EXPRESS LOVE   作:五瀬尊

9 / 10
#9 転校生(従兄弟)

 修也の従兄弟、芹沢 龍士から転校すると電話で連絡があった翌日。修也は教室の角の自分の席で、頭を抱え込んでしまいたい気分になっていた。修也の従兄弟、龍士は俺と対比した時、爽やか系で、且つ知性もある所謂モテ系。ただ、笑いが取りたいのかやたらテンションが高く、若干偏見に満ちた大阪弁を所構わず発したりしている、流石に飴ちゃん舐める?とは聞いては来ないが、兎にも角にもそれが欠点となっているのか、周囲の女子からはボーダーラインと言うべきか、面白い友達以上には見られて居らず、モテ体質にもかかわらず彼女無し、だがバレンタインには食べきれず、容器の底で溶けて食べられなくなるチョコが続出するレベルで大量にチョコを貰っている。そんな謎すぎる従兄弟が転校してくるとなれば、何をしでかすか分かったものではなく、悩みの種となっているのだろう。そんな修也の元に登校してきたばかりの彩葉がやってくる。

 

「どうしたの?修也。」

 

修也が悩ましげにしているのに気付いたのか、気遣わしげに修也の顔をのぞき込む。

 

「ん、ああ、実は昨日従兄弟から電話があって・・・。」

 

そこで言葉を切り、大きく溜息をつく修也。

 

「何か、あったの?」

 

気遣わしげという表情から、どこか心配そう表情に変わった彩葉の言葉に、修也は首を横に振る。

 

「いや、従兄弟が転校してくるって言うんだよ。しかも今日。」

 

「え?今日?連絡があったのは?」

 

彩葉が、目が点になったような顔で聞き返す。

 

「昨日。」

 

それに対し、龍士に対する呆れを前面に押し出した素っ気ない返事を返す修也。

 

「ず、随分急だね。」

 

修也の返答に少しばかり顔を引き攣らせる彩葉。その言葉で枷が外れたか、修也が愚痴を言い始める。

 

「そーなんだよ。あいつ、いっつも何でも急だし、これと思ったら何も聞きやせんし、自分の思う通りの大阪弁を通してきやがるし、絡まれたらちょいちょいウザイし、まあ、ノリが良いから喋ってる間は面白いんだがなあ。」

 

「そ、そうなんだ。」

 

最早、酔っぱらいのようにも見える修也の愚痴に、何処かの誰かさんのデジャヴを感じたのか、彩葉が辟易したような表情を浮かべた。

 

「ああ、ごめん。目の前で愚痴られてもあんまりいい気しないよな。」

 

そう言いながらも、溜息を吐きながら首を落とす。

 

「ううん。気にしないで良いよ。修也の従兄弟ってどんな人なのか興味あるし。」

 

恋人を持つ人間にはそれなりにある事らしいが、この時修也には彩葉が本当に天使に見えただろう。

 

「そう言って貰えるとありがたいよ・・・。」

 

修也がそう言葉を絞り出した所で、予鈴がなった。

 

「っと、もう戻らなきゃ。それじゃ、また後でね。」

 

彩葉が席へ戻って言ったところで、担任の教師が教室に入ってきた。間もなくSHRと共に面倒ごとの時間がやってくる。

 

Side out

 

 

 

***

 

 

 

「みんな揃ってるな?今日は、転校生を1人紹介するぞ。」

 

担任の(くら)() 真誠(まこと)が黒板に芹沢 龍士と、縦方向にやたらと綺麗な文字で記した。既に胃が痛い。一体アイツがどんな挨拶をするのやら・・・。

 

「それじゃ、入ってこい。」

 

担任に呼ばれ、そいつが教室に入ってくる。以前、中学時代の友人に、コイツと対比して、パッと見、俺の方がクール系イケメンだとしたら、龍士の方はさわやか系イケメンだなと言われた事がある。事実、龍士が入ってきた瞬間に歓声を上げかけたり、パッと頬を染めた女子も数人いた。まあ、今の内だろうとは思うが。なにせ、

 

「おっす、何やかんやあってこっちに来る事になった、修也の従兄弟の芹沢 龍士や!仲良うしたってや。」

 

この爽やかな皮を被ったアホは、所構わず大阪弁で話すのだから。龍士に一目惚れしかけた女子の数人が、テンションの高い大阪弁にサッと引くのが分かった。やれやれ・・・。

 

「ああ、せや、ワイが大阪弁で話すから言うても、真似して変な大阪弁で話さんでもええからな。」

 

変な大阪弁という点に関しては、お前が言うなと突っ込みを入れたくはなる。つーか、ウザイなコレ・・・ったく、しゃーねぇ。こういう時は・・・喰らえ―!

 

「いい加減そのエセ大阪弁を止めろォ!」

 

必殺クーゲルシュライバー!(ボールペン:ドイツ語)

 

「っつあ!?あっぶねぇ!何てモン投げんだ修也ァ!」

 

チッ、弾かれたか。

 

「うるせえ!昨日そのクソウザイ大阪弁使うなって言っただろうが!」

 

「おま、昨日そこまで言ってなかっただろ!」

 

「だからどうし―うわっ!?」

 

何だ!?チョークか?一体誰が・・・

 

「あ。」

 

「よーし、2人とも、喧嘩は結構だがSHR中だからな?」

 

しまった、ヒートアップし過ぎたか・・・怒ってるか?

 

「「すみません・・・。」」

 

「よしよし、それが最初に出てくるのは良い事だ。今回は従兄弟同士だし、見逃してやるが、相手に直接害が及ぶ事をするなよ?・・・間接的なら良いとは言わんが。さ、芹沢の席はあの1番後ろの空席の所だ。」

 

「はい。」

 

言われて龍士が指定された席に向かう。

 

はあ、コレは鞍田先生の寛容な処置に感謝するしかないな。龍士は・・・ほっとけば良いか。どうせアイツは気付いた時には俺が話した事がない奴とすら仲良くなってるんだ。事実、既に隣の席の女子に話し掛けてるし。

 

「ああ、そうだ北城。お前、芹沢の面倒見てやれよ。」

 

面倒見るとか小学生かとか、何で俺がとか言いたい事は色々あったが、取り敢えず今は担任に従うっておこう。

 

「分かりました。」

 

「頼んだぞ。特に伝達事項は無いからこれで終わりだな。じゃ、1時間目の準備しとけよー。」

 

そう言って鞍田担任教諭が教室を出て行く。全く、面倒だな・・・とも言ってられないか。もう早速やらかしちゃってるし。

 

 

 

***

 

 

 

「そんでまあ、警察沙汰とまでは行かんかったんじゃけど、俺の親がな。」

 

時間は昼休憩。彩葉と俺と龍士の3人で弁当を並べて、龍士の転校の経緯(いきさつ)を聞きながら、食事を進める。龍士が転校する事になった問題というのはつまり、執拗な弄りに耐えかねて、ある生徒がうっかり手を出してしまい、結果、集団での殴り合いになってしまったと言う物だった。

 

「そいつもアホだな。手出すより先に先生に相談すりゃええのに。」

 

「つっても、虐められとる側は周り見えづらいって言うじゃん?結果的に殴り合いに参加しとったのは、嫌がらせ受けとったのと、その人等を気にしよったのと、嫌がらせしよった五分五分じゃったけど、嫌がらせされとる間は誰が嫌がらせされとるか何か気付いとらんかったんじゃろうし、1人じゃなかなか先生に言いに行くって言うのは難しいだろうからな。」

 

「まあ、大体弄られるのは気の弱い奴だから分からんでも無いけど・・・お前は?」

 

「いやまあ、何遍も言うけど、親が心配性で、この学校危ないし修也のいてる学校ならそれなりにやりやすいやろか言うて、こっち来さされたんや。」

 

「ああ、そう。・・・龍士、エセ大阪弁戻ってるぞ。」

 

流石あの親父殿やってくれやがる。親族の中で1番のくせ者はあの人だからな。1番心配性で1番羽振りも良いけど。

 

「エセ言い過ぎだろ・・・それよか、修也の彼女めっちゃ可愛ええじゃん!どうやって捕まえたん?」

 

「捕まえたとか言うな。あとお前親父臭いぞ。」主に話し方がとは口にしなかった。

 

「別に、いいじゃないか俺の好みなんだし。」

 

「話し方がウザイのはストレスが溜まる。周りにも嫌われやすくなるんだからさぁ・・・。」

 

「・・・2人とも仲良いんだね。」俺と龍士の親密なやり取りを見て、彩葉がぼそりと呟く。

 

「まあ、従兄弟だしね。仲は良い方だと思うよ。・・・思うよ?」

 

「何で言い換えた。ま、従兄弟っつーより、兄弟みたいなモンだな。」

 

兄弟ねえ・・・。

 

「ふーん、そうなんだ。あ、そう言えば、修也って小さい頃どんなだったの?」

 

!?

 

「ちょい、彩葉?」

 

「修也か?修也はなぁ・・・」

 

「やぁめろぉぉぉぉ!」

 

結局昼休憩は龍士による俺の幼少期の恥ずかしい話だけで終わってしまった。

 

Side out

 

 

 

***

 

 

 

「楽しそうね。あれ。」

 

そう呟いたのは、以前の彩葉グループの鞘音。視線の先には、転校生である龍士と、恋人同士である彩葉、修也で構成されたグループがあった。

 

「そうだね・・・。て、言うか芹沢君って何か独特のオーラ無い?大阪人特有のっていうか。」

 

現在、鞘音達は彩葉を取られてしまった為、彩葉を除いた女子2人と、修也関係でグループインした亮太、賢太の4人で集まっている。

 

「あー、分かる。修也の従兄弟ってだけで結構特別な感じがするけど、もっと別な何かがあるよな。」

 

「まあ、私達修也君についてあんまり詳しい訳じゃないしね。って言うか、修也君のあの反応には驚いたけど。」

 

亮太の言葉に陽向が悲観的な事を口走る。

 

「ああ、そうだな。修也があそこまで取り乱すってのも珍しい。」

 

「・・・そう言えば、龍士君も結構イケメンじゃない?」

 

それまで黙っていた鞘音が普通には分からないほどうっすらと頬を赤らめてそう言った瞬間。

 

「「「え?」」」

 

嘘だろお前がかよという様な、驚愕の視線が注がれる。が、鞘音はどうしたの?というように首を傾げただけだった。

 

「いえ、何も。」

 

慌てて賢太が誤魔化す。穂崎 鞘音。彼女は微量の天然である。自分の恋(?)に気付かぬ程度には。

 

 




6日か7日に投稿しようと思ったものの、書けてしまったのだから仕方がない。次が遅いだけだ。次回は布石回か、夏祭りです。(両方を兼ね備える場合もありますが・・・)ま、要するに前書いてた所を知ってる人は少し混乱するかも知れないですね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。