東方黒龍記 ~守りたい者達~   作:黄昏の月人

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紅き館の住人たちは、少年と出会う。
その黒き龍は、彼女たちに何をもたらすのだろうか。


第25話 幼き吸血鬼の思い

「うっ・・・」

わずかな体の疼きと共に、私は目を覚ました。

周りを見渡してみると、

少し大きめに作った客室に私を含めた紅魔館の住民全員が寝かされていた。

一体誰が?

それにこの数のベッドをわざわざ運んだの?

「うぅ・・・」

その声に顔を向けてみれば、ちょうど咲夜が目を覚ましたところだった。

「咲夜、おはよう」

「おはようございます、お嬢様。しかし、これは一体?」

「そう、私たちを運んだのは咲夜じゃないのね」

咲夜をさかいに次々と目を覚ましていったが、やはり誰も覚えていなかった。

私達が頭を悩ませていると、扉がノックされた。

そして入ってきたのは腰に刀を差している人間の少年。

なぜだか私は、初めて会うはずのこの少年を知っている気がする。

「全員目が覚めたみたいだね。良かった」

「失礼ですが、あなたは?」

「僕は龍導院 静也、外来人だ。昨日の異変の後、

気絶している皆を放っておけなくてしばらく面倒を見ようと思ってね」

「静也が私たちを助けてくれたの?」

「僕だけじゃないよ。霊夢達も一緒だよ。フランドール」

「フランで良いよ」

「分かった。話したいことはいろいろあると思うけど、まずは朝食にしよう。

すぐに持ってくるね」

一度部屋を出た後、静也は皿と鍋をのせたワゴンを持ってきた。

静也がふたを開けると、芳醇な香りが部屋中に広がった。

「いい匂い」

私は思わずつぶやいていた。

「吸血鬼だから、何となくのイメージでトマトスープを作ってみたんだ。

口に合えばいいけど」

そのスープはジャガイモとキャベツが入っているだけのシンプルなものだったけど、

だからこそ、そのおいしさが際立っている。

「おいしい」

「これは・・・」

「こんなおいしいの、初めて食べました」

「私より上手いなんて」

「おいしい!」

「それは良かった。おかわりはまだたくさんあるから、好きなだけ食べてね」

「おかわり!」

「早いな。慌てて食べなくても大丈夫だよフラン」

「だっておいしんだもん!」

「あの、私もいただけますか?」

「私も欲しいわ」

美鈴にパチェ、咲夜もすぐに二杯目を受け取った。

もちろん私もだけど。

「食べながらでいいから聞いてほしい。昨日あったことを話すよ」

     ~少年説明中~

漆黒の統治者(ダークネスルーラー)か。

八雲 紫の能力が効かなかったとなると、その男は相当強力な能力を持ってるのね」

「あれは、本当に能力によるものだったのか?」

「静也、何か言った?」

「いや、何でもないよ。まぁ、彼らのことを気にしてもしょうがないよ。

考えるには情報が少なすぎる。それよりも、レミリアに聞きたいことがある」

そう言うと、静也は一歩私に近づいてくる。

その表情は笑顔だけど、黒い瞳には強い光が宿っている。

「紅魔館が当主、レミリア・スカーレットに聞きたい。

君にとって、ここの住人はどんな存在だい?」

試されている。直感でそう理解した。

だからこそ私は、思いをそのまま口にする。

「従者であり、友であり、そして何よりも大切な家族よ。

少なくとも私はそう思っているわ」

「お嬢様・・・」

「レミィ・・・」

咲夜とパチェに笑顔を向ける。

どんな存在かだって?

そんなの家族以外の何だって言うの?

「素晴らしい答えだ。レミリア、君にお願いがある」

「何かしら?」

「君の大切な者たちを、僕にも守らせてほしい」

「・・・え?」

「僕は決めたんだ。守りたいと思ったものは、今度こそ守り抜くと。だから・・・」

刀を見ていた静也が顔を上げて私の目をのぞき込む。

「僕に、君を守らせてくれ。レミリア」

心臓が跳ねた気がした。

心臓の鼓動が早くなって、顔に血が上ってくるのが分かる。

こんなのは初めてだ。

「あら、守ってくれるのはレミィだけなのかしら?」

「お姉さまだけずるい」

「そんなことはないさ。

この館の主を守ることは、この館そのものを守ることと同義だ。

だから僕はレミリアに聞いたんだ。答えを聞かせてほしい」

静也がその黒曜石のような瞳で私を見る。

それだけでうまく言葉が出てこなくなる。

「そ、そうね。お願いするわ静也。私達を守ってちょうだい」

その答えを聞いて、静也は地面に片膝をついた。

その様は、まるで忠誠を誓う騎士のよう。

「黒守龍・・・いや、黒龍帝の名に懸けて誓おう。

ここにいる全員を、必ず守って見せる」

しばらくそのままで静也は立ち上がって笑顔を浮かべた。

「まじめな話はここまでにしよう。みんな寝ているだけじゃ暇でしょ?

いろいろ持ってきたから、暇つぶしをしよう」

一度部屋を出た静也は、今度はワゴンにいろいろな物を入れてきた。

「さぁ、どれにする?」

私たちはそれぞれ希望の品物を言って、静也がそれを手渡してくれた。

私はチェス、フランは絵本、咲夜は手編みセットを受け取った。

美鈴はそのまま眠るらしい。

「ねぇ静也、図書館から本を持ってきてくれないかしら?」

「悪いけど、それはできない」

「なんでよ?」

「図書館にあるのって、ほとんどが魔導書でしょ?

魔導書は読むだけで体力を使うんだから。

今は体を休めないといけないし、体の弱いパチュリーならなおさらだよ。

本が読みたいなら、ここにあるので我慢して」

「分かったわ。じゃあその赤い本を取ってちょうだい」

「これだね。はい」

「ありがと」

「静・・・」

「お兄様!」

チェスを一人でやるのもつまらないから静也に相手を頼もうと思ったら、

フランに先を越されてしまった。

「お兄様?それって僕のこと?」

「うん!・・・だめ?」

「好きに読んでいいよ、フラン」

「えへへ!ねぇお兄様、この絵本読んで!」

「読み聞かせか、いいよ。ただ・・・」

静也が私の方に目を向ける。

良かった、私の声も聞こえていたのね。

「確かにチェスは一人じゃできないよね。

どうしようか・・・」

「静也、掃除終わったぞ」

聞いたことのない声とともに、一人の少年が入ってきた。

「真、ちょうどよかった。しばらくレミリアの相手をしてくれない?」

「レミリア?レミリアって確かこの館の当主・・・なるほどな。

いいぜ、相手をしてやる」

その少年は椅子を持ってきて私の前に座った。

「篠宮 真だ。よろしく頼む」

「レミリア・スカーレットよ。私達を助けてくれたこと、礼を言うわ」

「その必要はないぜ。俺達が勝手にやった事だからな。

そんなことよりも早いこと始めようぜ。先攻は譲るからよ」

「あら、チェスは先手有利のゲームよ。それでもいいのかしら?」

「レディーファーストさ」

「ふふ、なら遠慮なく受け取るわ」

真とチェスをしながら、横目でちらちらと静也達の方を伺う。

フランは本当に嬉しそうにしていて、パタパタと動く羽がそれを物語っている。

どうにも集中できないわね。

私はルークを動かす。

「なにっ!?ぐぬぬ・・・」

まぁ、それでも負けないけど。

真はビショップを動かす。

私はそれをクイーンを使って取る。

「チェック」

「・・・まじかよ」

真はキングをどこに動かしても、私のクイーンとルークから逃げることはできない。

いわゆる詰みの状態ね。

「参った」

「よくねばったほうだと思うわよ」

「こんなに強いんなら先攻を譲るんじゃなかった」

「そういう問題じゃないと思うよ」

いつの間にか静也がこっちに来ていた。

「フランはどうした?」

「寝ちゃったよ。やっぱりまだ疲れてるんだろう」

周りを見てみると、私以外みんな寝ていた。

「レミリアは眠くない?」

「そうね、そんなに疲れは感じないわ」

「さすが。それなら次は僕が相手をしようかな。真、代わってくれる?」

「良いぞ。むしろ代わってくれ。俺じゃレミリアの相手は務まらん」

今度は静也とチェスを始める。

最初は私のほうが勝っていたのに、いつの間にか逆転されていた。

「チェックメイト」

「私の負けね。さすがね静也」

「お褒めに預かり光栄だ。僕は夕食の準備を始めるね」

静也と真が夕食を持ってきたころには、私たちもある程度回復した。

二人はそれを見てから、日が落ちたころに帰っていった。

 

 




レミリアは静也の思いに触れた。
静也は紅魔館を守れるのだろうか。
次回を乞うご期待。
P.S
コミケに行けなったので、予約していた天空璋を買ってきました。
私にはノーマルクリアがやっとでした。

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