EXPRESS LOVE   作:五瀬尊

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#6 思わぬ進展

 とある教室で、何やら4人ほどのグループがワイワイやらギャアギャアやら騒ぎながら目論見を進めている頃、北城達の教室では、別の動きが起こっていた。

 

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 久しぶりに1人でご飯を食べる。鞘音と陽向は何やら用事があると言って、昼休みが始まってすぐお弁当をもって何処かへ行ってしまった。入学した頃くらいしか1人でご飯を食べてなかったから、何となく寂しさを感じる。それに、今は特に、色々と相談したい事があるから特に・・・。

 

(あれ?でもちょっと頼りすぎ?)ふと、この数日間を思い出す。思えば、最初に北城君を第1予備教室に呼び出した時も、何日か前から2人に相談して、色々後押しをして貰ってから漸く行動に移してたし・・・。思えば、いつもいつも友達に頼りっぱなしだった。無意識の内に箸を置き、胸の前で手を組む。

 

(出さなきゃ・・・自分で、勇気を・・・。)そう心の中で自分に励ましをつける。でも、少し怖くなって北城君の席を振り返る。彼はまだ食事中だ。彼は普段から1人で食事をしていて、周りには誰もいない。今なら・・・。1つ大きく息をつき、席を立つ。誰かに頼るんじゃなくて、1人で歩く為に・・・。

 

Side out

 

 

 

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「北城君。」北城の席の前に立った彩葉が、北城へと声を掛ける。それまで何か悩んでいたのだろう。そこで漸く彩葉が近くにいた事に気付いたらしく、肩をピクリと振るわせる。

 

「・・・小柏さん?」彩葉から声を掛けられた事が珍しかったのだろうか、北城の言葉の語尾には疑問系が含まれていた。名を呼ばれた彩葉は僅かに頬を染め、次の言葉を絞り出す。

 

「今日、どうしても話したい事があって・・・放課後にもう1度、1教に来てくれない?」

 

「1教に?・・・分かった。放課後だね。」以前は手紙で呼び出された第1予備教室に口頭で呼び出された事に疑問を感じたのだろう。北城が首を傾げるが、彩葉の誘いという事もあってか、すぐに承諾した。

 

「うん。じゃあ、また放課後に。」そう言い残して彩葉は自分の席に戻っていく。北城はただその背中を黙って見送っていた。

 

 

 

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 時間が進み、昼休憩の終わり。第1予備教室での怪しい作戦会議を終えた4人が教室に戻ってくる。その内の1人、森山 亮太が北城の方へ歩いてくる。

 

「よう!修弥、今日の放課後なんだけどさぁ・・・。」いつもの乗りで北城の首を腕で絞め、高めのテンションで話し掛ける森山。だが、その言葉は北城が森山の腕を掴んだ事で止められる事になる。

 

「悪いけど、今日の放課後はちょっと約束があるんだ。何かの誘いならまた今度にしてくれ。」北城のその言葉には、申し訳なさの中にちょっとした凄みが含まれていた。普段なら、突けば上手く響いてくるのが北城なだけに、森山を黙らせるには、それだけで大きな効果を持っていた。

 

「え、ああそうか。悪かったな・・・。」北城の迫力に押された森山は、腕を解き、数歩引き下がる。そのまま、踵を返して、桐島の方へと歩いていき、どうなってるんだ?と言いたげな視線を送る。しかし、その場にいなかった人間にその場での状況や本人が受けた圧迫感を理解できるはずがない。

 

「おいおい、そんなにあっさり引き下がっちまうのかよ・・・。」意外だなと言う様な視線を桐島から受け、森山は決まり悪げに、肩をすくめる。

 

「いや、あの目はマジだったぜ?アイツ、昼休み前と何かが根本的に違う。何があったのか知らないけど、深追いしたらヤバイ感じだった。」

 

「・・・お前がそうまで言うのかよ・・・。どうなってんだ?」男子2人が揃って頭に疑問符を浮かべ、北城の方を見る。その視線の先の北城は、何処か上の空の様でありながら、妙なオーラを放っていた。

 

 

 

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 男子勢がそんな状況にあった時、女子陣でも似た様な状況が起こっていた。但し、北城の様な凄みを含んだ言い方ではなく、実にほんわりとした、柔らかい言葉遣いではあったが。

 

「ゴメンね?放課後はちょっと約束があって・・・。」北城と同じく、今日、放課後にというパターンで誘われた彩葉だったが、此方も予定の為、友人達の偽り(誘われた当人は偽りと知らないが)の誘いを断っていた。

 

「ふーん、そうなんだ。家の用事?それとも・・・この前みたいに北城君と一緒に喫茶店でも行くの?」前半は純粋な好奇心の様だったが、後半からは、目にキラーンという擬音が入りそうな聞き方をした所為で、彩葉はビクゥッ!と肩を振るわせ、目を見開き顔を紅葉させて慌てる。

 

「い、いや!別にそう言う訳じゃなくて!他の用事だから!・・・ご、ゴメンね・・・?」思い切り慌てて否定した後、語気を緩めて謝る。

 

「あ、そう・・・。」そこで鞘音は引き下がったが、顔にはあからさまにあーハイハイと書かれていた。鞘音の言葉に混乱し、その様子が彩葉に見えなかったのは、不幸か幸いか・・・。

 

Side out

 

 

 

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 1日の課程が終了し、全員が帰路につく頃、俺は1教への階段を上っていた。俺達1年生の教室は5階。1教は2つ上がった最上階、7階に位置している。公立高校としては無駄に高い校舎だ。1教の利用人数が少ないもう一つの理由はこれだろう。以前呼ばれた時、俺は大きな期待を抱えてこの階段を上っていた。結局その時はある意味期待は外れた訳だが、俺はまた同じように期待をしている。だが、前回とは違う事がある。それは、俺が期待以上の不安を抱えているという事だった。・・・もしも、彼女が俺の事をどうとも思っていないとしたら?また、何か別な事だとしたら・・・?そう考えたところで、俺は大きく頭を振る。彼女に恋したという事は、彼女の事を信頼しているという事だ。今から半信半疑でどうする。俺は一度立ち止まり、大きく息をつく。

 

「よし、行くぞ。」俺は意識を入れ替え、1教へ再び足を進める。

 

 

 

1教の前に着くと、前と同じように、教室の扉は開け放たれていた。中を覗くと、これもまた前と同じく彼女が夕日に顔を照らされながら、立っていた。前回と違うのは―

 

「・・・来てくれたんだね。北城君。」―彼女が視線を真っ直ぐに据えていたという事。その瞳には確固たる信念が宿っていた。

 

「・・・ああ。」その瞳の澄んだ、深い色に引き込まれそうになるが、今度は自分が想いを伝えるんだと言う確固たる意志を持って頷き返す。

 

 




 今回と次回は、慣れない告白シーンの描写で文章がいつもより崩れ気味になっていますが、ご了承下さい。

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