「一つ忠告しておいてやろう」
俺は目の前で雄叫びを上げ激昂する一際大きいタウロスに向け話しかける。
会話は通じないと聞いていたが、一応言っておいてやる。
「今後ろにいる弓兵共と撤退し、二度と人を襲わないと誓うなら見逃そう。もし戦うというのなら、貴様の魂、貰い受けよう…」
「あ、あのさヒデオ…さっきの攻撃は一体?」
と、地面に座り込んだままだった銀髪の子が俺に問いかけてきた。
金髪の子も妙にうっとりした顔でこっちを見ている。
何だというのだ…?
「あぁ、俺の奥義みたいなものだ。一回使ったらしばらくは使えないがな…もう立ってもいいぞ」
と、手を差し出し2人を立ち上がらせた。
この世界でのアルティメットスキルはオーバーウォッチゲーム内と同様に時間経過と攻撃を相手に命中させることで徐々に力が溜まっていき使えるようになる。ただし、1度使うとまた力を溜めなおさなくてはいけないので連発はできない。デス・ブロッサムを使った後ルシオの装備に変更したところでルシオのアルティメットスキル、サウンド・バリアを使用するといったことはできないようだ。
「グオアアアアッ!!」
俺が2人を立ち上がらせるとその余裕のある態度が気に障ったのか、巨大なタウロスは剣を構え突っ込んできた。
「2人とも来るぞ!構えろ!」
2人にそう促し突っ込んでくるタウロスに対し散弾をお見舞いしてやる。
金髪の子は俺の右側に、銀紙の子は左側へと少し距離を開け構えた。
「グゥッ!!」
タウロスは持っている剣を前面に出して俺の銃撃をある程度防ぐが全てはガードできずに胴体や足に少し命中する。
散弾が命中する度少し怯むがお構いなしに接近し、ついに俺の目の前まで来た。
タウロスは思い切り剣を振りかぶる。
「させるかぁ!!」
と、金髪の子が俺の前に出て巨大なタウロスの一撃を剣で受け止めようとする。
そういえばこの子騎士みたいだな。盾役がいれば更に楽に事が進みそうだ…。
「だ、駄目だダクネス!!そいつの攻撃は受けちゃいけない!!」
すると何故か銀髪の子が慌てて止めようとしている。どういうことか分からないが何かヤバそうだ。
俺は前にいるダクネスと呼ばれた金髪の子の襟首を掴むと思い切り引き銀髪の子の方へ押した。
「うわっ!!ヒデオ!?」
振り下ろされたタウロスの剣が俺に当たる寸前、すかさずレイスフォームを発動する。
煙上になった俺の体に当たることなく剣は通り抜け地面に振り下ろされた。
すると剣は凄まじい轟音と共に土を巻き上げ地面を抉りとった。
「とんでもないパワーだな。確かにこれを受けるのはまずいな…」
俺はそのままタウロスの背後へ周り距離を置く。
タウロスは地面に深々と刺さった剣を抜くと俺の方へと体を向きなおす。
今、タウロスは俺の方を向いており奴の背後には起きあがったダクネスと銀髪の子がいる。この挟み撃ちの状況が作れれば奴がどんなに馬鹿力でも意味はない、そう考えていたのだが…。
「むっ!?」
俺の足元の地面に矢が何本か突き刺さった。
弓兵の姿が木々の奥に見えた。
ちぃ、まだ弓兵共がいたか…これでは戦いにくい。
「2人とも、一先ずこいつは俺に任せろ!先に周りの雑魚の排除を頼む!!」
俺はそう2人に伝えた。
すると二人は少し戸惑った後分かった、と頷き弓兵のいる方へと向かう。
その直前、銀髪の子が大声で言う。
「ヒデオ!!そのタウロスコマンダーは他のタウロスよりも強い上に知能もある!!そして何よりそいつの付けている籠手には注意して!!とんでもない力を秘めている気がするの!」
タウロスコマンダーって…こいつ只のリーダーっぽいタウロスじゃなかったのか。
それと籠手?奴の付けている真っ黒な籠手か?
確かに黒いオーラのようなものを纏っている気がするが…。
弓兵を排除に向かったことに気付いたのかコマンダーが2人を追おうとするが、すかさず射撃を行いこちらへ注意を引く。
「どうした?貴様の相手は俺だ」
この銃で遠距離からの射撃はジャイアントトードのようによほど巨大な敵でなければ大したダメージは入らない。かといって、このタウロスコマンダー相手に接近するのは危険だ。少しヒーローらしくないやり方だが、このままチクチクとダメージを重ねて行くことにした。
「体力は多いようだが、さていつまで耐えられるか…」
ヒーローらしからぬセリフを吐いてしまったが今の俺はリーパーだ。もう格好良ければいい事にした。
俺の銃撃を必死に剣で防ぎながらうなり声をあげるコマンダー。
その時、コマンダーは地面に落ちている何かに気付いたのかそれを素早く片手で拾い上げた。
「む!?」
コマンダーが拾い上げたのは何と、先程俺がデス・ブロッサムを放った後リロードのためにその場に捨てたショットガンであった。
…しかし、すでに弾は全弾撃ち尽くした。そんなもの拾ったところで何になるというのだ?
そう考えているとコマンダーはにやりと奇妙な笑みを浮かべ片手でショットガンを俺の方へと構えてきた。
おいおい、どういうつもりだ?
「猿真似か?ふん、知能があると言っていたが大したことは…」
俺は言い切る前に一つ気が付いた。奴の持っているショットガン、何故か表面全体に赤い葉脈のような筋が走っている。
直感でヤバいと感じ、レイスフォームを発動しようとする。
「グヒヒ…」
しかしそれよりも早く奴がショットガンの引き金を引いた。
何と奴の持っている残弾ゼロのはずのショットガンからは弾が発射された。