東方黒龍記 ~守りたい者達~   作:黄昏の月人

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少年はなぜ、この世界を守るのだろうか。
少年の、覚悟の理由とは。


第26話 決意の理由

辺りにたくさんの桜の木が立ち並ぶ庭先。

春になれば咲き誇り、見るものを楽しませるだろうそこで、

金属の激しくぶつかり合う音が響きあっていた。

「どうした静也、いつもより剣筋が鈍いんじゃないか?」

「真こそ、穂先がぶれてるんじゃない?」

「ぬかせ!」

「はっ!」

お互いの獲物を弾き、正眼に構える。

そして間を空けずにまた距離を詰める。

けれども真はそれを見てニヤリと笑った。

僕は急制動をかけて後ろに飛ぶ。

「多弾『マルチシューティング』!」

真の背後から小さいながらも多くの無数の弾幕が形成され、

僕が通るはずだった場所に降り注いだ。

「忘れんなよ静也。ここは幻想郷だぞ」

「なるほどね。確かに真の言う通り、ここは幻想郷だね」

僕は懐から銃を取り出して構える。

「ここからは幻想郷らしく、弾幕ごっこといこうか」

「突槍『白銀の・・・」

「複翼龍『龍砲・・・」

「あの、すいません・・・」

僕と真は同時に武器を上に向けた。

間違って撃ってしまっても、誰にも当たらないようにするためだ。

まぁ、この幻想郷じゃ上に撃っても誰かに当たるかもだけど。

声から予想してたけど、いつの間にか縁側に妖夢が来ていた。

「どうしたの妖夢?」

「幽々子様が師匠と真さんを呼んできてほしいと言って、奥の部屋で待っています」

「分かった。すぐに行くよ」

「勝負はお預けだな」

真は槍を背中にからい、僕は鞘に刀を収めて銃をしまう。

そして妖夢の案内で幽々子さんの所に向かう。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

私と幽々子が部屋で待っていると、しばらくして静也と真が入ってきた。

さっきまで運動をしていたのか、わずかに汗をかいていた。

二人は私を見ると少しだけ驚いた顔をした。

「紫さんも来ていたんですね」

「どちらかというと用があるのは私よ。とりあえず二人とも座ってちょうだい」

「分かりました」

この場の空気で読み取ったのか、二人とも武器を自分の横に置いて正座をした。

「単刀直入に言うわね。私の能力が安定したわ。

今なら二人とも安全に外の世界に返してあげる事が出来るわ。

貴方達が望むのなら、今すぐにでも。どうする?」

私のその言葉を受けて、静也は静かに目を閉じ、真は横目で静也のことを見ている。

けれどその表情は、この先の静也の答えを分かり切っているような表情だ。

「紫さん。僕がここに残りたいと言ったら、許してくれますか?」

「なぜ?今を逃せば、次が来るとは限らないのよ?」

「分かっています。それでも僕はここに残りたいんです。

この間の男、僕が今まで感じてきた事が無いほどとてつもない嫌な予感がしたんです。

だから僕は少なくともこの件がかたずくまでここにいたいんです。

僕が守りたいと思ったこの世界のために」

「どうして静也はそんなにここのことを思ってくれるの?」

隣にいた幽々子が扇子で口元を隠しながらそう聞く。

いつもはふわふわとしている友人だが、今の目はとても鋭い。

静也達よりも後ろにいる妖夢が緊張してしまうほどに。

静也はその視線を正面から受け止める。

「ここが、僕の理想の世界だからです」

「静也の理想?」

「僕の一族は、外の世界で人に悪を成す妖魔の退治を任せることもあります。

けれど僕は、それが嫌だった。

確かに悪行を働いているのなら罰を与えるべきだ。

けれどそれが人では無いからと言って、

命を奪うだけなのは間違っていると思っていました。

人も、そうでない者達も、きっと分かり合えると思っていました。

でも誰も僕の話を聞いてくれなかった。

身内も、相手の妖魔も。

話を聞いてくれたのは真と愛花、それといとこの少女だけ。

僕があきらめかけていた時、一人の妖怪が初めて僕の話を聞いてくれたんです。

その妖怪はタヌキの妖怪だった。

そしてその妖怪は言ったんです。

『人と妖怪、ひょっとするとそれ以上の者たちが共存する、

そんな夢のような世界が存在するのかもしれん。

その世界に出会ったのなら、お主は正しいと証明されるじゃろう。

それまでせいぜいあがけばよい』

そう言われました。

今にして思えば、彼女は幻想郷のことを知っていたのかもしれません。

だからこそ僕は、この世界を守りたい」

「そう、真はどうするの?」

「おいおい紫さん、その質問は野暮ってもんだぞ。

俺だけ先に帰るようなら、初めからこの世界に来ないさ。

静也が残るって言うんなら、当然俺も残る」

私は嬉しくなった。

私の作った世界を、外の世界の人間がこんなにも良く思ってくれるのだから。

「強い敵と戦うのなら、それだけ強い武器が必要でしょ?」

私は二人の前にスキマを開いて、それぞれの武器を置く。

真には一本の槍を。

静也には二振りの刀と一丁の銃を。

「その槍と刀は決して折れず、

銃は弾切れこそあれど弾を取り出し、リロードする必要はないわ」

「すごい」

「なんでもありかよ幻想郷」

「それらに名前はないわ。好きにつけてちょうだい」

二人はそれぞれの武器を手に取り、眺め始める。

「ではこの出会いに感謝して。

この白銀に輝くほうを、妖刀『魂絶』。黒い刀身を持つほうを冥刀『夜桜』。

銃を紫銃『空虚』と名付けましょう」

「俺は静也ほどのネーミングセンスは無いからな。

無難に『イモータルランス』とでも名付けようかね」

「あら、とっても素敵な名前ね」

「この世界を頼むわね、二人とも」

「もちろんです。何があっても、守り抜いて見せる」

「ま、出来るだけのことはするさ」

そして二人は、それぞれの新しい武器を試すために、庭に出て行った。

二人がいなくなった部屋で私は考える。

二人の力を信用してないわけではないけど、それでも数の力は大きいだろう。

それに何より、このままでは彼女の精神状態が危険だ。

そろそろ迎えるべきね。

三人目の外来人を。

私は目の前にスキマを開くと、その中に入っていく。

 




幻想郷を守ることを誓った静也達。
そして新たなる誘いとは。
次回を乞うご期待。

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