戦姫絶唱シンフォギアDigitalize 作:ジャン=Pハブナレフ
「父さん、聞きたいことがあるんだ?」
「どうした?昨日のライブがあってから、なんかあったのか?」
母の稔は今買い物に出かけている中、拓也は酒を飲んでいた。
「ああ。本当はあんまり言えないんだけど…」
拓実は拓也に昨日のことを話した。拓実は2年前に特機部二に入った時に両親に自分のことを話してしまった。しかし、弦十郎の手で両親を協力者とし事前に細かい説明をしたためなんとか事無きを得たのだった。
「そうかい…響ちゃんが偽善者ねえ…」
「父さんは何か知ってる?立花さんの家庭について…」
それを聞くと拓也は酒の入った缶を静かに置いた。
「ああ、と言っても噂程度だがな。2年前、響ちゃんの父親である立花 晄(たちばな あきら)と俺は企画上よく話し合ってて子煩悩な人でな、結構気があう人だったんだよ。
しかし、その頃はお前も知っての通りあのライブの惨劇があった。聞けばお前のおかげで多くの人が救えたらしいじゃないか。あの後母さんと一緒に藤堯っていう人から聞いたぞ。もしお前がいなかったら10万人のうち、犠牲者が1万人2000人増えてたってな。」
「いや…俺はただ嫌な予感がしただけだよ。」
その間に拓也は缶一本を飲み干した。
「しかし、世間に起こったライブの悲劇はこれだけじゃなかった。お前の知ってるようにノイズの犠牲者は犠牲者三分の一程度だったがあとは圧死や暴行による致死が原因でやたらと世間を騒がせた。」
拓也は顔を曇らせた。
「俺の知り合いのやつも生存者がいたが国から保証金をもらったのはよかったが世間のパッシングや非難が原因で今は確か島根にいるらしい。で、響ちゃんたち立花家もそうだった。俺はその時晄さんに聞かされたよ。"娘があのライブで生き残ったんだ!俺は嬉しかったよ"ってな。
が、程なくして彼らもパッシングや非難を浴び家庭に亀裂が走り、その結果晄さんはプロジェクトから外されたのがきっかけで会社で持て余されてプライドを傷つけられ、酒に溺れた挙句に家出したらしい。その原因が俺の会社の社長令嬢もあの場にいて、当然被害にあったんだ。
それでも俺は立花さんを励ましに行ったが、奥さんに追い返されちまった。
"主人の話は今はしないでほしい"ってな。」
「そんなことが…」
拓実も俯いてしまった。
「で、その後なんとかもう一度尋ねて調べてみたらヤバイことが分かった。実は娘の響ちゃんの学校でもクラスメイトの将来有望なサッカー少年もあの事故で亡くなったらしい。
それ以降響ちゃんは周りから"どうして取り柄のない響が生き残って、あの子が死んだんだ!"っていう感じで非難といじめが始まった。そして残された家庭は人殺しや税金泥棒と揶揄されることになった。それが俺の知ってるすべてだ。」
「そんなことが…」
拓実が青ざめていた。自分から見たら何の不自由もなくただ人一倍お節介な響にはそんな壮絶な過去があったことを信じられずにいた。
「何を落ち込んでやがる!」
拓也が拓実の肩をポンと叩いた。
「過去ってのは!変えられんねえんだ!
だから、お前はお前のやり方で未来をかえりゃいいんだ!きっと響ちゃんだってそうした筈だ!それに今度からはちゃんと他の奴に…相談しろよ!
酒飲んでる親父に…聞くんじゃぁねえ…」
拓也は軽く酔いながらソファーに座って眠りについた。
「ありがとう。」
「いいって…ことよ。」
その後拓也は稔に酒を3日間飲んではいけないと言われ大きく凹んだのはまた別の話。
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ライブでの宣戦布告から1週間が過ぎた。あの日からフィーネと名乗る組織から何故か示威行動や各国との交渉が確認されていないらしい。
「風鳴司令。」
緒川が連絡していたのはとある都内の極道本部だった。
「ライブ会場本部にあったトレーラーから入手経路を遡ってるわけですが、その中から大型の医療機器等が発見されました。」
緒川は通信しながら体術だけでヤクザたちを圧倒していた。
「医療機器?」
「で、その反社会的な連中は資金繰りに体良く使っていたのかね?」
ロードナイトモンが緒川に尋ねた。
「はい、この記録面白いと思いませんか?」
「追いかけて見る価値がありそうだな。」
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一方、とあるシャワールームでは調と切歌がシャワーを浴びる中スピーカー越しでキャンドモン、ワームモンと話していた。
「でね〜それをご飯にサバーっとかけちゃったんデス!可笑しいですよ、爽谷は。卵とご飯は別がいいのに!それ言うと本人は"知ってる?卵かご飯とは1877年に当時の従軍記者であった岸田 吟香(きしだ ぎんこう)が初めて食べそこから広まったんですよ!それに、味は結構美味い"って言っちゃうんデスよ!
変なところでマウント取らないで欲しいデース…」
切歌が膨れっ面を浮かべるが調はどこか上の空だった。
「可笑しいよね、切ちゃん。」
「全くだ。焼いて食ったほうが卵は美味いだろうに。」
デジヴァイス越しからワームモンとキャンドモンが同意した。
「…」
調はなおもボーっとしていた。
「まだ、あいつのことを気にしてるんデスか?」
「あんなの気にしないほうがいいって。あんなのイグノーしたほうがいいって!」
「そうだよ…気にし過ぎないで、しらちゃん」
「何も背負ってないあいつが…人類を救った英雄だなんて、私は認めない。」
「本当に悪いと思ったことでも背負わなきゃいけない時もあるデス。」
調の怒りが頂点に達し壁を殴った。
「困ってる人たちがいるなら、どうして!?」
切歌が細い調べの腕を寄せて手を握った。
「この世界にはがん細胞すなわち偽善者が多すぎると調は言ったね。
だったら、がん細胞は排除しなければならないでしょ、違うかい?
なぜ動揺するんだ?」
爽谷がスピーカー越しに話しかけてきた。
「そう言うことを言ってるんじゃ…!」
「実際、あの人は困ってる人を助けたいと言っているのに対し、俺たちのような人を困らせる力しかない奴とは絶対に相容れない存在だ。」
ブラックウォーグレイモンも話しかけてきた。すると、マリアが入ってきてシャワーを浴びた。
「そうよ。それでも、私たちは戦うしかない…戻る暇は、ないのよ。」
「マリア…」
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その時、施設から警報が鳴り扉がロックされた。その様子をナスターシャが見ていた。そこには黒い化け物が暴れていた。
「あれぞ、共喰いすら厭わない完全聖遺物。人の身にあまる…」
「人に見に余るからなんて思わないでください。」
「ドクターウェル…」
現れた人影こそ岩国の護送任務の後に行方不明となったウェル博士本人だった。彼はあの時、ソロモンの杖を懐に隠し持ちながらノイズを操り、自作自演の逃走劇を行なったのだ。そしてQUEENS OF MUSIC会場でノイズを発生させたのも彼も仕業であった。
「人の身に余るからこそ英雄になるものの身の丈としてはちょうどいいじゃないですか。」
「マム、今のは!」
マリアたちがモニタールームに入っていた。
「ネフィリムが暴れ出したんだ。けど、マムのお陰でこうして抑え込んでるんだ。」
ナスターシャの横から爽谷が出てきた。
「心配してくれてありがとう。でも、大丈夫。」
ナスターシャが皆に優しく微笑んだ。
「それよりも視察の時間では?」
「フロンティアはこちらにとって大切なものの一つ。視察は怠れません。」
「じゃあ、留守番がてらに今後のネフィリムの食料調達の算段でもしておきますよ。」
ウェル博士が微笑んだ。
「では、調と切歌を護衛につけましょう。」
「いいや、ここは僕が行こう。2人にはマムとマリアの護衛に就くほうがいいだろう?まあ、大した荒事はないから大丈夫さ。」
「分かりました。目的の時間には帰還します。」
こうしてナスターシャ、マリア、切歌、調はフロンティアの視察に向かった。
「ドクター、何か監視用でデジモンでも放ちますか?」
「いえ、それはまだいいでしょう。」
(さてと、巻いた餌に獲物はくらいつくのでしょうか?)
ウェル博士の顔色が一気に怪しくなった。まるで敵がくるのを望むかのように…
「知ってますか!?僕の卵かけご飯の蘊蓄のソースはインターネットによるものだということを!」
「何デスと!?」
「でも、それって正確なの?」
「大丈夫だ!後で調べとくから!」
「そんなのは後になさい。私たちの仕事を忘れないでちょうだい。」
第29回 爽谷、切歌、調、マリア(inフィーネアジト)