音量を下げながらよく聞いてみると、みんな浜辺に急いでいるようだ。

 

「はい、これで沖を見てくださいな」

 

そう言って双眼鏡を手渡す熊野。素直に受け取った鈴谷は覗き込むと、一隻のクルーザーがいる。何かが動いていたのでよく目を凝らせば、ブンブンと元気よくこちらに向かって手を振る白いセーラー服と、見覚えのある青いジャケットの男、そして初めて見る艦娘だった。

 

「…えっ?」

「彼が…この鎮守府の宝が帰って来ましたわ!」

「そ、それって…」

 

鈴谷がようやく意味を理解し始めた時、建物の方から轟音が聴こえて来た。

 

「ほら鈴谷。ボサってしてないで早く行ってあげてくださいまし。そうしないと他の皆に取られてしまいますわよ」

「…うん、ありがとくまのん!」

 

そう言って鈴谷は海に向かって走り出す。

それを見送った熊野は、一言呟いた。

 

「鈴谷も罪ですわね…」

 

そうは発言はするものの、彼女の顔は笑っていた。

 

 

帰って来たんだ…あの人が!

 

そう思う鈴谷は半信半疑ながらも非常に喜んでいたのである。

だがしかし、そんな彼女の横を颯爽と通り過ぎる艦娘がいた。

 

「鈴っち、遅いよ!!」

「んなっ?!」

 

そう、日頃愛読していただいている読者の諸君なら既にお分かりだろう。冴羽帰還の報を聞いた北上もまた、真っ先に海に出ていたのである。

 

「待てえええええええ!!!!」

「やっだねー。あたしゃ負けないよ!」

 

 

「やっと帰って来たか」

「久々の鎮守府…ですね」

「まあ、そうなるな」

「感傷に浸るのもいいけど、獠は少し気をつけたほうがいいんじゃないかしら?」

「なんで…げっ?!」

 

彼が振り向けば、空中には2人の艦娘がおり、こちらに向かって飛んでいる最中だった。

 

「冴羽っちいいいぃぃぃ!!!!」

「獠ちんんんんんんんん!!!!」

 

そのままの勢いで2人にタックルを喰らい、そのまま倒れながら夕立よりも強烈な威力だと思った獠。彼が見たのは、雲ひとつない青空だった。

 

 

そのまま鎮守府へ戻った獠と雪風は艦娘達にもみくちゃにされ、泣きながら怒る香を宥めるのに一苦労していた。

そして、簡単にではあるが日向の紹介も終え、ようやく執務室でコーヒーを口にしていた。

 

「あの……北上様?」

「ん、なーにー」

「そろそろ自分の部屋に戻ったら…?」

「やだ」

「なんでよ?!」

「球磨姉たちがいると集中して漫画読めないからねぇ」

 

頭を抱える獠。

そんな彼をそっちのけで漫画を読み続ける北上。

 

(強力なライバルが現れたわね…)

 

横で2人のやりとりを見た香は、ニコニコしながらもそう思うのであった。

 

 

「た…多摩」

「にゃ?」

「その…離れてくれないか」

「嫌にゃ。多摩と遊ぶにゃ」

「ファルコン、遊んであげたら?」

「い、いや、しかし…」

「なんにゃ」

「俺はこう言うのは大の苦手なんだ!」

「うるさいにゃ。問答無用だにゃ」

「ぐぅ…」

 

あの日以来、多摩がよくくっつくようになった。

以前のように海坊主が叫ぶ事はなくなったものの、まだ完全には猫(艦娘)を克服できないようだ。

2人のやりとりを見て、ふふっと笑う美樹であった。

 

 

「ふぅ…大変でしたぁ」

 

久しぶりの自室。雪風は島風と一緒に住んでいるので、お茶を飲みながら2人で話していた。

 

「おつかれさまー。無事で何よりだよー」

「そうですねー。もうダメかと思いました…」

「よく生きて帰って来られたよね。さすがは雪風ちゃん」

「えへへ…」

「でもどうやって助かったの?崩れるのをみて私腰抜けちゃったよ」

「よくわからないですけど…絶対2人で生きて帰るんだ、って願ってたら落ちるスピードが少しだけ遅くなった気がしたんです」

「へー、すっごーい!」

「雪風、幸運の女神のキスを感じちゃいましたっ!」

 

その時、誰かが扉をノックした。

島風が飛んでいき、ドアを開けたらそこにはマリーと日向がいた。

 

「ごめんねお邪魔しちゃって。今、用意できる部屋がないって言われちゃったから困ってるのよ。よければここにいさせてもらえる?」

「あ、冴羽さんと雪風ちゃんを助けてくれた人だ!いいよ、上がって上がって!」

「お邪魔する」

 

マリーと日向が上がりこみ、4人でテーブルを囲む。

そして獠との関係や彼女の過去の話で盛り上がる雪風達だった。

 

 

 

 

「ねー潮ー」

「?」

「漣たち、助けられたはいいけどさー。いつになったら出番が来るんだろうねー」

「わ、私に言われても…」

「漣」

「なんぞ?」

「気にしてはダメよ」

「しかしですなぼーn」

「ダメよ」

「」

「…おっ、このお茶おいしいね」

 

果たして漣たちの出番はやって来るのか…?

 

 

 








いかがでしたか??
これにて怒れる鎮守府編、完結です!

7駆の皆さんがやって来ましたね。
奴らはとんでもないものを盗んで行きました。オイシイところです。

そしてマリーさん登場。これには驚かれた方もいるのでは…?と期待したりw
序盤に出てきた球磨型姉妹。やっぱり強さのレベルがおかし過ぎますよねw
さすがは武闘派なだけあります…()


完結とは書きましたが、次回はアフターケアの話です。
プロはアフターケアも欠かさない、そこが獠のいいところなんでしょう。

ではでは、またお会いしましょ!



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