01:さようなら、世界
キンキンと耳鳴りが止まない。
いい加減ウンザリしてきた。誰だ、誰が喋ってるんだ。何も考えないでほしい。何も感じていたくない。毎日毎日聞きたくもない言葉が頭に直接響いてくる。
私は一体なんのために生まれてきたのかわからない。苛められて嫌気がする。
それにしても…あぁ、まったく、ほんとに…
うるさい、煩い、ウルサイ…
「…っうるさい!!」
屋上の手すりに捕まって叫ぶ。ガンっと強い音がして手のひらがじんじん傷んだ。肩で息をしながら顔を上げるとさぁっとムカつくくらいに清々しい風が短めの髪を撫でる。頬に伝う汗に髪が張り付く。そんなことは気にならないくらいココロが荒れていた。
叫んだところで声は止むことを知らない。神様はなんでこんなにも辛い試練を与えたのだろうか。信じていたのにあんまりだ。
「うる、さいよ…かみさま」
青すぎる空を見上げると涙が頬を伝った。震える手で十字架のネックレスをそっと握りしめる。クリスチャンだった父親が5歳の誕生日にプレゼントしてくれたものだ。両親はもういないけれど。冷たい十字架は、ざまあみろと神様が嘲笑っているような感覚がして寒気がした。汗はもう無くなっていた。
「ねえ、神様。もう終わりにしよう?」
乾いた声に返事をする相手はいない。屋上にはしっかり鍵をしてきたし、今日は日曜日だ。部活動に青春を捧げる生徒がチラホラといるだけでスグには見つからないだろう。だからこの日を選んだ。
深呼吸して柵を乗り越える。
ガンガンと痛みで警告する頭。
_あいつを騙そう
_死んじゃえよ
_大っ嫌い
誰かの心の声が、考えが頭の中をぐるぐる回る。耳を抑えてうずくまる。あぁ、もうこんな人生嫌だ。
「…神様、生まれ変わりたくない。こんな試練が待ち受けているのなら…これっきりにしてください」
大きく深呼吸をする。
ゆっくり体を起こして、少しずつ足を前に動かして端ギリギリに立つ。あと一歩踏み出せばサヨナラだ。カラカラの喉がゴクリと音を立てた。
「さようなら、世界…さようなら…わたし」
風が一瞬止んだ刹那。
少女は1歩を踏み出した。
そうして少女はこの世界から消えた。
薄れゆく意識の中で、少女は今までにないほどに幸福だった。流れ込んでいたココロが消えたのだ。静寂の中、少女は静かに死んだ。その顔には安らかな微笑みが浮かんでいた。
『地獄へようこそ、 華乃』
------悪魔の囁きは少女には届かない-------
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