少女は認められなかった。
この先、二人の思いは交わる事が出来るのだろうか。
私は手にしていた白楼剣を鞘に戻す。
愛花さんも手にしていた師匠の刀を鞘に戻して、そのまま奥の方に歩いて行ってしまいます。
「あ、愛花さん、待ってください!」
私も慌てて愛花さんの後を追いかける。
私がいくら呼び掛けても愛花さんは止まってくれず、屋敷の裏に行ったところでようやく止まってくれました。
「引き分けはしましたが、私のことを認めていただけますか?」
私の問いかけにも、愛花さんは答えてくれない。
そこまで失望させてしまったのでしょうか?
「あの、愛花さ・・」
「違う」
「・・え?」
私の言葉をさえぎって、愛花さんは振り返ってようやく私の方を見てくれました。
愛花さんは刀が微かに揺れるほど強く手を握りしめている。
「さっきのは、引き分けじゃない」
「でも、私と愛花さんの刀はどちらも致命傷だったじゃないですか」
「刀を振るわなかなければいけなかった私と、突きを放つだけだった妖夢。実戦だったのなら、妖夢のほうが先に私の体を貫いている」
「じゃあ、さっきの試合は・・・」
「そう、妖夢の勝ち。お兄ちゃんにも聞いてみると言い。私と同じことを言うと思う」
「なら、なおさら私のことを認めてくれますよね!?」
「いや、認めない。認めたくない。でも、家訓での決闘に負けてしまった私には、もう文句を言う資格はない」
愛花さんの言葉に、私は呆然としてしまう。
どうして?なぜ?そんな言葉ばかりが頭の中に思い浮かんでくる。
「どうして・・どうして認めてくれないんですか!!」
気が付けば、私はそう叫んでいた。
龍導院家の長女であり、何より師匠の妹さんだったから敬意をもって接してきましたが、愛花さんのあまりにもな言葉に、私は湧き上がる怒りを抑えられなかった。
「愛花さんは、私に龍導流を学ぶ資格があるかどうかを知りたかったんですよね!勝負は私の勝ちだった。愛花さん自身がそう認めているじゃないですか!それなのに、どうして私のことを認めてくれないんですか!師匠は言いました。龍導流を学ぶ資格はたった一つ。誰の為に、そして何の為に力を求めるか。愛花さんは、私にそれについては何も聞いていない。それなのに、どうしてそこまで認めてくれないんですか!!」
自分の中の激情を、ここまで吐き出したのは初めてかもしれません。
幽々子様の従者だったからということもあるでしょうが、何よりも、ここまで理不尽な言葉を聞いたことが今まで無かったから。
私の叫びを聞いて、愛花さんも叫び返してくると思った。
でも愛花さんは、悲しげな表情を浮かべるだけ。
「自分でも、理不尽なことを言っているのは分かっている。それでも私は、妖夢のことを認めるわけにはいかないの。だって妖夢のことを認めてしまったら、私は・・・」
「愛花・・さん?」
「叫びたいなら、好きなだけ叫んでいい。殴りたいなら、殴ってもいい。全部甘んじて受ける。それでも私は、妖夢のことを認めるわけにはいかないの」
愛花さんの表情を見ていると、私の中の怒りがだんだん小さくなっていく。
「何か、事情があるんですか?」
私の問いかけにも、愛花さんは何も答えない。
・・・今の私では、これ以上踏み込むことはできないようですね。
「分かりました。では最後に一つだけ聞かせてください。愛花さんを皆伝としている、愛花さんだけの龍導流のことを教えていただけますか?」
「・・・龍導連翼龍弓術。それが私だけの龍導流。全ての武具を使いこなすという、龍導流の特徴を最大限に生かす技。全ての動きを、次の動きに連動させる。私の強みは、この目と器用さだから」
「分かりました、ありがとうございます。愛花さんも宴会に戻りましょう?せっかく幻想郷に来たんですから、楽しまなければ損ですよ」
私は愛花さんに背を向けて歩き出す。
私と一緒では、愛花さんは戻りにくいでしょうから。
「・・・ありがとう、妖夢」
後ろからそんな声が聞こえた気がしたけど、私は何事もなかったように歩き続ける。
愛花と妖夢の試合は、妖夢の勝利だった。
なぜ、愛花は頑なに妖夢を否定するのだろうか?
次回を乞うご期待。