東方黒龍記 ~守りたい者達~   作:黄昏の月人

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少女は初めて出会った。
己の魅力に惑わされぬものを。



第39話 月の姫の戯れ

「う・・・」

頭に鈍い痛みを感じるとともに、僕は目を覚ました。

誰が介抱してくれたのかは分からないけど、いつの間に敷いた布団に寝かされていた。

自分の現状を確認するにつれてだんだんと悔しさがにじんでくる。

「勝てなかったか」

「永琳相手によくやったほうだと思うわよ」

思わずつぶやいた独り言に返事があったことに驚いた。

声のほうに目を向けると、そこには縁側に腰かけてこちらを見る一人の少女がいた。

桃色の着物に身を包み、腰まで伸びる長い黒髪。

かけられた声もずっと聞いていたくなるほどの心地よさを感じる。

一度いると認識すると、目線を外すことをためらってしまうほどの絶世の美少女だ。

「ん、どうしたの?」

少女も自分の美貌に自信があるのか、挑戦的な笑みを浮かべてこちらを見る。

「どうもしてないさ。永琳さんの強さと自分の力不足を痛感していただけだよ」

その顔を見てようやく正気を取り戻した僕はそう返す。

「結構強いほうだと思うわよ、あの永琳に近づけたんだから。いろんな戦い方をしていて見てて飽きなかったし。他にも何かできるの?」

「どうだろうね。どう思う?」

さっきのお返しとばかりにこちらも挑戦的な笑みを浮かべてそう混ぜ返す。

僕のその返答が意外だったのか、少女は一度驚いた表情を浮かべた後、今度は静かにほほ笑んだ。

「私は蓬莱山 輝夜よ。あなたは?」

「僕は龍導院 静也。輝夜か。竹取物語と同じ名前、この場所にぴったりの名前だね」

「それはそうよ。だって私本人だもの」

「なるほど。僕がこの場所から感じていたものは間違ってなかったわけだ」

「・・・疑わないの?」

「幻想郷がどういった場所なのかっていうのはそれなりに理解しているつもりだ。今更月に帰ったはずのかぐや姫が目の前に現れたって驚かないし、疑わないよ。それに納得もしている。あのかぐや姫なら、その美貌にも説明がつくからね」

僕のその言葉に、輝夜は刺すような視線を向ける。

うーん、美貌なんて言ったのがまずかったかな?

「疑いなさいよ!それで私がいろいろと質問に答えていって、本人だって確信した時の驚いた表情が面白いのに!初めから納得されたら面白くないじゃない!」

「・・・は?」

思わず間の抜けた声が出てしまった。

さっきまでは物語のようにお嬢様然とした態度だっただけに、この突然の変わりように驚いてしまったんだ。

「・・・なによ?」

「いや、ちょっと驚いただけだよ。そっちが素なのかな?」

「そうよ。幻滅した?」

「そんなことはないさ。本当に驚いただけだよ」

輝夜はそれから少しの間不満げな目で僕を見た後、また笑顔に戻ってくれた。

「まぁいいわ。ねぇ、もっと静也のこと教えてよ。あなたに興味がわいちゃった」

「かぐや姫に興味を持っていただけるなんて光栄だな。でも、僕はそれほど誇れるような人間じゃないよ」

「それは私が決めることよ。ほらほら、何でもいいから話しなさいって!」

輝夜が身を乗り出してくる。

そのきれいな顔が急に目の前に来るもんだから、思わず身を引いてしまった。

それを見て、また輝夜の顔が曇る。

「なんで逃げるのよ」

「いや、急だったものだから。ふふっ」

僕は思わず笑ってしまった。

そのころころと変わる表情を見ていると、失礼だと分かってはいてもつい可笑しくなってしまったんだ。

「ごめん。そうだね、僕は外来人で・・・」

「静也さん!!」

僕が語り始めようとした、部屋の襖が開き鈴仙が姿を現した。

キラキラと輝くその瞳を見て、今日の僕は厄日なのだと悟った。




静也は輝夜に気に入られたようだ。
鈴仙が来た理由とは?
次回を乞うご期待。

P.S
長らくお待たせてしまいまして申し訳ありませんでした。
書き溜めの方が有る程度できたので、しばらくはペースを上げたいと思います。

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