EXPRESS LOVE   作:五瀬尊

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#5 友人達の結託

 聞いてはいけない事を聞いた。実際にはそうでは無いかも知れないが、直観的にそう思い、彩葉は結局、自分の席の方へ足を向けていた。

 

 

 

***

 

 

 

「もー!何なのよー!」1日の授業開始前から、酷く疲れた様子の鞘音がもう嫌だと言わんばかりの叫びを上げる。

 

「まあまあ。さーやん、酔っぱらってる様にしか見えないから・・・。」彩葉と鞘音の共通の友人である女子生徒が、少しばかり辟易した様子でそう言う。事実、机に突っ伏して両手で机を叩いている鞘音のその姿は酔っぱらいその物だった。

 

「これが落ち着いていられますかっての!もう!」原因は、あれ程の剣幕で念を押したにもかかわらず、北城のある言葉を聞いてあっさり戻ってきてしまった彩葉にあった。

 

「だ、だって、北城君があんな事言ってるから・・・。」北城の発言に関しては#4を参照して頂きたい。2度も同じ文章を書くのは出来る限り避けたい。

 

「そーこーに、つけ込むぐらいの勇気を出しなさいよ!減るモンじゃないし!」手にジョッキがあれば机に叩き付けているのではないかと言うレベルの剣幕に、もう1人も突っ込む気を無くしたか、目から光を失っていた。

 

「うう・・・。」

 

「はぁ・・・。」凹んだ様子の彩葉に溜息をついたところで、予鈴が鳴った。

 

「まあ、もうSHR(ショートホームルーム)始まるし、取り敢えず席戻ろう?」恐らくこの中で1番気疲れしているのはこの人だろう。(もろ)(ほし) ()(なた)がそう言ったところで漸く鞘音が席を立った。彩葉は、自分の席であるため、動く必要はなく、俯いたまま何の動きも見せなかった。

 

「どうしたものかしらね・・・。」そんな彩葉を見て、鞘音は悩ましげな言葉を吐き出した。

 

Side out

 

 

 

***

 

 

 

 ノートに板書をしたところで、シャープペンの先で2度ノートをつつく。そこで、思ったより朝の事がストレスになっているのだと気付いた。思えば、彼女はまるで何も無いかの様に横を通り抜けて行ったのだから、俺が森山に言った言葉に気付かなかったと考えるのが自然かも知れないが、森山の言動からして、それなりの時間俺の後ろに立っていたのだろう。気付かなかったとは思いにくい。

 

「・・・。」いつもの癖で独り言を漏らしそうになったが、授業中であるという事を思い出し、口を閉ざす。

 

(はてさて、どうしたものやら・・・。)口に出す代わりに、俺は心の中で呟き、余計な思考を意識外へと追い出した。取り敢えず、今のところは授業に集中しなければ。

 

Side out

 

 

 

***

 

 

 

 時は進み、昼休憩。第1予備教室にて。

 

「・・・と、言う訳。」1人の女子生徒が1通りの話を終え、口を閉ざす。

 

「あぁー・・・成る程。修弥が特別奥手なんだと思ってたが・・・。」同じ場所に集まっている男子生徒の1人が口を開く。

 

「小柏もかなり奥手なんだな。しかも、恥ずかしい事は幾らでも言えるのに・・・意外な感じだなぁ。」1人目が言葉を切ったところで、もう1人が後を引き継いだ。此処に集まっているのは、北城と彩葉の友人である生徒達。穂崎 鞘音、諸星 陽向、森山 亮太、桐島 賢太の4人だった。

 

「それでさーやん朝から荒れまくっててさぁ。」そう言うのは陽向。

 

「いや、本人の前でそんな愚痴みたいな事言わなくても。」当たり前の様に本人の目の前で愚痴り始めた陽向に、頬杖から少し顔を浮かして、驚愕を含んだ声で突っ込む。

 

「うぐっ、仕方が無いじゃん。あれだけ期待してあっさり引き下がられたんだからさ。」目の前で愚痴られた鞘音本人は、痛いところを突かれたという様に顔を引き攣らせ、何とか白々しい視線から逃れようとする。

 

「まあ、それはそれとして・・・何で俺達は此処に集まったんだ?」少々、痺れを切らしたという様に話を進めようとする賢太。

 

「ああ、そうそう。あの2人、なかなか自分達で進まないじゃない?」言われて思い出したという様に漸く話を進める鞘音。

 

「ああ、まあ、全く進まないという訳じゃないが・・・若干焦れては来るよな。」

 

「そうでしょ?だからさ、私達であの2人の関係を後押ししようっていう相談なんだけど・・・。」森山の声を聞き、口を開く陽向。最後にどうかな?と聞く代わりに視線で問いかけ、2人の男子の返答を促す。

 

「成る程な・・・面白そうだし、俺は乗るぜ。」森山はニヤニヤ笑いを隠さず直ぐに返答する。が、桐島は少しばかり躊躇していた。

 

「桐島君は、いや?」鞘音が少し首を傾げながら気遣わしげな視線を送るが、桐島は(かぶり)を振った。

 

「いや、それは面白いと思うけど・・・俺、上手くやる自信ないぞ?」桐島が懸念しているのは、自身の本音の出やすさだろう。嘘が下手と言うより、顔に出やすいタイプであり、そのせいで度々女子にからかわれている為、何か演出したりするのは、少々抵抗があるのだろう

 

「まあ、それはそれで実働は森山君にやって貰えば良い訳だし。」陽向の説得に頷く2人。そこでようやく桐島が首を縦に振った。

 

「分かった。そう言う事なら乗ろう。」

 

「よっしゃ!じゃあ、ちゃちゃっと作戦会議だけしちゃいましょうか!」最後の桐島が承諾したところで鞘音が腕を突き上げ、策の練り上げを提案する。

 

「なんだよ、まだ策無しだったのかぁ?!」しかし森山は、そう言った頭を使う事は大の苦手分野であるため、抗議とも驚愕とも取れる様な素っ頓狂な声を上げた。その様子に一同が声を上げて笑う。如何にも、年頃の学生達にふさわしい平和な風景だ。だが、彼らの知らないところで人は進む。何時までも同じだと思っていた友人達の心は少しずつ進んでいく。彼らの目論見から外れて・・・。

 

 


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