少年は誓う、必ず友を救うと。
そして少女たちは出会う、守龍に。
「う・・ん・・」
私は窓から差し込む日の光で目を覚ました。
まだ眠気の残る目をこすりながら、寝間着からいつもの巫女服に着替える。
居間に向かう途中に台所をのぞいてみると、すでに静也がいていいにおいが漂っていた。
「おはよう、霊夢」
「ん。おはよう、静也」
「もうすぐできるから、居間で待ってて」
「わかった」
昨日静也の料理を食べた私は驚いた。
食べたことのない味付けだってのもあるけど、人里の料理人でもあそこまでおいしいものは作れないと思う。
それでこれからは、料理は基本静也が作ることになった。
ちなみに弾幕ごっこに勝った魔理沙は静也の鞄からぺっとぼとる、だったかしら?それを持って行った。
「相変わらず起きるのが遅いぜ、霊夢」
「なんであんたがここにいるわけ、魔理沙?」
「朝飯を食いにきまってるだろ」
「お茶だけでなく、とうとうごはんまでたかりに来たの?」
「いやー、あれを一度食べちゃうとな。分かるだろ?」
「まぁ、分からなくはないけど」
なんか、釈然としないわね。
そんなことを思いつつも、私は魔理沙の横に腰を下ろした。
「おまたせ、二人とも」
そう言って静也が持ってきたのは卵焼きとみそ汁とごはん。
なんか普通ね。昨日みたいに見たことのない料理を作ってくれるのかと思ってた。
「いただきます」
「「いただきます」」
卵焼きを一口つかんで口に入れると、味が口いっぱいに広がった。
「おいしい。昨日も思ったんだけど、静也って外の世界では料理人だったんじゃないの?そうじゃないと、こんなおいしい料理が作れるなんて考えられないもの」
「分からない。けど、そうじゃない気がするんだ。レシピは自然と頭に浮かんでくるけど、なんていうのかな。たくさんの人じゃなくて、少ないけど大切な人たちに作ってた気がするんだ」
そう言う静也の横顔は寂しそうだった。
「そう、思い出せるといいわね」
「うん、ありがとう」
「でも本当にうまいよな、静也の料理」
いつもは一人で食べていたご飯。
でも、今日は静也と魔理沙がいる。
私と魔理沙が言い合いをして、それを静也が苦笑いしながらなだめる。
そんなことを繰り返しているうちに食べ終わった。
最初はまた紫に面倒なことを押し付けられたと思ったけど、今は違う。
「静也、洗い物が終わったら出かけるわよ」
「いいけど、どこに行くの?」
「服を買いに行くのよ。着替えがないと困るでしょ」
静也の鞄にはいろいろなものが入ってたけど、着替えはなかった。
「でもどこに行くんだ?人里の呉服屋じゃ静也の服は作れないぜ」
「香霖堂よ。霖之助さんなら、静也の服も作れるでしょ」
「あぁ、香霖か!確かにあいつなら作れそうだな。よし、それならさっさと行こうぜ」
それからすぐに静也も台所から出てきて、いざ出発となったときに、静也が呼び止めた。
「待って霊夢、誰か近づいてきてるよ」
静也の指さす方を見ると、確かに二人の人影が近づいてきていた。
「あら、参拝客かしら」
「この神社に参拝客が来るわけないぜ。あれは・・・妖夢だな。半霊がいるから間違いないぜ。けどもう一人は誰だ、幽々子じゃないよな?」
「そうね。ていうかあれ男じゃない?このあたりに飛ぶことができる男なんていたかしら?」
私たちが見ていると、向こうもこちらに気づいたようで、男がスピードを上げた。
その目は一点、静也だけを見ている気がする。
その男は私たちの前に降り立つと、静也に駆け寄った。
「静也!やっと見つけた、心配したんだぞ」
静也の事を知ってるってことは、こいつが紫が連れてくるって言ってた静也と関係が深い人物かしら?
「ごめん。僕は君がだれなのか思い出せないんだ」
「そっか、記憶喪失になってるんだったな。じっとしてろ、今思い出させてやる」
そう言って男は静也の頭に手を置いた。
その瞬間、静也が頭を抱えて呻き始めた。
「ぐぁぁぁ!!」
「静也!?あんた、静也に何をしたの!?」
「落ち着け。俺の能力で、静也は今、自分の記憶を追体験してるんだ。俺目線でだけどな。要は記憶を無理やり思い出させているから、その分の痛みが静也にフィードバックしてるんだ」
「記憶の追体験?それがあんたの能力?」
「そう。俺の能力は"感覚を操る程度の能力"だ。記憶も感覚器官の一部だからな」
「お前といい静也といい、外来人は妙な能力が多いぜ」
「あぁ~痛かった」
「静也、大丈夫なの?」
「うん、まだ少し痛むけど大丈夫だよ。それと、思い出したよ」
静也は男のもとへと行くと右腕を振り上げた。
それを見た男も同じように右手を上げて、喧嘩でも始まるのかと思ったら、二人はハイタッチをした。
「ありがとう真。おかげで大切なことを思い出せたよ」
「へ、親友が困ってるってのに助けるのは当たり前の事だろ?それがたとえ異世界だとしてもな」
「はは。真らしいね」
「まぁな」
「魔理沙、霊夢、紹介するね。こちら僕の親友の篠宮 真」
「よろしくな」
「真、こちら普通の魔法使いの霧雨 魔理沙」
「よろしくだぜ」
「で、こっちが自称楽園の素敵な巫女。博麗 霊夢」
「ちょっと静也、自称って何よ」
「でも、間違ってないでしょ?」
「それは、そうだけど」
「ところで真、そっちの女の子を紹介してくれない?」
そう言って静也は今まで一歩後ろにいた妖夢に目を向けた。
「こいつは魂魄 妖夢。冥界の白玉楼ってところの庭師兼剣術指南役だ」
「魂魄 妖夢です。よろしくお願いします」
「龍導院 静也だよ。真を連れてきてくれてありがとう」
「いえ、先に迷惑をかけたのはこちらですから、これくらいは」
「そう、それでももう一度だけ言わせて。ありがとう。ところで真、幻想郷にはどうやって?やっぱり紫さんに連れてこられたの?」
「そうなんだよ。紫の奴がさぁ・・・・・・」
そのまま静也は真と今までの事を話し始めた。
そんな静也の表情は、今まで見たことがないほどの笑顔だった。
「なぁ霊夢、静也の奴なんか雰囲気変わってないか?」
「そうね、きっとこっちが本当の静也なのよ。今までの静也はいわば中身のない器のようなもの。
その器に、今ようやく中身が入ったんだから」
「そうだな。ま、私はこっちの静也の方が好きだぜ」
「ねぇ真、その背中にからっているのってもしかして」
「おっとあぶねぇ、忘れるところだった。
ほらよ、お前にはこれが必要だろ?この幻想郷に来たのならなおさらな」
私が目線を戻すと、静也が真から布に包まれたものを受けっとているところだった。
静也が布のひもを解くと、中から二振りの刀が出てきた。
鞘にそれぞれ龍が描かれている白と黒の刀だ。
「わざわざ持ってきてくれたんだ、ありがとう」
「なんだ、静也は剣士なのか?」
「そうだよ。僕の流派は龍導流といって、要人警護といった誰かを守るための流派なんだ。
だから必然的に一体多数の戦闘が得意だし、すべての武具を使いこなす。
その中でも、僕はとりわけこれが得意でね」
なるほどね。昨日の静也の動きから素人ではないとは思ってたけど、まさか武家の出身だったとはね。
「名前は鞘を見ればわ来ると思うけど、白い方が『白竜』黒い方が『黒龍』。
僕が龍導流の後継者として認めてもらったときに、父さんから貰ったんだ」
静也の口調から、本当に大切にしてることが伝わってきた。
「あの、静也さん」
「どうしたの、妖夢?」
「私と、剣の立ち合いをしてくれませんか?」
「立ち合いを僕と?」
「はい。ご存知の通り、この幻想郷では弾幕ごっこが基本のルールです。
だから近接武器を使う人がほとんどいなくて、あまり実戦形式の練習をしたことがないんです。
ですので、お願いします」
そう言われた静也の目が、一瞬鋭く光ったのを、私は見逃さなかった。
「いいよ、そのくらいなら。でも明日でいいかな?今日は先約があるんだ」
そう言って静也は私の方に目を向ける。
その視線を追って、妖夢も納得した。
「そういうことでしたら、分かりました。
では明日、白玉楼でお待ちしております」
静也が妖夢との約束よりも私の約束を優先させてくれたことに、少しだけ嬉しくなっていた。
ついに記憶を取り戻した静也。
ここから本当の物語が始まる。
それではまた次回を乞うご期待。