EXPRESS LOVE   作:五瀬尊

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#4 進まない2人

 先日、喫茶店で小柏さんと過ごしてから、距離が縮まったような気がしたのだが・・・

 

(ジー・・・)(チラッ)(ビクッ!フイ)と、擬音で表せばこうなる様に、あちら側から視線を感じるものの、小柏さんを見れば、一瞬肩を震わせて目を逸らされるという様な、未だ距離を測りかねる状況にあった。・・・どうしたものやら・・・。と、突然首に衝撃を感じた。

 

「よーう!何だ何だ?恋多き北城君はまたお悩みかい?」何事かと思えば、原因はこのやたらうるさくて、無遠慮な友人、森山(もりやま) 亮太(りょうた)だった。やれやれ・・・。

 

「恋多きとか人聞きの悪い事言うなよ。俺、コレでも初恋だぞ。あと、考え事をしてる人間の頭を急にヘッドロックするのは止めろ。」ついでに日頃の恨み辛みまで全部言ってやろうかとも思ったが、キリがないのでそれは諦めた。

 

「初恋ぃ?あんだけ女惚れさせといてか?」森山は、半ば俺の視界を塞ぐ様にして頭をロックしていた腕を解き、机の横にしゃがみながら肘をつき、胡散臭そうな声で突っかかってくる。

 

「女子が惚れるのと、俺が恋するのは別の話だろ。お前とは頭の出来も、顔の作りも違うんだよ。あとお前、言葉遣いが古くさいぞ。」

 

「むっ、お前ここぞとばかりに言いたい事言いやがって・・・言葉の古くささは趣味だよ。気にすんな。」趣味じゃなくて性格だろうと言いたくなったが、相手が趣味だと言うのだ放っておこう。

 

「まあ、それはそれで良いとしておこう。で、お前俺をからかいに来たのか?」最初の絡みから、用があったとは言い辛く、結局不機嫌そうな問いになってしまった。まあ、森山だから大丈夫だろう。小柏さんじゃ無いし。

 

「ああ、そう言えば、お前小柏と付き合ってんのか?」・・・ん?

 

「何かそれ、昨日も聞かれたぞ。」いやまあ、相手は違うのだが。

 

「あー、そうか、賢太が何か聞くとか言ってたな。で、結局どうなんだ?」なんだ、結果は聞いてないのか。

 

「はぁ、今のところは付き合っては無い。て、言うかお前等、人の恋愛がそんなに面白いか?」いやまあ、面白がる気持ちは分からなくも無いけど、弄られる側としては堪ったもんじゃ無いんだよな・・・。

 

「まあ、他人事だからな。ちょっとくらい良いだろ?」ナニ言ってんだコイツ。

 

「いや、良くない。全然良くない。100歩譲って俺は良いにしても、小柏さんにまで聞いて、迷惑を掛けるなよ?」呆れ混じりの声でそう言うと、森山はニヤリと笑った。

 

「そうかそうか・・・じゃあな修弥、後ろ見てみ?」そう言われ、後ろを見ると、

 

「・・・あ?」うっかり間抜けた声を出してしまった。何故ならそこに彼女―小柏 彩葉―が立っていたからだった。

 

Side out

 

 

 

***

 

 

 

「それで?昨日の喫茶店でも何も無し?」時間は少しばかり遡って、とある女子のグループで1人が好奇心全開―の呆れ声―でそう言った。

 

「う、うん。帰りにちょっと、手は繋いだけど・・・。」問いかけられた、ふんわりとカールした焦げ茶色の髪の女子生徒―小柏 彩葉―は、恥ずかしげに体をモジモジと動かしながら答える。

 

「ふーん・・・。手まで繋いだのに、告白は出来ないの?」グループのもう1人が半眼の呆れ声で突っ込みを入れる。まあ、呆れ声という時点で突っ込みという表現は適切でないかも知れないが・・・。

 

「うぅ・・・。だって、そこまでは恥ずかしくて・・・。」相変わらず顔を俯かせたまま、彩葉が必死に弁明する。

 

「「いや、手繋ぐ事の方が恥ずかしいでしょ。」」が、2人から驚愕を含みながらも、呆れた様子の声で突っ込まれ、沈黙を余儀なくされる。

 

「やれやれ・・・て言うか、そもそもあんた北城君の何処を好きになったのよ。」何も知らない人間が聞いたら、北城には良い所など無いと言っているとも取ってしまいそうな言い方だが、彼女にはそんな意図はなく、ただ単純に彩葉が北城を好きになった経緯を知ろうとしているだけだ。

 

「えぇ・・・。うーん、北城君優しいし、声にも温もりがあるって言うか、あと、外見的にも鋭い様で優しい目とか、細い線とか、髪もつやつやだし・・・。」北城の方を見ながら頬を染めながらそう言う彩葉に、グループの女子2人は既に、「うへぇ」とでもいう様な表情を浮かべていた。

 

「もうコレ、ベタ惚れって言うか、病気レベルね。」朝から溜息ばかりついているこの2人の発言の中で1番ではないかと言うレベルの呆れ声すら届かない程に、彩葉は北城を見つめていた。が、その視線に気付いたのか北城が彩葉の方を向いた瞬間、肩をビクリと振るわせ、慌てて彩葉は顔を背ける。但し、そこにあったのは、

 

「ふ、2人ともどうしたの・・・?」あからさまに胡散臭いものを見る様な目で彼女を見る友人2人の顔だった。

 

「はあ・・・彩葉?」仲の良い友人の少し脅しの色が含まれた声に彩葉が再び肩を振るわせる。

 

「な、何?」怯えて引きつった顔でそう言った彩葉の顔に、友人の手が伸びる。

 

「どーしてアンタはそんな恥ずかしい事がぬけぬけと言える癖に告白が出来ないのよ!?いい加減にしなさいよー!」完全に叫び声の様相を呈して居ながらも、抑えられた声量と共に、彼女は彩葉の頬を掴む。幸いにして(?)北城は森山に絡まれているが為にその光景には気付かなかった様だ。

 

「ひ、ひてててて!」彼女の右手に左の頬を抓られ、頭を上下に揺さぶられている彩葉は、抗議の声も上げられない状況にあった。

 

「まあまあ、さーやん落ち着きなよ。」一足先に冷静になっていたもう1人の友人が静止の声を掛け、漸くさーやんこと、穂崎(ほざき) 鞘音(さやね)は彩葉の頬から手を離す。

 

「はあ、はあ。」言いたい事を一気に言って気疲れしたのか荒い呼吸を繰り返す鞘音。

 

「うう・・・。」抗議の言葉も無いと言う様に俯く彩葉。

 

「えーと・・・。」この空気をどう対処したものか迷うもう一人の女子生徒。

 

「彩葉。」最初に口を開いたのは鞘音だった。

 

「ひゃい!」彩葉は怯えた様子で肩を振るわせ、顔を上げる。

 

「北城君の所に行きなさい。」疲れからなのか若干かすれた声ではあったが、鞘音のその言葉には、さもなければ斬る。とでも言いそうな有無を言わさぬ迫力が込められていた。事実、2人共が声を発する事が出来ずにいた。

 

「あれだけ恥ずかしい事を私達の前で言えて、北城君の前で自分の気持ちを伝えられませんって事は無いわよね?彩葉。」言葉で押し切る様にしてそう言う鞘音。端から見ていれば最早友人と言うより姉である。

 

「は、はい!」但し、当人達にそんな冷静な判断など出来るはずもなく、彩葉は背筋を伸ばして答える。

 

「だったら早く行く!」そう言われ、彩葉は慌てて席を立ち、北城の席の方へ向かう。

 

「はあ・・・。」それを見て、トータルで何度目か分からない溜息をつく。

 

「上手く行くと思う?」これまで黙っていた1人がそう訪ねた。

 

「・・・まだ・・・無理かも知れないわね。」溜息と共に吐き出されたその言葉には、しかし、辛抱強く応援し続けるという意志が滲んでいた。


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