東方黒龍記 ~守りたい者達~   作:黄昏の月人

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少年は幻想へと誘われ、そこで出会う。
白髪の小柄な少女に。


第6話 白髪の剣士

スキマに入った俺はわずかな浮遊感の後、一瞬視界が真っ白に染まった。

視界が開けたとき、俺は長い階段の麓に立っていた。

ふぅ、どこに出るかわからないって言うと空中に放り出されるのがお約束だから心配していたが、それは回避できたようだ。

「さて、紫が来るまでのんびりと待つとしますか」

俺は端に移動してから腰を下ろした。

幸い階段の両脇には桜が咲いていて、退屈することはない。

待ってろよ静也、もうすぐだ。

その時、階段の上の方から足音がした。

そっちに目を向けてみると、そこには一人の女の子が立っていた。

肩のあたりに切りそろえられた白髪に黒いリボンをつけ、腰に二本の刀を差している。

そして何より目を引くのは、その子の周りをふわふわと漂っている白いものだ。

あれはなんだ?人魂か?

俺は初めて会った幻想郷の住人に挨拶をしようと立ち上がった。

その時に外していた目線を戻すと、いつの間にか女の子が目の前に来ていた。

 

刀振りかぶった状態で(・・・・・・・・・・)

「くっ!?」

突然のことに驚いたが、考えるよりも先に体が動き、体を横に投げ出す。

俺という対象を失った刀はそのまま地面に激突し、石畳に数十センチ程度の切り込みを入れた。

嘘だろ!?刀で石に切れ込み入れいるとかどんだけ腕力強いんだよ!

それともなんだ、あの刀実は神器クラスの化け物だとでもいうのか!?

「あぶねぇな!いきなりなにしやがる!」

「侵入者はすべて切り捨てます!」

そう言った女の子は再度刀を構えてこちらに突っ込んできた。

侵入者ってことは、ここは誰かの敷地か?

道にしてはずいぶんときれいだとは思っていたが、そういうことか。

確かによそ者に勝手に入られたら怒るだろうさ。

けど、いきなり切りかかってくるか普通!

そんなことを考えている間も、女の子は鋭い斬撃を放ってくる。

この子がひたむきに刀に打ち込んできたことが十分に分かる鋭い斬撃だ。

「待て!話を聞いてくれ!俺は侵入者じゃない、ここに落とされたんだ!」

「問答無用!」

聞く気がねぇ!

平和じゃないとは言っていたが、ここまで物騒だとは聞いてねぇぞ!

「はぁ!!」

「くっ!!」

とうとう女の子の刀が俺の服をかすった。

それに勢いづいて、女の子はさらに深く踏み込んでくる。

どうする?これを使うか?

一瞬背中にからっているものを思い浮かべるが、すぐに打ち消す。

いや、こいつは静也のだ。万が一にも折っちゃいけねぇ。

刀が今度は頭の近くをかすり、前髪が数本切れて宙を舞った。

女の子に手を出すのは気が引けるが、仕方ない。

俺は一度大きく飛んで距離を開ける。

女の子はそれに反応して刀を振り下ろしながら追撃してくる。

さっきまでとは違い、冷静にその軌道を読み、わざとぎりぎりで避ける。

刀を躱された女の子が刀を戻そうとするが、その前にその手首をつかむ。

女の子の表情が一瞬驚愕に染まる。

「篠宮流槍術無手の型、崩岩撃衝!!」

つかんでいた手首を戻そうとしていたのとは反対方向にひねると同時に、もう片方の手で横から腕を殴打する。

同時に三方向から力を加えられた腕が耐えられるはずもなく、刀を手放した。

それをつかむと後ろに下がり、正眼に構える。

「私の楼観剣が!?」

「悪いとは思うが、こうでもしないと話を聞いてくれそうになかったんでね」

持ってみて分かったが、この刀見た目の割に重い。

これをぶれることなくふるっていたあの子はなかなかの実力者だろう。

それにこの刀からは何か不思議な力を感じる。

神器までとはいかないが、十分に妖刀や魔剣の類だろう。

まぁ、神器がそうそう見つかるわけがないんだから、当然と言えば当然なんだがな。

「どうする?話を聞いてくれるって言うんなら、こいつは降ろすし返す。はなから戦うつもりなんてないからな」

「許さない、私の楼観剣を!」

俺としては、一度冷静になってもらいたかったんだが、どうやら逆効果になったみたいだ

女の子はもう一本の刀を抜き、懐から一枚の紙のようなものを取り出した。

まさか、あれが紫の言っていたスペルカードってやつか!?

まずい、俺はまだ一枚も持ってねぇぞ!

「スペルカード、『断命剣』!!」

女の子がスペルを宣言すると同時に、手にしていた刀が白く輝き、刀身が倍以上に伸びた。

「おいおい、嘘だろ?」

「はぁぁぁぁ!!」

叫び声とともに刀を振り下ろしてくる。

さすがにこの長さじゃ避けきれないと思い、とっさに刀でガードしようとする。

だが直感で分かる。あれはそんなことで防げるようなものではない。

どうする、どうする俺!?

自問自答していても答えなどでず、俺は思わず目をつぶった。

「そこまで!!」

その場に響いた第三者の声に目を開けてみると、刀は俺に当たる寸前で止まっていた。

もしあと一瞬でも遅かったのなら、俺の首は今頃体とさよならをしていたことだろう。

「なぜ止めるのですか幽々子様、侵入者ですよ!」

女の子が叫ぶ方に目を向けると、そこには一人の女の人がいた。

短い桃色の髪に青い服を着た女の人だ。

その人は女の子の言葉には答えず、俺の前までやってきた。

「あなたが篠宮 真ね?私は西行寺 幽々子。この白玉楼の主をしているわ。あなたの事は紫から聞いたわ。ようこそ、幻想郷へ」

「ふぅ、やっと話の分かる人が出てきてくれたか。察しの通り、俺が篠宮 真だ。よろしくな、幽々子さん」

「幽々子でいいわよ」

幽々子はそう言って女の子の方を向いた。

「妖夢、この人は紫が連れてきたお客様よ」

「え、そうだったのですか!?」

「だから何度も話を聞けってゆっただろ」

「す、すみません!私ったら、また早とちりを」

「妖夢、だからあなたは半人前なのよ」

「はい、幽々子様」

女の子は俺の前まで来ると、刀を収めて頭を下げた。

「白玉楼の庭師兼剣術指南役、魂魄 妖夢です。ご迷惑をかけてしまい、申し訳ありません」

「わかってくれたんならいいさ。ほら、これは返すぜ。いい刀だな」

俺がそう言うと、妖夢はすこし嬉しそうにしながらその刀、楼観剣だったか?を受け取った。

やっぱ刀を褒められるのは、剣士として嬉しいことなんだろうな。

俺は緩んだ表情を戻して幽々子の方を見る。

「紫から聞いてっるてことは、こっちの事情も知ってるんだよな?」

「えぇ、知ってるわ」

「だったら博麗神社ってところに案内してくれ。できれば今すぐに」

「もちろんそのつもりよ。妖夢、真を博麗神社に案内してあげてちょうだい」

「わかりました。こちらです、ついてきてください」

走り出した妖夢の後を俺も同じ速さでついていく。

もう少しだ、待っててくれ静也。

「そう言えば、真さんって飛べますか?」

「なんでそんなこと聞くんだ?」

「いえ、このあと少し飛ばないといけないので」

「は?」

妖夢の言葉に嫌な予感がしたが、急いでいたあまり、足は勝手に次の一歩を踏み出した

その次の瞬間、周囲の景色が一変。

俺は地上からはるか上空にいた。

ほんの数十分前に幻想入りしたばかりの俺が飛び方など知るはずもなく、体は重力に従ってどんどんと落ちていく。

「そういうことは先に言えーー!!」

「すみませーん!!」

半分ほど落ちたところで妖夢が俺の手をつかんだ。

まさかこんな短時間に2度も命の危険を感じるとは。

俺、この幻想郷でやっていけるのかな?

 




妖夢から幻想郷の洗礼を受けた真。
真は無事に静也と再会することができるのだろうか。
次回を乞うご期待。

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