戦姫絶唱シンフォギアDigitalize 作:ジャン=Pハブナレフ
マグナガルルモンとカイゼルグレイモンがベルゼブモンへと飛び出した。
「こいつ!暴れるな!!」
マグナガルルモンが摑みかかるもベルゼブモンはそれをなぎ払おうとした。
「だったら!氷と風の力よ!!ブリザードスラッシャー!!」
カイゼルグレイモンが腕から風を発生させてそこに氷の塊をぶつけ砕け散った破片がベルゼブモンに命中した。
「氷と風の…!」
「ならこっちも!」
胸部からレーザーを放ちマグナガルルモンは両腕の砲台を投げ捨てて超光速で加速した。
「早い!初めての時よりも2倍、いや5倍も早くなっているわ!」
「があああああっ!!」
「無駄だ!光の速さには誰も追いつけやしないんだよ!!」
ベルゼブモンは防御姿勢をとるがマグナガルルモンはそのまま斬撃攻撃を続けた。
「九頭龍神!」
続いてカイゼルグレイモンの攻撃でベルゼブモンは正面から防御出来ずにそのまま命中した。
「オラオラオラオラァ!!」
マグナガルルモンは吹き飛ばされるベルゼブモンにさらに斬撃の追い打ちを仕掛けた。
「インフェルノフレア!」
ベルゼブモンが大技を放つと二体も構えた。
「これで最後だ!」
マグナガルルモンも砲台を再び装備した。
「マシンガンデストロイ!」
「炎龍撃!」
二体の攻撃がインフェルノフレアと激突した。
「はあああああああ!!!」
「うをおおおおおおお!!!!」
2人の技がベルゼブモンのインフェルノフレアを打ち消してそのままベルゼブモンに命中した。
「ウワォオオオオオオオオオ…!」
ベルゼブモンは言葉すら失い爆散した。
____________________________
戦いは終わった。しかし、本来の目的であるリコリスの確保は終わってなかった。
「どこにいるのだ!?リコリス・タオ=リヒト!」
米軍たちも瓦礫の街の中捜索を行うがリコリスは見つからなかった。響とマリア、調、クリスの4人と拓実、爽谷、翼、切歌の4人に別れてデジモンが現れた場所を中心に捜索していた。
「一体どこにいるのよ!?」
「あの野郎、やっぱベルゼブモンにやられたんじゃねえか?」
クリスが辺りを見回していた。
「うっせえよ…人の事をベラベラと喋んな。」
マリアたちが振り返るとリコリスは腹部から血を流して瓦礫に寄りかかっていた。
「見つけた!」
調がいち早く攻撃を仕掛けたがリコリスは防御出来ずに右腕を負傷した。
「もう終わりよ。大人しくしなさい。」
「は、はは…終わりだと?俺がこんな形で終われるか?」
「てめえはもう負けてんだ!これ以上やっても無駄だってことくらい分かってんだろ?」
「そうかもな…だとしてもだ、俺の野望は終わらねえ。恐怖による世界の蹂躙こそ俺が望んだたった一つの答え!」
「だとしても!」
リコリスが自らの状況下を否定する中でそれを響の言葉が遮った。
「私たちとは…手を取り合えないんですか?」
「またそれかよ…」
リコリスはなにかをポケットに入れて立ち上がった。
「てめえは度がすぎるお節介野郎だ!何を考えてやがる!?人類皆友達ってか!?
てめえはいつもそうだ!誰かと手を取り合えるだと!?そのせいでてめえ自身の足かせが作られてんだぞ!?分かってんのかあん?」
リコリスはため息をついて早口で響たちを容赦なく罵倒した。
「何故だ!?腐りきったゴミどもは処分されてしかるべきなのだ!ゴミを捨てるのは人間にとって当然だろ?己の持つ力で他を制して何が悪い!?何がいけない!お前たちさえいなければ俺は今とっくに世界中を支配させて今回のようにしてやることもできたんだぞ!?」
リコリスの詭弁にクリスは険しい顔を浮かべた。
「てめえ…」
クリスがアームドギアを構え、響は表情を変えず立ち尽くしていた。
「おう、そうさ!やっちまいな。俺が憎いんだろ?俺が憎いんなら殺せ!血には血、力には力だけだ!!」
引き金を引こうとしたクリスを響は片手で制止させた。
「クリスちゃん、やめて。」
「おい、いいのかよ!?」
「クリス先輩、私からもお願いします。」
響と調の説得でクリスはアームドギアを渋々下ろした。
「なんだよ、俺1人くらい殺せよ…!生き恥をかかせたいのか?それとも人殺しなんかしたくありませんってか?ふざけんな!」
リコリスは逆上するもさらに出血しその場で倒れた。
「ぐはっ…後悔、することになるぞ…俺を殺しておけばお前らは苦しまなくて済んだ。俺に改心はねえ…覚えてやがれ!どれだけお前らがいい子ちゃんになろうといずれその身は薄汚れた血を身に受けることになるぞ…!だからいい子ちゃんなんざやめちまえ…」
リコリスはテレポートジェムで逃走しようとした。
「リコリスさん、あなたは本当は分かってるんじゃないですか?自分のしたいことが。恐怖なんかじゃない、あったかいものが、欲しいんじゃないんですか?」
響の悲しみを含んだような表情を受けてリコリスはバツの悪そうな表情でそっぽを向いた。
「うるせえ、バカに…するんじゃねえ…!次は必ずお前らをぶっ倒してやる!そして俺は生きている限り何度でもお前たちの信念をいつでも崩しに来てやるぞ!」
リコリスは血眼になってテレポートジェムで今度こそ逃走した。
「なんで、あんなに悲しい顔を浮かべるのかな?あの人はどうして強がりを言うのかな?」
響は表情を曇らせていた。そして近くには彼の所持していたサンジェルマンの髪の束があったがやがて風で散っていった。
____________________________
それからリコリスによる聖遺物強奪やデジモン被害は報告されなかった。しかしリコリスは存命であるため各国でも、聖遺物起動に関しては今後は慎重となった。
ロシア政府によって起動された聖遺物は今後ロシア政府の元で厳重に管理されることが決定し、アメリカ政府は今回の一件で諸外国からの信頼を「錬金術師に蹂躙された被害者」とすることで得ていた。
奇しくもロシアや欧州もこれに乗じてアメリカ政府と連携してリコリスならびにパヴァリアの残党始末にかかろうとしていた。信頼を失ったアメリカ政府には格好の機会だった。
「まさかここでベルゼブモンすら倒れるとは…そしてバルバモンにルーチェモンにリリスモン…」
国連ではクダモンや他のロイヤルナイツたちが場を借りて話し合っていた。しかしこの場にはエグザモンとガンクゥモンおよびアルファモンは不在だった。
「彼ら人の力、やはり侮れないであろう?」
「うむ、スレイプモンの言うことには一理ある。現に私やアルフォース、ロードナイト、デュナスにデュークは人間とともに戦って勝利してきた。」
「人とデジモンの共生する日は近いかもしれないね。」
クダモン、ドゥフトモン、ロードナイトモン、デュナスモン、アルフォースブイドラモンはうなづいたがクレニアムモンとマグナモンは承服しかねていた。
「そうだろうか?人間の中には我らの秩序を乱すものがいる。共生などは不可能と見たほうがいい。」
「そうだな、彼らの秩序など保たれていない以上相入れない。それに、我らも人間の内紛に巻き込まれいずれデジタルワールドが滅んでしまうかもしれんぞ。イグドラシルは何をお考えなのだろうか?それにアルファモンの姿が見えないのはなぜだ?」
マグナモンが辺りを見回したがアルファモンは影すらなかった。
「わからん…しかし残る魔王はあと3体。少ない数と同時に厄介なものたちばかりだ。先日もエグザモンとガンクゥモンが重傷を負って帰ってきていた。おそらくルーチェモンの仕業に違いない。」
「お師匠…!」
「いずれにせよ、私は人間を信じるさ。」
「デュークモン!何故だ!?」
「シンフォギアたち人間を見て分かった。どうやら彼女たちは我々の問題に首を突っ込んで共に戦うと言っていた。私は彼女たちのあの信念のこもった眼差しを信じる。」
「そうだな、私も信じよう。ここにいる騎士たちが認めた戦士ならば私は信じられる。我らがかつて出会った人間達のように…」
「私たちはかつていくつもの世界と繋がって戦いそして絆を育んできた。此度もそうだ。」
「オメガモンまで…」
クレニアムモンとマグナモンは困惑して黙りこくるうちにしばらくして会議は終了した。
「もしかしたら我らの力を彼らに託す日がくるやもしれぬぞ。」
「ふん、ウルカヌスモンのアレだな?先の戦犯など信じるものか!」
クレニアムモンはなおも頑なだった。
____________________________
装者たちは潜水艦で帰国するための港で沈みゆく夕日を眺めていた。
「あたしたちは勝ったけど、多くの人が死んだ。」
「許せないデス…」
事実リコリスの被害はシカゴ事件として世界に報道され政府はそれをノイズ事件と偽って報道したため多くの人々が悲しみに包まれた。幸い今回の事件では生存者へのパッシングは行われずシカゴは復興へ向かっていた。
「あいつを見つけられてさえいれば…俺たちで倒せれば…」
「己を責めてどうなるのだ?」
デュークモンがその場に現れた。全員振り返って彼を見つめるとデュークモンは笑みを浮かべた。
「君たちには驚かされたよ。私のバリアーを破壊するとはな。」
「そういえばあなたあの時、啓人っていってたけど誰なの?」
「ああ、私のかつての友達さ。私は彼が考えられたことで出会った。」
「?どう言うことだ?デジモンが現れたのは…」
翼が首を傾げた。
「フッ、君らの世界とは別の世界さ。この世界は無限につながっている。私が出会ったのはその中の一つさ。」
「はへ〜!世界はいっぱいあるデスね〜!」
「それがどうあたしたちに関係してるんだ?」
「君たちの言葉は彼の言葉だったんだ。しかし彼と私は別れてしまった。それで忘れかけていたのさ。共に戦いあった友達を、私と笑いあって泣きあったりしたことを。君らはそれを思い出させてくれたんだ。ありがとう。」
「そ、そんなお礼なんて〜!」
照れる響を見て全員苦笑いを浮かべつつもデュークモンは空を見上げた。
「ふふ…君たちには優しさがある。
誰かを理解し打ち解けるその優しさがあれば未来を明るい方向に持っていくことができるだろう。現に君たちはいくつもの奇跡を掴んでいる。それは私たちロイヤルナイツも認めていることさ。自分たちの力と仲間の力を一つにすれば君たちは十分に強い。だから、迷うな。そしてパートナーは大事にな。」
デュークモンは空に飛び上がってゲートを開けてデジタルワールドに戻っていった。
「また会おう!テイマーよ!」
「奇跡を掴んでいる、ね。まあ、確かにそうかもしれないな。」
「私たちは諦めない。例えどんな強い敵が現れたって挫けない!」
「そうね!私たちの戦いはこれから。アヌンナキだって迫ってるからこそ皆で一つになって戦いましょう!」
決意を新たに装者たちは歩き出した。