東方黒龍記 ~守りたい者達~   作:黄昏の月人

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少年は改めて決意した。
少女達は信頼を寄せる。
そして、新たな出会いが生まれる。


第43話 感謝と決意

「今日は何事もなくてよかった」

僕は人里の入り口でそんなことをつぶやいた。

本来なら何も起こらないことの方が当たり前なんだけど、最近は色々とあったからね。

門番に挨拶をして足早に寺子屋に向かう。

慧音さんには本当に申し訳ないことをしたな。

今日はいつも以上に頑張ろう。

「おはようございます」

寺子屋の裏から入って控室に行くと、そこには慧音さんともう一人見たことのない少女がいた。

紫色の髪に袖の長い和服を着た少女だ。

整ったきれいな顔をしているけど、それ以上に触れれば折れてしまいそうなそんな儚い印象を受ける。

「静也、怪我は大丈夫だったのか?」

「はい、何ともありません。ご迷惑をお掛けしてしまってすみませんでした」

「迷惑なんかではないさ。むしろ礼を言わせてくれ。あの娘達を救ってくれてありがとう」

「慧音さん、こちらの方が?」

「そうだ。静也、紹介しよう。こちらは稗田 阿求。稗田家の現当主だ」

「初めまして。稗田 阿求と申します。よろしくお願いします」

「龍導院 静也です。こちらこそよろしくお願いします」

お互いに頭を下げて挨拶をするけど、心の中では変な緊張感に包まれていた。

元々僕が情報収集をしようとしていた中で、一番難しいと思われていた稗田家。

その当主が目の前のいるのだ。

これからの対応で情報の閲覧許可が出るか、接触不可になる。

やり取りは慎重にやらないといけない。

「何か僕に御用ですか?」

「はい。私が幻想郷縁起を編集していることはご存知ですか?」

「霊夢から聞きました」

「それなら話は早いです。その幻想郷縁起に静也さんと真さんと愛花さんのことを書かせて頂きたいのです」

「僕たちのことを?なぜですか?」

「前回の黒霧の変を解決したのは静也さん達だと聞いています。それだけの実績があるのですから、ぜひとも書かせて頂きたいのです」

こればかりは驚いた。

僕が見たいと思っていた書物に僕たちのことが書かれる。

これは大きなチャンスだ。

交渉次第では見せてもらえるかもしれない。

「真達にも確認を取らないといけませんが、僕は構いません」

僕がそう言うと、阿求は笑顔を浮かべた。

「そうですか、ありがとうございます。それでは、明日私の屋敷まで来ていただけますか?」

「分かりました。伺います」

「それでは慧音さん、お邪魔しました」

「いえいえ、いつでも来てください」

阿求は慧音さんにお礼を言うと家に帰っていった。

僕が改めて慧音さんにお礼を言おうと振り返ったとき、控えめに襖が開く音がした。

阿求が何か忘れ物をしたのかと思い振り返ってみると、そこにはミスティアを先頭にいつもの4人が立っていた。

「どうしたの、みんな?」

「静也、昨日はありがとう。これ、お礼にみんなで作ったの」

ミスティアが取り出したのは小さな花束だった。

不思議なことに、どの部分を誰が作ったのか、何となく分かる。

「お礼なんていいのに。僕は当たり前のことをしただけだよ」

「静也先生にとってはそうでも、私たちにはそうじゃないんです」

「静也に助けてもらうのはもう何回目になるかわからないね。今までの分も込めてだよ」

「あたいは最強だけど、静也は二番目ぐらいだと思うの」

ルーミア達の言葉に嬉しくなる。

そして改めて実感する。

やっぱり、幻想郷(ここ)は僕が願っていた世界なんだって。

「静也が来てくれなかったら、私はここにはいないと思うの。本当にありがとう」

そう言ってミスティアが花束差し出してくる。

僕はそれを受け取る。

「友達の為に自分を犠牲にしてまでも守ろうとしたミスティアは立派だよ。でも、自分の身も大切にね」

「うん。だって死んじゃったら、もう静也に会えなくなるもんね」

冗談なのか、そんなことを言うミスティア。

その頬はほんのりと赤くなっている。

恥ずかしいなら言わなければいいのに。

「それとね、私からはもう一つあるの」

ミスティアが取り出したのは一枚の紙。

それには丁寧な字で"割引券"と書かれている。

「精一杯おもてなしするから、絶対来てね」

ミスティアが屋台をしているのは聞いていた。

たぶんそれのことを言っているんだろう。

「必ず行くよ。真と愛花もつれてね」

しゃがんでミスティアの頭をなでる。

すると恥ずかしさに耐えられなくなったのか、部屋を飛び出してしまった。

ルーミアとチルノも苦笑いをこぼして後を追いかけて行った。

「あの、静也先生」

大妖精も顔を真っ赤にさせて何かを言おうとしている。

「わ、私も先生と会えなくなるのは寂しいです!」

それを叫ぶと3人の後を追っていった。

「静也、私からも改めて言わせてくれ。ありがとう」

「慧音さん、これからも何かあれば僕は必ず守って見せます。ここはもう、僕が守りたい場所だから」

「それを聞けて嬉しいよ。ミスティアもまだ立ち直っていないだろうから、今日は予定を変更して私が先に授業をしようか?」

「そうですね。お願いします」

慧音さんは教材を持つと教室へと向かっていった。

僕は今日の内容に改めて目を通していたんだけど、襖の外に気配を感じた。

それも、この人里では感じたことのない強い妖力だ。

立ち上がって襖を開けてみると、一人の女性と女の子がいた。

中国の導師のような服に、金色の髪をした女性。

けれどそれ以上に目に入るのは、九つに分かれたそのしっぽ。

九尾、なのか?

女の子の方も金髪であり、どことなく紫さんと似た雰囲気を感じる。

「君が龍導院 静也か」

「僕のことを知っているのですか?どこかでお会いしましたっけ?」

「いや、私が一方的に知っているだけだ。私は八雲 藍。紫様の式だ」

「あぁ、あなたが。よく橙から話を聞いていますよ」

「今日はこちらにもう一人通わせたいと思ってな」

藍さんの言葉に女の子が一歩前に出た。

「初めまして、静也先生。私は(ふじ)と申します。よろしくお願いいたします」

藤、藤色の事か。

藤色は若紫色ともいわれる色であり、紫さんの面影を感じるこの娘にはぴったりの名前かもしれない。

「よろしく。藤を通わせたいとのことですが、慧音さんには?」

「すでに伝えてある。何やら忙しそうだったので遠慮してたのだ」

「そうですか。分かりました。それではきょうしつにあんないしますね」

「よろしく頼む。私は紫様の所に帰るとしよう」

藍さんは藤に一度目線を向けた後、部屋を後にした。

「それじゃあ藤、僕についていてくれるかい?」

「分かりましたわ。それでは先生。はい」

そう言って右手を差し出す藤。

僕は苦笑いをこぼしてその手を握った。

「これから楽しみですわ。本当に楽しみ」

なぜだか知らないけど、藤のその言葉に、僕は寒気を感じた。




稗田家に向かうことになった静也。
果たして情報を得ることはできるのだろうか?
次回を乞うご期待

P.S
藤は紫さんをそのまま幼女化した姿を想像してください。

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