東方黒龍記 ~守りたい者達~   作:黄昏の月人

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少女は戦う、己の師からの教えを守るために。
その前に立つは、もう一つの守龍。



第31話 龍眼の弓兵

「構え・・・始め!!」

師匠の声と同時に駆け出す。

愛花さんの待つものは弓。

接近戦にさえ持ち込んでしまえば、力を十分に発揮することはできないはず!

愛花さんが矢を放つ。

それは正確に私の急所を狙っている。

私はそれを体をわずかにひねることで、勢いを落とさないまま回避した。

あと少しで愛花さんに刀が届くところで私は楼観剣を引き抜いた。

もちろん油断はしない。

愛花さんが龍導流である以上、何をするのかわからないのだから。

持っているのが弓だからと言って、それだけだと判断するのは危険です。

愛花さんが皆伝だと言うのならばなおさら。

けれども、私の予想していたことのどれとも違うことが起こった。

愛花さんは弓をしまうことなく、そのまま私の方に駆け出した。

「えっ!?」

私は慌てて楼観剣を振るうけど、愛花さんは私の軌跡がわかっていたのか、

スライディングをして刀の下を潜り抜けていった。

全力で走っていた私はすぐには止まれず、

少し距離が開いたところで止まりそのまま右に体を投げ出す。

さっきまで私がいたところを、二本の矢が通り過ぎていった。

愛花さんの方を先に確認しようとしていたら、間違いなく矢が刺さっていました。

受け身をして最小限の動きで体を起こして、楼観剣を正眼に構える。

「私が弓を持っているからって近づいても油断しなかったのは褒めてあげる。

でもそれに意識を向けすぎ。

だから予想外のことが起こった時にすぐに反応ができない。

ただでさえ、踏み込みっていうのは意外と隙が多いんだからね」

愛花さんは、弓に矢を2本同時につがえていた。

「それじゃあ、レベルを1個上げようか」

愛花さんが矢を放つ。

片方を避けようとすればもう片方が当たる完璧な軌道だ。

私はとっさに白楼剣を抜き、2本の矢を叩き落した。

「なめないでください!このぐらいのことなら弾幕ごっこで慣れています!」

愛花さんが続けて矢を放つ。

それも同じように二刀で切り払う。

それを見て、愛花さんの口が動いた。

言葉は聞こえなかったけど、なんて言ったのかは口の動きで分かった。

レベル3、愛花さんはそう言っていた。

矢が放たれる。

何度やっても同じことです!

私は刀を振るう。

けれども矢は空中で突然その軌道を変えた。

「なっ!?」

体をひねったけど、完全には躱せずにわき腹をかすって行ってしまう。

痛みに顔をしかめるけど、とっさに体をかがめる。

私の上を矢が通り過ぎていく。

それから何度も矢が放たれる。

私は必死に避け、できないときは刀で切った。

けれども愛花さんの矢は、

まるで私が次に何をするのかわかっているかのように軌道を変えてくる。

「いつ見てもエグイよな」

「あれは、愛花は能力を使っているの?」

「いや、あれは愛花の能力じゃない」

風に乗って真さんと師匠、霊夢さんの声が聞こえてきた。

「外の世界で、愛花は桃守龍の他にもう一つの呼び名を持っていた。

常に相手の動きを予測し、そこを射抜くように矢を放つ。

その様はまるで龍の瞳を持つかのように。

“龍眼の弓兵”、それが愛花のもう一つの名だ」

「体が小さいもんだから大して威圧感は無いはずなのに、

あの目で見られると自分のすべてを見透かされているような気がする。

だから誰も愛花に弓を向けられて油断しないんだよな」

「なるほどね。静也は鋭い“勘”を持っていて、

愛花は“眼”を持っているってことなのね」

確かに、背は私とあまり変わらないはずなのに、

私は愛花さんから師匠と同じだけの威圧感を始めから感じていた。

その理由がこれだったんですね。

ですが、私もいつまでも同じではありません。

徐々にではあるが、愛花さんの矢の軌道が見えてきました。

これも師匠から教えていただいたこと。

”戦場の中であっても、常に成長することを考えろ。

思考を止めたとき、剣もまた止まると“

愛花さんの矢を切り払いながら、少しずつ近づいていく。

先ほどと同じように踏み込めば、

また同じことの繰り返しになることは分かっていますから。

悔しいけど、今の私ではまだ愛花さんの動きに対処はできません。

“自分と相手の力量を見極めろ。

勝つことをあきらめてはいけないが、各上の相手に無謀に挑んではならない。

各上の相手の時ほど策をめぐらせ、相手の意表をつけ“

師匠が教えてくれたのは、どちらかといえばこのような心構えが今は多い。

師匠曰く、

“もちろん技量は大切だ。しかしよほどの差がない限り戦術でそれを覆すことができる。

故に最初に伸ばすべきは戦術眼である“と。

愛花さんとの距離が半分ほどに近づいた。

そこで矢を切り払ってから私はもう一度駆け出す。

しかし今度は全力ではなく、何かあったときに対処できるように少し速度を落として。

愛花さんもバックステップで距離を離そうとしますが、

さすがに直進している私のほうが速い。

愛花さんとの距離が目前のところまで来たところで、私は刀を鞘に戻す。

そして、師匠に教えてもらった初めての技を繰り出す。

「龍導一刀流剣術初伝『閃龍』!!」

力強さよりも速度を重視する龍導流の中で、最も基本である龍導流最速の抜刀術。

私の刀は確かに愛花さんを捉える軌道にあった。

でもそうはならなかった。

愛花さんが右手をスカートの中に入れると、何かを素早く抜き放った。

それと同時に、私の刀は力を受け流され愛花さんの横を通り抜けてしまう。

逸らされたと分かったところで急いで刀を引き、一歩下がって構える。

愛花さんの手には、一本のナイフが握られていた。

咲夜さんのナイフよりは大きくて、

それが投げるためのものではないことはすぐにわかった。

「流石ですね。まさかスカートの中にナイフを仕込んでいるとは思いませんでした」

「私も少し驚いてる。まさかこれを使わされるなんてね。

妖夢さん、あなたのことを侮っていたことは訂正するよ。

お詫びと言っては何だけど、あなたに見せてあげる。

私が皆伝である証。私を皆伝足らしめている、私だけの龍導流を」

ついに来た、と思った。

以前の試合の時も、師匠が複翼龍を使うと私はたった一度の打ち合いで負けてしまった。

愛花さんは何を取り出すのかと注意深く見るけども、

愛花さんは弓を背中に背負うと、ナイフを片手に距離を詰めてきた。

「え!?」

驚きはしたけど、以前のように動きを鈍らせることはなく楼観剣で迎え撃つ。

ナイフと楼観剣がぶつかり合い、わずかに火花を散らす。

愛花さんはそのまま何度もナイフを振るってくる。

それを私はすべてさばきながら、頭は疑問だらけだった。

これが、愛花さんだけの龍導流?

愛花さんが大きくナイフを振るう。

私はチャンスだと思い強くはじき返す。

それによって愛花さんの上体がわずかに泳ぎ、隙が生まれる。

私はそこに向かって白楼剣を振るう。

本来ならとても避けれるような状態じゃない。

なのに、ちらりと見えた愛花さんの表情は笑っていた。

どうするのだろうと思っていると、

愛花さんはナイフをスカートの中に戻し腰に下げていた師匠から借りた刀を抜いた。

愛花さんは態勢が不安定であるのも構わず、私の白楼剣に合わせて防御した。

それでも勢いは殺せずに後ろに追いやるけど、

愛花さんはそれを逆に利用し私の右側面に回り込んできた。

それも楼観剣でいなすけど、愛花さんはそのまま今度は刀でもって私と切りあう。

その動きは紛れもなく、師匠と同じ龍導一刀剣術だった。

それでも手数なら負けません。

私は白楼剣と楼観剣で愛花さんへと畳みかける。

何度目かの切合いで、愛花さんを後ろへと追いやる。

すると愛花さんはその勢いのまま後ろへと飛び、

刀を素早く収め弓を構え矢を放ってくる。

愛花さんを後ろへ追いやるために力を込めていた私はそれにまともに反応できず、

何とか楼観剣で防いだものの、楼観剣がはじき返され私は手を放してしまった。

しまったと思った私は、それにより一瞬の隙が出来てしまった。

そしてその一瞬の隙が、剣士にとっては致命的な隙になる。

私が気付いた時には愛花さんがすでに私の目の前まで来ており、刀を抜き放った。

そのまま愛花さんは刀を振り下ろし、私の首の直前で刀を止めた。

「愛花が勝ったの?」

「・・・いや、違う」

霊夢さんがもらした疑問に、真さんが否定する。

愛花さんが目線を下げる。

私は動くことはできなかったけど、白楼剣を正面に構えていた。

もしこれが本当の戦場で、愛花さんが私の首を切っていたのなら、

私の白楼剣もまた愛花さんの胸を貫いていた。

つまりこの勝負の結果は・・・

「引き分け、なの?」

「そこまで!」

師匠の終わりの合図とともに、私は全身から力を抜いた。

 




愛花との試合に引き分けた妖夢。
果たして愛花は妖夢を認めたのだろうか。
次回を乞うご期待。

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