東方黒龍記 ~守りたい者達~   作:黄昏の月人

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少女は最愛の人と再会する。
少女は、学ぶ資格を試される。




第30話 示すべき証

黒霧の変と言われる異変から3日が立った。

僕は宴会の準備をするために白玉楼を訪れていた。

「なるほどね、お前もなかなか大変だったんだな。

ならなおさら、次の人生じゃもっと上手くやれるんじゃないか?

過去を振り返るのも大事だが、思い切って新しいことを始めるのも大事だと思うぞ」

「真、何やってるの?」

白玉楼の庭先で真は人魂相手に何かを話していた。

確か、死んだ人の魂とは話ができないはずだけど。

「なに、ちょっとした仕事さ」

「仕事?」

「居候させてもらってるのに何もしないのはさすがに息苦しいからな。

俺の能力を使えばこいつらがなんて言っているのか分かるからな。

まぁ、人魂相手のカウンセラーだとでも思ってくれ」

「相変わらず変なところで真面目なんだね」

「お前ほどじゃないがな」

「あ、師匠!」

真と話していると、屋敷の中から妖夢が出てきた。

手にはタオルを持っていて、朝から練習をしていたみたいだ。

「おはよう妖夢。練習は順調かい?」

「はい!ぜひ師匠に見てもらいたいんですけど、いいですか?」

「ごめん、今日は宴会の準備をしないといけないからね」

「あ、そうでした。私もお手伝いしますね」

宴会をやるにあたって僕の役割は料理の準備だ。

これには僕と妖夢、あとは咲夜も手伝ってくれることになってる。

会場のセッティングは真の仕事だ。

「それじゃあ、さっそく始めようか」

「はい!」

それからほどなくして咲夜も到着して、

僕は幻想郷で初めての宴会に心を弾ませながら準備をした。

所々で咲夜が意味ありげな笑顔を浮かべるのはちょっと気になったけど。

~少年たち調理中~

「静也、そろそろ宴会始めるから出てきてちょうだい」

調理場に霊夢がやってきて、僕は初めて時間の経過に気が付いた。

「でもまだ準備が全部終わってないんだけど」

「宴会の主役がいないなんて駄目じゃない」

「こっちは私たちでやっておくから大丈夫よ」

僕が悩んでいると、横から咲夜がそう言ってくれた。

妖夢のほうにも目を向けてみると、任せてくれと目が語っていた。

「それじゃあ、お言葉に甘えて」

霊夢に連れられて庭に出てみると、僕が思っていたよりもずっと多くの人がいた。

それに、どこからかきれいな演奏が聞こえてきた。

幻想郷にも楽器ってあったんだね。

「お~い静也!こっちだ!」

その呼びかけに目を向けてみると、魔理沙が大きく手を振っていた。

僕もそこに行って腰を下ろした。

魔理沙の横には金髪の女の子が一緒にいた。

まるで西洋人形みたいにきれいな顔立ちをした女の子だ。

「私はアリス・マーガトロイド。魔理沙からあなたの話は聞いているわ。

よろしくね」

「龍導院 静也。僕のほうこそよろしく、アリス」

アリスと握手をしていると、2体の人形が僕のところにやってきた。

「この子たちは上海と蓬莱よ」

「シャンハーイ!」

「ホウラーイ!」

「よろしくね」

よく見てみると、上海と蓬莱にはアリスから薄い魔力の糸が伸びていて、

完全に自立しているわけではないことがわかる。

なるほど、こういう魔法もあるのか。

「静也、なんで水を飲んでるんだ?」

「僕が元いた世界では、僕はまだお酒を飲んでいい年じゃないんだ」

「そんな固いこと言わずに飲もうぜ」

「悪いけど、これだけは無理かな」

「ちぇっ、つまんねーの」

「その代わりじゃないけど、料理はたくさん用意したから」

「本当か!?」

「もうすぐ来るはずだよ」

「私も楽しみだわ。いつも魔理沙がおいしいって言ってたから」

「静也、ちょっといいかしら?」

その声に振り返ってみると、レミリア達紅魔館の住民たちが立っていた。

「レミリア、僕に何か用?」

「えぇ、あなたにお客さんを連れてきたわ」

お客さん?紅魔館にまだ会ったことない人がいたのかな?

レミリアの後ろから現れた人物を見て、僕は目を見開いた。

服装こそメイド服を着ているけど、僕がその顔を忘れるはずがない。

幻想郷に来てから心配していたけど、まさかここで再会するなんて。

咲夜の意味深な笑いはこれだったのか。

「愛花・・・」

僕が名前を呼ぶと、愛花は目に涙を浮かべて抱き着いてきた。

「会いたかったよ、お兄ちゃん」

「どうしてここにって質問は野暮だね。

どうせ紫さんだろうし」

「ふぇん、お兄ちゃん、お兄ちゃん・・・」

「全く、いつになったら兄離れするんだか」

「その割には、ずいぶんと嬉しそうじゃない」

「霊夢。まぁ、僕の大切な妹だからね」

今も泣き続ける愛花の頭をそっとなでる。

それでようやく落ち着いたのか、愛花は体を離して涙を拭いた。

「ありがとう、レミリア」

「どうして私に感謝するのかしら?」

「服装を見ればすぐにわかるよ。

愛花がこっちに来てからいろいろ世話をしてくれたんでしょ?

だからありがとう」

「静也には助けてもらったのだから、これくらい当然のことよ」

「愛花はね、私の専属メイドなんだよ!」

横からフランが愛花の手を取った。

「愛花のことをよろしくね、フラン」

「任せて!」

「ねえお兄ちゃん、お兄ちゃんの・・・」

「師匠!」

愛花の言葉をさえぎって妖夢が料理のお皿を持ってやってきた。

「師匠?」

その言葉を受けて、愛花の目が鋭く細められた。

 

 

 

 

 

 

***********************

私はようやく完成した料理をもって師匠の下に向かった。

師匠のところには霊夢さん達の他に、レミリアさん達も来ていた。

「ねぇお兄ちゃん、師匠ってどういうこと?」

その中には私の見たことのない女の子がいた。

「なんか聞き覚えのある声がしたと思ったら、やっぱり愛花か」

さっきまで幽々子様達のところにいた真さんが私の隣に立っていた。

「愛花?」

「龍導院 愛花。静也の妹だよ」

師匠の妹さん。

確かに顔立ちはどことなく師匠に似ている気がする。

ただ、私は愛花さんにあまり受け入れられていないようです。

「言葉通りの意味だよ。妖夢は龍導院の技を習っている」

「どうして?」

「妖夢が僕から剣術を学ぶことを望み、妖夢にはその資格があった。

理由なんてそれだけだ」

「この子に資格が?」

愛花さんの目が私に向けられる。

その目は師匠に弟子入りをお願いした時の目に似た威圧感があった。

「私にはそうは見えないけど」

「いや、妖夢には確かに資格があるよ」

「妖夢さん、あなたはちゃんと理解してるの?

龍導院家当主から技を学ぶ。その重大さをちゃんと分かってるの?」

「それは・・・」

そんなことは考えたこともなかった。

静也さん、龍導院家当主の弟子というのは、そんなにも大きなことなんでしょうか?

「お兄ちゃん、どうあっても考えは変わらないの?」

「もちろんだ」

「そう、分かった」

愛花さんは一度目を閉じた。

目を開いた時には、さっきまでよりもずっと強い威圧を放っていた。

「あぁ、こいつはちょっとまずいかもな」

真さんがつぶやいた言葉に、私はとても嫌な予感がした。

「龍導院家長女、龍導院 愛花が、龍導院家当主、龍導院 静也に申し上げます。

その決定、私は認めることはできません。

よって、家訓に則り意義を申し上げます」

「その意義、了承した」

師匠もまた、愛花さんと同じように鋭い雰囲気をまとっている。

「妖夢、準備するんだ」

「準備、ですか?」

「そう、決闘のね」

 

 

 

 

ただ騒がしいだけだった宴会の会場が、

今は騒がしいながらも緊張を含んだものになっている。

以前師匠と手合わせをしたのと同じ場所に移動して、私と愛花さんは対峙している。

近くには師匠と真さん、そして幽々子様とレミリアさんが来ている。

なんでも、龍導院家では古来から家系内で意見のすれ違いがあったときは

こうして試合で決めてきたそうです。

「これより家訓に則り、妖夢と愛花の試合を始める。双方、用意を」

未届け人である師匠の声を合図に、私は楼観剣の鞘に手を添え、

愛花さんは弓に矢をつがえた。

「龍導流弓術皆伝(・・)、龍導院 愛花。参ります!」

皆伝・・・

「龍導流剣術初伝、魂魄 妖夢。行きます!」

愛花さんの実力は分からないけど、私は負けるわけにはいかない。

師匠から、学びたいことがまだたくさんあるのだから。

 




愛花との試合が決まった妖夢。
果たして妖夢は愛花を納得させる事が出来るのだろうか。
少し無理やりだったかもしれませんが、
きちんとした宴会はこの後にやりますので、ご容赦ください。
次回を乞うご期待。

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