東方黒龍記 ~守りたい者達~   作:黄昏の月人

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少年は竹林の中の屋敷へとたどり着く。
そこで出会うものとは。


第37話 竹林の中の出会い

「妖夢の師匠をしているんですか、すごいですね!」

鈴仙が驚いた表情を向けてくるけど、それに僕は苦笑いを返す。

「すごくなんてないさ。周りにほかに剣術を扱うものがいないからそうなっただけで、この幻想郷には僕よりも強い人はたくさんいる」

「静也も結構強いと思うけどね。とてもうちで診察が必要なようには見えないよ」

「確かに外面的な怪我はないね。まぁ、健康診断だと思ってくれていいよ」

4体の妖怪たちを斬った後、僕たちはお互いに自己紹介をした。

その時に二人は永遠亭に住んでいるといっていたから、ついでに案内をしてもらうことにした。

「でも助かったよ。僕一人では永遠亭にたどり着けるか分からなかったからね」

「当然ですよ。もしあの時静也さんが来てくれなかったら、今頃私達は生きていませんでしたから」

「その点に関しては私も感謝しているよ」

そういったてゐが横から僕の顔を覗き込んでくる。

その表情は悪だくみをしている時の真にそっくりで、僕の中で小さな警報が鳴った。

けれどもすでに遅かったようで、一歩踏み出したと同時に地面の感触が消えた。

「うわぁ!?」

「やった、引っかかった!」

「こら、てゐ!!助けてくれた人に何てことしてるのよ!」

僕が落とされた落とし穴はやけに深くて、普通の人間では自力で出るのは不可能なほどだ。

まさか幻想郷でこんな初歩的な罠に引っかかるとは思っていなかった。

悪意のない罠だったから、よけいに気付かなかった。

「大丈夫ですか静也さん、今助けますね!」

風龍の加護を使おうか考えていると、鈴仙が穴の中の入ってきて僕の体に手を回した。

おそらくこのまま僕を上まで引っ張るつもりなんだろうけど、これだけの行為で僕の心臓は大きくはねた。

「大丈夫だよ鈴仙、一人で上がれるから」

「だめです。私が上げますから、おとなしくしてて下さい」

これは何を言っても聞いてくれそうにはないと思って、仕方なくおとなしくする。

それにしても、僕は一体どうしてしまったんだ?

鈴仙と一緒にいると、心が乱されてばかりだ。

真に相談すれば、それは恋だろうと言われるだろう。

でもこれが、そのような感情とは全く違うものだということを僕は理解している。

僕だってこの17年間、そのような経験が全く無かったわけではない。

それに何より、僕は本当のそれを知っているから。

だから僕が鈴仙に感じている感情は恋愛感情なんかじゃない。

だからこそこんなにも悩んでいるんだ。

そんなことを考えているうちに、僕の体はすでに穴の外に出ていて、鈴仙の感触が消えた。

「ありがとう、鈴仙」

僕の言葉に笑顔を浮かべた鈴仙は、今度はてゐに鋭い視線を向ける。

「助けてくれた人にこの仕打ちはひどいんじゃないの?」

「ま、これが永遠亭(うち)の洗礼だと思ってよ。でも、感謝してるのは本当だよ。だから静也へのいたずらはこれで最後にしてあげる」

正直落とされたことに僕も言いたいことが無かったわけじゃない。でも、てゐの笑顔を見ていると怒る気が無くなってしまった。たぶんその顔が僕のよく知る親友に似ていたせいだと思う。

「はぁ、そんな顔されたら怒るに怒れないじゃないか。許してあげるけど、本当にこれっきりにしておいてよね」

「さすが静也、よく分かってるね!」

「ごめんなさい、静也さん」

「気にしなくていいよ鈴仙。怒ってないから」

そんなことをやっているうちに古い造りの日本家屋が見えてきた。

たぶん人里にある家よりも古い造りだ。

平安時代当たりじゃないかな?

それにしても、竹林に囲まれた家か。

なんだか竹取物語を彷彿とさせる光景だな。

「こちらです、付いて来て下さい」

そのまま鈴仙に案内された僕の前には、今一人の女性がいる。

高い身長に赤と青のツートンカラーという奇抜な服を着た女性。

「初めまして。私は八意 永琳。この永遠亭で医者のようなことをやっている者よ」

「外来人の龍導院 静也です。よろしくお願いします」

僕と永琳さんは簡単な自己紹介をした後、すぐに診察に入った。

診察といっても鈴仙たちに言ったように健康診断程度だから、そう時間はかからなかった。

「診察の結果、あなたの体にはどこにも異常は見られなかったわ。しいて言うなら少し血が減っていることぐらいね。食事をきちんと取ることをおすすめするわ」

「そうですか、ありがとうございました」

永琳さんにお礼を言って立ち上がったけど、僕はそのまま立ち尽くしていた。

「どうかしたの?」

「永琳さん、失礼を承知でお願いします。僕と手合わせして頂けないでしょうか?」

「なんですって?」

僕は永琳さんを一目見た時から、心の震えが止まらなかった。

永琳さんから大した霊力は感じなかったけど、僕の直感がささやいていた。

この人は霊夢と同等、もしかするとそれ以上の実力を持っていると。

自分では戦闘狂(バトルジャンキー)のつもりはないんだけど、僕も武家の出身だ。

自分よりもはるか高みにいる人物を目にすると、自分の力がどこまで通用するのか試したくなってしまう。

永琳さんはしばらく難しそうな顔をしていたけど、小さくため息をついた。

「私は医者であって、本来ならそういうことはしないんだけど。あなたにはウドンゲたちを助けてもらった恩があるものね」

「では・・・」

「一度だけなら、いいわ」

「ありがとうございます」

僕は永琳さんに深く頭を下げた。




永琳との試合が決まった静也。
果たして静也は永琳に勝つことができるのだろうか。
次回を乞うご期待。

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