「あ、ヒデオさん!おはようございます!」
ギルドに入るとウェイトレスが笑顔で俺に話しかけてくる。
昨日から一夜明け、俺はまだ宿で熟睡しているであろう2人より早くギルドへ足を運んでいた。昨日2人は依頼で得た報酬を使い俺と同じ宿に泊まることとなった。ちなみに俺の分の報酬はすべて2人に譲った。初めてまともな寝床で寝られると涙を流して喜ぶ2人の姿を見て俺は少し胸が痛くなった。
それはさておき、俺がギルドへ来た理由はもちろん昨日のメンバー募集の件だ。昨夜は結局誰も希望者は来なかった。アクアは「今は夜だし、朝になれば絶対誰かしら来るわよ!」と自信満々に言っていたが、どうなのだろうか?何となく今日も来ない気がするのだが可能性はゼロじゃない。なので少し早めにギルドへ来て希望者を待つことにしたのだ。
俺は適当にその辺の席に腰かけウェイトレスに水と軽い朝食を頼むことにした。
「すまない。水を一杯、あと野菜炒めを頼む」
「来ましたね…待っていました。骸骨仮面のヒデオ」
俺が料理を注文し終えると誰かが横から話しかけてきた。
見るとそこにはどことなく疲れた感じの幼い少女がいた。黒いローブに杖を持ち、黒の魔術帽を被ったまさに魔法使いといった出で立ちだった。片目に眼帯を付けているのが気になるがそもそもこの子は何者だ?
「…何だお前は?」
俺が尋ねると少女は待っていたと言わんばかりにマントを翻す。
「我が名はめぐみん!アークウィザードを生業とし最強の攻撃魔法爆裂魔法を…」
と、そこまで言うと少女は突然がくっとふらつき前に倒れそうになった。
「おい、どうした?」
俺はすぐに倒れないよう少女を受け止める。
何だ?病気か?とりあえず回復しておいた方がよさそうだな。俺はすぐにコートをあさりルシオの装備を準備する。
ヒールブーストをかけようとしたとき、くぅぅー、と彼女の腹部から小さい音が鳴った。
「あぅぅ、何か食べ物を…もう4日ほど何も食べてないんです…」
一体何なんだこの子は…
「はふっはふっ…」
目の前で一心不乱に料理を口に運ぶ少女ことめぐみん。時折おいしいおいしい、と呟きながら目元に涙を浮かべている。本当に何なんだこの子は。
「ふぅ、生き返りました。ありがとうございます。ご馳走様でした」
料理を平らげためぐみんは俺に手を合わせ礼をする。礼儀作法はきちんとしているところは非常に素晴らしい。
「気にするな。それで、君は一体なんだ?俺に何か用があったのか?」
「はい。先ほど上級職募集の張り紙を見てきました。ヒデオのパーティですよね?」
何と、まさか加入希望者だったのか。来てくれるものがいるとは思っていなかったのでありがたい限りだ。
しかし先程から一つ気になる。
「所でお前、いや他の奴らもそう何だが。皆自然に俺をヒデオヒデオと呼んでいるが何でその名前を知っている?お前昨日ギルドにいなかっただろう?」
今日も街中で行き交う知らない人からも
「よぅヒデオ!元気してっか?」
「ヒデオさん!ついにパーティ組んだんだって?おめでとう!」
「ハルトオオオオオオオ!!!」
などと声をかけられた。どうなっているんだこれは。
するとめぐみんえっ、と声をあげる。
「ヒデオの新しい情報は風の噂からものすごい速度で流れてますよ?多分この街で知らない人はいないんじゃないですか?」
えぇ…何でそんなことになってんのぉ。
「まぁヒデオは只でさえ目立つ格好してる上に謎が多いですからね。ソロで高難易度のクエストこなしたり、マスク着けてるのに食事ができたりとか。皆気になるんですよ」
何か嬉しいような悲しいような複雑な気分だな。
これもヒーローの定め…なのか?
いかんいかん、少し話がそれてしまった。パーティ加入の件だが、さっきアークウィザードがどうとか言ってたな。上級職で何か強そうだしこの子を加入させてもカズマとアクアも文句は言わないだろう。
「話を戻そう。加入の件だが、このパーティは色々大変かもしれない。それでもいいのか?」
俺がそう尋ねると、このまま行けば加入できると悟ったのか。めぐみんは嬉しそうな表情を見せた。
「任せてください。我が最強の爆裂魔法は山をも崩し、岩をも砕く!どんな敵でも一撃で葬って見せましょう!」
この口ぶりからするに彼女は火力に特化した魔法使いのようだ。火力が増えてくれるのは俺的にはとてもありがたい。一つ言えば、見た目が12歳くらいの子供にしか見えないのが気になったがこの世界では若くても優秀な冒険者というのがいるのかも知れない。そう思い見た目が幼いという事については考えないようにした。
「頼もしい限りだな」
「それに私は前々からヒデオとは何か近い物を感じていたんです。特にその恰好とか言動とか…是非とも仲良くなりたいと思っていたので丁度良かったです」
良く分からないが格好いいポーズをとり話を続けるめぐみん。何だ?中二っぽいと言いたいのか?俺は別に中二じゃあない、はずなんだが。
めぐみんはまだポーズをとり続けている。すると少しずつ頬が赤くなってきた。…この状況、」俺も乗った方が良いのか?
「ほぉそうか。では、どうかこれから仲良くしてやってくれ。…パーティのリーダーがもうすぐ来るはずだから少し待っていろ」
俺もそれに応えるように懐から銃を取り出し腕をクロスさせリーパーお得意のポーズを決める。それも見ためぐみんはパァッっと表情を明るくさせる。
「はい。これからよろしくお願いします。ヒデオ!」
俺とめぐみんはがっちりと握手を交わした。
よし、これで火力は確保できたな。欲を言えばもう一人、盾役が欲しいところだ。誰か来ないだろうか…。
そんなことを考えていたが。実際、まともな火力は確保できていないということに俺はすぐ気付くことになる。