戦姫絶唱シンフォギアDigitalize 作:ジャン=Pハブナレフ
「以上が今回の一件か、弦。」
「ああ、アダムとの戦いの時に情報提供した錬金術師のリコリスが我らだけでなく複数国を襲撃した影響でアメリカ政府をはじめとした各国が国際指名手配したと聞いたが…」
弦十郎は八紘と対話していた。すでに各国にもリコリスの暴挙は明らかにされていた。
「特にアメリカ政府は反応兵器の一件で信用を失っている。取り戻すのは今が好機なのだろう。」
起動実験から数日、響たちは傷を癒し、完治していた。その間にもリコリスは執拗にアメリカ政府やEUなどの研究施設を襲っては聖遺物やデジメモリを強奪していた。デジモン達もボルトバウタモンに完敗してしまったため現在治療中であった。
「悔しい…何かを守ろうと戦ってるのに…」
「あいつはそれを足枷って言ったデス。」
「私たちをあの男は否定してるんでしょうけど、屈するわけにはいかないわね。」
「しかしどうする?ただでさえ厄介なやつだったぞ、あのボルトバウタモン…」
「やっぱり、切り札はアレしかない。エクスドライブモードや超究極体がない今、残ったのはハイパースピリットレボリューションしかないですよ。」
拓実が重い空気に耐えかねたのか立ち上がって主張した。
「けれど、あれは5人で初めてなんとかするものなのよ!?簡単にどうにかするなんて無理よ!」
マリアが反論してきたが拓実はそっとうなづいた。
「分かってます、だから特訓するんですよ。ハイパースピリットレボリューションを単独で使いこなせるようにする。それしか方法はない!」
「私も水琴の意見に賛成だ。アダムの時のようにエクスドライブモードは簡単には引き出せない。それにイグナイトモジュールを失った私たちには最早一刻の猶予もない。」
翼も拓実の意見に感心していると響が立ち上がった。
「それじゃあ、早速師匠を…「ちょっと待った!」」
駆け出そうとする響を拓実が止めた。
「それもいいが、今回ばかりは流石に俺たちだけでやらないか?」
「なんでですか?」
「みんな、あいつに好き勝手言われて悔しいだろう?だったら俺たち自身で考えて技を磨くことであいつに一泡吹かせられる上に借りを倍にして返せるってもんだよ。」
「そうね、あの男の言いようや戦い方に敗れた以上、私たちも自分たちの力で勝つしかないわ。あの男にどれだけ否定されようとこの力を与えた人間が肯定されてるんならやるしかない。」
「分かりました。でもどうやってトレーニングをするんですか?」
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全員トレーニングルームに入ると拓実はさっそくホワイトボードを用意した。
「まず、ハイパースピリットレボリューションとはなんだったかな、爽谷。」
拓実が爽谷を指名するとうなづいて自分のスピリットをデジヴァイスから取り出した。
「うん、スピリットの属性で5つずつで作るハイブリット体デジモンだよね。」
「確かあの時は全員スピリットを一人一人使った上の合体だったな。」
「その通りだクリス。となると、まずするべきことは俺と爽谷が5属性を単独でかつ、いっぺんに扱うためのエネルギー制御の特訓を行う。みんなは俺たちと特訓する中で新しい技を身につける。だいたいこんなイメージだな。」
「新しい技?」
全員首をかしげると拓実はホワイトボードに新たなイメージと書いた。
「例えば、立花さんの場合はパンチ技が多いが今回の特訓では蹴り技に焦点を当ててみたりするんだ。今までは腕を動かしたけどこれから足も使うんだ。
一つに特化しては穴があり敵に突かれるからこそ、予想外の変化球で挑むのさ。」
「なるほど…」
「よし、じゃあ早速やろう!奴がいつ攻めてくるか分からないなら猶予はないんだ。司令を待って何かよりも今自分たちでやるんだ。」
(とはいえ、個人的には司令の特訓は確かに短時間でやれることだけれども解決するのは大きな課題のみ。俺の場合は小さな課題もセットで攻略だ!)
「では私と立花と雪音は冷泉を、マリアたちは水琴とだな。」
「デジモン達はどうするですか?」
調が挙手すると拓実は治療室の方向を向いた。
「あいつらは今は休ませておくんだ。大事なのは俺たち自身でなんとかすることなんだ。あいつらならきっと生まれ変わった俺たちと一緒に戦えるさ。」
「行くぞ冷泉!」
「はい!ダブルスピリットレボリューション!!」
「こちらも問題ないわよ!」
「ダブルスピリットレボリューション!!」
爽谷と拓実はまずアルダモンとベオウルフモンに変化した。
「2属性目、行きます!」
「「ダブルスピリットレボリューション!」」
2人がさらに土と水でもダブルスピリットレボリューションに成功した。
「よし、こっから動くぞ!頼みます!!」
「行くデス!」
2段階目において拓実と爽谷は装者たちと実戦形式でトレーニングを積んでいた。その中で響は蹴り技、翼はアームドギアではなく脚部パーツでの格闘技、クリスはハンドガンの近距離戦で爽谷と技を磨いていた。
一方の拓実は、自分の特訓をしながらマリアも遠近両用攻撃を切歌と調は新しい合体技の特訓に励んでいた。
「でええええええ!!!」
しかし流石に装者相手で一度に2属性も2人は制御できずに息を切らしていた。
「流石に2つでも厳しいか。一旦休憩だ。」
全員休憩をとりながら水分を補給したり、ストレッチなどをしていた。
「拓実さんの言ってた通り、私って殴るだけがメインだった。蹴り技をもっと特訓しないと。」
「あ、一応休憩中は外出してていいからな。なにか参考になるものがあったら自分たちで積極的に共有するんだ。俺も、さっきの訓練で少し知り合いから参考になりそうなのを思いついたんで持ってくるぜ。」
拓実も疲れながら一旦トレーニングルームを出た。それから1時間の間、装者たちはなれない戦闘法に苦戦していた。
「みんな、待たせたな。これだ!」
「遅えぞ!爽谷のやつはもう3属性をコントロールしてるぞ!!」
クリスが呆れながら拓実の肩に手をポンと置いた。
「マジかよ!?いや、ともかく蹴り技のいい資料が見つかったんだ!」
拓実が持ってきたビデオを全員の前で再生した。するとそこでは男女達が軽い音楽に合わせて踊っていた。
「水琴、なんだこれは?」
「足技に繋がるのはズバリ、ブレイクダンスですよ!装者は歌と言う名のリズムに乗せて戦う。そしてこのブレイクダンスで技にさらなる技巧を取り入れるんですよ!!」
「アクション映画じゃないんですか〜!?」
響はアクション映画が好きらしくそう言ったものを見られると期待してたのか落胆していた。
「とにかく、歌いながら戦うんなら同時に歌のリズムに乗せて身体を動かすことだって出来ないわけじゃないんだよ。さてと、爽谷!お前、ダンス得意だったろ?少し全員で練習するか!」
「うん!」
拓実が爽谷にカセットテープを渡した。
「俺も、リズム感を鍛えて今に追いついてやる!」
それからの間全員ブレイクダンスの練習をしており、全員帰宅した。その中でマリアや調はスムーズに進み、響や切歌もそこそこのペースだったが、クリスと翼は一番苦戦していた。
「ああ、なんで上手くいかねえんだ!?」
「くっ、なかなかどうして!」
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夜になって解散した響は疲労困憊だった。
「未来ただいま。」
「響?結構疲れてるけど大丈夫?ご飯もできてるしお風呂もできてるよ?」
「ありがとう…今日、拓実さんたちとブレイクダンスしてたんだ〜」
「ブレイクダンス!?」
未来があっと驚きながら響の衣服をたたんでいた。
「うん、それがかくかくしかじか…」
響は拓実達と特訓したことを話した。
「そうなんだ、シンフォギアは歌いながら戦うんならリズム感を武器に…すごい発想だね。」
「でも師匠流のトレーニングがしたかったの〜!」
「響は弦十郎さんのトレーニングが一番かもしれないけどあんまり無茶しちゃダメだからね。」
「うん…そうだね。ありがとう。」
響は笑いながら風呂に入っていった。それから少しして夕食を食べて勉強して眠った。
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ここはとある海岸の洞窟、普段は波が入り口から入ってくるため人があまり立ち入ることのできない所であった。そこにリコリスはいた。リコリスの手にはデジメモリが握られていた。そして地図のようなものも広げ、何かを企てていた。あたりには魚の骨らしきものが落ちていた。
「まずは2つ…見ているか、サンジェルマン。」
リコリスは懐からサンジェルマンの髪の束を取り出した。
「お前のしたことは誰かのためだろう。けど、こんな世界は最初から力でどうにかするべきだとわかったんだ。俺のやり方を許容してくれるか?」
髪の毛に向かってリコリスは1人語りかけていた。すると突然髪の束に耳をすませた。
「なに?それは支配者と変わりない?バカを言うなよ。俺はそこまではしない。せいぜいお前の嫌う奴らを皆殺しにして国や組織を破壊した上で人は恐怖で一つになる。俺はアダムみたいな真似はしないから見ていてくれよ。誰よりも美しい、サンジェルマンよ…」
洞窟ではリコリスの一人芝居が続き、デジヴァイスは黒く光っていた。そして含む笑いだけが不気味に木霊していた。