東方黒龍記 ~守りたい者達~   作:黄昏の月人

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少年は惑わされる。
その赤き幻惑に、抗うことはできるのか。


第41話 赤き幻惑と一筋の煌めき

銃口をこちらに向けた鈴仙が引き金を引く。

能力を使うと言っていたが、それは今までと何も変わらないように思えた。

「水龍!」

水龍の加護を受け夜桜を振り抜く。

この隙に距離を詰めてくるのかとも思ったが、鈴仙は動く気配がない。

夜桜が銃弾とぶつかる。

その瞬間弾丸がまるで残像のようにぶれた後、そのまま貫通した。

「なっ!?」

右脇腹に走る鋭い痛み。

そこで鈴仙が動き始めた。

痛みに顔をしかめながら、何とか狙いを定め引き金を引く。

しかし、撃ちだされた弾丸は鈴仙を貫通し後ろに抜けて行った。

「はっ!!」

振り上げられた足を回避する手段は僕にはなく、銃弾を受けた場所と寸分違わぬ場所に鈴仙の右足が突き刺さり、大きく吹き飛ばされた。

視界がかすむ中、夜桜を支えに何とか立ち上がる。

鈴仙の能力は貫通なのか?

空虚を懐に戻し、魂絶を抜く。

鈴仙の能力はまだわからないけど、少なくとも牽制が通用するものじゃないことは分かった。

背後に鈴仙の気配を感じる。

「龍導二刀流剣術中伝、『牙龍連斬』(がりゅうれんざん)!」

夜桜を右から振り抜く。

それはやはり鈴仙を貫通したが、即座に魂絶を振り上げる。

これならどうだ!

しかし魂絶が鈴仙の体に触れると同時に、目の前から鈴仙の姿が消えた。

そして頭の右側に感じる冷たい感触。

「勝負あり、です」

「一見すれば積みの状態。でもまだだ!」

再び懐の札に霊力を流し発動させる。

今度は二枚の札だ。

一枚目は最初と同じ急加速。

それにより距離を離そうとするが、当然鈴仙は引き金を引く。

しかしその銃弾は二枚目の札によって張った結界で軌道をそらせる。

とは言え即席で張った結界だ。直撃こそしなかったものの、右肩をかすめて行った。

・・・右腕が満足に使えなくなったか。

「ウソ、あの状況で躱すなんて!?」

てゐの驚きの声が響く。

「さて、次はどう攻めてくる?」

これで札は全部使い切った。

こちらの不利を悟られないようにあえて不敵な笑みを浮かべ鈴仙にそう返す。

驚愕の表情を浮かべていた鈴仙が、僕の言葉に同じように笑った。

「強いですね。静也さん」

それにしても、鈴仙の能力がまるで分らない。

最初は貫通の類なのかとも思ったが、それではさっきの瞬間移動が説明できない。

物をすり抜けたり急に現れたりと、まるで蜃気楼のようだ。

・・・蜃気楼・・・幻・・・?

最初に受けた銃弾の軌道を思い出しながら脇腹を確認する。

確かめてみるか。

僕は魂絶を鞘に納めて駆け出す。

鈴仙は当然引き金を引く。

「龍導二刀流剣術中伝、『牙龍連斬』(がりゅうれんざん)!」

夜桜を横一文字に振り抜く。

それはやはり銃弾を貫通した。

今度は魂絶をまっすぐ振り下ろす。

そして確かな手応えと共に、銃弾が弾かれた。

実際に見えていた場所よりも高い場所で。

「そういうことか」

これで分かった。

鈴仙の能力は幻惑、またはそれに近い何かだ。

鈴仙との距離を詰め、魂絶を鈴仙の首元で止める。

「・・・引き分けだね」

「・・・そうですね」

鈴仙の手にはどこから取り出したのか一本のナイフが握られており、僕の胸の前で止められている。

お互いに武器を収めた後、握手を交わした。

「いい試合だった。でも次は負けない」

「私も楽しかったです。またお相手お願いします」

僕は鈴仙から手を離すと、輝夜たちの方に向き直る。

「今日はここで帰ります。いつか・・また来るよ」

いつか来る。

そう言おうとしたんだけど、輝夜からの不機嫌な視線と鈴仙とてゐからの悲しげな視線を感じて言い直した。

僕は皆に背を向けて帰路に就く。

鈴仙に対する不思議な感覚は結局分からなかったけど、手合わせは楽しかった。

今回はそれが分かっただけでも良しとしよう。

思い返せば今日は本当に色々なことがあった。

こんなにも濃厚な日を送ったのは異変の時以来じゃないだろうか。

それにしても、永琳さんには負け、鈴仙には引き分けた。

それにたぶん、輝夜にも勝てないだろう。

思い出しているうちに自分が笑っていることに気付いた。

「僕ももっと精進しないといけないな。そうでないと、師匠と呼び慕ってくれる妖夢に申し訳が立たない」

(我々も、より主の期待に応えられるように精進いたします)

もちろん、みんなのことも期待してるよ。

さて、急いで帰らないと霊夢に怒られそうだ。

僕は歩く速度を上げた。




鈴仙との試合に引き分けた静也。
己の力を感じ、静也はこれからどう成長していくのか。
次回を乞うご期待。

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