東方黒龍記 ~守りたい者達~   作:黄昏の月人

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その青年は少年に何を見るのだろうか。
少年の持つ、もう一つの力とは。


第9話 道具屋ともう一つの瞳

ルーミアと別れた後には特に何も起こることなく、僕たちは香霖堂にたどり着いた。

中に入ってみると、白い髪に眼鏡をかけている男の人が魔理沙と話していた。

「お、やっと来たか!こいつが今話していた外来人だぜ」

「ほう、君が」

その人が僕の方に目を向けて、眼鏡を人差し指で上げた。

第一印象は優し気な好青年だけど、なんか違和感を感じるな。

ん?これなら僕の能力を使えばわかるんじゃないのかな。

理には反していないはずだし・・・やっぱりできた。

なるほどね。

ということはこの人、見た目どおりの年齢じゃないかもしれないな。

「初めまして、僕は森近 霖之助。

 この香霖堂の店主だよ」

「初めまして、僕は龍導院 静也です。

 よろしくお願いします、霖之助さん」

「それで、今日は静也君の服を作りに来たんだよね?魔理沙から聞いてるよ。

 どんな服がお望みかな?今着ているようなものかな?」

「確かに今着ている制服の方が動きやすくはありますが、和服でも大丈夫です。

 着慣れているので」

「分かった。それならすぐに用意できるだろう。

 商品でも見ながら待っていてくれ」

「お願いします」

霖之助さんはそう言って店の奥に入っていった。

あれ?僕自分の服のサイズ言ってないけど、目測で測ったのかな?

「う~ん、やっぱり半妖だと目がいいのかな?」

「え?なんで香霖が半妖だって知ってるんだ?」

僕がもらしたつぶやきに、魔理沙が聞き返してきた。

まぁ、驚くよね。

僕が霖之助さんと会ったのはついさっきなんだから。

「霖之助さんを一目見た時から何となく違和感はあったんだけど、確証はなかった。

 だからその先は能力を使って知ったんだよ」

「でも、静也の能力は理に反したことはできないんじゃなかったのか?」

「そうだけど、僕がしたことは決して理に反してはいないんだよ。

 勘のいい人や心理学に精通している人、といって理解してもらえるかはわからないけど、

 そういう人たちなら一目見ただけで相手の事を理解することができる。

 僕がやったのはそれと同じだよ」

「ふーん。つまり霊夢みたいなもんか。

 あいつの勘はよく当たるからな」

霊夢の感はよく当たる・・・か。

巫女って勘が鋭そうなイメージがあったけど、あながち間違いじゃなかったのかも。

「それにしても、ずいぶん幻想郷(ここ)になれるのが早いわね。

 さっきのルーミアの時もそうだけど、普通外来人が妖怪にあったら怖がるんだけど」

「まぁ、物の怪の類には慣れてるからね。

 二人は陰陽師って知ってるかな?」

「陰陽師?確か、外の世界の退治屋みたいなものだったかしら」

「正解。呪い(まじない)や式を操り、

 悪霊や物の怪から町と人を守るのが陰陽師の仕事。

 僕の家、龍導院家は元をたどるとその陰陽師の家系なんだ」

「じゃあ、静也も陰陽師なのか?」

「残念だけど、僕は不思議な術も使えなければ、式神も持っていない。

 長い時間の中で、陰陽師としての力は失われていったんだ。

 でも、〝霊視゛の力だけはまだ受け継がれている。

 だから僕には本来見えないものが"視える"。

 それで国の偉い人たちから、秘密裏にそういった仕事も受けていたんだよ」

「なるほどね。静也の霊力が馬鹿みたいに大きいから不思議に思ってたけど、それが理由ね」

「すげぇな静也。でもなんで霊力だけ多いんだろうな?」

「霊力は血によるものが多いからだよ、魔理沙」

僕が答えに困ってると、戻ってきた霖之助さんが答えてくれた。

ていうか、僕って霊力が多かったんだね。初めて知ったよ。

「血・・・遺伝によるものが大きいということですか?」

「それがすべてというわけじゃないけど、とても大きな要因だよ。

 静也君の先祖が陰陽師なら、当然霊力も多いさ。

 それと服ができたよ。

 合わなかったらいつでも言ってくれ、交換するから」

「ありがとうございます。おいくらですか?」

「70文だよ」

僕は鞄から財布を取り出して霖之助さんに支払った。

昨日鞄を整理していたら、

いつの間にか財布の中身がこちらのお金に代わっていることに気が付いた。

たぶん、紫さんが換金してくれたんだろう。

総額で10慣文入っていた。

本当に、紫さんにはずいぶんとお世話になった。

今度何かお礼をしないと。

「うん、確かに頂いたよ。今後とも香霖堂をごひいきに」

「さて、静也の服もできたし、早く帰りましょう」

「霊夢、僕はもう少しここにいてもいいかな?」

「いいわよ。帰り道は分かる?」

「大丈夫、覚えてるよ。もし分からなくなったら、能力を使うし」

「分かったわ。でもなるべく夕飯前には帰ってきてね」

「うん」

「じゃあな静也、また今度弾幕ごっこしようぜ」

魔理沙の言葉を最後に、二人は香霖堂を後にした。

「ずいぶんと二人に慕われているんだね」

「そうですか?」

「あぁ。君の話をしていた時の魔理沙も、ここに来てからの霊夢の表情も、

 僕は久々に見るものばかりだったよ」

「たぶん二人とも、外来人が珍しいだけですよ」

「それだけではないと思うけどね」

「霖之助さん、何か言いましたか?」

「いや、何も言ってないよ。もう少し商品を見ていくんだろ?

 好きなように見てくれ。

 静也君になら、奥の非売品を見せてもいい」

「ありがとうございます」

霖之助さんに頭を下げて、早速物色を始める。

非売品にも興味があるけど、あまり霊夢を待たせるのも悪いからそれはまた今度にしよう。

それにしても、外界の商品が多いな。

パッと見ただけでも掃除機に冷蔵庫、テレビやパソコンまである。

幻想郷に電気が通ってないのが残念だ。

次に棚の商品を見ていて、真ん中の棚で僕の目が止まった。

近づいて手に取ってみると、正確には違うけど"それ"は僕が慣れ親しんだものとそっくりだ。

どうして、これがここに!?

「それが気に入ったのかい?」

「はい。これ、おいくらですか?」

これがあれば、僕の本当の龍導流が使える。

「壊れているけどいいのかい?」

「構いません。このぐらいなら、僕の能力で治せるので」

「そうだね、壊れてはいるけど珍しいものだから、100慣文といったところかな」

「100慣文・・・」

所持金の10倍、とてもじゃないけど払いきれない。

誰かに借りるか?

霊夢は無理だな、あの生活水準を見る限り。

魔理沙もあまりお金を持っているようには見えないし。

真は僕と同じ理由で無理。

今日会ったばかりの妖夢に頼むのは気が引けるし、

紫さんは頼めば貸してくれるかもしれないけど、これ以上迷惑をかけるわけにはいかない。

自分で稼ぐしかないか。

人里に言って仕事を探そう。

だとしたら結構時間がかかるだろうから、他の人が買ってしまったらどうしよう。

霖之助さんにお願いして・・・

「ツケでも構わないよ」

「え?」

「ツケでも構わない。それを持って帰って、

 代金は払える時に払ってくれればそれでいい」

「ありがとうございます、霖之助さん!

 代金は必ずお支払いします」

「焦らなくていいよ」

霖之助さんに深く頭を下げた後、香霖堂を出て帰路を全力で走る。

早く、これを直さないと!!

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「龍導院 静也君、か」

彼が出ていった扉を見つめたまま、僕はつぶやいた。

不思議な少年だった。

魔理沙があまりにも楽しそうに語るものだから、

どんな人物なのか気になっていたけど、一目見て驚いた。

彼が霊夢に負けず劣らずの莫大な霊力を持っていたからだ。

さらには武にも秀でているようだ。

それなりの時を生きてきた僕だから、相手の動作で何となくの力量は測れる。

腰に刀を差していたから、外の世界では剣士だったのだろう。

弾幕ごっこも強くなるかもしれない。

彼は先祖が陰陽師だと言っていた。

弾幕は厳密には違えども、陰陽術のそれと似通ったところは多い。

代を重ねるうちに術は失われていったらしいが、

血に刻まれた記憶は刺激を受けると目覚めることが多い。

それに観察眼にも優れていた。

僕を一目で半妖だと見抜いていたからね。

それなのに、彼からは嫌みのようなものを何一つ感じなかった。

久しく見ることのなかったほどの好青年だ。

魔理沙と霊夢の表情からもそれはうかがえた。

僕はそれを何よりもれしく思った。

魔理沙も霊夢も、もう年頃の少女だ。

異性に惹かれやすい時期であり、それが当然のことだ。

しかし二人は異変解決者。

人里に言っても二人に声をかけるものなどそうそうはいない。

そんなときに彼が現れた。

年も近く、実力も期待できる彼が。

二人はいずれ静也君に惹かれるかもしれない。

脈はあるようだしね。

僕でさえ惹かれたのだから、その可能性は十分にある。

それは二人にとっていい経験になるだろう。

それがたとえ失恋であったとしてもね。

「君がこの幻想郷に与える影響、楽しみにしているよ」

さて、考えるのはこのぐらいにして、店の整理をしようか。

次に彼が来た時に、もっと楽しんでもらえるように。

 




明かされた静也のもう一つの力と可能性。
彼はその力を開花させることができるのだろうか?
次回を乞うご期待。
PS
霖之助の言っていた惹かれるとは人として、という意味であって、
決してBL的なものではないのであしからず。

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