戦姫絶唱シンフォギアDigitalize   作:ジャン=Pハブナレフ

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今回後半は爽谷の過去に触れますが、ブラックな要素を入れたつもりで書きました。なにぶん、まだそこまでうまく書けていませんがよろしくお願いします。


第35話 爽谷の過去!非情ウェル博士!

「新チャンピオン誕生〜!さあ、挑戦者はいますか?飛び入りでも歓迎ですよ〜!」

 

 秋桜祭の勝ち抜きステージで歌ったクリスがチャンピオンになったのだ。

 

「やるデス!」

 

 スポットライトが当てた先はなんと切歌と調だった。

 

「2人とも何を?」

 

 爽谷が泣き切った目で2人を見た。

 

「あれは!」

 

 クリスが調と切歌に気づいた。

 

「チャンピオンに…」

 

「挑戦デス!」

 

 観客がざわつく中、翼達が真剣な表情に変わった。

 

「翼さん、あれって!」

 

「ああ!間違いない!しかし、なんのつもりで?」

 

「さっき入り口の方で似たような感じの人を見たと思ったら!」

 

「ねえ、響。誰なのあの2人?あの子達を知ってるの?」

 

 しかし、響は気難しい顔を浮かべた。

 

「あの2人こそ世界に向けて宣戦布告し、私たちの敵でもあるシンフォギア装者だ。」

 

 翼が立ち上がった。

 

「え?じゃあ、マリアさんの仲間?あのライブ会場でノイズを操ってみせた…」

 

「うん…」

 

「くそっ!それっぽい人影を見たってのに早くみんなに伝えときゃよかった!」

 

 切歌と調がクリスの横に立つと切歌がクリスをあっかんべーで挑発した。しかし、調はあまり乗り気ではないようだったが切歌に言いくるめられ特別に付き合うと言っていた。

 

 そして2人はツヴァイウイングの「Orbital Beat」を歌ったは、それを見た翼は「なんの当てこすり!?挑発のつもり?」と不機嫌そうだった。

 

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 一方、とある倉庫のコンテナの内部ではナスターシャとマリアが飛行船で留守番していたがそこにアメリカ政府の特殊部隊が迫っていた。

 

「後悔しているのですか?」

 

 ナスターシャが鋭い目つきでマリアを見つめたが、マリアはすぐに首を横に振った。

 

「後悔なんかしていない。私は私の使命を全うするだけ…」

 

 そしてナスターシャはマリアに外の様子を見せた。あくまでナスターシャたちは異端技術を扱うが追っ手たちに比べればてんで素人のレベルに過ぎない。追っ手は中に迫ろうとしていた。ナスターシャはマリアにガングニールを使って追っ手を倒すようマリアに命令した。

 

「相手はただの人間なのよ、マム!」

 

「ライブ会場の時もそうでしたが…その手が血に穢れるのを恐れているんですか?覚悟を決めなさい!」

 

 ナスターシャの一言であってもマリアはまだ戦おうとは思っていなかった。

 

 そしてコンテナが爆破され特殊部隊が潜入した。しかし、先に入ったものたちが次々と炭素分解されていき、あるものは血を吸い取られた。

 

「ふん、男の血を吸うのは趣味ではないがまあいい…」

 

 炎の中から吸血鬼のデジモンが現れた。

 

「頼みますよ。ヴァンデモン。この程度の奴らに新生フィーネのガングニールは使わないほうがいい。ここは僕らに任せてもらいましょうか!」

 

 ウェル博士は躊躇いもなく楽しそうにソロモンの杖を振りかざし、ノイズを呼び出した。ヴァンデモンも必殺のナイトレイドで吸血を行い、貧血となった隊員や逃げ惑う隊員たちも容赦無くノイズに炭素分解されていった。

 

 モニター越しに響く隊員の悲鳴にマリアは悔しそうな表情を浮かべ、ナスターシャはそれを心配そうに見つめたがすぐに真剣な表情でモニターを見つめた。

 

 そしてコンテナの近くに3人の学生が現れた。彼らは野球帽をかぶり自転車に乗っていた。

 

「ここじゃない?すごい音がしてたのって…」

 

「どうせなんかの、工事だろ?」

 

「早く練習に行かないと監督に怒られ…」

 

「ぎゃああああああああーーーーー!!」

 

 3人の前で特殊部隊の隊員が炭素分解された。すると彼らも目の前にウェル博士が現れ不敵に微笑んだ。

 

「やめろ、ウェル!その子たちは関係ない!やめろーーーーーーー!!」

 

 マリアがモニター越しで必死に叫ぶがウェル博士は歩みを止めなかった。そしてノイズを繰り出し、3人を炭素分解させた。

 

「うわああああああああああああああああああああああーーーーーーーーー!!!!」

 

 マリアが悲鳴をあげて倒れてしまった。

 

「3人とも、アジトが特定されました。緊急事態なので指定した場所で落ち合いましょう。これは命令です。」

 

 ナスターシャがリディアンにいる3人に連絡を取った。

 

____________________

 

 一方、リディアンでは歌を歌い終えた切歌と調を見て翼が複雑そうな顔を浮かべていた。

 

「翼さん?」

 

「何故、歌を歌うもの同士が戦い合わねばならないのだ?」

 

「2人がかりとはやってくれる!」

 

 審査結果が出る前に調と切歌と爽谷はホールを出た。

 

「おい待て!逃げんじゃねえ!」

 

 クリスが2人を追いかけた。

 

 響たちも追いかけようとしたが、拓実も別の出口から脱走を図る爽谷を発見した。

 

「あれは…!」

 

「未来はここにいて。もしかしたら戦うかもしれない…」

 

「響…」

 

 翼と響も2人を追いかける中、拓実は爽谷を追跡した。外で合流した調、切歌、爽谷だったが、前方を翼、背後に響とクリス、横に拓実が現れ取り囲まれてしまった。

 

「調ちゃんと切歌ちゃんだよね?」

 

 響が尋ねた。

 

「4対3…デジモン込みだと8対5…ここで戦えばあなたたちの失うものを考えて…」

 

「それにこっちはデジモンを10体は呼べる。そこそこデカイのをね。ですから、ここは見逃していただければ幸いなのですが…」

 

 爽谷が脅しと言わんばかりにホルスモン、ディグモン、ペガスモン、ネフェルティモン、モノクロモン、タンクモン、メタルティラノモン、ギガドラモン、ブロッサモンのデジメモリを見せた。

 

「巫山戯んな!ライブ会場で人質とったり、弱み握ったまま戦うお前らを許せるかよ!この卑怯者が!」

 

「お前ら…!そんな卑怯なことを言うのかよ!あんなに楽しそうに歌ってたのに…」

 

 響が悲しそうな視線で3人を見た。切歌が調をみて何かを察したようなので言ったことは「ここで戦いたくないだけ」ということだった。

 

「そっ、そうデス!決闘デス!然るべき決闘を申し込むのデス!」

 

「どうして!?会えば戦わなくちゃいけないってわけでもないわけでしょ?」

 

 響がクリスと切歌の間に入った。

 

「「どっちなんだよ(デス)!」」

 

(またこのハモリか…装者ってこう言うとこでよくハモるんだよなあ…)

 

気まずい雰囲気の中爽谷が切り出す。

 

「融合症例第一号立花 響…あなたは甘い。」

 

「え?」

 

「誰かを守るために戦うと僕たちに向かって言ったが、結局守るために話し合いをして戦いを煽る癖にあなたは本気で戦おうとはしない。」

 

「何が言いたい!?」

 

 翼が逆上した。

 

「簡単ですよ。彼女は戦いたくないから話し合おうと言っておきながら、結局は戦っている。

 

 矛盾してるんですよ…中途半端で一貫しない考えしかない人間が僕らのような痛みを知らない人間を差し置いて英雄になれるはずがない。

 

ただの祭り上げられたピエロに等しい存在だ。そして理不尽な正義を振りかざす訳だ。これを独善と言わずしてなんと言いますか?」

 

「そんな…私は!」

 

「やめろ!」

 

 拓実が爽谷を殴り飛ばした。

 

「勝手に決めないでくれよ!立花さんの全てをあんたは知ってんのかよ!?

 

 俺だってあんたらのことは知らないよ。

 

 けど、こんな考えを持ったことはないのかよ!?"立花さんだっておんなじ痛みを知ってるんじゃないか"っていうな!お前らの偏見で人間性を語ろうとするんじゃない!!」

 

 拓実が掴みかかろうとしたが響に止められた。そして爽谷は涙目になりながら立ち上がった。

 

「うう…そうやってあなたたちは自らの意思にそぐわない僕らを理不尽に苦しめるわけだ…

 

 知ったような?上等だよ。結局理解するってのは一方通行のものだ。人が理不尽に動く時は決まって理解って言葉を口にしたがる…!

 

 だったらそんな世界の理不尽は一つ残らず消せばいいじゃないか!」

 

「お前…」

 

 クリスが爽谷にかつての自分自身と重ね合わせていた。

 

「決闘の時はこちらが告げる…」

 

 そう言って調は切歌と爽谷の手を引き去って言った。その後響たち4人は弦十郎からノイズの波形パターンを感知したと言う連絡を受けた。

 

____________________

 

 二課本部に集まった装者や弦十郎たち二課のメンバーが見たのはマリアと響のガングニールのアフツヴァッヘン波形にはトリリオン状の誤差はないと言うことを知った。

 

「やはり、アメリカと通じていた了子さんが持ち出してそこから作られたんでしょうか?」

 

「せやな、ロードナイトモンはんもゆうとるわけでさかい、ありえへんわけではありまへんわ。」

 

 テントモンが藤堯を見てそう言うとクリスが妙だなと言った。

 

「だって、アメリカの連中はフィーネの研究を狙ってたんだ。FISまであってシンフォギアもあるんならその必要はないはず…」

 

「それもあるが、政府の指揮を離れ暴走しているのから察するに…FISは聖遺物の知識や技術を独占し、独自判断で動いていると見て間違いないだろう…」

 

 翼がクリスの補足をすると拓実はデジメモリを取り出した。

 

「それに、あの冷泉ってやつのデジモンと人間が融合するっていうのも奴らの知識によるものじゃないんですか?」

 

「うむ、そう見て間違いないだろう。となると奴らはなんのために動いているかだ。恐らく奴らの国にとっての不利益な出来事を大規模で起こすのが目的かあるいは、魔王型デジモンでも使って国家転覆か…まあ、後者はありえんだろうな。奴らに魔王型デジモンは手にあまりすぎる。」

 

 ロードナイトモンもFISが何を考えているのかが分からずだった。

 

____________________

 

 一方、爽谷たちが合流地点に向かうとすでにナスターシャたちは到着していた。

 

「無事で何より。さあ、3人とも。早く乗りなさい。追っ手から逃げますよ。」

 

「待ってマム!私たちペンダントを取り損ねてるデス!このまま引き下がれないデス!」

 

「私たち、あいつらに決闘を申し込んだの!だから!」

 

「いい加減にしなさい!」

 

 切歌と調がナスターシャに叩かれた。

 

「マリアにあなたたちも!これは遊びではないのですよ!」

 

「そこまでにしましょう。彼女たちの決闘には僕も興味がありますので…乗ってみてはいかがです?」

 

 ウェル博士が叱責しているナスターシャに提案したのは自分と爽谷が残って奴らと戦うということだった。それに対し、切歌と調はポカンとしていた。

 

「じゃあ、頼みますよ。爽谷くん。」

 

「はい、ドクター。」

 

 爽谷が自分の部屋に入ろうとした。

 

「待ちなさい、爽谷。」

 

 振り返るとマリアが立っていた。

 

「どうしたんです?マリアさん?」

 

「あなた、顔に痣があるわよ。こっちに来なさい。」

 

 マリアに応急処置をとってもらった爽谷だったが、マリアの顔はひどく落ち込んでいた。

 

「どうかしましたか?マリアさん」

 

「いいえ!なんでもないわ!さあ、今すぐ準備をして来なさい!」

 

 マリアが部屋を指差した。

 

「はい!」

 

 爽谷が部屋に入り、デジメモリを見つめ、戦いのセッティングをしながら過去を思い出していた。

 

「はぁ…」

 

____________________

 

 8年前__爽谷には姉がいたが、研究員によって無理やり別れさせられ、爽谷の姉はマリア、切歌、調、マリアの妹であるセレナ同様"レセプターチルドレン"としてフィーネの器になるべく施設に入れられていた。彼女たちはシンフォギア装者の放つアフツヴァッヘン波形でフィーネを転生させようと施設の子供を実験、訓練していった。

 

 その横で爽谷は当時、デジタル機械と人間をほぼ一体化させる実験体としてテストされていた。

 

 アメリカ政府は聖遺物を歌ではなく機器を用いての起動を目指し、ちょうど適当な実験台として爽谷を選出した。その実験は人体には特に大きな影響を及ぼさないものにはなっていたが、成果が思うように出せず、一部の研究員たちからは少しの出来事で精神的な傷を残され、殴られるだけでその過去を思い出してしまうほどになっていた。そして最悪なことに爽谷自身も度重なる実験で視力が徐々に低下していった。

 

「どうしたんだ!早く起きろ!」

 

「え…あの…その…」

 

「待ってください、主任…彼は視力が悪いようです。」

 

 機嫌の悪い主任を当時のナスターシャ教授がなだめた。彼女はレセプターチルドレンを実の子のように見ており、彼女たちからはマムと呼ばれていた。

 

「ごめんなさい、あなたの視力を直すのは難しいわ。代わりに…」

 

「代わりにどうぞ。」

 

 横からたまたま施設を訪れていたウェル博士がメガネを渡した。

 

「ドクターウェル?」

 

 ナスターシャが不審そうにウェル博士を見た。

 

「英雄にはゴーグルが必要なんですよ。とはいえ、これはメガネなんですが…」

 

「英雄…」

 

「そう!こんな時だからこそ、誰からも崇拝される英雄になるんですよ!」

 

 メガネをかけた爽谷はその後普通に実験を言われるままにこなしていた。

 

 それから2年後彼は、完全聖遺物であるネフィリムを起動させる際、マリアとセレナにあった。

 

 当時、FISは歌を介さずの完全聖遺物の起動を目指していたものの、ネフィリムはアルビノ化して暴走してしまい爽谷は起動に伴う疲労により気絶してしまった。

 

「大丈夫!?」

 

「大丈夫です…もう一度…!」

 

「ダメよ!あなたが死んでしまうわ!」

 

 彼は当時、自分の責任を果たそうと死ぬ気で機能停止を行おうとしたがマリアに止められた。そして彼の代わりに同い年の___しかも初対面のセレナがシンフォギアを纏い、ネフィリムを停止させるも直後に瓦礫に押しつぶされ、死亡してしまった。この時、ナスターシャもマリアを助けたが、瓦礫により下半身付随と片目を潰してしまった。セレナはシンフォギアの力は望んではいなかった。しかし、彼女は最後まで誰かを守ろうと戦っていた。

 

「セレナーーーーーー!!!」

 

 しかも助けられたものたちは実験体が死んだや無能と罵るものたちもいた。もちろん、彼女の死を悼む者たちもいたがごく僅かだった。

 

____________________

 

 それ以降彼はセレナの一件でさらに精神的な傷を生んだ。そして彼は"理不尽な力を振りかざすものはこの世界にはあってはならない"と考えた。

 

 それから3年後彼はアメリカ政府の意向でデジモンと融合する実験を受けた。

 

もともと受けていた実験を数段階応用させたもので困難な内容ではあったが、実験自体は成功を収めた。しかし、数年で負った精神的な傷が影響で本来引き出せる実力の6割しか実戦では出ていないとして研究員たちからは"欠陥だらけなモルモット"と揶揄された。

 

 そしてナスターシャたち武装組織に誘われ、彼はこれを快諾した。手始めに施設を爆破させ表の顔としてマリアのマネージャーになった。そして残された姉が気がかりだという感情を押し殺し、今彼はここにいた。

 

「本当に…この世界は壊れてくれないと困るよね」

 

ため息をつきつつも奥歯を噛み締めた爽谷はデジメモリを握りしめる。

 

 

 そして日が沈みあたりが夜になった。二課本部にノイズ出現を決闘の狼煙として挑戦状を叩きつけてきた。

 

「古風な真似を!」

 

「場所は!」

 

「東京番外地・特別指定封鎖区域です!」

 

 藤堯が場所を知らせると、弦十郎が机をバンと叩いた。

 

「カディンギルの跡地だと!?」

 

 東京番外地・特別指定封鎖区域__かつてフィーネと響たちが戦ったカディンギルのあった場所であり、そのエネルギーで草木の生育が困難でそのエネルギーの割合が下がるまで一般人の立ち入りが禁止されている場所でもある。

 

「決着をつけるには…御誂え向きな場所だな…」

 

 響たち装者と拓実が区域に入った。拓実は遠隔からデジモンと響たちを見ていた。

 

 そして響たちが見たのは調と切歌ではなくウェル博士と爽谷だった。




「痛い…痛い…」
「爽谷…しっかりするデス!そんな情けない顔を浮かべて恥ずかしくないんデスか!?」
「うっ、分かったよ…」
(切ちゃんもしかして、爽谷で楽しんでる?人によって泣き顔が可愛く見えるからかな?)
「ほら、行くよ。切ちゃん、爽谷。」

第33回 爽谷、切歌、調(in合流地点へ向かう中)

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