そして、また新たな1ページがつずられ始める。
「静也のやつ、どこ行っちまったんだ?」
学校からの帰り道、俺は何度目になるかわからないつぶやきをもらした。
俺の親友である龍導院 静也が、昨日家に帰らなかった。
電話はかけたし、あいつが行きそうなところも探したが、見つからなかった。
家出ともとれるかもしれないが、あいつに限ってそんなことはあり得ない。
何かに巻き込まれたんだろうが、あいつをどうこうできる奴なんてそうそういないとも思うが・・・
その時、ふと誰かに見られているような気がした。
いそいで周囲を見渡してみるが、人影も気配もない。
「気のせいか。少し考えすぎだな」
そう呟いて気を抜いた次の瞬間、足元の地面が消えた。
「・・・は?うぁぁぁぁ!?」
当然俺はその穴に落ちた。
途中で落下は止まったが、そこら中に目が合ってこちらを見ている。
「なんだここ!?気持ちわる!!」
「あなたが
・・・っ!?気配を感じなかった!?
その声に振り返ってみると、金髪で変わった服を着た女が立っていた。
だが俺はその女が普通の人間じゃないことにすぐに気が付いた。
「初めまして。私は八雲 紫よ」
物の怪の類か?
人外との戦いは静也の家の専門だ。素手で勝てるか?
「そう身構えなくても、危害を加えるつもりはないわ」
嘘くせぇな、なんか雰囲気も胡散臭いし。
「こんな変なところに落としてきたやつの言葉を信用しろと?それともなんだ、俺を納得させるようなものを持ってるのか?」
「えぇ、もちろん。私は龍導院 静也の居場所を知っているわ」
「なんだって!?本当か!?」
「彼は今、幻想郷にいるわ」
「幻想郷?どこだそこ?」
「幻想郷、それは~賢者説明中~だからあなたに来てもらいたいの。静也の記憶を呼び覚ますために」
「静也が記憶喪失に。それならすぐに行ってやらないと。けどどうして俺なんだ?俺じゃなくとも、静也の両親や愛花なら喜んで行くだろ」
龍導院
ついでに言っておくと、重度のブラコンだ。静也が行方不明になって発狂しかけてるからな。
「理由は3つ。1つ目は外の世界の常識に染まっている大人を幻想郷に連れていくことはできないの。幻想郷は忘れ去られたものが集う場所だから。
2つ目は愛花よりもあなたの方が強いから。妖怪の中には人を襲うものもいるわ。幻想郷はこの世界以上に死と隣り合わせなの」
なるほどな。愛花だって立派な龍導流の使い手。そこら辺の大人になら、楽に勝てる。
だが俺や静也よりは一歩劣る。
武術を習ってきた年数が違うのだから、当然と言えば当然だがな。
「そして3つ目はあなたの能力。これが一番大きな理由ね」
「能力?俺にも能力があるのか?」
「えぇ。あなたの能力は・・・・程度の能力よ」
「な!?それは本当か!?」
俺の言葉に、紫は静かにうなずく。
すげぇな。使いようによっては相当強力な能力だぞ。
それなら、静也の記憶を戻すこともできる。
「それで、行ってくれるかしら?」
「行く。送ってくれ」
俺は一瞬も迷わなかった。
静也が幻想郷にいて、困っているんなら助けに行くのは当然のことだ。
あいつには今まで数えきれないくらい世話になったし、あいつは小さいころからの親友だ。
あいつを見捨てるなんてありえない。
たとえそこが、異世界だったとしてもだ。
「そう、ありがとう。幻想郷に行く前によって行きたいところはあるかしら?あまり長くは待てないけど、送るわ」
「なら、静也の部屋に送ってくれ。あいつに渡さないといけないものがある」
「わかったわ。荷物を持ったらそのままスキマに入りなさい。幻想郷につなげておくわ。けれどさっきも言ったように、この力は今とても不安定。幻想郷のどこに出るかまではわからない。だから向こうについたらじっとしていてちょうだい。私が迎えに行くから」
「わかった」
俺がそう答えると、目の前に新しいスキマができた。
ゆっくりとその中に入ると、確かに静也の部屋に出た。
俺と静也は互いの部屋を何度も行き来した。
部屋のどこに何があるのかはだいたい理解してる。
俺はなるべく音をたてないようにしながらふすまを開けて、中から布に包まれている細長いものを取り出す。
もしこの場面を愛花にでも見られた行くと言ってきかないだろうからな。
何とかそれを取り出して背中にからう。
他にも何か持っていこうか迷ったが、結局他には何も持たずもう一度スキマの中に入ろうとする。
その時、静也の棚に荷物が当たって上から目覚まし時計が落ちてきた。
「やっべ!!」
静也の部屋があるのは二階、そして静也の部屋の隣にあるのは愛花の部屋。
今のあいつはいつも以上に神経質になってるから当然・・・
「お兄ちゃん!?」
やっぱり気づくよな!急げ!
俺は大慌てでスキマの中に飛び込む。
こうして、俺は幻想入りを果たした。
静也のために幻想入りをした真。
彼は無事に静也と再会することはできるのだろうか?
それではまた次回を、乞うご期待。