戦姫絶唱シンフォギアDigitalize 作:ジャン=Pハブナレフ
「マリア、なぜ翼を止めたんだ?」
「翼にとってあの子は大きすぎる。今翼といる私が彼女と話すわ。アグモンは何もしなくていいわ。」
マリアが奏の後ろ姿を見つけた。
「待ちなさい。」
「なんだ、お前か…お前もあいつ同様あたしの何を知ってんだ?」
奏がため息混じりに振り返った。
「私はあなたの名前しか知らないわ。あなた…もう一つの自分が重圧にでもなってるの?」
「関係ないね。ほっといてくれよ。」
奏がその場を去ったがマリアはそれについて行った。そして町外れの森に2人は入っていた。
「奏、気づいてるみたいだね。」
「ったくこんなとこまで付いてくるかねえ…」
奏は目をつぶったまま立ち尽くしていた。マリアは無言で奏の後ろに立っていた。
「お前の言う通りだ。あたしはもう1人のあたしを知らない。どうやって翼と関わって来たのかや共に歌ってどんな思い出を作ってたのか…まるで分かりゃしない。」
奏が瞼を開いた。
「だからなのかな、怖いのさ。あたしの中の翼はあの時死んだ。けどこうやって無事な翼を見ちまうと自分の中の翼を見失っちまうのが怖くてな。」
奏は空を眺めていた。マリアはそれを見て今の翼は世界に歌を届けていることを奏に伝えた。
「翼が?」
そしてマリア自身も翼と共に世界を舞台に共に歌ったことも語った。
「あなたは歌わないの?私にとって翼と歌うステージは楽しいしもう一度歌いたいって何度も思ったわ。けれど、あなたはどうなの?
自分の翼は自分の知る翼、翼にとってのあなたは翼の知るあなた___その事実は変わらないわ。翼が歌を捨てないと言うのならそれは翼、そう受け入れればいい。どうなの?歌いたくないの?」
「歌いたいに…歌いたいに決まってんだろ!?けど、あの日あたしは翼を失いあたしの歌は復讐の歌になっちまったんだ!今更どうなるんだよ…」
その時、ノイズが発生し2人は現地に向かった。
現地に到着した装者たちの目の前にカルマノイズが現れた。
「あいつは…!」
奏がアームドギアを強く握りしめた。
(そもそもあいつさえいなけりゃ翼は死なずに済んだんだ!あいつさえ…いなければ…!)
「奏?」
「奏さん?」
「あいつはあたしがやる!手を出すんじゃねえぞ」
「落ち着くんだ奏!おい…」
奏はデジヴァイスの電源を切った。
奏は走り出してカルマノイズを攻撃した。
「奏!?待って…!邪魔をするなあああああ!!!」
「援護するわよ!全く無茶をして!」
「は、はい!」
ノイズの大群を蹴散らしていく中で翼たちは奏が怒りのままにアームドギアを振りかざしカルマノイズを牽制したがそれでもカルマノイズの再生能力には追いつかず徐々に追い込まれて来ていた。そしてノイズが一体奏に迫っていた。
「危ない奏!」
翼が攻撃から奏を庇った。
「何考えてんだよ馬鹿野郎!」
「二度も奏を失いたくはなかったから…べえ、奏。一緒に戦おう?」
「ああ、分かったよ!そこで休んでろ!」
「そう言うわけにはいかない…休むのは奴を倒してからだ!」
「翼さん大丈夫ですか?」
「問題ない!」
「思いの外やるわね。だったら…!」
「うむ、頼んだぞ立花!」
「はい!」
「Gatrandis babel ziggurat edenal
Emustolronzen fine el baral zizzl
Gatrandis babel ziggurat edenal
Emustolronzen fine el zizzl 」
3人は手を繋いでS2CAトライバーストの体制に入り、そのエネルギーでカルマノイズを木っ端みじんに消しとばした。
「なんなんだよ。絶唱3人分の力をエネルギーに変えたのかよ…」
奏が目を丸くして響たちを見つめた。
「やった…な…」
翼がその場に倒れてしまった。
「翼さん!?翼さん!」
「しっかりするんだ翼!翼!」
「戦いの疲労によるものと絶唱の負荷ね。」
装者たちは了子から今の翼の状況を伝えられた。
「なあ、翼に会わせてくれよ!」
「無理言わないでくださいよ!マジの病人状態の翼さんに会わせられる訳ないじゃないですか!」
「なんだと!?」
拓実が奏を止めようとしたが、奏に胸ぐらを掴まれた。
「いえ、ですから!必ず助けますんで任せてくださいよ…!」
「そうよ。だから、ここは任せてちょうだい。」
了子と拓実が翼の治療に向かった。
「あんなノイズさえいなければ…!ちきしょう!」
「…」
コテモンも奏同様に暗い顔を浮かべていた。
「ノイズを全部倒そうなんて考えてないわよね?はっきり言うわ。それは無理…」
「この世界にはノイズを操るソロモンの杖は見つかってすらいないしバビロニアの宝物庫だって閉じてはいない。変な気を起こさないほうがいいわよ。」
「くっ、私1人でも歌ってればよかったんだよ…」
「奏さん!生きるのを諦めないでください!奏さんが歌っても誰かが悲しい思いをするんです!自分を責めないでください!」
響が奏の手を取った。
「ああ、すまなかった。」
手を払った奏はその場から去っていった。
奏は1人自分の部屋で思い悩んでいた。
(あたしはバカだ。翼は翼だってことにさえ分からなかった。失うのが怖かった…受け入れるのが怖かった…どうしたら翼と同じようになれるんだ?どうしたら歌えるんだ?)
「どうしたら…いいのさ…」
「奏…俺はもともと翼のコテモンだった。奏と一緒に戦ってきてもう一人の翼が出てきて戸惑うのもわかる。けど、やっぱり奏は翼にとっての憧れだったんだ。」
「あたしが?」
「ああ、よく奏の前では翼はもっと強くなりたいって言ってた。だから、もう奏は悩まなくてもいいんじゃないか?生きることを諦めないでくれ。奏の命は翼の命が加わって大きくなってるんだ。」
「随分と思い悩んでるのね。」
するとマリアが後ろに立っていた。
「お前…」
「たまさか通りかかっただけ。あなたが悩むのもわかる。私も一度自分を見失いかけて大事なことを忘れたことがあった。あなたも何か大事なことを忘れてるんじゃない?」
「大事な…こと?」
「胸の歌を失わない限りあなたはあなたよ。だからそれほど思い悩む必要なんかないんじゃない?一緒に居たいんなら正直になりなさい。だから、翼を見なさい。私から言えるのはそれだけだわ。」
マリアは歩き去って行った。
「翼を見る…」