東方黒龍記 ~守りたい者達~   作:黄昏の月人

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少女はこの世界で初めて出会った。
己と同じ獲物を持つものを。
少年は確かめる。
己の中にある物を。


第40話 龍と兎の跳舞

「準備は良いかしら?」

「私は大丈夫です」

永琳さんの問いに自分の銃を見ていた鈴仙がそう返す。

「僕も大丈夫です」

場所は永琳さんと戦ったのと同じ場所。

その場所で今度は僕と鈴仙が向かい合って立っている。

この場にいるのはさっきと同じメンバー。

ただし今度は輝夜も部屋から出て来て縁側に座っている。

「がんばなさいイナバ。静也の秘密を暴いてやりなさい!」

輝夜の言葉に鈴仙は微かにうなずいた。

なぜこうなった?

僕は夜桜に手をかけながらついさっきのことを思い出す。

僕と輝夜が話している場所にやってきた鈴仙は開口一番僕に手合わせを申し込んできた。

最初は断ったのだけど、輝夜までもが後押しし始めた。

永琳さんとの戦いで霊力を消費したから、と説得しようとしたのだけど、その答えが分かっていたかのように一本の瓶を手渡された。

半ば無理やりその瓶の中身を飲まされた後、確かに僕の霊力はあらかた回復していた。

なんでも永琳さんが急遽作ったらしい。

瓶の中身が気になったけど、怖くて聞けなかった。

まぁ、何かあったら木龍が何とかしてくれるだろう。

そうして今に至る。

はぁ、ここまで御膳立てされてしまったらもうやるしかないだろう。

それに僕が鈴仙に対して感じているこの不思議な感覚も、手合わせを通して分かるかもしれない。

僕は改めて鈴仙を見る。

助けたときも見たけど、鈴仙は両手に銃を持って構えている。

いわゆる二丁拳銃(アキンボ)だ。

外見はグロックに似ている。

けれどもそうだと断定することもできない。

とは言え、形状が似ているのならグロックと思って対処したほうがいいだろう。

グロックの装填数は15発。

その前後がリロードタイミングだと考える。

そのタイミングで一気に距離を詰める。

「龍導流剣術皆伝 龍導院 静也。参る」

「・・・始め!!」

永琳さんの合図とともに僕は身構える。

左右どちらから発砲されても対処できるようにだ。

けれどもそれがかえって仇となった。

僕の見つめる先で鈴仙が駆け出した。

あまりにも予想外の行動に反応が遅れる。

やはり兎だからだろうか。

その瞬発力はすさまじいもので、一瞬のうちに懐に潜り込まれてしまった。

「はっ!」

そのまま右足を振り抜く。

「くっ!」

とっさに夜桜を鞘に入れたまま構えることで何とかその一撃を受け止めた。

僕に余裕があったのなら、女の子がスカートのまま足を上げるんじゃない!、なんて言えたのかもしれない。

だが生憎とそんな余裕はない。

鈴仙は僕が受け止めると同時に今度は右足を軸に左足で裏蹴りを放ってくる。

これは受け止められないと感じ、懐に忍ばせている札に霊力を流して発動させる。

それにより少しバックステップをすることで何とか躱した。

だがそれで終わりじゃない。

鈴仙はすでにこちらに向けて銃を構えているからだ。

乾いた音と共に撃ちだされる一発の弾丸。

これを避けるのは不可能だ。

「くっ!風龍!」

風龍の加護を受けると同時に横向きの強風が吹く。

その程度で止めることはできないが、軌道をずらすことはできた。

「へぇ、あれが静也の最後の手札ってわけね」

輝夜のつぶやきが耳に入る。

幻想郷だから、無意識のうちに距離を取って戦うと思い込んでいた。

鈴仙が得意にしているのは二丁拳銃(アキンボ)なんかじゃない、射撃混合格闘術(ガンカタ)だ!

この一瞬のやり取りで僕の手札を全て使わされた。

驚愕と同時に思い込みの恐ろしさを改めて実感した。

「どうしたんですか静也さん、防戦一方ですよ!!」

鈴仙は風を警戒したのか、再び距離を詰めてくると右足を振り上げて僕の顎を狙ってくる。

だが僕だってやられてばかりではいられない。

ここまで来たらもはや出し惜しみをする必要はない。

鈴仙に合わせ左足を振り抜く。

互いの足がぶつかり合いその衝撃でわずかに距離が離れる。

「我が身に宿れ、金龍!」

(了解です)

金龍の加護を受け、取り出した空虚に霊力を流す。

空虚が形を変え、大口径のものに変化する。

そう、リボルバーだ。

鈴仙に勝つにはあの機動力を奪う必要がある。

これならば連射力は落ちるが、威力が高くなった分大きく回避行動をとる必要があるはずだ。

すでに足に力を込めている鈴仙に銃口を向け引き金を引く。

鈴仙のものとは違う重い音を響かせ撃ちだされた弾丸だったが、鈴仙は目を細めた後最小限の動きで回避した。

そしてお返しとばかりに二発の弾丸を放ってくる。

「我が身に宿れ、水龍!」

(御心のままに)

水龍の加護を受けたことで強化された感覚によって弾道がはっきりと見える。

「はっ!!」

右から近づく弾丸を夜桜で切り裂く。

だが、視えることと体がついてくることは別だ。

それに気づいたのかどうかは分からないが、鈴仙は連続で引き金を引き四発の弾丸を放ってくる。

しかもそれは別々の弾道を描いており、急所こそ外れているもののどれかを切れば別のどれかに当たるものだ。

だがそれを逆手に取ることもできる。

「風龍!」

再び発生した風。

さっきとは違い今度のは乱気流で全ての弾丸は僕を避けるかのように逸れて行った。

「本当に何でもありですね。どう攻めていいのかわからなくなってしまいます。それは能力ですか?」

鈴仙が銃を下げて聞いてくる。

最初から激しく動いていた鈴仙は僅かに肩で息をしていて体力を消費しているのが分かる。

これで有利になったかというとそうでもない。

僕は体力こそそこまで失っていないが、その代わり霊力を大きく失った。

「正確には違うけど、似たようなものだね」

「そうですか。なら、ここからは私も能力を使わせてもらいます!」

そういった鈴仙の瞳が一瞬、怪しく光った気がした。




思いがけない鈴仙の戦いに追いつめられる静也。
この戦いの結末はどうなるのだろうか?
次回を乞うご期待。

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