「何!?ぐおぉぉ!?」
その散弾が俺の胴体に命中した。
俺は林の傍まで大きく後ろにふっ飛ばされ横たわる。
何だ、この威力は…?奴との距離は離れているというのに考えられないほどのダメージだ。近距離で食らったならば間違いなく粉々になるだろう。
コマンダーはやってやったと言わんばかりに吠える。
そして止めを刺そうと再び俺に銃を向ける。
これ以上食らうわけにはいかない!!
「くそっ…!!」
俺はすぐにレイスフォームを使用しぐるりとあたりを一周する。
もちろん敵を惑わそうとしているわけではない。
俺にしか見えないだろうが、先程倒したタウロス達の魂が残っている。
それを吸収し回復することができるのだ。
これはリーパーのパッシブスキル、ザ・リーピング。
倒した敵の残った魂を吸収し回復できるスキルだ。基本的に魂は倒した場所に残るのでそこまで近付く必要がある。魂1つで体力の5分の1ほどを回復できるため、敵を倒し続けていれば回復に困ることはない。リーパーが前線で立ち回れる要因の一つだ。
10数個の魂が落ちていたため体力は全回復することができた。
その間も当たらないにも関わらずコマンダーはショットガンを連射している。
…更におかしいことに気付いてしまった。奴のショットガン、無尽蔵に弾が出ている。
俺のショットガン1丁の装弾数は最大6発。奴は今、すでに10発は連射してきている。
俺は回復が終わるとすぐに、この開けた地形の場所よりも奥の林の方へ向かい、木の後ろに隠れる。
「…よし、安全そうだな」
この林には弓兵が潜んでいる恐れもある為、周囲の安全を確認する。
幸いここは森、隠れられそうな木があちこちにある。障害物さえあれば少しは耐えしのげる。これなら奴をどうするか考える時間もあるだろう…。
「さて…これからどうするか」
俺は追ってきているかどうか、木の端からそっと奴のいた方を確認する。
…何と奴は追ってきていない。それどころか、奴の姿が見えない。
どういうことだ。どこへ行った?まさか逃げたか?いや、それはない。奴は俺に仲間を細切れにされて怒り狂っていた。確実に俺を追ってくるはずなんだ…。
「ヒデオ!大丈夫か!?」
「ぬおっ!?」
突如後ろから話しかけられ俺は咄嗟に銃を構えてしまう。
と、そこにはダクネスと銀髪の子がいた。
「お、おいおい私だ。ダクネスだ。全く…まぁその魔道具の威力、受けてみたくもあるが…」
「ヒデオ!無事でよかった!!」
俺はすまん、と言って銃を下ろす。
ダクネスの言っていた意味が良く分からないが…。
「お前たちも無事か…ところで弓兵はどうなった?」
「あぁ、3匹くらい片付けたよ。他の数体は逃げちゃったみたい。敵感知にも反応がないから大丈夫だと思うよ…ところでコマンダーは?」
銀髪の子があたりを見回す。
弓兵を片付けてくれたのは大変ありがたいが、こっちは更に厄介なことになってしまったんだよな…。
「奴はまだピンピンしている。それどころかさっきより強くなりやがった…」
俺は弾丸が出るはずのない空のショットガンを使われ攻撃されたことを説明する。
「…やっぱり、あのコマンダーがつけていた籠手。あれは神器だ」
銀髪の子が深刻な顔で言う。
「神器だと?何だそれは?」
「神が作ったと言われるとんでもない性能を持った装備の事さ。恐らくあの籠手は自分が持った武器を強化する力を持っているんだ」
自分が持ったものを強化…。そういえば元の世界でやっていたアニメにそんな能力を使う漆黒の狂戦士がいた気がするが、まさか…な。
銀髪の子は続ける。
「本来は選ばれし勇者にしか与えられない代物…らしいんだけど多分あいつはその勇者を倒して奪ったんだと思う」
何ということだ。コマンダーはあれだけ強い籠手を持っている奴を倒したのか。俺は相当厄介な相手を敵にしていたようだ。
…仕方がないな。
「2人は街に戻れ。俺が何とかする」
この2人もこのままここにいれば危険だと判断した俺は街に戻るよう促す。
「何だと!?ヒデオ、奴の強さは分かっているんだろう!?だったら…」
「…奴はこれ以上のさばらせていいモンスターではない」
俺はダクネスの言葉を遮り続ける。
あのショットガンの威力、そして無限の弾数。もし一旦街に戻って増援を呼んだところで間違いなく多数の死傷者を出すだろう。
更にまずいのがこのまま奴を放置して奴が別の場所に移動することだ。そうなると更に犠牲者の数は多くなってしまうだろう。
「奴をこのまま放置すれば確実に犠牲者が出る。俺の武器で死人を出させるわけにはいかない。ここで俺がカタを付けなくちゃいけないんだ」
まずは奴を見つけなくてはいけないが…。
と、考えていると銀髪の子が俺の肩に手をのせた。
「私にも手伝わせてくれないかな?」
「何?」
この子…。
「馬鹿なことを言うな。死にたいのか?いや、俺は君のようなまだ若い子を死なせるわけには行かない。街に帰るんだ」
「私も神器については無関係ってわけじゃないからさ。…それに私は盗賊だよ?盗賊は義理堅いんだ。たった1人で私たちを助けに来てくれたヒーローさんを置いてはいけないよ」
間違いない。死ぬかもしれないというのに、この強い意志を持った瞳。声も俺の肩に乗っている手も全く震えていない。
…この子、ヒーローの素質がある!!
この子も同志だ!!
「ふふ、もちろん私もついていくぞ!一体どれ程の威力なんだ…さっきの剣は受け損なってしまったからな!んくっ…楽しみでたまらん!」
と、続けてダクネスも1歩前に出てきた。
何と武者震いをしている。そういえば彼女もヒーローだったな。
ヒーローなら、仕方がないか。
「ふん…絶対に死ぬんじゃないぞ。ヒーローの条件は、最後まで立っていることだからな」
居合を使う渋い声の人の名言だ。
俺は少しうれしくてマスクの下で少し微笑みながらも2人に忠告する。
2人は力強く頷いた。
「さて、じゃあ作戦を…!!敵感知に反応!!来るよ!!」
来やがったか…何をしていたか知らないが必ず仕留めてやる。
俺たちは一斉に武器を構えた。