「ふんっ」
青い空の下、緑が広がる平原で俺は目の前に残った最後の巨大ガエル、ジャンアントトードに向け銃の引き金を引く。
片手持ちできる散弾銃とはいえ発射される強烈な威力を持った散弾はジャイアントトードの体に多数の風穴を開け吹き飛ばす。
「これで最後、だな」
俺は依頼にあった数の15匹を討伐したことをカードで確認する。
このジャイアントード討伐のクエストは金を稼ぐには非常に効率がいい。
何とこのジャイアントトード1匹を引き取ってもらうだけで5000エリス稼げるのだ。それとは別に依頼料もついてくるのだからこれほどうまい話はない。
新規冒険者の間ではそこそこ強いモンスターとされているようだが俺にとってはいい的でしかない。リーパーのショットガンは近距離戦において絶大な威力を誇る。つまり的が大きければ大きいほど離れていても当てやすい。こいつは俺にとって、ものすごく相性がいいのだ。大体4発も胴体を撃ってやれば倒せてしまう。このジャイアントードを専門で狩る職業に就いても生きていけるかもしれない。
「…しかし、それじゃあだめだ」
そう、悪魔で俺の目的はヒーローになる事。金を稼ぐことじゃない。
ヒーロー生活を初めて今日で2週間ほどか。最初はまたライブをやったり町中をうろついて活躍の場を求めていたが、やはり町の外に出た方が良いと思い、クエストを受けた。
パーティを組んだ方が良いとも言われたが遠慮した。ただパーティを組むのでは意味がないんだ。組むにしても何か運命的なものがなければどうしても組む気になれん…
いざクエストを受け外に出たはいい物の困っている人は特に見当たらず、今日も仕方なく
生活資金を増やすためジャイアントトードを狩りに来ているというわけだ。
仕方ない。次はもっと高難易度のクエスト、フィールドに向かってみるか。そうすれば困っている者もいるかもしれない。
「やれやれ、どこかそこらへんに困っている者がいてもいいんだが…」
と、平原を見渡すと…
「あれは…」
いた。明らかに困っていそうな奴が。
少し向こうでジャージを着た青年がジャイアントトードに追われている…。
ジャージ?何でジャージなんか来てるんだ?
よくわからないがとりあえず助けた方がよさそうだ。
俺はすぐにそいつの元へ向かうため、スキルを使用する。
「…陰から光へ」
「うおっ!?」
突然近くに俺が現れ素っ頓狂な声を上げ尻もちをついた青年の後ろに迫るジャイアントトードに狙いを定め散弾銃を連射する。
散弾の嵐を真に受けたジャイアントトードはあっという間に絶命した。
ちなみに今俺が移動のために使ったスキルはシャドウステップ。リーパーの持つワープスキルだ。指定した場所にワープ移動できる優れものだ。ただしそこまで遠くには移動できないのと、移動する前後、隙がかなり多いので過信は禁物なスキルでもある。
「ケガはないか?」
俺は青年にスッと手を差し伸べる。
「あ、あぁ。助かったよ!ありがとう!」
青年は俺の手を取り立ち上がる。
うむ、実にヒーローらしい行動だ。俺、満足!
「って、あんた!この前ライブやってた骸骨さん!?何でこんな所に!?」
む、俺を知っているか。
「偶然だ。俺も丁度ジャイアントトード討伐のクエストを受けていてな」
「そうだったんですか!ていうかさっきの強さ、すごいですね!!お願いします!!俺達だけじゃ討伐きびしくって、手伝ってくれませんか!?」
お、これはさらに活躍できるチャンスか!!
「あぁ、いいぞ」
「やったー!ありがとうございます!おい、アクア!!何とかなりそうだ…ぞ…」
ん?もう一人いるのか。というかアクア?どっかで聞いたことがあるような…。
「お前何食われてんだよおおおおおお!?」
青年が叫んだ先にはジャイアントトードに飲み込まれつつある者の足だけが見えていた。
「うっ、ぐすっ…ひぐっ…ありがとうカズマ」
「お礼ならこっちの骸骨さんにしてくれ。この人がいなかったら俺もヤバかったんだ」
オーノゥ…まさか、まさかとは思ったがアクアというのはこいつだったのか…。
俺をこの世界に無一文でしかもリーパーの恰好プラス、マスクが取れない状態で送り出してくれたあの水色のおねーさん女神ことアクア様が俺の目の前、粘液まみれで泣きじゃくっていた。
「うぅ…ありがとね。骸骨さ…!?」
と、アクアは今更俺の姿を正式に確認したようだ。
まぁ、いい。とりあえず話を聞いてみるか。
アクアside
やばいわ。すっごくヤバい。
助けてもらったのは良いけど、まさかこのヒーローマニアに助けられるとは…。
何かすごいこっち睨んでる気がするし…もしかしていたずらでリーパーの姿で転生させてマスク取れないようにしたのばれてるのかな…?もしばれてたら殺されるかも…。
「あっ…えーと、うん!アリガトウ、ガイコツサン」
「…何でお前がここにいる?」
まずいわ。怒ってる。この人めっちゃ怒ってるわ。
「え、えーと色々あってカズマに付いてくることになっちゃいまして…」
「…そうか」
と、ガイコツサンはコートの内側を探り始めた。
ま、まずい!あの動き、銃を取り出すつもりだわ!?
私はすかさずガイコツサンの足元に縋りつく
「ちょっアクア、何してんだ!?」
「ご、ごめんなさいー!ちょっとした出来心だったのよー!!お願いだから命だけはああ!」
するとガイコツサンは首をかしげる。
「…何を言っているんだ?ほら、これを聴け」
「…へ?」
ガイコツサンが取り出したのはライブの時に持っていたルシオの武器。
そこからは心の安らぐ音楽が流れている。
「ヒールブーストをかけた。これでダメージも和らぐだろう」
あ、わざわざ回復してくれようとしてたのか…。なんだ、心配して損したわ…。
「あ、ありがと」
「すげぇー!骸骨さん回復魔法も使えるんですか!?」
え、カズマ?
「骸骨さん!お願いします!どうか、このクエスト終わった後、俺とパーティ組んでくれませんか!?攻撃も回復もできる骸骨さんが必要なんです!」
「え、そうだな…どうしたものか」
「ちょっと、回復役なら私がいるでしょ!?」
「いや、骸骨さん来たらいらないし」
「カズマあああああああ!!!」
私はその後、必死にカズマの足に縋りついた。