東方黒龍記 ~守りたい者達~   作:黄昏の月人

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少女は対峙する、大切な家族を守るために。
そして、怒れる龍の咆哮が響く。


第36話 黒き龍の咆哮

私は2発の弾丸を撃つ。

よく狙いもしなかったそれは難なく躱されてしまう。

「もういいよ鈴仙、私を置いて逃げて」

「そんなことできるわけないでしょ!!」

人里で薬を売った帰り道、私はてゐが襲われているのを見かけた。

急いで助けに入ったけど、相手は4体でしかも知性を持つほどの上級妖怪だった。

撃つ銃弾はかすりもせず、とうとう私たちは追い詰められてしまった。

「ようやく追い詰めたぜ」

「これは食事の前にも楽しめそうだな」

妖怪たちがいやらしい笑みを浮かべながらにじり寄ってくる。

私はもう一度銃を構えて引き金を引く。

けれども銃弾は発射されず、代わりに乾いた音が響いた。

弾切れ!?

私が動揺している隙に、4体の妖怪は一気に駆け出した。

「くっ!?幻朧(ルナティック)・・・」

だめ、間に合わない!

恐怖で体が硬くなる。

けれども、私と妖怪の間に1つの人影が割り込み、妖怪の一撃を手にした刀で受け止めた。

一瞬妖夢かと思ったけど、妖夢にしては背が高い。

それによく見てみると、それは少年だった。

その人は刀を振り抜いて妖怪を背後に追いやった後、私の方に振り向いた。

思わず見とれてしまいそうになる黒色の瞳が、私を見る。

「君達が襲われている、という判断で良いのかな?」

「は、はい」

「分かった」

それだけ聞くと、その人は妖怪たちの方に向き直る。

もしかして、助けてくれるの?

「どけ、人間。お前に用はない」

「そういうわけにはいかないな。目の前で襲われている女の子を、見捨てることはできない」

「ならばお前から殺してやる」

4体の妖怪がその人を取り囲むように散開する。

「だめ、逃げて!」

てゐが叫びをあげる。

でもその人は不敵に笑った。

「何がおかしい?」

「僕が、三流ごときに負けるとでも?」

「何だと!?」

「自分と相手の力量を見極め、勝てない戦いから身を引けるのが一流。自分と相手の力量を見極め、勝てない戦いに無謀に挑むのは二流。自分と相手の力量すら見極められない君達は、それ以下だ」

「言わせておけば!楽には死なせんぞ人間。たっぷりといたぶってから苦しませながら殺してやる。いけ!!」

4体の妖怪が襲い掛かる。

とても人間が相手にできるような数じゃない。

けれどその人は腰に差している刀の柄に手をかけて、腰を落とした。

「龍導一刀流剣術中伝『輪龍』(りんりゅう)

右足を軸に回転しつつ、鞘から抜いた刀で斬り払う。

それだけで、4体の妖怪たちの片腕が落ちた。

「ぐわぁぁ!?」

「去れ。似たようなことが立て続けに起こって、今の僕は少し機嫌が悪いんだ。次はその首を落とす。もう一度だけ言うぞ。ここから去れ」

その言葉と共に、とても人間だとは思えないほどの殺気が放たれる。

守られているはずの私でさえも、思わず息を飲む程の殺気が。

それを正面から受けた妖怪たちが思わずといった風に一歩後ずさる。

「わ、分かった」

私達に背を向けて去っていく妖怪たち。

それを見て、その人も刀を鞘に納めて私たちの方を向いた。

「大丈夫だった?」

「・・・はい、ありがとうございました。助けて頂いて」

「僕は・・・」

「危ない!!」

その人の声をてゐが遮った。

私も気づかなかいうちに、さっきの妖怪達がその人の背後にまで戻ってきていた。

「馬鹿な人間め、死ね!」

「馬鹿なのは君達の方だ」

私の目でも剣筋を捉えるのが難しかった。

鞘に納められていたはずの刀がいつの間にか抜かれていて、それが四度煌めいた。

そのまま刀を鞘の納めると同時に、4体の妖怪の首が落ちた。

妖怪達の表情は何も変わってなくて、最後まで斬られたことに気付かなかったんだと思う。

「言ったはずだ。次は首を落とすと」

その人は一度目を閉じて、静かにそうつぶやいた。

少しの間そうした後、改めて私たちの方を向いた。

「改めて、僕の名前は龍導院 静也。外来人だ」

笑顔で手を差し出す静也さん。

けれど私には、その笑顔の奥に悲しみの表情が見えた気がした。




鈴仙とてゐを救った静也。
ようやく永遠亭に向かうようだ。
次回を乞うご期待。

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