東方黒龍記 ~守りたい者達~   作:黄昏の月人

48 / 48
少女は暗く淀んだ底にいた。
そこに現れし龍は、少女に何をもたらすのだろうか。


第47話 龍を愛せし静風

自分が普通じゃないと気づいたのはいつだっただろうか。今となってははっきりと覚えてないけど、少なくとも遅すぎたということだけは覚えている。

「私には神様の友達がいるんだよ!」

私にとっては普通のことで、周りもそうなんだと思っていた。でもそんなことはなくて、いつしか私は孤立していった。

「東風谷 早苗は頭がおかしい」

「東風谷 早苗には関わらないほうがいい」

中学生になったころには仲の良かった友達もそう言って離れていった。最初のころこそ訳が分からなかったけど、分かった時には周囲に誰もいなくなっていた。でも神奈子様や諏訪子様、それに両親に心配をかけたくなかった私はそれを必死に隠した。私が我慢すればいいんだ。そう思っていた。

そんな状況の中、私は必死に勉強した。他にすることが無かったし、少し離れた一番偏差値の高い高校に行けば、私を知る人は少なくてやり直せると思った。そして中学時代のほぼすべてを勉強に費やした私は見事に第一志望の高校に受かった。

高校に入学して私の目論見は成功した。私が異常者ということを知る人はほとんどいなくて、初めてクラスに溶け込むことができた。

でも、私は憶病になってしまっていた。確かにクラスの中でよく話をする人はそれなりにできた。でもそこまで。それ以上に踏み込んだ関係、友達になることがどうしてもできなかった。友達になってしまえば、私の秘密がばれてしまうかもしれない。そんなことばかり考えていた。

そんな私にとっての楽しみは、本を読むこととゲームをすること。周りと話を合わせるために流行なんかも一応調べたりはしていたけど、そこまで興味はなかった。どうせ見せる相手なんていないんだから。

そんな生活を続けて半年が過ぎたころ、私は運命に出会った。

その日、私はボーっと考え事をしながら歩いていた。私にとってはよくあることだった。どうやって周りに合わせるべきかを必死に考えて、そんな自分に嫌気がさすところまでがセットだった。

そんな状態でもいつもはきちんと周りが見えていたんだけど、その日は特に自己嫌悪が酷くて、気づいた時には薄暗い路地の中にいた。さすがに危ないと思った私はすぐに表通りに戻ろうとしたけど、すでにガラの悪そうな男たちに囲まれていた。

「君もしかして一人?なら俺たちといいことしない?」

男たちから向けられる視線に私は背筋の震えが止まらなかった。

「急いでいるので、結構です」

そう言って足早に去ろうしたけど、私の言葉の何が琴線に触れたのか、男たちの目つきが変わった。

「少しは勉強ができるからってお高くつきやがって、生意気なんだよ!」

正面にいた男が私の手をつかむと、そのまま力任せに押し倒してきた。そして周りにいた男たちも私の体を押さえつけてくる。

「いや、放して!!」

必死に抵抗するけど、特に運動の経験もない私のひ弱な力では大した効果はなく、どんどん制服を脱がされていく。上着をほとんど脱がされたところで、私は抵抗することをやめた。ずっと孤独に耐えてきて、その後も自分の憶病さのせいで誰とも仲良くなれなかった。そして初めては好きな人に。そんな女として当たり前の思いでさえも踏みにじられそうになり、もう何もかもがどうでもよくなった

「へへ、そうやっておとなしくしていれば気持ちよくしてやるからよ」

ついに上半身を下着だけにされた私に男の手が伸びる。そしてあと少しで出が届くというところで、あの人が現れた。

「それは同意の上かい?」

男たちとは別の声に思わず目を向けると、そこには私と同じ制服を着た男の人がいた。ネクタイの色は赤で、一つ上の先輩だってわかる。

 「あ、なんだお前?」

 男たちが私から離れてその人の周りに集まっていく。でもその人はじっと私のことを見ている。その瞳を見ていると、自然と言葉が出てきた。

 "助けて"

 私の声は掠れていて聞こえなかったと思う。でもその人は一つ頷くと、男たちに目を向けた。

 「無駄だとは思うけど一応聞くね。自首する気は?」

 「・・・ふざけんな!!」

 さっきまで私を押さえていた男がその人に向かって殴りかかっていき、ほかの男たちも追従していく。私はそのあとに予想できる光景に思わず眼を瞑る。

 何度も響く暴力の音。しばらくすると音が止んだから、私は恐る恐る目を開けた。そこには多数の男たちに打ちのめされた先輩ではなく。一人を除いて地面に伸びている男たちだった。

 「まだ続けるかい?」

 先輩が最後の一人に向かってそう言うと、男は懐からナイフを取り出した。

 「死ね、クソガキ!!」

 危ないと思った。でもなぜだか、心のどこかでは安心している自分がいることに驚いた。あの人なら、何も問題ないように感じたんだ。

 先輩は自分の目の前まで迫った男の手をつかむと、私には理解できない動きで男を地面に叩きつけた。

 「強姦未遂に殺人未遂。罪が増えてよかったね」

そうつぶやいた先輩は携帯でどこかに電話した後、私の元まで歩いてきて手を差し出した。

 「大丈夫?安心していい。もう安全だから」

私は差し出された手をしばらく眺めた後、先輩の手を取った。

 「ありがとうございます。先輩」

そう言って立ち上がったところで、私は自分の恰好を思い出して急いで服を直した。自分にまだ人並みの羞恥心があったことに驚いた。

先輩はまだわずかに震えている私のそばにいたけど、何も言わずに佇んでいた。

しばらくすると数台のパトカーがやってきた。先輩はそれを見てから口を開いた。

 「後の処理は僕がやっておくから、君は帰っていいよ。一人で帰れる?」

 「・・・大丈夫、一人で帰れます。ありがとうございました」

私は背中を向けて本来の家路についた。最後にかすかに聞こえた声は、先輩とおそらく刑事だと思われる人が気やすそうに話していた声だった。

家に着いた私は食事もそこそこにすぐにベットに横になった。思い出すのはさっきの出来事。私が危なかったところを助けてくれた同じ学校の先輩。恋愛ものの本やゲームではよくあるシチュエーション。でも私の心は揺れ動かなかった。

こんなところでも自分の臆病が現れ、思わず涙が零れそうになる。私の心は、ここまで死んでしまったのか。

 「私って、なんで生きてるんだろう?」

思わず出てきた言葉に驚いた。だめだ。このままでは本当に超えてはいけない一線を越えてしまいそう。私はそれ以上は何も考えないようにして、眠りについた。

もう一度その先輩を見かけたのは、行きつけのゲームショップだった。

私はその日、予約していたゲームを買った後何か面白いものはないかと店内を回っていた。

「絶対面白いって。やろうぜ静也!」

誰も気にかけないであろう程度の声量で発された言葉。でもなぜか気になってしまい、私はその声のほうに目を向けた。

 「5対5で戦うFPSゲームか。確かに面白そうだね」

 「ただ問題は人数だな」

 「僕と真、愛花はいいとして、あと二人か」

 「麗奈もやるだろ。あいつはお前の頼みを断らないからな。まぁ、一人ぐらいは野良でも大丈夫なんじゃないか?」

そこには前に助けてもらった先輩が、友達だろう人と一緒にゲームを見ていた。

先輩もゲームが好きなのかな?

今時ゲームが好きな人なんて珍しくはないだろう。それなのに、私はとても気になってしまった。先輩達は手にしていたゲームをそのまま買っていった。

そこまで見て、私は見つからないうちに帰ることにした。

 「それ、龍導院先輩だよ。きっと」

 次の日、私はクラスメイトに先輩について聞いてみた。先輩という括りはあるものの、一人の人間を探し出すことは難しい。元々まともな答えなど期待してなかったんだけど、すぐさま帰ってきた答えに少し驚いた。

 「一つ上の先輩で喧嘩に強くて、一人称が僕。間違いないと思うよ」

 「有名な人なの?」

 「まぁまぁかな。知ってる人は知ってるけど、みんなが知ってるわけじゃないからね。確か、龍導流っていう武術を教えてる道場の長男らしいよ。本人も皆伝なんだって」

 「龍導流、聞いたことないな」

 「武家の中では結構有名らしいよ。毎年結構な人が入門しようと来るけど、ほとんど門前払いなんだって」

 「へぇ、そうなんだ」

 そこまで話したところで、目の前の少女がにやりと笑った。

 「なぁに早苗ちゃん、男子には興味ありませんみたいな態度とっておいて、先輩にお熱なの?」

 「え?別にそういうわけじゃ・・・」

 「みなまで言うな。心配してたけど、早苗ちゃんもちゃんとJKしてるようで安心したよ。任せて、私がセッティングしてあげるから!」

 その言葉を置き去りにするようにその子は教室を飛び出していった。・・・休み時間もうすぐ終わるけどいいのかな?

・・・・・・・

 その子がもう一度話しかけてきたのは二日後の放課後だった。その時の彼女はなぜかやり遂げたような表情をしていた。

 「フフフ、早苗ちゃん私はやったよ。さぁ、今すぐ図書室に行くんだ!」

 「急にどうしたの?」

 「先輩の友達に聞いたら快く教えてくれたよ。先輩はこの時間、必ず図書室で勉強中だってさ。話しかけるなら今がチャンスだよ!さぁ行った、行った!!」

 「ちょっと、押さないで!?」

 私はその娘にカバンを押し付けられると、教室から強引に追い出された。

 「先輩と話すまで帰っちゃだめだよ!!」

 本当は行きたくはなかったんだけど、好意をないがしろにするやつ。そんな噂を立てられるのも嫌だったからしぶしぶ行くことにした。図書室の扉を少しだけ開けて中を伺ってみると・・・いた。あの娘の言う通りだ。机の上にノートを広げて勉強をしているのは、紛れもなく私が気になっていた先輩だった。でも、なんて声をかければいいんだろうか?私は本棚の間から先輩を窺ったまま時間だけが過ぎていく。

 そうしていると、先輩が広げていた本を閉じて立ち上がった。私は慌てて奥に隠れたんだけど、運が悪いことに先輩が来たのは私が居る本棚だった。

 「・・・ん?」

 「あ・・・」

 




かなり間が開いてしまいましたが、細々と続けていきたいと思います。
応援よろしくお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。