東方黒龍記 ~守りたい者達~   作:黄昏の月人

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少年は情報を得る機会を得た。
少女は龍の心に触れる。
少年の、守りたいものとは。


第44話 龍の心に触れる者

「随分と豪華な屋敷だな」

俺が目の前にある屋敷を見て最初につぶやいた言葉がそれだった。

確かに紅魔館に比べると一歩劣りはするが、人里にあるということを考えると一番と言っていいだろう。

霊夢の博麗神社はもちろんのこと、白玉楼と同等かそれ以上だろう。

「この屋敷を見ていると、実家のことを思い出すな」

静也の言葉に比較してみると、確かに面影を感じる。

屋敷の隣に道場をつけると完璧かもしれない。

「大丈夫だとは思うけど、今回の目的を忘れてないよね?」

愛花がこちらの顔を覗き込んでくる。

俺は少し呆れた表情を浮かべてその目を見返す。

「当たり前だ。稗田家の人間との友好関係の構築。そして可能なら幻想郷縁起の閲覧申請だよな?」

後半の言葉は静也の方を見ながら話す。

静也もこちらに向き直って頷いた。

「行こう」

正門までたどり着くと、そこには二人の門番らしき男がいた。

「ほう、ここの門番はちゃんと起きてるんだな」

「本人の尊厳のために一応言っておくけど、門番としての仕事はちゃんとしてるからね」

俺が少し意地悪くつぶやいた言葉に、愛花は目をそらして答えた。

「龍導院 静也です。稗田さんにお話が合ってきました」

「お話は伺っております。少しお待ちください」

そう言って片方が屋敷の中に入っていった。

今度は執事あたりでも出てくるのかね?

「そういえば、メイド服は着てこなかったんだな」

今日の愛花は幻想入りした時とは違う洋服を着ている。

仕事柄常に服を着ていないといけないイメージがあったからな。

「流石に外に行くのにメイド服は着ないよ。まぁ、咲夜さんはいつもあの服らしいけど」

「レベルたけぇな。さすがだぜメイド長」

「お待たせしました。ようこそ稗田家へ。静也さん、真さん、愛花さん」

「こんにちは阿求。約束通り来たよ」

聞こえてきた声に目線を前に戻すと、愛花と同じ背格好の少女が立っていた。

静也に聞いてはいたが、本当に儚げだな。

霊夢や魔理沙が力強く咲くひまわりなら、阿求は刹那の間に全ての美しさを輝かせる桜のようだ。

目を離せば散ってしまうんじゃないか。

そんな思いに駆られてしまう。

「当主自らがお出迎えしてくれるんだ」

「お願いしたのはこちらですから。当然です」

「それではご案内いたします。ついてきてください」

俺たちは阿求の後について屋敷の中に入っていった。

縁側に差し掛かった時、威勢のいい声が聞こえてきた。

そこでは若い男たちが槍を振るっていた。

「稽古中か」

「真から見ると、やっぱりいろいろ言いたいことが有るのかな?」

「そういううお前こそ、そわそわしてるぞ」

「二人とも、目的を忘れないで!」

愛花にたしなめられて俺と静也は同時に肩をすくめた。

 

 

「どうぞ、お掛け下さい」

阿求に案内されたのはいかにも執務室といった部屋だった。

簡素な机に筆と墨だけが置かれている。

そして、部屋の隅には・・・あった。

俺達の目的である幻想郷縁起がずらりと並んでいる。

あれを見られるかどうかでこれからの動きが変わる。

「それでは、まずは静也さんからお話を聞かせてください」

「僕は・・・」

それから阿求は静也に対していろいろな質問をしていった。

この世界に来た理由。

静也の能力や戦闘スタイル。

そして、静也の戦う理由。

「守るため、ですか?」

「そう、僕は守るために戦う。でも勘違いして欲しくないのは、僕は決して聖人君主なんかじゃない。僕が守るのは、僕が守りたいと思った人達だけ。守りたいと思った場所だけだ」

「そうですか。では静也さん」

阿求はそこで筆を置いて静也に目を向けた。

人里(ここ)は貴方にとって、守りたい場所ですか?」

これには驚いた。

確かに名家だとは思っていたが、治安にまで気をかけているとは思っていなかった。

ここだ。

阿求との関係はこの回答で決まる。

隣で愛花が膝の上に置いていた手を握りしめたのが分かる。

ここでそうだと言うのは簡単だろう。

だが、それは正解じゃない。

「はっきり言って、まだそこには至っていない」

静也の返答に、悲しげな顔を浮かべる阿求。

「でも、守りたいと思えるものはある。寺子屋やよく行く甘味屋、他にもたくさんある。そこは、守りたいと思う」

阿求は驚いた表情を浮かべた後、微笑を浮かべた。

「そうですか。良かったです」

「静也にとっての守りたいものは、俺にとっても守りたいものだ」

「もちろん、私にとってもね」

俺たちの言葉に阿求は何も答えなかったが、確かな手ごたえがあった。

「それでは、次は真さんの話を聞かせてください」

「そうだな。俺は・・・」

分かってるぜ静也。

阿求(この娘)も、お前にとって守りたいものになったんだろう?




静也は阿求と友好的な関係を築く事が出来た。
幻想郷縁起では、どんな情報を得られえるのだろうか?
次回を乞うご期待。

P.S
甘味屋は書こうと思っていたけど、つながりが悪くて没にしたものです。
良い感じに繋げられそうな場面になれば出そうと思っています。

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