東方黒龍記 ~守りたい者達~   作:黄昏の月人

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少女は立ちはだかる、友を守るために。
しかし力なき勇気は、蛮勇である。


第34話 勇気と無謀

「みんなに近づくな!」

恐怖で座り込む私達とは違って、チルノは立ち上がって相手を睨む。

いつも通り4人で寺子屋に向かってた私たちは、突然狼の姿をした妖怪に襲われた。

あまりにも突然の事だったけど、幸い誰もまだ怪我をしてない。

「氷符『アイシクルフォール』!」

チルノがスペルカードを宣言する。

けれどそれは何一つとして相手に当たることはなかった。

それを見てチルノは脅威じゃないと判断したんだろう。

狼が一気にこっちに向かって走ってくる。

「チルノちゃん、逃げて!!」

大ちゃんが叫ぶけど、チルノも恐怖で動けなくなってる。

「くっ!」

どうしてそこで体が動いたのか、私でも分からない。

立ち上がった私はチルノの元に駆け寄ると、横に突き飛ばす。

狼は正面にいるのが私になっても速度を落とすことなく突っ込んでくる。

「ミスチー!?」

チルノの叫びが、ひどく遠くから聞こえた気がする。

私、ここで死ぬんだな。

漠然とそんなことだけを思った。

狼が爪を振り上げるのを見て、私は目を閉じた。

けれど次に感じたのは痛みじゃなくて、何かに包まれて体が浮いた感覚と、顔に生暖かい物が降りかかった。

「静也先生!?」

大ちゃんの声に目を開けてみると、目の前に静也の顔があった。

顔に触れてみると、手にべったりと血が付いた。

「静也、腕が・・」

チルノの声に目を向けてみると、静也は右腕から血を流していた。

その量はかなりのもので、医学の知識がない私でも早く治療しないと危ないってわかる。

「くっ・・・。ミスティア、大丈夫?」

私のせいで怪我をしたのに、それでも私を心配してくれる静也に、胸の奥が熱くなる。

「ごめん。ごめんね、静也」

「泣かないで、ミスティア。僕は大丈夫だから」

「でも、利き腕が」

静也は授業の時、いつも右腕を使ってた。

「大丈夫。龍導流に利き腕は関係ないから」

静也が血を流しながら立ち上がった。

「ダメです、先生!!」

大ちゃんの叫びが響いた。

でもその声に答えたのは、私の知らない声だった。

「その者の言う通りです、主様。ここはどうか私に」

「・・・分かった。黒龍帝の名において命ずる。聖龍よ、我が元へ顕現せよ」

静也がお札みたいなのを地面に置くと、私の見たことない文字が浮かんだ。

それは一瞬強い光を放った後、いつの間にか人影が浮かび上がった。

短い金髪に銀色の鎧を着た男の人だ。

けれど何よりも印象的なのは、その身からあふれ出す妖力だろう。

「抵抗もできぬ幼子に手を出し、あまつさえ主様を傷つけたその所業、決して許されるものではない」

穏やかな声なのに、抑えきれない怒気を感じた。

「聖龍、これを使って」

静也が腰に差していた刀を聖龍?に渡した。

「感謝します、主様」

聖龍が刀を引き抜く。

物騒な物なのに、その動作一つ一つが美しかった。

「その罪、身を持って償え」

聖龍が一歩踏み出す。

その瞬間、狼は背を向けて逃げ出した。

聖龍との実力差を本能的に感じ取ったんだと思う。

けれど狼の動きは、突然目の前に現れた青白い柵みたいなものに阻まれた。

横を見てみると、静也が自分の血で地面に何か書いてて、それが淡く光ってた。

「これくらいの援護はさせてくれ」

逃げられないと分かって、狼がもう一度突撃してくる。

聖龍はそれを避けようもしないで、静かに刀を構えた。

「我は龍帝に仕えし古の龍、その名は七の龍・聖龍也。我が力は主が剣、我が身は主が盾である」

聖龍が呪文みたいなものを紡ぐと、刀が淡く輝き始めた。

「竜王技その七、刻聖龍」

狼が爪を振り下ろす。

聖龍は身を屈めて躱すと、すれ違いざまに刀を振るった。

そして狼は倒れて、それっきり動かなくなった。

「せめて美しく散らせてやったことを感謝しなさい。炎龍では、こうはいきませんでしたよ」

聖龍が刀を収めて戻ってくる。

「お疲れ様。ありがとう、聖龍」

「謝罪いたします主様。本来ならその傷は、私が受けるべきでしたのに」

「大丈夫だよ」

「大丈夫なわけないでしょ!!早くお医者さんに・・・」

「主様!」

私の言葉をさえぎって、またどこかから声が聞こえてきた。

静也の袖からお札みたいなのが出てくると、またそこから人影が出てきた。

肩にかかるぐらいの緑色の髪に、同じ色の和服を着た女の子。

その背は私たちとあんまり変わらない。

「木龍」

「勝手に出て来て申し訳ありません、主様。どのような罰でも受けます」

木龍と呼ばれたその娘は静也の手を取ると、静かに目を閉じた。

何をする気なの?

「我は龍帝に仕えし古の龍、その名は三の龍・木龍也。生きとし生ける草花たちよ、我が主様が為、その命を僅かばかりに分け与え給え」

木龍がささやくように呪文を紡ぐと、辺りにある樹や葉が輝き始めて、その光が静也の所に集まっていく。

「龍王技その三、癒しの吐息」

光が収まったとき、静也の出血は収まっていた。

「私が出来るのはあくまでも自然治癒の上昇。これが精一杯です。申し訳ありません、主様」

「いや、十分だよ木龍。ありがとう。というか、木龍って女の子だったんだね」

「はい。見苦しいものお見せしてしまい、申し訳ありません」

「そんな事はない。可愛いよ、木龍」

「・・・・っ!?」

何を言われたのか一瞬分からなかったのか、しばらく呆然とした後に木龍は顔を真っ赤に染めた。

その光景に、なぜだか胸がチクリと痛んだ気がした。

「わ、私にはもったいなきお言葉!し、し、失礼します!」

木龍は出てきたのと同じように消えて行った。

「それでは主様、私もこれで」

聖龍もお辞儀をして消えて行った。

「ふぅ、それじゃあ寺子屋に・・」

「静也!!」

「先生!!」

「うわっ!?」

ルーミアと大ちゃんが静也に飛び込んで、そのまま静也を仰向けに押し倒した。

それを見て私とチルノも静也に駆け寄る。

「怪我は大丈夫なんですか!?」

「なんであんな無茶したの!?」

「どうしてここが分かったの!?」

「あの人たちは何!?」

「ははっ・・・・」

私たちの質問攻めに、静也は苦笑いをした。




聖龍達はその力の一端を示した。
静也はミスティア達にどう答えるのか。
次回を乞うご期待。

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