東方黒龍記 ~守りたい者達~   作:黄昏の月人

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少女は今なお思いを馳せる。
二度と出会うことのできない少年に。
その思いは、奇跡を呼ぶ。


第46話 奇跡という名の必然

「信仰を得るためにこの幻想郷に来たものの、なかなか上手くいかないものだな」

私は縁側から見える月を見上げながらそうつぶやいた。

空にはきれいな満月が浮かんでおり、がらにもなく感傷的になってしまった。

久々に晩酌でもしてみようか?だが一人で飲むのもあれだし、諏訪子でも誘うか。

諏訪子を探して神社の中を歩いていると、襖をわずかに開けて中を覗き見ている諏訪子を見つけた。外の世界なら確実に通報しているな。

「何をやっているんだ、諏訪子?」

「しーっ!神奈子も見てみなよ」

諏訪子に言われた通り私も上からそっと部屋の中を覗き見る。まぁ、その先いる人物はわかりきっていることだが当然早苗だ。

だがここからだと何をしているのかよく見えないな。確かに少し様子はおかしいが。

仕方なく襖をもう少し開くと、下から諏訪子に睨まれた。仕方ないだろう、お前と私とでは身長が違うんだ。

諏訪子に対して肩をすくめた後、改めて部屋の中を覗き見る。中では早苗が手に持っている何かをじっと見ている。あれは、髪飾りだな。

・・・

「見た?」

「ああ」

諏訪子が外を指すので一つうなずいて二人で廊下に戻る。

「・・・今日でちょうど一年経つんだね」

「信仰の為とはいえ、少女として当たり前の幸せを私達は早苗から奪ったんだ」

「思いが届くか否か。それさえも許されないもんね」

「私達が早苗を悲しませるようなことがあってはいけない。それがせめてもの罪滅ぼしだろうな」

「そうだね。それでも、全然足りないだろうけど」

私達は共に月を見上げる。さっきまでは輝いて見えた満月は、今となっては私達を責めているようにしか感じない。感じ方ひとつで、物事というのはここまで変わってしまうんだな。

「晩酌にでも誘おうと思っていたんだが、どうする?」

「・・・私はいいかな。今日は早めに寝るとするよ。おやすみ」

「あぁ、おやすみ」

諏訪子はそう言って部屋へと戻っていった。

自分の子孫だ。きっと私以上につらい思いをしているのだろう。

諏訪子に言われなければ、私はこのことを思い出しもしなかっただろう。

「最低だな、私は。軍神が聞いてあきれる」

私も今日は寝よう。このままでは罪悪感でつぶれてしまいそうだ。

せめて早苗が、いい夢を見られるといいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

瞼の裏に光を感じて、私は目を覚ました。早く体を起こして諏訪子様と神奈子様のご飯を作らないといけませんね。

わかっているのに、体がなかなか動こうとしない。

それでも無理やり身を起こして寝間着からいつもの巫女服に袖を通す。幻想郷に来たばかりのころには少しだけ恥ずかしかったこの服にも、ようやく慣れてきました。外の世界にいた時の服は、脇が出てはいませんでしたからね。

・・・・・

悲しくなってしまうから思い出さないようにしていたのに、近頃はふとした拍子に思い出してしまうことが多くなった。これじゃあ、元気にやっているって胸を張って言えませんね。

頭に付けた髪飾りに手を触れる。これはあの人がくれた大切なもの。今となってはこの髪飾りだけが、私とあの人のつながりを感じさせてくれる唯一のもの。

別に諏訪子様と神奈子様を恨んだりなんかしていません。私は今まで二人に数えきれないぐらい助けてもらいました。だから今度は私が二人を助けるんです。きっとあの人も、事情を知っていれば同じことを言ってくれたに違いありません。

ようやく立ち直った私は急いで台所に移動して窯に火を入れる。今日は卵焼きを作ろうかな。私は卵焼きには結構自信があるんです。あの人が教えてくれた料理だから。

「号外でーす!号外ですよー!!」

卵を割っていると外から文さんの元気な声が聞こえてきました。頼んでもないのに持ってくるのは珍しいですね。よほどいい記事が書けたんでしょうか?

「もー、新聞は要らないっていつも言ってるのになー」

外から諏訪子様の声が聞こえてきて、私はついクスリと笑ってしまった。なんだかんだ言って、諏訪子様も文さんが持ってきた新聞に目を通すの知ってるんですよ。いえ、文さんの新聞をというよりは、新聞を読むという行為そのものが習慣化しているんですよね。あの人のせいで。そういう私もそうなんですけど。

本当に、あの人は数え切れないほどのものを残していったんですから。私だけじゃなくて、きっと諏訪子様や神奈子様にも。

「へ~、この間の異変の時はそんなことがあってたんだね」

ほら、読んでるじゃないですか。諏訪子様も素直じゃないですね。

「なるほどね。それで、その外来人っていうのは・・・ええぇぇぇぇ!!」

突然響いた諏訪子様の叫び声に私は思わず持っていたボールを落としそうになった。何かあったんでしょうか!?

私は手に持っていたものをテーブルの上に置くと急いでキッチンを飛び出した。すると諏訪子様もこちらに向かって駆けてきているのが目に入った。

「諏訪子様、何かあったんですか!?」

「早苗、いいからこれを見て!!」

諏訪子様が半ば押し付けるように私に向かって手にしていた新聞を広げある一点を指さす。そこに書いてあることを認識したとたん、私は頭の中が真っ白になった。

「どうしたんだ諏訪子、うるさいぞ」

「神奈子も見てよ、ここ!!」

「なになに、黒霧の変を解決したのは外来人だった。その名も・・・なに!?これは本当か!!」

「わからないよ。確かめてみるしかないよ!!」

「そうだな。急いで博麗神社に向かおう!・・・何をしているんだ早苗、早く行くぞ!!」

放心状態で動けない私の腕を神奈子様がつかむ。それでも私はいまだに状況を理解できないでいた。

「仕方ない。諏訪子、反対側を頼む」

「任せて!」

諏訪子様と神奈子様に腕をつかまれて強制的に空を飛ばされた。そんなはずがない。あの人がここにいるはずがないんです。

博麗神社に近づいてきた。縁側からは霊夢さんと魔理沙さんの声が聞こえてきます。そして、もう二度と聞けないと思っていたあの兄妹の声も。

そこまで来て、私はようやく実感することができた。二度と会うことはできないと思っていたあの人が、この世界に来たんだと。私は初めて、自分の能力を心からありがたいと思った。奇跡は、本当にあるんです。

私の変化に気づいたのか、神奈子様と諏訪子様が私の腕を離した。私は、スカートがめくれるのも構わずに全力で走る。

そして鳥居をくぐったところで、ついにあの人の背中が見えた。

私の足音に気づいたのか、その人が後ろを振り向いて私を見て、驚きの表情を浮かべた。私は今、どんな表情をしているんでしょう?

「どうしてここに!?さな・・・ぐはっ!」

私は速度を落とすことなくその人に胸に飛び込んだ。体格差があるとはいえ、速度の乗った私の突進を受け止めることはできずに、結果的に私が押し倒す形になった。

「会いたかった。本当に会いたかったです」

泣きじゃくる私の頭を、あの頃と何も変わらない優しい笑顔で撫でてくれる。それがあまりにも嬉しくて、私はさらに泣いてしまいます。

「久しぶりだね、早苗」

「はい。お久しぶりです、先輩」




早苗と静也の関係とは?
早苗はこの後どうなるのだろうか?
次回を乞うご期待。

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