戦姫絶唱シンフォギアDigitalize   作:ジャン=Pハブナレフ

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最近少し宮本武蔵の本を読みまして、翼さんのメイン回に結びつけようと考えました。今回の錬金術師ははっきりいうと変態です。自分のイメージする限り危ない感じを前面に押し出しています。


第206話 守らずの刃と護りし刃 巌流島の決闘!!

「うわあああああああ!」

 

 夜の街で人が血飛沫を流して倒れていた。

 

「ふふふ……ご馳走さま」

 

 妖しい声が夜の闇に消えていった。この事件に対してSONGでも早速ミーティングが行われていた。

 

「皆も知っての通り、ここ最近日本の各地で通り魔が発生している。被害者たちは皆、命に別状はないが犯人らしき人物が我々SONGの紋章を作っては破壊していることから我らへの挑戦状を叩きつけていることもわかった」

 

「ひどい、辞めさせないと!」

 

「けれども対策がないんじゃあ動こうにも意味がないわ」

 

 犯行に憤りを覚える響に対してマリアは現場の様子の画像をモニターでじっと見ていた。

 

「まず、現場に残った刀の跡を見てください。大きくコンクリート製の壁にヒビが入ってます。これはまず通常の刃物でつけるのは困難です」

 

 エルフナインがその画像を見せた。

 

「そう言ったこともあって周辺の監視カメラを調査した結果分かったんだが通り魔が所持しているのはシカゴ事件の以前にリコリスにより盗まれた哲学兵装の一つ___妖刀ムラマサだったんだ」

 

「ムラマサ!?」

 

 クリス、切歌そして調が驚愕した。

 

「かつてクリス君たち3人が赴いた先で騒動を起こした哲学兵装だ。

 

 その後、似たものがないか事件後に調査を進めていたのだがちょうど保管していた寺社から盗難届けがあったのを知り、警察が捜索を行なっていたんだ。

 

 しかし、捜索自体難しくなったため、遺物関係の事件ということで我々に回ってきたんだ。今後我々はムラマサの調査ならびに錬金術の捕獲を目的として動く!」

 

 会議は解散となり早速弦十郎たちは目撃情報などと行った情報を仕入れていた。

 

「にしてもこの世界の妖刀か……先輩、どう思う?」

 

「フッ、相手が誰であろうと関係はない。防人としてかかる危難を払うのみだ」

 

「さすが翼さん! 相手が妖刀でもぶれませんね」

 

「ああ、水琴もそうだろう?」

 

「そりゃもちろん。デジモン相手取るよりかは楽勝な内容でしょうよ」

 

____________________________

 

 その夜、SONGも警察に紛れて現場検証を行っていた。翼もマリアと共に現場に入っていた。

 

「ダメか……すでに被害者が出ていたのか」

 

 現場の様子を探ろうとした翼は路地裏に出ていた。するとあたりには霧が不気味にも漂っていた。

 

「……何やつだ?」

 

 単独となった翼の背後に人影が現れた。

 

「おや、おやおや? これはこれは装者の方達が来るとは楽しくなりそうですね」

 

「貴様か!」

 

「如何にも、錬金術師 クロール___殺し合いましょうか! うぇあああああああ!!」

 

 突如飛びかかってきたクロールは変身しようとした翼に斬りかかった。

 

「あなたの綺麗な血の色を見たい。ぶちまけてください!」

 

 クロールの剣の持ち方は明確でなく片手で交互に持ち替えながらただ楽しそうに振り回していた。しかしその間に翼はギアを纏い反撃した。

 

「ああ、楽しい! 私は楽しい! ウェッ!!」

 

 全く斬撃は当たっていないが周囲の建物を嬉しそうにクロールは壊していた。

 

「貴様、一体なにを考えている!? なぜ周りの建物ばかりを!!」

 

「決まってるじゃないですか。壊し尽くしたいんですよ。物を壊すことほどに楽しい物はありません。それ以上の喜びがあるなら……」

 

 クロールが夜空にムラマサをかざした。

 

「逃げ惑う人々を切り捨てて苦痛を与えること!」

 

「下劣な!」

 

 翼がアームドギアを構えた。

 

「さあ地獄を楽しみましょう!」

 

「はあああ!!」

 

 翼の斬撃にクロールは生身でありながらついて行けており互角の勝負だった。

 

「いいですね、その剣。剣を名乗るならその体、斬らせてください」

 

「あいにく私の剣は容易いものではない!」

 

 そういうと翼は逆羅刹で一気に攻撃を仕掛けたがクロールはひかりとかわして舌舐めずりをしながら翼の体を見つめた。

 

「さて……こんなに楽しい戦いはありません。どうですか私と決闘致しませんか? 正直他の方々の体などいつでも斬れればそれでいいがあなたとは格別の時と場所で斬り合いたい……明日の夕暮れ、巌流島にて待ちます。それでは……」

 

「待て!」

 

 翼の目の前にアルカノイズが現れたがあっという間に一掃され見回したが次の瞬間に彼女の姿はなかった。

 

____________________________

 

「決闘か……」

 

「罠に決まってるデス!」

 

「けど、向こうがわざわざ呼んできたということは純粋に私たちとの勝負を望んでいるのかもね」

 

「……行きます」

 

「翼さん!」

 

 響が翼を止めようとしたが翼の決心は定まっていた。

 

「あの様な刃を私は許さない。ただいたずらな破壊しか生まないあの様な刃など私が倒す!」

 

 それから翼たちは巌流島に向かった。

 

「この島はかつて宮本武蔵と佐々木小次郎が決闘したとされる地、御誂え向きね」

 

「サポーターにはマリアさんと俺がついてるので任してください! 奴が約束を反故にしたら俺とマリアさんが先に奴を倒しますから」

 

「ああ、マリアに水琴も頼むぞ」

 

 島に着いてから響たちは周辺の村や施設の巡回ならびに決闘の様子の把握が行われていた。

 

「頼むぞ先輩!」

 

 クリスが辺りを見回しながら翼の勝利を願っていた。

 

 そして日がくれた。

 

「ククッ、クハハハハハハハハハ!!」

 

 高笑いとともに近くの茂みからクロールが出てきた。

 

「なんだこいつ!?」

 

 その格好に全員唖然となった。全身に傷らしきものが見え、衣服にも所々傷が入っており肩を露出していた。

 

「ああ、いいお顔だ、思わずよだれが垂れそうです……」

 

 恍惚な笑みでクロールは翼を見つめ、なんと自分の手首に切り傷をつけた。

 

「自分の手首を笑いながら切るなんて、こいつやべえやつだ!」

 

 拓実はゾッとした表情を浮かべた。

 

「おや? おや、おや? お友達も一緒ですか? 楽しいことになりそうだ」

 

「約束通り翼がやって来た! 今すぐ勝負なさい!」

 

「そうですね、生身もいいですがこれでもいかがですか?」

 

 するとクロールはデジヴァイスとデジメモリを取り出した。

 

「それは究極体の……!」

 

<スレイヤードラモン! コンバート! >

 

「あなたのデジモンには彼が相手で不足はありますまい」

 

 すると自身の横に究極体デジモンであるスレイヤードラモンを放った。

 

「ならば行くぞファルコモン!」

 

 翼もデジヴァイスを構えた。

 

「ああ!」

 

「ファルコモンワープ進化、レイヴモン!!」

 

 レイヴモンが宙に浮かびながらスレイヤードラモンと睨み合っていた。翼もギアを構えて睨み合った。

 

「これより、決闘を開始する。両者始め!」

 

 マリアの合図の元、決闘が始まった。

 

「ウェエエエエエエエッ!!」

 

 奇声とともに刀を振り回したクロールの一撃を軽々と受け止めた翼だったが突如として体を曲げて右手から左手に持ち替えたクロールに思わず後ずさりした。

 

「この者の剣には構えがない? どういうことだ!?」

 

「スパイラルレイヴンクロー!」

 

 レイヴモンの回転斬撃もスレイヤードラモンの剣に阻まれ弾き飛ばされた。

 

「強い!」

 

「さあ、私に遠慮なく攻撃を! あなたの斬撃で私を切り刻んでごらんなさい!」

 

 体をクネクネと曲げてクロールは挑発した。

 

「貴様……いい加減にしろ!」

 

「怒ってますねぇ……その怒りをぶつけて私を切ってみてください!」

 

 翼も攻撃を仕掛けるがクロールは防御せずに攻撃を受けて起き上がった。

 

「痛い、痛い、いたぁい……でも、すっごくきもちいぃ……!」

 

 恍惚な笑みとともに反撃するもまるで当たらずにいた。しかしなぜかクロールの体から紫の色のオーラが滲んでいた。

 

「なんなの? 翼の斬撃を受けたら痛いはずなのに……」

 

 マリアが攻撃を受けて興奮しているクロールの言動に全員困惑していた。するとムラマサが暗い紫色の波動を放ちながら輝いた。

 

「いたぁい……痛い、くるしぃ……」

 

 翼の攻撃を受けながらクロールは笑っていた。

 

「では、私の怨恨を与えましょうかね!」

 

 ムラマサが禍々しい光とともに輝いた。するとクロールが急速に翼に斬撃を放った。

 

「くっ、隙のない連続攻撃!」

 

 一方のレイヴモンもスレイヤードラモンの攻撃を受けずに空中から連続攻撃を放つも決定打にはならずに次第に息切れが見られていた。

 

「どうしました? あなたの一撃はこんなものですか?」

 

「はあっ!!」

 

 攻撃をかわして千ノ落涙を放った。上空からの攻撃にクロールは防御も出来ずに両肩に剣を突き刺された。

 

「もっとください! 痛みを、苦しみを! もっとォ!」

 

 しかし自ら刺さった剣を抜き出血してもなお剣を振り回した。

 

「ああ……ひどいことしましたね? あなたにも同じことを……いえ、それ以上の苦痛をあげますよ!」

 

 するとムラマサは先ほど以上に輝いた。

 

「これは、ムラマサから先ほど以上の光が! なんて禍々しいの!?」

 

 そして振り下ろされた剣で海が割れた。

 

「さあ、私のとっておきです。ここは歴史で二人の男の戦った場所、故に二人の魂の一部がこの剣に流れ出るんですよ! ムラマサには侍の怨念が宿っている。二人の剣士の力が私に流れ込んでこれから放つ一撃は最大にして最悪……避ければ背後の2人はどうなりますかね? ククッ……」

 

「フッ、抜かせ! 破壊するだけの剣、最初は手強かったがもはや動きは見切った! ならばこちらも全霊の防人る一撃を放つ、そしてその怨念は私が晴らす!!」

 

 翼も全神経を研ぎ澄ました。

 

「ヒャアアアアアアアアアッ!」

 

「はああああああああああッ!」

 

<蒼ノ一閃>

 

 蒼ノ一閃とムラマサの斬撃が押し合い大きな衝撃波が走った。

 

「ぐっ! スピリットレボリューション!」

 

「Seilien coffin airget-lamh tron!」

 

 その場にいた拓実とマリアは衝撃波から身を守ろうとした。

 

「翼!? うわああああ!!」

 

 近くにいたレイヴモンとスレイヤードラモンもその衝撃波に巻き込まれた。

 

____________________________

 

「せんぱーい!」

 

 衝撃波が発生して十分後に響たちが駆けつけて来た。呼びかけてあたりの捜索を行っていた。あたりの岩はほとんど砕け、木々も数本折れていた。その中で棒立ちのままスレイヤードラモンが立ち尽くしていた。

 

「これってあいつの呼び出したスレイヤードラモン!?」

 

 するとスレイヤードラモンが突如として消滅した。

 

「間違いない、これは奴の操っていたやつだ!」

 

「ああ……いい〜」

 

 声の聞こえた方向を睨むと地に這いつくばりながらニヤニヤと口元を歪めてヨダレを垂らしているクロールと息を切らしながらも立っていた翼が見えた。

 

「もう勝負はついた。これ以上は無駄だ」

 

「翼さーん!」

 

 響たちが手を降って駆け寄った。

 

「大丈夫ですか翼さん」

 

「ああ、ムラマサも無事だ」

 

 翼が指差した方向には余波で岩に突き刺さったムラマサがあった。

 

「これで翼の勝ちね」

 

 マリアと拓実が海から上がって来た。

 

「でも、秋の海は寒いっすよマジで〜〜!! へっくしょん!!」

 

「マリア、水琴! 大丈夫か?」

 

「ええ、大丈夫よ。後は……」

 

 マリアが倒れながらも笑顔を浮かべていたクロールを見つめた。彼女はビクビク震えながら楽しそうに笑っていた。

 

「あ、ああ! もっとぉ……もっと私を痛めつけてください、苦しめてください、ゾクゾクしますから! 

 

 足りません……足りません! あなたに傷つけられないと私は喜べない、焦らさないでください!」

 

 するとクロールは近くにあった岩の破片を手に取って自らの腕に刺した。

 

「ああ! 痛い、苦しい、気持ちいいいい!!」

 

 腕から出血する中、恍惚な表情でよだれを垂らしながら手招きしていた。

 

「なんて事しやがる!」

 

 その場にいたクリスたちがゾッとした表情を浮かべた。

 

「痛いの……欲しいよぉ〜!」

 

 すると今度は上半身を起こして自分の足を刺し始めた。

 

「翼さん!」

 

 その光景を見て響は駆け出した。

 

「あのものを捕らえるぞ! 自殺などさせない!」

 

 次に目を潰そうとしたところ翼たちが押さえつけた。

 

「やめろ、お前に聞きたいことがある! 動くな!」

 

「ああっ! 私を苦しめてくれる! それにこんなにたくさん……

 

 ああ、イイッ〜!」

 

 押さえつけれてもなおクロールは恍惚な笑みでもがきながら翼たちを見つめた。

 

「ハアッ……こんな気持ち悪いやつの剣は二度と見たくないわ」

 

 マリアが岩場から刀納めていた鞘とともにアタッシュケースに戻した。

 

「全くデース!」

 

「ああ! もっと握りつぶすくらい強く握ってください! 

 

 あぁん、もっと手首をへし折るくらいお願いします……!」

 

「こいつにはなにをやってもご褒美にしかならねえな。ったく……」

 

 止めに入ったクリスたちも呆れながらクロールを確保した。彼女は連行される際も白目を向いたような表情でよだれを垂らしながら息を切らし、笑顔を浮かべていた。

 

「ああ……いい! もっと! もっとおおおおおおおお!! ああっ、あああ──!!」

____________________________

 

 その後彼女は拘束され、投獄されたがなぜか数日で精神崩壊してしまい、牢獄では夜な夜な喘ぎ声が響き渡ったそうだ。

 

 しかし何をするかわからない危険性があるため常時拘束具を身につけられていたがそれでも彼女はハアハアと息を切らし、突然叫び出したりとうるさいのに変わりはなかった。

 

「はあっ、はあっ、しゅごい……もう一回、斬られたいな〜」

 

 鎖で拘束されながらも鉄格子の向こうを笑みを浮かべながら眺め、鎖を引こうとする音だけが響いた。

 

「ヒヒヒヒ……」

 

 

「ご苦労様。ムラマサは無事盗難された寺社に戻されたぞ」

 

「ふう……よかった〜」

 

「それで、あいつについては何かわかったの?」

 

 マリアが尋ねると一枚の書類を弦十郎が手渡した。

 

「これは……」

 

 そこに書いてあった資料によるとクロールはその昔街を転々として人斬りや暴行などといったことを心のままに行なっていたそうだ。

 

 しかし簡単に殺さずにまず自分が痛めつけられてから相手にも同じ痛みを味あわせてからというのが彼女のやり方だとわかった。

 

「ったく、変態かよ」

 

「ふふ、違いないわね」

 

「今後は彼女と例のヒンリヒの関係性がないかは調査する。まずは休め!」

 

「「はい!」」

 

 その後皆帰宅すると翼は木刀を振るっていた。

 

「この剣は誰かを守る、夢を守る。そのために私は戦う!」

 

 木刀が振り下ろされた。そして翼は襖を開け、寝室へと向かった。閉められた襖からはパンという音が響いた。

 

____________________________

 

「そうか、ご苦労」

 

 一方、何者かと通信していた訃堂も立ち上がって月をにらんだ。

 

 その画面には「SONG 聖遺物データ」と記されたファイルと"拓実のメールアドレス"の載ったメールが映っていた。


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