ポケモン図鑑の所有者である少年コウキは、許婚のヒカリと共にアローラ地方へ進化の石の調査に向かう。
しかしなんだかコウキとヒカリの様子がおかしくて……?

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単発で、バレンタインネタです(20日)

前からちょっとポケモン書いてみたかったんで、よければ見ていってください。

注意点としてはメインはダイパの二人なのですが、ほぼオリ主みたいなものです。
設定も違っているので、オリジナルキャラ設定が苦手な人は気をつけてください。

あと途中でちょっと下ネタもあります。
苦手な人はごめんなさいな(´・ω・)



心の形

 

その少年、コウキは、子供の時から欲しいものは何でも手に入った。

 

こう書くと聞こえは悪いが、要は両親がお金持ちだったと言うだけの話だ。

広い屋敷での何不自由ない暮らしはコウキに豊かさを。

父の書斎にあった大量の本は知識を与えてくれた。

 

ただ、物語の中でたびたび出てくる『愛する人』だけは両親にねだっても手に入れることはできなかったし、それが何なのかも理解できなかった。

 

そんな中、両親から旅に出るように言われたのは、二年が経った時だ。

その時には本で見た愛する人がなんなのかも分かっていた頃。ゆえに両親はココが頃合と見たらしい。

簡単に言えばコネを利用し、ポケモン図鑑を手に入れたコウキは、親友のリオルと共にポケモンリーグを目指すように言われた。

 

ジムリーダーと戦い、チャンピオンを目指す。

それはコウキが名家を継ぐに相応しい男になるように与えられた試練である。

まあ、それはいいとしよう。問題はその際に紹介された女の子である。

 

 

『ヒカリだ。お前の許婚だから、仲良くしてあげなさい』

 

 

なんのことはなく父はそう言った。

なんでも父の親友の娘らしいが、親同士が盛り上がって結婚させようと約束していたらしい。

とんでもない話である。親同士の友情に子供は関係ない。コウキはすぐにヒカリにその話は気にしないように言おうとしたが――

 

 

「ヒカリです。よろしくおねがいします」

 

 

三つ指をついて頭を下げたヒカリ。

間抜けな話だが、コウキは彼女をまじまじと見た瞬間、体に電流が走った。

雪のように白い肌と、サラサラの深い藍色の髪。目が離せなかった。これが所謂、一目ぼれだと気づくのに時間は掛からない。

だから結局有耶無耶にしたまま二人は旅に出てしまう。

 

 

「い、許婚の話は、気にしないで……、はは……!」

 

「こちらも父が勝手な事を、ごめんなさい」

 

 

一応とそんな会話はしてみる。しかし困った事に、コウキにとってヒカリと過ごす時間はとても楽しかった。

そしてもっと困った事に、ポケモンマスターになる旅と言うのは、多くの両親が子供を成長させるために旅に出させる教育の一環であったりする。

しかしその大半が、ジムリーダーに勝てなかったり、ホームシックになったり、限界を感じ途中で諦めて家に帰るものだ。

 

にも関わらず、なんだかんだと上手い具合に事が進んでしまい――

 

ギンガ団、神と呼ばれたポケモン――、云々。

そして、気づけば、チャンピオンになっていた。

 

 

「おめでとうございます! コウキさん!」

 

 

笑顔で祝福してくれるヒカリとの関係も継続したままである。

 

 

そして月日は流れ――。

 

 

「ルカリオ。ココちょっとお願いしていい?」

 

『ああ』

 

 

発勁(はっけい)で氷に覆われた岩を吹き飛ばすルカリオ。

顎に手を当て、砕け散った岩の破片を観察するコウキ。何かを探しているようだが、お目当ての物は見つからない。

一応腕についている多機能腕時計、ネオ・ポケウォッチによるダウジングマシンを起動するが、アイテムの気配はなかった。

 

 

「やれやれ……、もう二日目だけど、本当にあるのかな」

 

『これだけ広い洞窟だ。骨が折れるな』

 

「なにせ未知の鉱物だからね、キミの波動探知も使えない」

 

 

幼い頃から一緒にいたリオルも今では立派なルカリオに。

さらに彼は他のルカリオとは少し違う。ルカリオと言うポケモンは『波動』と呼ばれる全ての物体が放つエネルギーを感知できるとして有名だ。

しかし、人間も名前が違えば全く別の人間であるように、コウキのルカリオは波動の探知力が他のルカリオとは比べ物にならないほど強い。

 

こうしたルカリオは、波動よりも強力な『波導』使いとして有名で、『波動の勇者』と呼ばれている。

現に今も波動の力を使い、テレパシーで会話が行えるほどだ。

 

 

『俺は他のくわんぬ! などと言っているルカリオとはレベルが違う』

 

 

よくこんな事を言っていた。

コウキの父が血統書つきで買ってくれたリオルは、コウキにとっては幼馴染であり、親友であり、家族なのだ。

 

 

「戻ろう。ココは冷える」

 

『分かった』

 

 

現在コウキは氷に覆われた洞窟のなかにいる。

来た道を戻ると、入り口付近の開けた場所で、焚き火が見える。

 

 

『ご主人様ロト! おかえりロトー!!』

 

「やあ、ただいまロトム」

 

 

ポケモンは頭の良い生き物だ。

ほとんどのポケモンが人間の言葉を理解し、ポケモン同士なら簡易的なコミュニケーションが取れる。

しかし当たり前だが、ポケモンは喋れない。しかしコウキの手持ちであるルカリオは別だ。そしてこのロトムも別だ。

 

ロトムは機械に寄生する力を持っている。

小型のスピーカーとマイクに寄生すれば話せるようになるのは、知っている人間は知っている情報。

さらに小さい機械であれば取り込むことも可能であり、ロトムはロトムのままや、フォルムチェンジをしていても喋る事ができるようになった。

現に今のロトムは、オーブンレンジを模した"ヒートロトム"である。

 

 

「コウキさん」

 

「!」

 

 

ロトムの後ろから透き通った声が聞こえる。

見えたのは笑顔で駆け寄ってくるヒカリの姿である。

 

 

「お帰りなさい」

 

「ただいま」

 

「お怪我はありませんか? スープをどうぞ」

 

「ありがとう。助かるよ」

 

 

水筒から温かいスープを受け取る。

さらにヒカリの隣にいる、彼女のポケモンであるミミロップが、ホカホカに湯気を出すポフレ(ポケモンが食べるお菓子)をルカリオに差し出す。

 

 

「ミュ……!」

 

『すまない、助かる』

 

 

ポフレを受け取ると、ミミロップは嬉しそうにヒカリのもとへ戻っていく。

 

 

『ボクの体内で熱々にしておきましたロト。デュフフ、召し上がれぇ』

 

『食欲が失せるな……』

 

 

コウキたちは焚き火を囲んで腰を下ろす。

ヒカリの手持ちポケモンであるロズレイドが発生させた草にロトムが火をつけたのだ。

 

さらにヒカリの頭上には同じく手持ちであるビークインが浮遊していた。

今いる洞窟の中でコウキ達が迷わずに行動できるのは、ヒカリのビークインが洞窟内に大量のミツハニーを偵察機として散布させているからだ。

今の休憩時間は、その回収時間である。

 

 

「それにしても、アローラ地方は温暖な所だと聞いたけれど、寒いところは寒いね」

 

「フフッ、これじゃあシンオウとそう変わりませんね」

 

 

今のコウキ達の服装はコートにマフラーと、馴染みのある格好だ。

とてもじゃないが、南の島にバカンスとは言いがたい。

 

 

「それにしても、チャンピオンと言うのは大変ですね」

 

「まあね、フフフ」

 

 

スープを口に含み、ヤレヤレと首を振るコウキ。

このアローラ地方に来たのも調査の依頼を受けたからだ。ポケモン研究の権威であるオーキド博士がとある情報をキャッチしたらしい。

それは、アローラ地方にて、『未確認の進化の石あり』、とのことだった。

 

雷の石、リーフの石、水の石。

などなどポケモンを進化させる特殊な宝石であるが、いまだかつて見たことの無い石を持っているという男がいる――、と。

 

 

「ヨウくんとミヅキちゃんはリーリエちゃんに会いにカントーに行ってるらしいから。自由に動けるのは僕だけなんだよね」

 

『でもでもっ、ミスターオーキドって確かポケモンが151匹とか言ってた雑魚でしょロト?』

 

「ブッゥ! なッ、なんて事を言うんだロトムッッ!!」

 

『コイルくんの鋼タイプすら見抜けなかったロトしな。あとこの前オーキドしゃんのパソコンにハックしたら――』

 

 

・最近のポケモンのデザインひでーな。やっぱ初代なんだよ初代。

 

・フェアリータイプってなんだよナメてんのか? ファ●ク!

 

・Z技ww!? ポケモン終わったわww!

 

 

『とか書き込みの履歴があったロトな!』

 

「やめてあげてくれないか! 人間いろいろあるんだ! 荒れたい日々もある……!」

 

『それにこの前波動を読んだぞ。ミスターオーキドは石の情報源がポケモン研究会と言っていたが、本当は飲み屋で隣になった男からだ』

 

「帰ろうかなやっぱり!!」

 

 

とは言いつつも真面目なコウキだ。

たとえ情報ソースが居酒屋だろうとも頼まれれば断れない性格なのである。

調査機関は一週間。まだ三日目だ。今日は切り上げて帰るが、明日もなんだかんだと調査する気らしい。

 

 

「それにしても、わざわざこんな事につき合わせて悪いね、ヒカリ」

 

「そんな――ッ、ご一緒したいと言ったのは私です」

 

「アローラと言えば有名な観光スポットだ。本当はもっと遊びに行けたらとは思うんだけど……」

 

「いえっ、あの……!」

 

「?」

 

 

ヒカリは頬を赤く染めると、目を逸らし、小さく微笑んだ。

 

 

「私は、コウキさんと一緒にいられれば、それだけで、嬉しいです。楽しいですから……」

 

「!」

 

 

コウキも同じように頬を染めると、照れくさそうに微笑んだ。

 

 

「あ、ありがとう。そう言ってもらえると、嬉しいよ」

 

「い、いえ……!」

 

『ご主人様。このままチューするロト?』

 

「いやっ、しないよ」

 

『うそん』「本当だよ」『そんなこと言ってぶちゅぅって』「しないって」『いやん、すけべぇ』「しないってっ」

 

 

ヒソヒソとロトムと話し合うコウキ。

丁度そこで散らばっていたミツハニーが戻ってくる。

ビークイン共々ボールの中に回収すると、二人は宿泊先のモーテルに戻った。

 

本当はホテルが良かったのだが、調査地域からは少し離れていること。

アローラは有名な観光地なので冬の今もホテルは予約しないといっぱいだ。

まあコウキ達の財力ならばスイートくらいは余裕だろうが、スイートも満室と言う状況である。

世の中にはお金持ちが意外とたくさんいるものだ。

 

 

「ウルトラビーストの出現で多少は観光客が減るかと思ったけれど、そんな事は無かったね」

 

「ミヅキさんがマッシブーンさんを観光大使に任命したのが良かったのではないでしょうか」

 

 

そんな事を話しながらコウキとヒカリは部屋の前に来る。

いくら許婚と言っても部屋は隣同士で別々だ。

 

 

「じゃあ、えと、また明日」

 

「はい」

 

 

扉に手をかけるコウキ。

するとヒカリが目を見開いた。

 

 

「あ、あのッ!」

 

「うん?」

 

「い、いえ……、おやすみなさい。コウキさん」

 

 

そこで二人は部屋に入った。体に生えている棘を引っ込めるルカリオと、ボールに戻るロトム。

するとコウキの腰についていたモンスターボールがガタガタと震える。出たい、出せという意思表示だ。

コウキはソレに従い、震えるボールを地面に放る。するとポン! と音がして中からドンカラス(♀)が出現、椅子の背に足を置くと、小さく息を吐く。

 

 

『やれやれ、やっとあの劣悪な環境から抜け出せたのね。コウキ』

 

「分かってますよマダム。申し訳ない、さぞ寒かったでしょう」

 

『ええ辛かったわ。この(わたくし)の羽が凍りそうだったもの』

 

 

マダム――、ニックネームだ。

ドンカラスは"泥棒"にてルカリオの波動を奪い、自らのものとしてテレパシーを行使する。

一方でコウキは小さく微笑みながらドンカラスの前に座ると、ブラッシングを始める。

日々の日課だ。ドンカラスにブラッシングを行う――、正確に言えばさせられているのか。ポケモンと人間の関係はとことん不思議なものである。

 

ある者は親友とし。

ある者はペットとし。

ある者はライバルとし。

ある者は仕事仲間とし。

ある者は手下とする。

トレーナーとポケモンはどんな形であれ、よりよい関係を作っていくのが望ましい。まあもちろんそれは人間同士にも言えることだが。

 

 

「ハァ」

 

『あらボウヤ。どうしたの? なんだか元気が無いみたいだけれど』

 

「聞いてくださいマダム。ルカリオも。今日は何の日だい?」

 

『なんの日? さあ、なんだったか……』

 

「バレンタインだよバレンタイン!」

 

『バレンタイン……? ああ、人間のお祭りだったな』

 

「お祭りって程じゃないとは思うけど……」

 

『チョコを渡しあうイベントだったわね。あら、ボウヤまさか』

 

「そうなんですよマダム。今年も僕は……! うぅう!」

 

 

どうやらお目当ての人物からもらえなかったらしい。

そう、ヒカリと出会って三年以上になるが、実は今まで一度もチョコをもらった事がなかった。

チラホラと見かけたが、アローラにもしっかりとバレンタインの文化は届いているらしく、恋人達が楽しそうに歩いているのが見えた。

そんな中で、仮にも許婚から義理すらもらえないとなると、それはそれは落ち込むという話である。

 

 

「マダム。僕ぁもしかしたらヒカリに嫌われているのでしょうか」

 

『何をお馬鹿な事を言っているのかしらこの子は。もっと胸をお張りなさい』

 

「ははっ、冗談ですよ。ヒカリはこういうイベントには興味なさそうですし」

 

『ならよいでしょう? 未練を見せるのは、男の質を下げるわよ』

 

「気をつけます。しかしマダム。男と言うのは単純な生き物です。好意を持つ女性からチョコを受け取れば、それは最高の喜びですよ」

 

『カカカ。まだまだ子供ね。愛する人が傍にいるだけで、それは究極の幸福ですよ』

 

「これはこれは。マダムの言葉は心に染みます。ねえ? ルカリオ」

 

『俺はさきほどチョコをもらったぞ』

 

「――コォ」

 

 

乾いた声を漏らすコウキ。

そういえばいつの間にかルカリオの手には可愛くラッピングされた小包が。

 

 

「誰から!?」

 

『チョコポフレ。ミミロップからだ。まあ、包みはヒカリが用意してくれたみたいだがな』

 

「なん――ッ!」

 

 

と言う事は少なくともヒカリもバレンタインの『近くにいる』筈だ。

しかし肝心のコウキは――、ご覧の通りである。

 

 

「どうやってもらったんだい、ルカリオ!?」

 

『どうやってって……。普通に欲しいと言ったんだ』

 

『ホホホ! 流石は波動の勇者の血筋ね。ボウヤには少しハードルが高いんじゃないかしら? でもいい手ね。貴方もほら、言ってごらんなさいな』

 

「ご、ご冗談をマダム! はいはい、もうこの話はやめよう。これ以上は傷口に塩をすり込まれる気分です!」

 

 

ベッドにもぐりこむコウキ。

ドンカラス達はヤレヤレと顔を合わせて、ボールに戻った。

 

一方隣の部屋では、壁に耳を押し当てているヒカリがいた。

 

 

「………」

 

 

真剣な表情で耳を澄ませるヒカリ。

しかしその時、ふと視線を感じる。ヒカリが周りを見ると、手持ちであるムウマージ、ロズレイド、ミミロップがジットリとした目で自分を見ていた。

 

 

「あッ、あの、これはっ、違うの……! みんな」

 

 

ヒカリは顔を赤くしてベッドの上に座り込む。

しかしすぐにシュンと目線を落とし、表情を曇らせた。

 

 

「今年も……、渡せませんでした」

 

 

ベッドの上には可愛らしくラッピングされた小包が。

そう。ヒカリは毎年毎年ちゃんとチョコレートを用意していたのだ。

しかも手作り。とは言え、肝心の渡す勇気がなく、今年も自分で食べる事になりそうだ。

結局、隣の部屋にいるコウキが残念がってないかを調べようとするほど未練は残っているのに。

 

 

「シェフェフォブリョフォボリャ」

 

「ッ」

 

 

呪文のような鳴き声のムウマージ。

目が語っている。後悔や未練を残すくらいならば渡したほうがいいと。

それは他の手持ちも同じである。

 

 

「コジョディグロンエエファフェ」

 

「で、でもやっぱり、こういうイベントに興味がある女性は、コウキさんの好みではないと思うの……」

 

 

少々誤解がある。

確かに、コウキはよくハロウィンだったりスポーツチームが優勝した際の街を練り歩く熱狂的な集団を見て『よく分からない』だのとは口にしていた。

 

しかしそれは単にコウキがインドア思考なだけであり、イベントそのものを嫌悪しているワケではない。

現に壁一枚挟んだ向こうでは同じく未練タラタラの男がいるのだが、アローラ地方のモーテルは質が高い。防音設備は完璧である。

ヒカリはミミロップを抱きしめると、憂いの表情を浮べる。

 

 

「チョコレートを渡すのは、やっぱり女性の自己満足な面もあると思うから」

 

「ミュ?」

 

「バレンタインに浮かれるなんて……、重いと思われるかもしれない。それに美味しくないと思われたら……、ショックだもん」

 

「ミュ……」

 

「チョコレートを渡せない痛みより、嫌われる痛みの方が怖いから」

 

「ミミミ!」

 

「?」

 

 

ミミロップの合図を受けて頷くロズレイド。

するとテーブルの上にあった紙とペンを持ってヒカリのもとへ。

 

 

「これは?」

 

 

腕を組んで頷くロズレイド。

 

 

「もしかしてお手紙?」

 

 

頷くポケモンたち。ヒカリは大きく息を吸うと、ゆっくりと吐き出す。

気を遣ってくれているのか。それもそうか、ずっと一緒だったのだ。

ポケモン達に気を遣わせるのは申し訳ない。トレーナーたるもの、ポケモンにはいらぬ心配などしてほしくない。

 

 

「そっか。うん。そうだね……。ありがとう皆。私、少しだけ勇気、出してみようかな」

 

 

それに、このままならば同じ事を繰り返すだけだ。

だからヒカリは少しずるい手にでる。手紙を認めるワケだが、内容は簡単に言うと――

 

 

・チョコを作ったが、渡す勇気がないので、興味があるならコウキから話題を出して(振って)くれないか?

 

・もしも興味がないならいつもどおりにしてくれればいい。そしたら自分もそれに合わせるから。

 

・こんなやり方でごめんなさい。

 

 

とまあ、こんな感じである。

それを封筒に入れてコウキの部屋の前においておく。

手紙を入れる部分はないので、地面に置く形になるが、風も強くはないので飛んでいく心配はないだろう。

 

結局その後にヒカリはベッドに入ったが、手紙の内容を考えるのに一時間、置く勇気が出るまでに一時間。

ベッドに入ってからも緊張と期待でなかなか眠れず、結局少ししか眠る事ができなかったのは言うまでもない。

 

 

「やあ、おはようヒカリ」

 

「お、おはようございますコウキさん」

 

「ん? なんだか疲れてない? 大丈夫?」

 

「はい……、大丈夫です」

 

「そう。あの、ヒカリ」

 

「は、はい?」

 

「手紙見たよ。ありがとう」

 

「!」

 

「嬉しいよ。キミがそこまで考えてくれていたなんて」

 

「い、いえ。私はただ――! コウキさんに喜んで欲しくて」

 

「もちろん。もらっていいかな」

 

「はい! もちろんです! コウキさんのために愛情を込めて作りました!」

 

「チョコだけじゃ足りない」

 

「へ?」

 

「ヒカリ、キミが欲しい!」

 

「え、えぇえ!」

 

「ダメかい?」

 

『そ、そんなダメだなんて! 私は――、私の心も体も、全ては貴方様の物です!』

 

『で、でもッ! こんな外でだなんて、こ、コウキ様、心の準備が――ッッ!!』

 

「―――ハッ!!」

 

 

そこでヒカリは目を覚ました。

 

 

「ゆ、夢……!」

 

 

なんと言う夢を。

ヒカリは真っ赤になりながら体を起こすと、顔を洗いに洗面所に向かった。

 

そう、今は早朝。

コウキの部屋からロトムが飛び出してくる。

 

 

『お掃除お掃除♪ ヴィンヴィンヴィィイン♪』

 

 

ロトムは芝刈り機と合体したカットロトムに。

モーテルはお部屋は快適であったものの、少々その周りに雑草が目立った。

それを危惧したロトム。どうせならばご主人様であるコウキと、その許婚であるヒカリ様には快適な朝の出発をお届けしたいと思うのだ。

 

 

『ヴィィイイイイン!!』

 

 

周りに生えている雑草を手当たり次第に刈りまくるロトム。

ものの十分ほどでコウキとヒカリの部屋周りは綺麗なものに。

 

 

『これでよしロトなー! って、ん?』

 

 

そこでロトム、コウキの部屋の前に封筒を発見。

 

 

『ご主人様のお部屋の前にゴミが落ちてるロト! コイツもヴィイイン!』

 

 

ミキサーされる封筒。

ヒカリの思い、消滅。

 

 

 

 

 

 

「やあ、おはようヒカリ」

 

「お、おはようございますコウキさん」

 

「ん? なんだか疲れてない? 大丈夫?」

 

「はい……、大丈夫です」

 

 

モーテル前で合流する二人。ぼんやりとしたヒカリ、気のせいだろうか? 隈が見えるような気も。

 

 

「疲れてるなら言ってね。今日はゆっくり休もうか?」

 

「あ、あのコウキさん……。それよりも」

 

「?」

 

 

ヒカリはチラチラとコウキを見ながら、頬を桜色に染めている。

腕を後ろに組んでおり、時折、片手で前髪を整えていた。

 

 

「な、なにか、私にできる事は――、あの、その、あるでしょうか?」

 

「え? あぁ、今日の調査?」

 

「いえ……! そうではなく。その、あの、甘いなにか、こう……」

 

「え? 特に無いけど?」

 

「!!」

 

 

ビキッ! と、真っ白になって固まるヒカリ。

 

 

「近くのカフェでご飯食べようか」

 

「……はぃ」

 

「?」

 

 

消え入りそうな声でヒカリは頷く。

背後に持っていたチョコレートを必死に隠して、ヒカリはコウキについていった。

 

 

「………」

 

「………」

 

 

カフェでモーニングセットを頼んだはいいが――。コウキは汗を浮かべて正面のヒカリを見る。

どす黒いオーラが目に見えるのではないかと言うくらい落ち込んでいるではないか。

いやそれよりも彼女の周囲にいるムウマージやミミロップからジットリとした視線で睨まれているような。

 

 

「ルカリオ。ルカリオっ!」

 

『ああ。ヒカリのポケモン達から敵意に似た波動を感じるぞ』

 

「え゛ッ? ぼ、僕はなにか失礼な事をしてしまっただろうか?」

 

『こ、心当たりはないが……』

 

「………」

 

 

汗を額に浮かべながら、コウキはニコリとヒカリに微笑んでみせる。

 

 

「あの――、どうしたんだい? 何かあったら相談してね?」

 

「はい。ありがとうございます……。でも大丈夫。なんでもありません」

 

「――そ、そう? いやでもっ」

 

「なんでも……、ありませんから」

 

「!?!?!?!?!?」

 

 

その時、ヒカリの目からポロポロと零れる雫が。

 

 

「う゛ッッ!!」

 

 

流石になんでもないワケがない。

コウキはすぐに立ち上がると、ヒカリの傍に寄り添い、背中を撫でる。

一方でルカリオは近くにいたミミロップに詳細を求めた。すると手紙の事を教えられる。

 

 

『手紙? そんな物は無かったが……?』

 

 

するとそこでコウキのモンスターボールから強い波動が。

ロトムだ。

 

 

『どうしたロトム』

 

『あの――、いやッ、ごめんなさい。多分それボクが細切れにしました』

 

『?』

 

 

するとそこでウエイトレスのオバサンがマラサダを二つコウキ達のテーブルに持ってきた。

 

 

「はい、お客さん。これサービス」

 

「え? あ、どうも」

 

「かわいそうにね。お客さんもチョコレート盗まれたんだろう?」

 

「え?」

 

 

普通、男女が座っていて、女の子が泣いているのならば喧嘩でもしたのだろうと思われるのが普通だろうが、そうではなかった。

 

 

「どういう――、事ですか?」

 

「いや、ほら、昨日のさ。ニュース見てない?」

 

 

昨日はバレンタインだったワケだが、なんとそこで女の子が用意したチョコレートが次々に盗まれる事件が発生したらしい。

せっかく好きな人のためにと用意したものを盗まれたのだから、昨日もココでは涙を流す女性がチラホラ見かけたとか。

 

 

「ッ、そうなのかいヒカリ?」

 

「え……? あ、いやっ私は――」

 

 

一応バレンタインがらみではあるものの、チョコはまだバッグの中に――

 

 

「あれ? あれれっ?」

 

 

バッグの中を探すが、先程中にいれたはずのチョコレートがなくなっている。

そこで気づく。さきほどは閉めていた筈のバッグが開いていた状態だった。

と言うことは、誰かがバッグを開けた――?

 

 

「あ!!」

 

 

ヒカリが驚きの声を上げる。

そしてある方向を指差した。その先に立っていたのは怪しげな笑みを浮かべ、ヒカリが作ったチョコの小包を持っているポケモン、ペロリームの姿だった。

 

 

「あぁ!」

 

「!」

 

 

ヒカリの反応に気づいたのか、ペロリームはニヤリと笑い、走り出す。

当然その手にヒカリの作ったチョコを持ったままだ。

 

 

『ッ』

 

 

反射的に地面を蹴ってペロリームを追いかけるルカリオ。

一方でコウキはヒカリを見た。

 

 

「あのッ、もしかして……」

 

「あ、ぅう」

 

 

ここまでくれば言い訳できぬと思ったのか、ヒカリは全てを打ち明ける事に。

 

 

「ごめんなさい。私だけ浮かれてしまって……」

 

「ッ、なんの事?」

 

「全ては手紙にあったとおりです……」

 

「手紙――?」

 

 

そこで震えるモンスターボール。

それに応え、コウキはロトムを呼び出す。

 

 

『ご主人様! ヒカリしゃん! 本ッ当に申し訳ないロト!!』

 

「どういう事?」

 

 

事情を説明するロトム。部屋の前に封筒があったが、ゴミかと思って処分してしまったと。

 

 

「じゃあ、だったら――」

 

 

ヒカリを見るコウキ。ヒカリもコウキを見たため、視線がぶつかる。

 

 

「あ……」

 

 

頬を染める二人。

 

 

「もしかしてヒカリ――、僕にチョコを?」

 

「はい……! ごめんなさい」

 

「ど、どうして謝るの?」

 

「だって、コウキさん――、こういうのは苦手でしょう?」

 

「――ッ」

 

 

顎に手を当てるコウキ。過去の発言を思い返し、どうやら全てを察したらしい。

 

 

「ヒカリ、謝るのは僕の方だよ」

 

「え?」

 

「どうやら、余計な心配をさせてしまったみたいだね」

 

 

コウキは指でヒカリの涙を拭うと、頭を撫でる。

随分と気の毒な思いをさせてしまった。

 

 

「それも、僕に勇気がなかったからだ」

 

「え? え?」

 

「キミに嫌われるのが怖かった。がっついてると引かれるのを想像すると言葉が出なかったんだ」

 

「それは、どういう意味ですか?」

 

「いやぁ、要するに僕はバレンタインに興味ありありだったって訳だよ」

 

 

頭をかきながら照れくさそうにコウキは笑う。

 

 

「ずっとキミのチョコが欲しくて。妄想したりしてた。あはは……、馬鹿みたいだろう?」

 

「でも、どうしてっ! コウキさんはこういうの――」

 

「確かにこういうのではしゃぐのは苦手だけど、キミと一緒なら全然オッケーなんだけどね」

 

「そ、そうだったんですか……!」

 

「ごめんごめん。もっと普通に素直になっておけば良かったね」

 

 

コウキはヒカリの手を握り締めると、真剣な表情で瞳を見つめた。

 

 

「もしよかったら、チョコレート、くれないかな? 他の誰でもない、キミのが欲しいんだ」

 

「――ぁ」

 

「え?」

 

「わ、私のものでよければ何個でも! 何千個でもっっ!!」

 

「本当に? やった! うれしいよ!」

 

 

笑い合う二人。するとそこで周りから拍手の音が聞こえる。

どうやら軽いショーのようになっていたらしい。二人は恥ずかしさから真っ赤になりながらも、しっかりと頷きあった。

 

 

「よし、じゃあまずは、取り返さないとね!」

 

「はい! はいッ!!」

 

「ルカリオ! 魂の共鳴を!」

 

『ああ、任せろ!』

 

 

脳内に声が響く。目を閉じるコウキ。すると脳内にルカリオが見る景色が広がった。

幼い頃から共にいたため、お互いの波動を共鳴させ、合わせる事ができる。ルカリオはコウキに。コウキはルカリオになるのだ。

そしてコウキは"神速"を発動させる。するとコウキの狙いを読み取り、ルカリオは一気に青いエネルギーを纏わせて加速。

ペロリームを弾き飛ばすと、ダウンを奪う。

 

 

「よしッ! お願いしますマダム!」

 

「お願いしますビークイン!」

 

 

モンスターボールを放る二人。

ドンカラスはコウキの肩を掴むと翼を広げて、コウキを持ち上げたまま浮かび上がる。

ビークインは大量のミツハニーを召喚。それを連結させる事でヒカリを上に乗せる。こうして二人はルカリオの波動を目印にペロリームを追いかけるのだった。

 

 

『すみません、ここカード使えますロト? 使えないなら領収書もらっていいロト? あ、スタンプカードあるからお願いしますロト』

 

 

ちなみに、お支払いはバッチリなのでご安心を。

 

 

「フッ! ハァア!!」

 

「ベロッ!!」

 

 

一方でペロリームを弾き飛ばしたルカリオ。

立ち上がったペロリームは怒りを表情に宿しており、一方でルカリオも波動を拳に纏わせて対峙する。

 

 

『持っているチョコレートを返せ。それは、大切な人の持ち物だ』

 

「ペロロロ!!」

 

 

小包を後ろにもっていき、『嫌だ』と意思表示を示すペロリーム。

ならば仕方ない。ルカリオはペロリームからチョコを奪い取るために走り出した。

 

同じくして走り出すペロリーム。ルカリオとの距離をつめ、腕を振るう。

すると桃色のエネルギーが発生。"妖精の風"だ。ルカリオも腕を振るい、波動で対抗する。

 

青と桃色。エネルギー同士がぶつかり合い火花が散った。

ペロリームはフェアリータイプ。格闘タイプであるルカリオには相性がいい。

しかしルカリオにはもう一つ鋼タイプが複合されている。無機質な鋼は言わば現実、対して不思議な力の具現であるフェアリーは理想。

それらは互いにぶつかりあい、障害となる。相性は五分五分と言ったところだった。

 

 

「フッ!」

 

 

蹴りを繰り出すルカリオ。

ペロリームのずんぐりむっくりとした体は見た目どおり小回りの利く動きができないのか、回避はできなかった。

しかしそれでいいといわんばかりに、ペロリームはマシュマロのような体で蹴りを受け止めてみせる。

ボワンとした感触と共に弾き返させる足。"コットンガード"、どうやら打撃には強いらしい。

 

 

「フッ!!」

 

「!」

 

 

さらにルカリオは背後から敵意の波動を感じ、後ろを見る。

すると飛んできたのは飛び蹴り。ルカリオがサイドステップで距離を取ると、今まで立っていた位置に足が突き刺さる。

 

 

「フゥゥッワッッ!!」

 

 

ほうこうポケモン・フレフワン。フェアリータイプだ。

モジャモジャの毛から伸びる脚でルカリオに次々と蹴りを仕掛けていく。

初めから敵意むき出して襲い掛かってくる相手、ルカリオも足を拳で受け流していく。

しかし敵は一人ではない。背後からはドタドタと足音を立ててペロリームが向かってくる。

 

 

「チッ!」

 

 

手を叩くルカリオ。そして手を離すと、そこに青色の『棒』が生まれる。

波動をロッドに変えたのだ。さらにそれを二つに割ることで、波動の棒を二刀流にして迫るポケモンと対峙する。

フレフワンの飛び蹴りを棒で叩き落すと、もう一方の棒をふるってペロリームを牽制。

 

 

「フワッ! フワッ! フゥッワッ!」

 

「ッ!?」

 

 

だがそこでフレフワンが毛をはためかせる。

フレフワンはいろいろな匂いをつくることができるポケモンだ。そしてそれは『強い』香りでもある。

ルカリオは犬型のポケモンだ。当然鼻は他のポケモンよりも利くため、より強烈な香りとして鼻を抜けていく。

 

 

「グッ!」

 

 

クラクラするほどの凄まじい"甘い香り"に怯むルカリオ。

するとそこで衝撃。ペロリームの体当たりに吹き飛ばされ、地面を転がる。

 

 

「ルカリオ!」

 

 

そこでコウキ達が到着。

地面に降り立つと、ルカリオに駆け寄っていく。

 

 

「一匹増えてるね」

 

『くッ、フェアリータイプだ……!』

 

「なるほど……」

 

 

ポケモン図鑑を取り出すコウキ。データベースを検索し、フレフワンとペロリームの情報を表示させる。

一方並び立つペロリームとフレフワン。動いたのは前者だった。敵が増えたと理解したのか。

頭上にある赤い球体が光を放つと、直後、紅蓮に光る光球が発射されていく。

 

 

『くっ! 後ろに下がれ!!』

 

 

立ち上がり、走るルカリオ。手に持ったロッドを連結させて一本にすると、それを振り回して光球を弾いた。

軌道を変えて地面に着弾する光球。すると爆発が起き、火柱が上がる。

 

 

「これは……! 火炎放射!?」

 

 

目を見開くコウキ。

ペロリームは尚も光球を連射していく。

はじめは撃ち弾いていたルカリオも、次々と迫る光弾には対処できず、コウキの元へ後退していき――

 

 

「ウワァアアアアアアアア!!」

 

 

次々に爆発が巻き起こり、コウキ達の姿は完全に爆炎の中に。

 

 

「フフフ……!」

 

 

攻撃を止め、笑うペロリームとフレフワン。

 

 

「ッ!?」

 

 

しかしすぐに驚いたように前のめりに。

それはそうだ。爆煙の中から姿を見せたのは、それはそれは大きな『盾』。

 

 

「トリデプス! メタルバースト!!」

 

「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

盾が、吼えた。

そして直後、その鎧から銀色の衝撃波が発生する。

シールドポケモン、トリデプス。コウキの4体目の手持ちである。強力な防御力で相手の攻撃を受け止めるのが得意なポケモン。

さらのカウンター技ももっており、衝撃波はペロリームとフレフワンを後方へ吹き飛ばす。

 

 

「大丈夫? ヒカリ」

 

「はい。ありがとうございます」

 

 

トリデプスの背後でコウキはヒカリの手を取り、様子を伺う。

 

 

『よし、今がチャンスだな!』

 

「待って、ルカリオ」

 

『ッ?』

 

「さっきの攻撃からは炎のエネルギーを感じた」

 

 

持っていたポケモン図鑑を振るうコウキ。

ペロリームのデータを検索したが、ペロリームは炎タイプに分類される技を覚える事はできない。

 

 

「え? コウキさん。でも先程のは……」

 

「そう。例外があるとすれば、技マシンを使った、か」

 

 

技マシンのは、ボールに入ったポケモンにしか使えない。

つまり――

 

 

「あの二体には、トレーナーがいる」

 

 

そこでルカリオが新たな波動を感じた。

 

 

「ありがとう。たすかったよトリデプス」

 

 

ポケモンをボールに戻すコウキ。

入れ替わりでロトムが出現する。そんな中、再び起き上がるペロリームとフレフワン。その中央を通り抜ける男性が一人。

 

 

「まさか、図鑑所有者がこんな所にいるとはな」

 

「あなたは……」

 

「私はチョコマン。パティシエをしている。ちなみに本名だ」

 

 

パティシシエのチョコマン。

どうやら彼がペロリームやフレフワンのトレーナーらしい。

 

 

「パティシ――……チョコを盗んだのは貴方ですか?」

 

「その通りだ」

 

「一体な――」

 

『なぜロト?』

 

「ッ、ロトム?」

 

『ご主人様。ボクには分かるロト。チョコマンしゃんは憂いを持っているロト』

 

 

憂い。

確かにチョコマンは複雑そうな表情で遠くを見ていた。

 

 

『なにか深い事情があるに違いないロト』

 

「深い事情……」

 

『そう。話してみてはくれませんかロト……?』

 

 

ゆっくりと頷くチョコマン。

噛み締めるように、彼は語り始めた。

 

 

「私はお菓子を作る事を仕事にしている。そしてそれを誇りに思っていた。おいしいお菓子を食べれば人は笑顔になる」

 

『ふむふむ』

 

「しかし気づいたんだ。たった一つ、チョコレートだけは違う。アレはバレンタインデーに使われる道具でしかない。愛を確かめるツールなのさ」

 

 

チョコレートを使って『愛』を左右させる。

それがバレンタインデーだ。おいしいチョコレートが笑顔を生み出し、逆に悲しみの涙を生み出すかもしれない。

 

チョコマンは、バレンタインが嫌いだった。

あの日があるせいでチョコレートは味わうものではなくなる。愛の前にある言い訳にしかならない。

バレンタインは誰もチョコを楽しまない。あれはチョコを食べる日ではない。チョコを使って『好き』を感じる日なのだ。

 

 

『それが憂いの理由ロトね。チョコレートをちゃんと味わってくれない人間文化の――』

 

「あ、いや、どっちかって言うと生まれてから一度も母親とお祖母ちゃん以外からチョコをもらえなかった事の方かな」

 

『あぁ、そうな――、え?』

 

「いやチョコだけじゃない。私は生まれてから一度も女性と付き合った事がない! そんな中で他人が渡すチョコを作らされる屈辱がわかるか!!」

 

『え? そっち? あ、そっち!?』

 

「だが私はまだ耐える事ができた。なぜなら30歳になれば、妖精さんになれるとネットで見たからさ!」

 

『………』

 

「私はフェアリータイプが好きだった。だから私もフェアリータイプになりたかった!」

 

『あぁ、おぉん……』

 

「しかし結果はコレだ。私は……、今も、ノーマルタイプ」

 

『いやッ、そもそもアンタポケモンじゃないし……』

 

「偽りだったんだよ。全て虚構だったんだよ私が信じていたものは。だがその時だった。私の中に、激しい嫉妬と怒りの炎が宿ったのは」

 

「ッ?」

 

「激しい痛みだった。しかしそれが私に復讐を行う決意を固めさせたのさ」

 

『ねえご主人様。こいつやっぱロクなヤツじゃないかもしれないロトな』

 

 

そして、チョコマンは懐から一つの『石』を取り出す。

 

 

「ッ、まさかそれは――」

 

 

そう、進化の石だ。

チョコマンこそがオーキドに情報を与えた人物だったのだ。

 

 

「ネメシスの石!」

 

「ネメシス……ッ!?」

 

「そう! 我が体内で精錬された復讐の石さ! 先日トイレでおしっこしたら出てきたのだ!」

 

 

瞬間、コウキたちは踵を返して全速力で走り出した。

 

 

「っ? コウキさん?」

 

「キミは何も聞かなくて良い。見なくていいからね!」

 

 

ヒカリの耳を押さえているコウキ。

他のポケモンは青ざめており、ドン引きと言った様子である。

ドンカラスにいたっては青筋を浮べており、相当お怒りのようだ。

 

 

『キタねぇロト! 何がネメシスだふざけやがって! どう考えてもお前の尿路結石じゃねぇか! そんなんだからテメーは彼女がいねぇんだロト!!』

 

「病院に行く事をオススメします! じゃあ僕らはコレで!」

 

「待って待って待って! お願い待って! 分かる分かる分かる! 引くのは分かるけど、お願いだからちょっと待ってぇ……!」

 

 

チョコマンはモンスターボールからパニプッチを呼び出す。

どうやらチョコマンはネメシスの石を使ってパニプッチを進化させようというのだ。

 

 

「メチャクチャ悲しそうな顔してますよバニプッチ!」

 

『だいたい尿路結石で進化できる訳が――』

 

「ウォオオオオオオオオオオ!!」

 

 

石を天にかざすチョコマン。

すると眩い光が迸り、帰りたそうな顔をしているバニプッチの体が光に包まれる。

 

するとそのシルエットが巨大化し、出現したのはパニプッチの進化系であるバニリッチ。

いや、違う。通常のバニリッチよりも張るかに巨大で、顔を上げなければ全貌を把握する事ができない。

そして、なにより、茶色い……!

 

 

『ウ●コ!?』

 

 

目が飛び出すのではないかと思われるほどに見開くロトム。

 

 

「ウン●じゃないわ! チョコソフトだ!!」

 

『どっちでもいいわ! さっきから何なのこの低俗な会話の流れは! コウキ!! 今すぐなんとかしなさいッッ!!』

 

「いででで! マダムッ、つつかないでください!!」

 

『しかし本当に進化したぞ!?』

 

 

確かに。コウキたちは汗を浮かべて茶色いバニリッチを見上げる。

だがポケモンとは不思議な生き物だ。進化しないとされていたポケモンが時を経て新たな進化形態を見せるように。

なんらかの条件が重なって『ああなった』と言う可能性は十分にある。

 

 

「あ、あれを見てくださいコウキさん!」

 

 

さすがのヒカリも事態を目視したのか、ある場所を指差す。

それは空だ。無数のチョコレートが飛んできて、次々にバニリッチに吸収されていくではないか。

 

 

「奪ったチョコレートを吸収しているのか!!」

 

『"蓄える"だ!』

 

 

息を呑むヒカリ。

ヒカリが用意したチョコレートの包みも例外なくバニリッチの体のなかに吸い込まれていった。

 

 

「フフッ、どうやら成功のようだな!!」

 

「!」

 

 

チョコマンが地面を蹴ると、バニリッチが風を巻き起こして頭上にチョコマンを乗せる。

どうやらバニリッチの蓄えるには周囲のチョコレートを吸収する能力があるらしい。

 

二日目とは言えど、いまだ街には多くのチョコレートが溢れている。

ましてや昨日に渡せなかった女の子もまだ持っているかもしれない。

もしかしたら今日、勇気を出して渡しにいくかもしれない。そんな少女たちの夢が、一人の男の嫉妬に奪われるのだ。

 

 

「いけません! 止めて下さいチョコマンさん! それは逆恨みだ!」

 

「なんでもいい! 妖精になれなかった私にはもはやコレしか残っていない!!」

 

「そんな馬鹿な!」

 

「キミのロトムは先程私のバニリッチをウ●コと言ったね! ならばもはや●ンコで結構! そう、チョコレートなんて全部ウンコなんだよッッ!!」

 

「何を言っているんですか貴方は!? 暴論ですソレは!!」

 

「黙れッ! 私は決めた! 今決めたぞ! 世界中のチョコレートをウ●コだとイメージをすり込めば、バレンタインにチョコレートを渡そうなどと言う腐った文化は終焉に向かう!」

 

『だったら多分別のお菓子になるだけロト。たとえば、マシュマロとか……!』

 

「ならマシュマロは白ウ●コだと叫び続けてやる! それが私の覚悟だ!!」

 

「もう止めて下さい! 不毛すぎる!!」

 

「だったら一つだけ聞かせてくれ!」

 

「ッ、はい!?」

 

「キミの隣にいる女性はなんだ? どういう関係だ!?」

 

「え? どういうって……」

 

 

チラリと見詰め合うコウキとヒカリ。

すると二人は頬を赤く染めて目を逸らす。

 

 

「い、許婚ですけど……」

 

 

そこでヒカリはハッとしたようにコウキを見る。

 

 

「私の事を、許婚として認めてくれるんですか」

 

「え? あ、当たり前じゃないか」

 

「嬉しい……! いろいろと足りない部分があると、自信がなかったんです」

 

「そんなっ! キミ以上にその――、素敵な女性はいないよ!」

 

「コウキさん……!」

 

「ヒカリ……!」

 

「        」

 

 

白目をむき、チョコマンは真っ白になって叫び声を上げた。

 

 

「ウンコォオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

怒りの業火はより激しく燃え上がる。

チョコマンはバニリッチを街に向かわせるように命令を出す。

 

 

「フレフワン! ペロリーム! 奴らを止めておけ!!」

 

「フゥウッワ!!」「ペロォオ!!」

 

 

起き上がり再び走り出すチョコマンのポケモンたち。

首を振るコウキ。どうやら向こうは本気で全てのチョコレートを排除してバレンタインをメチャクチャにするらしい。

 

 

「ルカリオ!」

 

『ああ!』

 

 

走り出すルカリオ。振るった回し蹴りが、フレフワンの足と交差する。

しかし敵はまだいる。ペロリームはルカリオ達を通り抜けるとコウキ達のもとへ走った。

 

 

『ご、ごごごご主人様! 来ますよ来ちゃいますよ! ボクは戦闘は苦手ロト!』

 

『私も、フェアリータイプは嫌いだわ』

 

「分かっているよロトム、マダム」

 

 

二体をボールに戻すコウキ。

するとヒカリがモンスターボールを持って前に出た。

 

 

「お手伝いしましょうか?」

 

「いや。ここは任せてくれ」

 

「え? でも――」

 

「バレンタインは――」

 

 

一つ、ボールを手に持つと、コウキはそれを地面に置いた。

 

 

「男の戦いだからね」

 

 

地面に置いたボールが、いつの間にか開いていた。

 

 

「!?」

 

 

立ち止まるペロリーム。何かが地面を突き破る音が聞こえた。

ヒレだ。地面を突き破った背ビレが見える。地面を高速で泳ぐのは――

 

 

「ウォオ゛オオオオオオオオッッ!!」

 

 

地面を突き破って姿を見せたのは最強のドラゴンポケモンと呼ばれている、ガブリアス。

コウキ、五体目の手持ちポケモンである。ガブリアスは凄まじい敵意をむき出しにし、唸るような声で威嚇を行う。

 

穏やかに笑うコウキと、殺意すら感じるガブリアスの対比は凄まじい。

一方で怯んでいたペロリームだが、すぐにニヤリと笑って再び走り出す。

少し怯んでしまったものの、ガブリアスはドラゴンタイプ。一方でペロリームはドラゴンキラーと呼ばれるフェアリータイプ。

 

 

「ウォオオオオオ!!」

 

 

前に出るガブリアス。その腕を大きく振るった。

すると巻き起こる凄まじい"砂嵐"。砂塵の暴風にてペロリームの体は簡単に浮き上がり、宙に舞い上がる。

 

 

「ベロッ!」

 

 

墜落。すぐに感じる熱。慌てて立ち上がると、ペロリームは自分の目を疑った。

つい先程まで何の変哲もない平原に立っていた筈なのに。今、周囲はまさに砂漠と呼べるもの。

 

 

「う、ぅぅ!」

 

 

おまけに暑い。

熱砂の上に立つペロリームはトロケそうになりながらも、前から走ってくるガブリアスを見つける。

 

 

「ペローッ!!」

 

 

手を前にかざすペロリーム。放たれたのは桃色の光線だ。

"マジカルシャイン"。それは一直線にガブリアスを捉えると一撃で消し飛ばしてみせる。

 

 

「フフフフ!」

 

 

笑うペロリーム。

だが、待て。何かがおかしい。あまりにもあっけなさ過ぎる。

 

 

「ッ!?」

 

 

その時だ。背に衝撃。振り返ればそこには――、ガブリアス。

 

 

「!?!??」

 

 

おまけに背に突き刺さっている爪にはたっぷりと毒がしみ込んでいるではないか。

"毒突き"。フェアリーにとって毒は苦手な代物。ペロリームは青ざめながら手足をバタつかせる。

 

 

「ギャワワワ!」

 

「フンッッ!!」

 

「ベェエ!!」

 

 

腕を振るいペロリームを投げ飛ばすガブリアス。砂を巻き上げながらペロリームは地面を滑る。

だがやられてばかりじゃ終われない。すぐに体を起こすと、見えたガブリアスに再びマジカルシャインをぶつける。

 

命中。やったぞと笑みを浮かべるペロリーム。

だがしかし、ガブリアスの姿が文字通り揺らめき、溶けた。

 

 

「!?」

 

 

そしてすぐ真横の地面からガブリアスが飛び出してきた。

蹴り上げでペロリームを浮かすと、翼を振るい、地面に叩き落す。

 

 

「ババババ!!」

 

 

砂を巻き上げ吹き飛んでいくペロリーム。

そう、その実、ペロリームは一度もガブリアスを攻撃できていないのだ。

 

それは『特性』である。ガブリアスの特性の一つ、鮫肌。

ザラザラとした肌は、ガブリアスが発生させた砂を多めにすくい上げ、体にたっぷりと纏わせる。

そしてこの砂はただの砂ではない。砂はガブリアスの体に付着すると、その色素を読み取り、色を反映させる。

つまりガブリアスの皮膚、赤い部分に付着した砂は赤色に変わるのだ。

 

そして、その状態でガブリアスが"穴を掘る"で地面に潜ると、本体は地面の下に。そして体に付着した砂だけが空中に漂う事になる。

 

さらにガブリアスの意思一つで、砂は強力な光を一瞬だけ放つ事ができる。

ほんの一瞬ではあるが、それは対象の網膜を刺激し、ガブリアスのシルエットを残像として植えつける事ができる。

そう、まるでそれは蜃気楼。ガブリアスは高速で移動しながら自らの幻影を砂漠の上に連続で作り上げているのだ。

 

それがもう一つの特性。『砂隠れ(ドラゴン・ミラージュ)』である。

 

 

「ガブリアス、セット!!」

 

 

ガブリアスはコウキの指示にしたがい、幻影を配置。

ペロリームが幻影に気を取られている間に、本物のガブリアスは地中深くを泳ぎ、ペロリームの背後から飛び出していく。

 

 

「ガブリアス! 進化を超えろ!!」

 

 

腕を伸ばすコウキ。

するとその手にあったリング、埋め込まれた石が眩い光を放つ。

 

 

「破壊の極致! 砂竜(さりゅう)開闢(かいびゃく)!」

 

 

高まる精神、共鳴する魂。

するとガブリアスの体が凄まじい虹色の光を放ち、新たなる進化を齎す。

 

 

「メガ進化ッッ!!」

 

「ウゥウオ゛オ゛オ゛オ゛ッッ!!」

 

 

メガガブリアス。腕にあった翼が融解し、代わりに両手は鋭利な鎌に変わる。

どうやら決着をつけにいくらしい。だが一方でペロリームも目を光らせてガブリアスに向かっていく。

 

 

「ペロォオオ!!」

 

 

妖精の力を纏い、肉弾戦をしかける『じゃれつく』。

ペロリームの拳がガブリアスに届――

 

 

「イ゛ェ゛ア゛ァン――……!!」

 

「!?」

 

 

それは一瞬だった。ガブリアスが青く発光。

そして両手を広げると、その周囲に岩が出現する。

本来ガブリアスに命中する筈だったペロリームの拳は、巻き上げられた岩片にぶつかり、せき止められた。

一方で鎌を地面に突き立てるガブリアス。するとペロリームの立っている地面真下から無数の岩片が飛び出し、ペロリームを攻撃していく。

 

 

「ペロォオオオ!」

 

 

吹き飛ぶペロリーム。

相手の攻撃を受け止め、地中からの奇襲で攻撃するカウンター技、"ストーンエッジ"。

 

 

「決めようかガブリアス!」

 

 

コウキはガブリアスに走れと指示を。

それを受けて地面を蹴るガブリアス。前のめりになりながら全力疾走。吹き飛ぶペロリームの墜落地点に先回りする。

 

 

「さあ! 共鳴バーストだ!!」

 

 

ポケモンとの絆の果てにある必殺技。

ガブリアスはまずエネルギーを纏わせた鎌でペロリームを地面に叩きつける。

そしてさらに鎌を振るい、ペロリームの体に青い斬撃を刻み付ける。

 

 

「!?!?!?!?」

 

 

ペロリームは焦っていた。

フェアリーの肉体はドラゴンの力を通さぬ筈。にも関わらずガブリアスの一撃一撃がしっかりと身に届き、ダメージとなっているではないか。

 

それもそうだ。

今、この攻撃はドラゴンタイプであると同時に地面タイプの攻撃でもある。

つまりガブリアスは地面とドラゴンの複合タイプのポケモンだが、この技もまた複合タイプなのだ。

ドラゴンだけを無効化しても、地面の力が無効化できていないため、防ぐ事ができない。

 

 

「ぺ――ッ!」

 

 

大きく仰け反るペロリーム。

一方でガブリアスは体を高速回転させ、地面にもぐりこんだ。

そして高速回転を続けたまま、ペロリームの真下から出現する。

まさに全身ドリル。ペロリームは切裂かれながらガブリアスと共に空に打ち上げられていった。

 

 

「シュアアアアアアアアアア!!」

 

 

そしてガブリアスはフィニッシュに大きく腕を振るい、ペロリームにエックスの斬撃を刻み付ける。

"逆鱗"状態で、強化された"ドラゴンクロー"、同じく強化"穴を掘る"、強化"ダブルチョップ"を流れるように組み合わせた連続攻撃。

これがガブリアスの最大攻撃、『大逆鱗クラッシュ』であった。

 

 

「ゲララララララララ!!」

 

 

着地し、体を震わせて笑うガブリアスと、背後に墜落し、白目をむいているペロリーム。

 

 

「相変わらず凄いですね……、ガブリアスさんは」

 

「ドラゴンタイプなのにね。自分のポケモンながら、もうメチャクチャだよ」

 

 

しかしこれで一つは片付いた。

コウキが視線を別の方へと移す。そこには肉弾戦を行うルカリオとフレフワンが見えた。

回し蹴り同士がぶつかり、はじき合う中、ルカリオは"波動弾"を、フレフワンは"エナジーボール"を発射してぶつけ合う。

 

 

「!」

 

 

そこで表情を変えるルカリオ。

一方でフレフワンは側宙でルカリオの懐に入ると、さらなる蹴りの嵐をしかけていく。

 

 

「フッ! フッワッ!」

 

「チッ!!」

 

 

少しは抵抗を示すが、フレフワンはルカリオの防御を崩し、その身に蹴りを打ち込んでいく。

さらに足がヒットした際に"サイコショック"を発動。ルカリオの肉体内部に衝撃が走る。

 

 

「グッ!!」

 

 

吹き飛び、後ろに下がるルカリオ。

フレフワンはニヤリと笑って足を進める。

しかし気のせいだろうか? 攻撃を与えているのは自分(フレフワン)のはずなのに、何か嫌な予感がするのは。

と言うのも、攻撃を与えるたびに、ルカリオから感じる力が上がっているような――?

 

 

「フッッ!! ワッッ!!」

 

 

足に光を纏わせる。ムーンフォースだ。そのままフレフワンはルカリオを蹴り飛ばそうと走り出す。

一方で目を光らせたルカリオ。ゆっくりと手を回し、独特な構えを取る。

何かをする気なのか、しかし既にフレフワンはルカリオの眼前。構わずに思い切り蹴りを打ち――

 

 

「!?」

 

 

フレフワンの足がルカリオに突き刺さった。しかしグニャリと歪むルカリオの姿。

すると背後に気配を感じる。フレフワンはすぐに後ろを振り返るが、もう遅い。

波動を纏わせたスライディングがヒットし、フレフワンは空中に打ち上げられた。

"影分身"。ルカリオは自らの分身を囮にして、背後から攻撃を仕掛けたのだ。

 

 

「フわっ!?」

 

 

それにしても凄まじい攻撃力だ。目を見開くフレフワン。その秘密はルカリオの特性にある。

『不屈の心』、一般的なルカリオは攻撃を受けると僅かにスピードが上がっていくが、波導の勇者の血統を持つルカリオは攻撃を受けるたびに波動の力が上がっていき、全てのステータスが上昇していく。

 

 

「波導の力を見よッッ!!」

 

 

そしてルカリオは手を上にかざした。

するとそこへ全ての波動が集中していき、直後、巨大なレーザービームとなって放たれる。

これもまた波導の勇者にしか使えない特別な技、『波動の嵐』である。自身に蓄積された波動を一転に集中させ、格闘と鋼の複合エネルギーを発射するのだ。

 

 

「ハアアアアアアアア!!」

 

「フギァアアアアアアアア!!」

 

 

格闘だけならばまだしも、鋼エネルギーがフレフワンを焼き尽くしていく。

攻撃が終了すると、白目をむいて気絶したフレフワンがルカリオの背後に落ちた。

 

 

「お疲れ様。ごめんね、辛い命令をして」

 

『いや、素晴らしい判断だったぞコウキ』

 

 

コウキは波動をルカリオと共鳴させてテレパシーを行った。

内容は『フレフワンの攻撃をあえて受けろ』というものだ。優勢だと分かればフレフワンはそれだけ油断して隙が生まれる。

一方で蓄積されていく波動は、逆転の鍵になる。現に今、ルカリオはカウンターからのフィニッシュを決めたのだ。

しかしまだ終わっていない。コウキが目を細める。既にバニリッチとチョコマンの姿は小さい。

 

 

「早く止めなくては」

 

 

コウキは全てのポケモンをボールに戻した。

 

 

「彼の気持ちも――、まあ、分かる」

 

 

嫉妬や不満は人が持つ仕方ない負の感情だ。

チョコマンは知らぬだろうが、恵まれていると思うコウキですら、他人対して劣等感や嫉妬を覚える事は珍しくない。

しかし、それでも一つ、胸を張って、声を大にして言える事がある。

 

 

「ポケモンを復讐の道具に使う事だけは許されない」

 

 

いろいろと思う事はあるだろう。それ自体を否定する気は全く無い。

だがしかし、ポケモンは一切関係ない。ましてや他人も同じだ。

 

 

「チョコマンさん。貴方がポケモンを己の為に利用すると言うのなら――」

 

 

コウキは六つのボールを地面に置くと、チョコマンを睨みつける。

 

 

「僕と、僕のポケモンが貴方を止めます」

 

 

そして六つのボールをベルトにセットし、まずはドンカラスを呼び出す。

 

 

「マダム!」

 

「クァー!!」

 

 

その鳴き声は了解の意。

ドンカラスはコウキの肩を持つと、翼を広げて浮かび上がる。

 

 

「コウキさん!」

 

「!」

 

 

そして、ヒカリも隣に立つ。

 

 

「私もご一緒します」

 

「でも――」

 

「バレンタインは――」

 

「?」

 

「女の戦いでもありますから」

 

 

モンスターボールを構えるヒカリ。

コウキは一瞬呆気にとられた表情を浮べたが、すぐにニヤリと笑みを浮かべる。

 

 

「よし、じゃあ一緒に戦ってくれるかい?」

 

「はいっ! もちろんです!」

 

 

 

 

 

「!」

 

 

チョコマンは背後に気配を感じて後ろを見る。

するとそこにはドンカラスに捕まって飛んでくるコウキと、ビークインが出現させたミツハニーの上に乗っているヒカリが見えた。

 

 

「クッ! 二体を突破したか! 急げバニリッチ!!」

 

「させません! マダム、お願いします!」

 

 

コウキは地面に降り立ち、ドンカラスは空に飛翔。

さらにコウキは素早く構えを取り、『Zリング』を光らせた。

 

 

「常世の闇よ! ブラックホールイクリプス!!」

 

 

ドンカラスが目を光らせると、前方に大きなブラックホールが出現。

強力な引力を発生させてバニリッチを吸い込もうと試みる。

 

 

「クッ! なんと言う力か!!」

 

 

一方で踏ん張るバニリッチ。

当然それだけ動きが鈍り、さらにはドンカラスの意思によって引力の効果を受けないように設定されたコウキたちはさらに足を前に進めていく。

 

 

「ロトム!!」

 

『おまかせロトー!!』

 

 

ロトムが入っているモンスターボールは特注で、中に様々な家電が入っている。

そこでロトムは自分が寄生する家電を選べるのだ。出てきたロトムはヒートロトム。

戦闘は苦手な性格だが、今はやる気に満ち溢れているのか、全速力でバニリッチの前に回りこむ。

 

 

『ご主人様! 何をすれば!?』

 

「一番熱いのを食らわせてあげて!!」

 

『了解ロトー!!』

 

 

オーブンレンジが開き、炎が溢れる。

 

 

「んんwwヤーバーヒート大炸裂wwロトww」

 

 

"オーバーヒート"。

炎が苦手なバニリッチは大きな悲鳴を上げて動きを完全に停止させる。

 

 

「火力がヤバコイルww」

 

 

よく分からない事を叫びながらロトムはフラフラと地面に落ちる。

 

 

『あぁ……、もう、なんか、なんにもやる気ないわぁ……』

 

 

オーバーヒートは強力だが、使用後に激しい倦怠感が襲い掛かる技でもある。

 

 

「ありがとうロトム! 戻って! 次、ルカリオ!」

 

「エンペルト! お願いします!!」

 

 

コウキのルカリオ、ヒカリのエンペルト、双方両手を前に出すと、銀色のレーザービームを発射する。

 

 

「「ラスターカノン!!」」

 

 

声が重なる。

鋼のエネルギーは氷タイプのバニリッチには応える一撃だ。

それを思い切り背に受け、ついにバニリッチはその巨体を地面に倒す。

 

 

「ぐぉ! た、立つんだバニリッチ」

 

「バニィイ……!」

 

「させません! トリデプス! とおせんぼう!」

 

 

吼えるトリデプス。バニリッチのすぐ頭上にX状のエネルギーが設置される。

それは天井となり、バニリッチは上手く体を起こす事ができない。

コウキは続いてガブリアスを召喚。無数の岩を落とし、石の牢獄を作る"岩石封じ"を発動させた。

 

 

「なんとかするんだバニリッチ!」

 

「無駄です! もう諦めてくださいチョコマンさん!」

 

「立ってくれバニリッチ! ここで終われば、お前はただのウンコだぞ!!」

 

「もう止めろそのネタ!!」

 

 

ヒカリの耳を塞いで叫ぶコウキ。

一方でギラリと目を光らせたバニリッチ。やっぱりウ●コは嫌なのだ。当然なのだ。

 

 

「バニィイイ!!」

 

「なにっ!」

 

 

体を高速で回転させるバニリッチ。

 

 

「高速スピン!? 覚えない筈なのに……!」

 

「見たか少年ッ! うっぷ! これが――、意思の強さだ!! おぇ、吐きそ……ッ」

 

「ちくしょう! あんな理由じゃないならカッコよかったのに!!」

 

 

高速で回転するバニリッチに捕まっていたため、チョコマンは真っ青になっている。

とは言え無事に全ての拘束を引き剥がしたバニリッチ。再び空中に浮遊し、コウキ達を排除するために氷の力を解放する。

 

 

「凍える風!!」

 

「トリデプス! 鉄壁!!」

 

 

トリデプスの顔が光ると、周囲に無数の楯状のエネルギーが出現し、氷の風を受け止める。

 

 

「ラムちゃん!!」

 

 

ヒカリが投げたボールからずつきポケモン・ラムパルドが登場。

地面を蹴ると、トリデプスの前に立ち、盾の部分に足を乗せる。

 

 

「メタルバースト!!」

 

 

トリデプスが衝撃波を発生させる。同時にトリデプスを蹴り、跳躍するラムパルド。

そう、ジャンプ台だ。衝撃波の勢いを味方につけてラムパルドは体を真っ直ぐに伸ばして、全身を銃弾に変える。

 

 

「諸刃の頭突き!!」

 

「バニリッチ! 鉄壁を張れ!!」

 

 

バニリッチは厚い氷の壁を出現させる。

 

 

「バニィイッッ!!」

 

 

しかしロケットのように飛んでいったラムパルドはその頭部で氷の壁を難なく貫き、破壊すると、そのままバニリッチの背を撃った。

凄まじい衝撃に、再び墜落するバニリッチ。そこでコウキは目を光らせる。

 

 

「ヒカリ、少し時間を稼いでくれないか?」

 

「分かりました!」

 

 

一勢にボールを投げるヒカリ。

エンペルト、ムウマージ、ビークイン、ロズレイドが一勢に倒れたバニリッチに向かっていく。

その間にコウキは六体目の手持ちを解放する。

 

 

「ドダイトス!」

 

 

たいりくポケモン・ドダイトス。

カメをモチーフにしたポケモンであり、背中には大きな木がまるまま一本生えている。

 

コウキはまずドダイトスに"宿木の種"を発動させる。

その対象とは、ドダイトス本人。正確に言えばその甲羅だ。タネは甲羅につくと、根を張り始める。

 

 

「生長!」

 

 

地面のエネルギーを吸収しはじめるドダイトス。

するとタネが急激に生長をはじめ、ものの十秒足らずで巨木に生長する。

 

 

「ウッドハンマー!!」

 

 

コウキの指示が出た直後、ドダイトスは甲羅に生えている木を分離させ、弾丸のように発射させる。

まさに木の砲台だ。空中を旋回する巨木はバニリッチの周囲に落ちると、器用に根を張り、立ち上がる。

 

タネを甲羅に植え、成長させて木にする。

そしてその木を分離させて発射。バニリッチの周囲に植えつける。

それを繰り返していくコウキとドダイトス。

 

 

「バニィィア!!」

 

 

そこで強力な風が巻き起こった。

バニリッチが発生させた"吹雪"に、動きを止めていたヒカリのポケモン達が吹き飛ばされる。

立ち上がり、再び空中へ浮遊するバニリッチ。

 

 

「な、なんだこれは!!」

 

 

そこでチョコマンが気づく。

周囲には木、木、木、木。眼下には大量の木が植えつけられており、森にいるのではないかと錯覚させるほど。

 

これは全てドダイトスが出現させた木なのだ。そしてコウキは最後の命令を。

木がザワザワと音を立てる。震える枝。ドダイトスの足裏からエネルギーが発生し、広がってく。

そして無数の木は一勢に『葉』を分離させた。

 

 

「リーフストーム!!」

 

「う、うわぁああああああああ!!」

 

 

植え込んだ無数の木から一勢に葉が分離し、弾丸となって放たれる。

緑色の嵐はすぐにバニリッチを包み込み、一切の抵抗を許さない。

そしてそのまま空高くに打ち上げた。

 

 

「決めよう! ルカリオ!」

 

「ミミロップ!!」

 

 

魂を共鳴させる。

虹色のエネルギーが迸り、ルカリオはメガルカリオに。ミミロップはメガミミロップに。

周囲にエネルギーが拡散し、そこでバニリッチを覆っていた全ての葉が取り払われた。

 

 

「あ」

 

 

チョコマンが見たのは、拳を発光させて飛んでくる二体のポケモンだった。

ルカリオとミミロップはピッタリと肩を合わせて飛んでくる。その背後では、同じくコウキと、彼を支えるヒカリが見えた。

 

 

「………」

 

 

ふと、コウキの言葉を思い出す。

彼は――、見た目もそうだが、優しい性格なのだろう。戦いの中でも何度かヒカリやポケモンを気遣う姿が目についた。

一方で自分はどうだ? ポケモンを復讐の道具に使い、その復讐も要するに単なる妬みや嫉み。

 

 

「あぁ。なるほど……」

 

 

そりゃ彼女もできる訳がないか。

チョコマンはうな垂れ、バニリッチを撫でる。

 

 

「もういい。すまない。下らないことに付き合わせたな」

 

 

そして顔を上げると、眼前に拳を突き出すルカリオとミミロップが見えた。

次の瞬間、凄まじい光の輝きと衝撃を感じた。

 

 

 

 

 

「私の負けだ……」

 

 

地面にへたり込むチョコマン。

その隣ではバニリッチが目を回して気絶している。サイズは通常のバニリッチであり、色も白色である。

 

 

「私のような小さく、愚か者は、人に愛される資格など無かったんだよ」

 

 

一方でコウキは、チョコマンに手を差し伸べた。

 

 

「貴方のために、ポケモンは必死で戦いました」

 

「え?」

 

「つまり、それだけポケモンは貴方のことが好きだった」

 

 

広い世界だ。中にはポケモンを本当の道具のように扱い、捨て駒にする人間もいる。

それに比べればチョコマンはよほどまともだと。そして愛のある人間だという。

 

 

「その姿をきっと見つけてくれる人が、現れますよ」

 

 

そこでヒカリが、気絶しているペロリームとフレフワンを抱えてやって来た。

二体のポケモンを地面に降ろすと、チョコマンは全てを察したように笑う。

 

 

「新作のスイーツを作るとき、一番最初にこの子たちに食べさせるんだ」

 

「ええ」

 

「不味かったら素直に表情をしかめるし、美味しかったら最高の笑顔を浮かべてくれる」

 

 

いつも一緒だった。辛いときも、嬉しいときも。

 

 

「私にとって、最高のお客さんだよ」

 

「そうですね。僕も、ルカリオは最高の親友ですよ」

 

「……ああ、ああ。ありがとう。やはり私はキミ達には勝てなかったよ」

 

 

チョコマンはコウキの手を取り、立ち上がると、バニリッチ、ペロリーム、フレフワンをボールに戻して踵を返す。

 

 

「さようならだ。これからは私のポケモンのために真面目に生きるよ」

 

「ええ、素敵なスイーツで、みんなを笑顔にしてください」

 

 

歩き去るチョコマン。

コウキは安心したように笑うと、直後地面に膝をついた。

慌ててコウキを支えるヒカリ。

 

 

「コウキさん! 大丈夫ですか……!?」

 

「うん。ごめんねヒカリ。ちょっと、疲れた……よ」

 

 

メガ進化にはトレーナーの精神力を削る。そう連続でできるものではない。

しかしコウキはガブリアスとルカリオをメガ進化させた。仮にもチャンピオン、進化自体は成功したが、反動が今になってやって来たのだろう。

 

 

「ゴメン、迷惑は――、かけたく、なか……」

 

 

そこでコウキの意識はブラックアウトした。

 

 

「!」

 

 

次に目を覚ましたとき、コウキが見たのはホテルの部屋の天井だった。

 

 

「あ」

 

 

そしてベッドの隣にはヒカリが座っており、目が合う。

 

 

「お、おはようございます」

 

 

頬を染めるヒカリ。ずっと寝顔を見ていたのだろう。

それにもしもの事があると心配し、コウキに付き添っていたらしい。

 

 

「お、おはよう。ここは?」

 

「近くのホテルです。開いてる部屋があって。コウキさん、眠っていたから」

 

「あぁ、そうか。そうだったね。申し訳ない、あんな……」

 

「いえ。謝らないでください。コウキさんは町を守ったんですから」

 

「でも、結局チョコは消滅しちゃったし、石もなんだったのやら」

 

 

調査報告書になんと書けばいいのだ。コウキはやれやれと首を振った。

 

 

「それでも……、被害がでるのは防げました。もっと胸を張ってください」

 

「……うん。ありがとう」

 

 

ベッドから出ると、コウキは体を伸ばす。

どうやら三時間ほど眠っていたらしい。すると気づく。なにやらヒカリがソワソワと落ち着きがない。

 

 

「ん? どうしたのヒカリ」

 

「あの、あのっ、あのッッ」

 

「え?」

 

「これッッッ!!!」

 

 

ヒカリは背に隠していた物を一気に前に出す。

それは綺麗にラッピングされた箱であった。

 

 

「あ……! これ、もしかして――」

 

「はいっ。あのっ、厨房をお借りして、作りなおしたんです。チョコレート……!」

 

 

コウキが眠っている間に、と言うことだろう。

 

 

「く、くれるの?」

 

「はい。あの、嫌でなければ――、ですけど」

 

「嫌だなんて! とっても嬉しいよ! あけていい!?」

 

「は、はい!」

 

 

コウキが包みを開けると、そこにはハート型のチョコレートが。

 

 

「は、はぁと……!」

 

 

真っ赤になる二人。

 

 

「う、浮かれすぎでしょうか?」

 

「いやッ、いやいやいや! その、凄くうれしいよ! 本当に、ははは! ちょっと恥ずかしいけどね!」

 

「は、ハートと言うのは心の形でもあります。だから――」

 

「?」

 

「だから、それを差し出すのは、私の心を貴方に受け取って欲しいという意味で――……」

 

 

モニョモニョと語尾が小さくなっていくヒカリ。

 

 

「それを食べて貴方の一部にしていただけたら――って、私はなんて恥ずかしい事を!!」

 

 

我に返ったのか、あまりの恥ずかしさにヒカリは踵を返して部屋を出て行こうとする。

しかしコウキも走り、ヒカリの手を掴んだ。

 

 

「!」

 

「た、食べてもいい?」

 

「は、はい。も、もちろんです……!」

 

 

コウキはチョコを手に取ると、覚悟を決めたように頷いた。

ハートの形だ。二つにはできない。一口で全てほお張ると、ゆっくりと租借する。

 

 

「おいしい……!」

 

「本当ですか?」

 

「うん。今まで食べたチョコレートの中で一番おいしいよ!」

 

「う、嬉しいです……!」

 

 

そこで意を決したのか、コウキはヒカリの前に立つと、背中に腕を回す。

 

 

「あ」

 

「あッ、ごめん」

 

 

そして離れる。

 

 

『ヘタレが!!』

 

「ぐッッ!!」

 

 

部屋の隅にいたドンカラスがコウキの背を蹴り、再びヒカリの前に持っていく。

さらに同じくムウマージもサイコキネシスで二人を密着させた。

 

 

「………」「………」

 

 

再び見詰め合う二人。お互いの瞳に吸い込まれそうになる。

それが怖くなったのか、ヒカリが小さく、誤魔化すように笑った。

 

 

「おまじないを……、かけてもらったんです」

 

「ど、どんな?」

 

「――……こぃ、です」

 

「そう」

 

 

ムウマージのおまじないは当たると有名だ。

コウキは頷くと、ヒカリをギュッと抱きしめ、唇を重ねる。

驚いたように強張るヒカリだが、すぐに受け入れると、コウキをギュッと抱きしめた。

 

 

「これからも、ずっと一緒にいてほしい……」

 

「は、はぃ、もちろんです。あと、あの――」

 

「っ?」

 

「あ、あまぃ、ですぅ」

 

「!」

 

『オホホホホッ! これはまたベタな意見だわ!』

 

「ま、マダム! 茶化さないでください!!」

 

『いいじゃないのボウヤ。バレンタインと言うのはベタが許される日だわ。ねえロトム?』

 

『ご主人様のすけべぇ……! ぶちゅうって、ちゅーって、いやんスケベぇ……!』

 

「ろ、ロトム! キミは何と合体して――ッ!!」

 

『ビデオカメラですぅ。すけべぇ……!』

 

「スケベじゃないから! まさか今の撮影してたのッ!?」

 

「きゅぅ――ッ!」

 

「ひ、ヒカリ? 大丈夫? ヒカリ!?」

 

『ホーッホホ! お嬢ちゃんには刺激が強かったのかしらね!』

 

 

そこでピロリン! と、音。

 

 

・コウキさん流石ッすね!

・ヤバイっすね!

・リスペクトッすね!

 

 

『あらボウヤ。頭の悪そうなメールが届いたわね』

 

「えッ? あ、キョウヘイくんからだ……! でもなんで――ッ」

 

『ご主人様ぁ、これライブ撮影ぇぃ。すけべぇぇ……!』

 

「ロトムゥウウウウウウウウウ!!」

 

 

コウキの絶叫を聞きながら、ルカリオはポフレを嬉しそうに食べている。それをニコニコしながら見ているミミロップ。

心の形は、人もポケモンもいろいろである。

 

その中で惹かれ合うことがあれば、それはとても幸福な事ではないだろうか。

 

 

 

 






はい、お疲れ様です。
バレンタインネタでした(20日)

ポケモンは書いててとにかく難しいですね。
ポケモンを喋らせるのかとか、技は漢字で書いたほうがいいのかとか、いろいろ考えてしまいます。

戦闘もターン制をどう書こうかとかね。

でも楽しかったです。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


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