皆さん初めまして。俺は佐藤和真。こっちではカズマだ。現在、俺は駄女神であるアクアと共に異世界で冒険者をしている。異世界転生を果たした俺の特典である駄女神は本当に使えない。今ではこの特典を選んだ事を後悔している。
俺もさとりんみたいな感じにした方が良かった。ああ、さとりんというのは東方projectに出て来るキャラクターの名前だ。詳しいことはググれば分かる。一言で言うなら、さとりんマジ可愛い。もっとも、出会ったさとりんは偽者で、中身はおそらく男性だろうが。何せ、デモンベインのエセルドレーダを連れているくらいだしな。だが、可愛いは正義だろう。性別が女なら問題ないだろう。
さて、そんなさとりんからポーカー勝負で軍資金を貰った俺とアクアは、装備を整えた翌日。さとりんとエセルドレーダと一緒にジャイアントトードを狩りに来た。
「やっぱでけぇな……」
「ですよね。では、先ずはお二人で頑張ってください。私はエセルドレーダと一緒に見学していますから」
「え?」
なんで? 一緒に戦ってくれないの?
「基本的に戦いません。今回は臨時でパーティーを組みましたが、私は別の人とパーティーを組んでいます。ですので、ジャイアントトードと戦える程度にはお手伝いをさせて頂きます」
あ~そりゃそうか。こんな特典の俺と違って、さとりんは自身の力だけじゃなく、ナコト写本を持っているんだからもっと高難度クエストを受けた方がいいよな。
「そういう事です」
「え~一緒に戦いましょうよ。そして、私に楽をさせてよ」
「代価の無い寄生は駄目です。強くてニューゲームは認めましょう。ですが、働かざるもの食うべからずです。それとも、代価を支払ってくれますか? そうですね……その羽衣でも渡して頂ければそれ相応の便宜を図りましょう」
「これは駄目よ! 私が女神としての証明なんだから!」
「では、諦めてください」
まあ、そうなるか。
「それにせっかくの異世界転生です。ここでヒキニートを脱却して、楽しい異世界生活を送りましょう」
「そうだな。よし、いっちょやったるか!」
「カズマにそんな事できるのかしら~?」
「出来る! 多分」
「いざという時は任せてください。催眠でもなんでもしてあげますから」
ちょっ、えげつない事言ってやがる!
「では、カズマは前衛として頑張ってきてください。アクアは後衛のアークプリーストとしてですね。危なくなったら助けてあげますから」
「おう」
「だるい~」
大丈夫かよ、コイツ……まあ、さとりんが居るから今日は大丈夫か。よし、行って来るか。
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俺でも戦えると思っていた時がありました。でも、やっぱり無理! こっちの攻撃、ほとんど当たらない上に舌の攻撃がやばい!
「助けてアクアっ! 助けてさとりんっ!」
「プークスクス。ほら、アクアさんでしょ。頼むときの態度というものがあるでしょ!」
助ける気がほぼ無いアクア。さとりんの方を見ると、呆れた顔をしながらエセルドレーダの頭を撫でていた。隣ではイライラした様子のエセルドレーダがアクアを睨み付けている。
「はぁ……仕方ありませんね。エセルドレーダ、聖弓ウィリアム・テルを出してください」
「イエス、マスター」
出て来た黄金の弓を持ったさとりんが、弦を引こうとするが一切動かない。顔を赤らめて力みながら頑張るが、一切動かない。
「プークスクス」
「きぃーっ!」
それを見てアクアまで笑いだし、しまいにさとりんは弓を地面に叩き付けた。本当に可愛い。でも、助けて欲しい。もうそろそろ逃げるのも限界だ。
「マスター」
「ふぅ~大丈夫です。非力な私が魔神が使うような弓を使えるはずがありませんでした。仕方ありませんね。ここはこちらで行きましょう。想起・フォーオブアカインド」
「ちょっ、それ別キャラ! 使えても問題ないけど!」
さとりんが四人に分身して、三人がこちらに駆けて来る。ジャイアントトードの目の前に着くと、さとりんは色んな動きをして注意を引いてくれる。ジャイアントトードは舌でさとりんを攻撃するが、幻影であるそれは攻撃を透過して……え? 透過しないんだけど? 絡めとられて食べられたんだけど。
「ほら、カズマさん。今ですよ。捕食している時のカエルさんは動きが止まります」
「お、おう」
「質量を持つ幻影ですが、維持が面倒なのでさっさと倒してくださいね」
「任せろ!」
流石は30万もしたショートソードなだけあって、切れ味がいい。もっとも、それでも何度も斬らないと駄目だが。
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10分後。どうにかジャイアントトードを一体倒せた。俺は息が切れ切れで、エセルドレーダに膝枕をしているさとりんの横に座っている。飲み物が欲しいぜ。
「はい、どうぞ」
そう思っていたら、さとりんが水筒からお水を出して、コップに入れて渡してくれた。さとりん、まじ天使。何処かの駄女神とは違うな。
「では、反省会といきましょうか」
「ああ」
「え~? カズマが駄目駄目だっただけじゃない」
「そうですね……」
「ぐはっ!?」
「カズマさんは70点といった所です」
あっ、良かった。さっきのそうですねは駄目駄目の方じゃなかったのか。それに一応、高得点だ。
「エセルドレーダは何点だと思いますか?」
「……マイナス264点」
「ぐはっ!?」
「雑魚に時間がかかり過ぎね。マスターが可愛かったから、1点にしてあげます」
「関係ないところで!」
まあ、確かに可愛かったが。
「わっ、忘れてください! それよりも、問題はアクアです」
「ふふん、私は当然満点よね」
「ないわー。まじでないわー」
「論外です」
「役立たず。生きている価値もない。カエルの餌になればいいわ」
「そんなに! 私、女神なんですけど!」
「何もせずカズマさんの役に立たないどころか、カズマさんの士気を下げて邪魔をしましたし、順当な評価ですね」
全くだな。本当に駄女神だ。命の掛かっている時に、アレとか本当に救いようがねえよ。
「ちょっとっ、なんでこの私がカズマなんかの役に立たないといけないのよ!」
「貴女、それを本気で言っているの?」
「そうよ!」
エセルドレーダがかなりイライラしている。
「貴女はソレの特典でしょう。だったら、貴女は仕えるモノであり、ソレは主人よ」
「私の主人がカズマ? あり得ないんですけど。ニートな上にトラクターにはねられてショック死した奴とか……プークスクス」
「マスター、処分しましょう。ソレには別のをプレゼントした方がいいです」
「ちょ!?」
「あ~俺もマジでそれで頼みたいわ~」
「カズマ!?」
「捨てられましたね」
「ふん、だったらどうだっていうのよ。別に私は一人でだってどうとでもできるんだから!」
「そうですか。では、それが本当か試しましょう」
「え?」
さとりんが起き上がって、アクアの顔を両手で挟んで、いつの間にか現れていたサードアイの瞳を合わせて光を発する。
「想起・恐怖催眠術」
「私もお手伝いしますね、マスター」
「あっ、あぁ……いっ、いやぁあああああぁぁぁぁぁぁっ!! やめてっ、助けてぇえええええええぇぇぇぇぇっ!」
アクアは一瞬で崩れ落ちて、両足の間にお尻を落として女の子座りになる。瞳は虚ろになりながら、悲鳴をあげて色々な液体を出している。
「おい、やりすぎじゃないか?」
「教育的指導です」
どんなトラウマを見せているんだ?
「トラウマじゃありませんよ。作った幻影を脳内に投影して、これから起こり得るであろう末路を見せてあげているだけです。ベースはカズマさんが私にした事ですが」
「ちょ、それって……」
「それをカエルにされたり、カズマさんに見捨てられたらどうなるか、というパターンを徹底的に見せているだけです」
うわぁっ、ドン引きだ。えげつなさすぎるぞ、さとりん。
「さて、ジャスト一分です。良い夢……いえ、
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、許してぇっ、許してぇ、カズマ様ぁ~~~」
俺に抱き着いて許しを乞うアクア。俺は頭を撫でながら許してやる。
「許してやるから、泣き止め」
「うっ、うん……」
「さて、ではアークプリースト……いえ、アコライトとしての動き方をしっかりと教え込みましょうか」
「え? 私、女神なんですけど……」
「女神だろうとアコライトになったのは初めてでしょう。拒否してもいいですが、先ほどの幻影を何回も再生してあげます」
「やめてっ! お願いだから! 良い子にするから!」
「はい、わかりました。では、先ず戦いの前に全員に支援魔法を掛けるのです。魔力が少なければ必要な支援魔法だけでいいのですが、貴女は余っているようなので、出来る限りかけましょう」
「う、うん……」
「では、試しにカズマさんにかけましょう」
「わかった。セイクリッドプロテクション、セイクリッドウエポン、リジェネート、ブレッシング……」
おお、大量の支援魔法が掛かって、身体の底から力が湧き上がってくる。
「効果時間は覚えていますか?」
「え? 覚えてないわよ」
「では、最初に自分にかけてから、カズマさんや私達にかけてください」
「それで自分に掛けた魔法の効果が切れたら、掛け直すんだ」
「流石にMMOの支援プレイの基本はわかっていますね」
「当然だ」
「へぇ……でも大変じゃない?」
「必要の無い物は省いていいですが、攻撃系、防御系、回復系は最低一つでも絶やしてはいけません。ですので、効果時間を覚えて切れる前に発動してください。これが最低限、アコライトの必須技能です」
実際は中位プレイヤーから必要になる技術だけどな。効果継続の時間を覚えて掛け直すとかは上級の域だ。さとりんの要求レベルは高い。
「では、実戦で試してみましょうか」
「あっ、待ってくれ。支援状態じゃ、運動能力が大きく変わるから、少し試させてくれ」
「いいでしょう。その間にアクアにはスキルを見せて貰いましょう」
「頼む」
「エセルドレーダはカエルを集めておいてください」
「イエス、マスター」
目測を誤って、こけながらもなんとか身体に慣れる事が出来た。
「慣れたようですね。では、ちょうどカエルが一体出てきたので、相手をしてください。ほら、アクア」
「うん。セイクリッドウエポンetc!」
アクアが様々な支援魔法を掛けてくれる。俺はさっそくジャイアントトードに挑む。前と違って、比較的簡単に避けられるし倒す事が出来そうだ。だが、油断したのか、相手の攻撃があたりそうになる。だけど、透明な障壁によって舌が弾かれた。
「ほら、プロテクションが切れましたよ。直にかけ直してください。ハリーハリー」
「はい! セイクリッドプロテクション!」
「カズマさんがダメージを負ったらすぐに回復。もしくは再生系を使っておくといいでしょう」
「はい、師匠!」
「手が空いたら相手の防御力を下げるデバフを使ってください」
「師匠、そんなスキルはアークプリーストにはありません!」
「なら、別の職業に行ってとってきなさい」
「ひぃー!?」
アクアがちゃんと働いてくれるだけで、本当に楽になった。そう思っていたら、地響きが聞こえてくる。そちらを見ると、エセルドレーダが大量のジャイアントトードを連れてきていた。
「想起せよ、大地の記憶。
さとりんがそう言った瞬間。空から大量の黄金の矢が降り注いで。ジャイアントトードの大部分は壊滅して、残った一部も傷を負っている。今のでヘイトが移ったのか、さとりん目掛けて大量によってくる。
「いやぁぁぁぁぁぁっ!」
「大地の鎖よ、彼の者達を縛り付けてください」
地面から大量の鎖が現れてジャイアントトードを拘束していく。
「幻影魔法です。では、頑張って倒しましょう。傷を負っているので簡単に倒せるでしょう」
「了解だ」
「がっ、頑張るわ……」
一時間後、無事に討伐が終って俺達はアクセルのギルドへと戻った。そこで大量のジャイアントトードを換金して、お金を山分けにした。その額、なんと一人12万エリス。
「では、私達はこれで失礼致します。チュートリアルをしてあげたのですから、後はそちらで頑張ってくださいね」
「おう、助かったよ。また何かあれば頼む」
「まあ、しばらくは宿に居るか街の探索をしていると思いますので、都合がいい時、ご一緒しましょう」
「ああ。その時はぜひ」
本当にアクアを少しでも矯正してくれた事が助かる。少なくとも、これからはプリーストとしては働いてくれるだろうしな。